学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。
そろそろ、一番書きたいオリジナル展開を書いていきます。
悠の「人間性として不安定な部分」を描写してみたつもりなのですが、うまく伝わるかなぁ・・・。伝わっていたら嬉しいんですけどね。






第14話 姉弟の悩みと六花事変

 

 

 

 6月13日、水曜日。昨日シルヴィアのライブが終わった悠は星導館の寮へと戻り、翌日から再び学園へ復帰した。一体どこから漏れたのか、悠がシルヴィアのライブに行っていた(実際には招待客兼スタッフ要員化だったわけだが)事が悠のクラスメイト達に知られており、登校して早々質問攻めにあったのは言うまでもない。

 

 ーーー結果として、ライブ2日目と最終日は何事もなく終わった。警備と監視の増強が功を奏したのか、あれ以降不審者や侵入者が来る事はなく、被害が出る事は無かったのだ。とはいえ油断が出来る状況ではなく、今後ライブをやる場合は今の警備態勢を維持する事が決定した。ちなみに、

 

 『あ、そうだ。折角だしプライベートナンバーとアドレス交換しておこうよ。これからも何かと顔合わせるんだし。』

 

 そんなシルヴィアの提案があり、悠はシルヴィアと電話番号・アドレスの交換をした。シルヴィアは「ライブの日程が決まった時とか、直接連絡できた方がいいでしょ?」と言っていたが、本音は悠といつでも連絡を取れるようにしておきたかったのだろう。

 

 (シルヴィアのプライベートナンバー持ってるなんてバレたら間違いなくヤバいなぁ、俺・・・)

 

 と、そんな事を思いながら休み時間、ぼーっとしていると、不意に背後からまたしても抱きついてくる人物。

 

 「はい、お帰りー。どうだった?あの子と会えて。」

 

 「・・・姉さん、絶対TPOって言葉知らないでしょ。」

 

 そう言いながら手を払うと、光はむすっとふて腐れた面をした。こんな子供っぽいのが星導館の序列1位、かつ古流剣術一派の後継者と言われても簡単には信じられまい。

 

 「ちぇー、つまんないの。少しは相手してくれてもいいじゃない。」

 

 「つまんないからって弟に構ってもらおうとする姉とか、完全にブラコン思考だよねそれ。しかも年齢が年齢だし。」

 

 「姉弟愛に年齢は関係ないよー。あとブラコンは正義、これ私的常識。というわけで諦めなさい。」

 

 「胸張って言える事じゃないよそれ。あと私的常識って言うけど、社会常識に照らしたら常識じゃないからねそれ。」

 

 (・・・何で姉さん、こんな性格なんだろうなぁ・・・)

 

 そんな事を思いながら、悠は深い溜め息をついた。俺が覚えている限り、昔はただの世話焼きくらいに留まっていたのだが・・・まぁ、本人としては多分、保護者的な思考なんだろう。両親が殺された挙げ句、弟が命を狙われたとなれば過保護というか、ブラコンになるのも分からないでもない。それが悠本人からしてどう見えるかはともかく。

 

 「まぁ、そういう話は一旦置いといて。昼休み、話したい事あるから中庭の噴水広場に来てねー。」

 

 「いや、昼休みはあいつらと食べる予定あるんだけど・・・。」

 

 「二人だけで話したい事があるの。だから、悪いんだけどキャンセルにして。」

 

 ふわふわした笑顔から一転、急に真面目な表情になってそんな事を言う光に、悠は何も言えなくなった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 時間は過ぎて、昼休み。チャイムが鳴り、姉に言われた通りに悠は席を立って中庭の噴水広場へと向かった。仲の良いクラスの女子に伝言を頼んであるから、ユリス達が教室に来たとしても問題はないだろう。あとで小言を言われるのが目に見えてはいるが。

 

 「あ、来た来た。こっちだよー、こっち。」

 

 噴水広場の周り、いくつか設置されているベンチの1つに光が座っており、無邪気に手を振っていた。周りを若干気にしながら悠も光の隣に腰かけると、彼女は楽しそうにしながら、わざわざ持ってきたらしいバスケットを悠と自分の間に置くとそれを開けた。それを覗き込んで、悠は驚きに目を見開く。

 

 「姉さん、これ・・・。」

 

 「やっぱり覚えてたかー。そりゃそうだよねぇ・・・思い出深いやつだもんね、特に悠には。」

 

 そう言うと、姉はほわんと笑う。バスケットの中には、丁寧にラップで包まれたサンドイッチがたくさん入っていた。その具材に、悠は覚えがあったのだ。

 

 「忘れるもんか。これ、母さんが俺が野菜嫌いなの克服できるように、って考えて作ってくれたサンドイッチそのままだもん。」

 

 そのサンドイッチは、昔から野菜嫌いだった悠のためにかつて母が作ってくれた物の再現らしかった。色んな野菜を細かく切り、和え物にして味付けした物を挟んだサンドイッチ。

 アスタリスクに行ってからも姉は何度か帰ってきていたのだが、今の様子から察するにどうやら料理を教わっていたらしい。

 

 「しかも美味い。そういやこんな味だったね、これ。」

 

 サンドイッチを口にしながらそう言うと、姉もふふん、と自慢げにしながらサンドイッチに手をつける。こうして姉と一緒に食事をするのも大分久し振りだった。孤児院にいた3年間は言わずもがな、アスタリスクに来てから今までの3年間は数回しか姉と食事をとった事がない。

 

 「悠とこんな風に一緒に食事するの、大分久し振りだったからねー。せっかくだから懐かしいもの作ろうと思ったんだー。」

 

 と、そんな話をしつつ二人でサンドイッチを消化していく。懐かしいものだった事もあってか二人の手は早々と進んでいき、気づけばバスケット内は空になっていた。

 

 「はい、お茶。わざわざ双月本家から送ってもらった麦茶だから、感謝して飲むよーに。」

 

 「はいはい、分かったよ・・・。」

 

 と、そう適当に返しながら姉が紙コップに淹れてくれたお茶を飲む。本家から送ってもらったという辺り、恐らくは母が趣味でやっていて、亡くなってからは祖母が継いだ茶畑のやつだろう。

 

 「そういえば、あのお茶畑って今はお祖母ちゃんが管理してくれてるんだっけ。お正月にでも帰って、お祖母ちゃんと、母さんにお礼を言わなきゃね。あ、でもその時には高等部は卒業してるのかなぁ。」

 

 そんなのんびりした事を呟く姉の顔は、なんとなく寂しそうだった。アスタリスクに来てから、悠が知る限り姉の様子にそんな影は無かったように見えたが、内心本当は寂しかったのだろう。悠は当時小学生だったから言わずもがなだが、姉も当時はまだ中学生だ。少なからず、思うところはあったはずで。

 

 「・・・もしかして、大事な話って母さんに関係ある事?」

 

 と、悠が聞くと、姉は小さく頷いた。

 

 「母さんに、というか、双月流関連かな・・・。実は、さ。お祖母ちゃんから連絡きたんだ。高等部を卒業したら、双月流当主の椅子についてくれないかって。」

 

 そう言う姉の顔は、複雑そうだった。双月流は現在当主不在であり、今は本家の血筋である祖母が代理をしている。祖母としては、早い内に本家の安定を図りたいのだろう。その気持ちは分からないでもない。ただ。

 

 「でもさ。それ、当主に就いちゃったら大分自由利かなくなるでしょ。それに、分家連中の相手もしなきゃいけないし。」

 

 双月流に限らず、当主というのはトップ・・・要するに家なり、一族なりの顔だ。故に当主となる者には自制心と威厳に加えて実力が要求されるし、家の取り纏めもしなくてはならない。だが、今の双月流で当主になるという事はそれ以上に大変な事だ。

 かつて、双月流本家は分家と確執を持った。母がまだ学生だった頃、分家筋が当主の座を狙って当時跡継ぎだった叔父に大怪我をさせたのだ。結果、叔父は当主の座を望めなくなり、急遽母が当主代行として就いた。

 当然ながら「代行とはいえ当主などもっての他」と分家筋は反抗したが、それが仇になって祖母に怪しまれ、結局叔父の大怪我は分家筋が狙ってやった事だと露見した。それ以来、本家の血筋の人間は双月流分家の人間に対する不信感を募らせ続けている。

 わざわざ当主の座について、悉く分家を排除するような規定を設けたのもそれが理由だ。そんな環境下で当主となるのは、難儀なものとしか言いようがない。

 

 「・・・姉さんは、どうしたいの?」

 

 悠の言葉に、ただ俯くだけで姉は答えなかった。否、答えられなかった。彼女は、そういう事を考えた事が無かった。両親を亡くして、悠にとって身近な家族と呼べるのは自分くらいしか居なかったから、せめて自分が悠の側に極力居てやらなければと。今までそういう事しか考えてこなかったから、将来の事など考えた事も無かったのだ。

 

 「・・・分からないなぁ。今まで将来の事とか、考えた事無かったし。大事な弟の事で精一杯だったから。」

 

 「精一杯って・・・てか、俺かよ。」

 

 悠がそう言うと、姉は「あはは・・・」と小さく頭をかいた。そんな姉を見ながら、悠は空を仰ぐ。将来の事を考えなければいけないのは、悠も同じだ。

 仮に、両親の仇を取ったとして。その後、自分はどうしたいのだろう?

 

 (まぁ、シルヴィアと一緒にいるのは当然として。将来、か・・・)

 

 考えを巡らせてみるが、何も浮かばない。せめて昔抱いていた夢がどんなだったか思い出せればいいのだが、その欠片すら思い出せなかった。

 と、そんな事をしている内に、昼休み終わりのチャイムが鳴る。結局、答えは出ず終いだった。

 

 「・・・仕方ない、伯母さんにも相談してみるかな。話聞いてくれて有り難うね、悠。」

 

 「別に何もしてないけど・・・どういたしまして。」

 

 悠がそう言うと、姉はバスケットと水筒を持って、ひらひらと手を振ってから自分の教室へ帰っていった。その背中を見送ると、悠も自分の教室へと足を向けた。この日、彼どころかアスタリスク中に衝撃を与える出来事が起きる事を、彼はまだ知るよしもない。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・あぁ、勿論だとも。今年の王竜星舞祭(リンドブルス)は去年の鷲獅子星舞祭(グリプス)以上に集客が見込めるんだろう?ならば相応の予算は出すさ。あぁ、心配要らない。頼むぞ、運営委員長。」

 

 アスタリスク中央地区・行政エリアの核たる行政府。その最上階の最高責任者執務室で、男は通信を切った。先程の通話の相手は、話からして星舞祭(フェスタ)運営委員長だろう。男は端末を仕舞うと、椅子に座ったまま背後にある窓の外へ視線を向ける。

 

 (さて、今年も学生達には頑張ってもらわなくては。特に、クインヴェールのシルヴィア・リューネハイムと星導館の双月光。彼らは人気だからな・・・しっかり客を呼び寄せて、我々に利益をもたらしてくれよ?)

 

 そんな事を思いつつ、一人ほくそ笑む。男にとって星舞祭(フェスタ)は、利益をもたらしてくれるイベントの1つに過ぎない。そしてまた、その星舞祭(フェスタ)で活躍する学生達は男にとって金蔓でしかない。典型的な、利益至上主義者だ。

 

 『すみません、少しいいでしょうか。』

 

 と、これからもたらされるだろう利益を思って機嫌を良くしていた所に水を差す声。何だ、と思いつつ「入れ」と告げると、見知った秘書が何か大きめの包みを持って入ってくる。

 

 「何だ、それは。郵便物にしてはやけに大きいが。」

 

 「えぇ、何でもさっき、行政府宛に宅配で来たそうです。念のため確認をお願いしたいと、受付が。」

 

 秘書がそう言いながら、手に持っていた包みを男の執務机に置く。心底面倒だと思いながらも男は立ち上がり、包みを手に取った。軽く振ってみるが、音はしない。不思議に思いながらも、包みを縛っているリボンに手をかけた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 行政府の外は、いつも同じ光景だ。関連組織に勤めている公務員達がひっきりなしに行き交っている。今日もまた、同じような光景が続く、はずだった。

 

 

 

 

 

 突然に、行政府最上階から爆発音と共に炎が噴き出した。突然の事態に道行く人が混乱する中、さらに行政府内で爆発が立て続けに起き、炎が噴き出し、荒れ狂う。たった数十秒、されどその数十秒だけで、行政府はあっという間に炎に包まれる。誰かが呼んだのだろう、遠くから消防のサイレンが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 「・・・何だか、市街地の方が騒がしいですね。何かあったんでしょうか?」

 

 一方。アスタリスク市街地・中央区の商業エリアで次のライブに向けた打ち合わせを終えたシルヴィア、実里、ペトラの3人はイリアが運転する車でクインヴェール女学園への帰路についていた。ちなみに助手席が後ろ向きという、これまたおかしなデザインの車で、である。アスタリスクの構造上、どうしても中央区から学園まではある程度距離があるためだ。イリアがバックミラーを起こして後ろを気にする中、助手席に座るペトラの端末に連絡が届く。

 

 「はい、ペトラですが。えぇ、はい・・・はい!?どういう事ですか、それは!?」

 

 普段は落ち着いているペトラが珍しく驚きの声を上げる。その様子にただならぬものを感じたのか、ぼうっと空を見ていたシルヴィアと実里もペトラの方を見た。

 

 「・・・そう、ですか。分かりました、情報収集の方はお願いします。」

 

 「ペトラさん・・・?どうしたの?」

 

 通信を切り、顔を青ざめさせているペトラへシルヴィアが不安げに声をかけると、ペトラは1つ深呼吸をして、告げた。

 

 「行政府が、爆破されたそうです。中にいた職員全員が何かしら怪我をしていて、行政府長官はほぼ100%死んでいる可能性が高いと。」

 

 ペトラの言葉に、一同が言葉を失う。そんな中、イリアはバックミラーに何か光る物が映るのを見た。数秒の後、その正体に気付いたイリアが血相を変えて声を上げる。

 

 「伏せてください、早く!」

 

 何がなんだか分からぬままぽかんとしている少女二人の頭を、抱え込むようにしてペトラが無理矢理伏せさせる。同時に、イリアが強くハンドルを切った。

 直後、暴力的なまでの衝撃が車を撥ね飛ばし、窓ガラスを叩き割る。同時に走っていた道路を破壊し、車は前方へ投げ出され、何度も転がり。横転して、ようやく止まった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 基本的に、星導館を含め各学園は終業時刻を午後3時としている。悠が6限を受け終わったのも、午後3時だった。

 

 「おーす、悠。帰ろうぜー。」

 

 と、呑気な声と共に夜吹が現れる。その横にはユリスもいた。荷物を入れたリュックを背負い、端末片手に彼らと合流して帰路につく。

 

 「なぁ・・・そういや、何か皆騒がしくないか?特に端末で何か見てる奴ら。」

 

 正門までの長い道の途中、夜吹が何とはなしにそう呟くのを、ユリスと悠は揃って頷いた。端末を見ている生徒達が何やらざわついている。

 

 「どうやらニュース速報が流れているようだな・・・しかし、このざわつきは・・・。」

 

 何となく気になって、悠は端末からテレビ回線を開いた。同時にニュースキャスターの姿が映り、音声が流れ出す。

 

 

 『・・・速報を続けます。午後2時40分頃、水上都市・六花の行政府で連続的に爆発が起き、職員全員が重傷、あるいは軽傷を負って中央地区の第一病院に運ばれました。星猟警備隊(シャーナガルム)によれば、テロ事件の可能性が高いとの事です。なお、最初の爆発が起きた行政府内の行政府長官室に当時いたと思われる長嶺長官はすでに亡くなったと思われ・・・』

 

 

 「・・・マジかよ。相当大変じゃねぇか、これ。」

 

 「道理で皆が騒いでいた訳だな。こんな事があれば、ざわつきもするだろう。」

 

 横から悠の端末を覗き込んでいた夜吹とユリスがそう呟く。そんな中、悠は険しい顔で画面を睨んでいた。まだ、キャスターの言葉は続く。

 

 

 『また、同時刻、六花の中央区からクインヴェール女学園へ向かっていた車1台が原因不明の事故を起こし、損傷・横転しました。乗っていたのはクインヴェール女学園・理事長であるペトラ・キヴィレフト氏、クインヴェール女学園の学生であり世界的アイドルであるシルヴィア・リューネハイムさん、そのマネージャーで同じくクインヴェール女学園の学生である高原実里さん、リューネハイムさんのライブで警備を担当していたイリア・フィーリエさんの4名です。4名ともが頭部流血や腕を何ヵ所も切るなど重傷であり、第一病院に運ばれて治療中との事で、現在も治療が続いているものと思われます。道路が破壊されており、また車が激しく損傷している事から星猟警備隊(シャーナガルム)は行政府爆破との関連性があると見て捜査を進める方針で・・・』

 

 

 キャスターの言葉に、3人が凍りつく。

 

 「・・・おい、これ・・・」

 

 「バカな・・・なぜ戦律の魔女(シグルド=リーヴァ)選神天嶺(ブレス=フィラス)が・・・」

 

 

 ユリスと夜吹がそう呟くのも、悠の耳には届かない。感覚が麻痺したように、体は硬直していた。周りの音は遠く聞こえる。視界も何故かモノクロに見えた。

 

 

 ーシルヴィアと、実里が、重傷?

 

 ー何故だ?何故こうなった?

 

 ー病院?治療中?

 

 悠の脳裏に、かつて見た光景がフラッシュバックする。

 

 ー・・・誰が、やった?

 

 ー・・・奴らか?

 

 ー・・・あの、殺人鬼共か?

 

 

 「・・・また、いなくなるのかよ・・・」

 

 知らず知らず、口からそんな声が漏れる。その声は低く、鋭く尖っていた。

 

 「おい、悠・・・?」

 

 ユリスが恐る恐る声をかける。が、悠の耳には届かない。

 

 「・・・ふざけんなッ!!」

 

 止める間もない。バネで弾かれたように、その場から悠は駆け出した。一拍遅れて、ユリスと夜吹も後を追う。だが、その足は明らかに悠より遅い。いや、悠が速すぎるのか。正門を出た悠は、そのまま市街地めがけて走っていく。

 

 「くっそ、速すぎだってアイツ・・・!」

 

 「・・・っ、夜吹!タクシーだ!」

 

 ユリスが、悠が走っていった方向とは逆の道から走ってきたタクシーに気付いた。手を上げてそのタクシーを止め、二人で乗るとすぐさま悠の後を追う。流石にタクシーと人の足とでは差があり、すぐに追い付いた。

 

 「悠、乗れ!」

 

 タクシーの窓を開けてもらい、後ろから悠に声をかける。流石に悠はそれに気付いたらしい。足を止め、止まったタクシーに乗り込むと、タクシーは改めて第一病院に向け走り出した。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 ある程度の距離ではあるが、タクシーならさほど時間はかからない。数十分でタクシーはアスタリスク市街地の外縁居住区にある第一病院に着いた。タクシーが止まると同時に、悠はタクシーのドアを開けて飛び出していった。夜吹が代わりに料金を払い、ユリスと共に悠の後を追う。

 

 病院の自動ドアを抜けて中に入ると、1階ロビーは騒音で溢れ返っていた。そこら中で医師が、恐らくは今日出た怪我人の親族らしき男女と話をしている。その中には、少なくない数の人が泣き崩れていたりもする。

 

 「・・・予想以上だな。ここまで酷いとは・・・。」

 

 「あぁ、ニュースじゃ重症患者も少なくないらしいしな・・・もしかしたら何人かは、もう・・・てか、そんな事言ってる場合じゃねぇ。悠はどこ行った?」

 

 二人で1階ロビーを見渡すと、受付のところで悠が話しているのが見えた。小走りに彼のところへ行くと、受付が電話越しに誰かと話していて、悠は焦りぎみにしながらもそれを見守っている。事情を察した夜吹がユリスに目配せすると、彼女は1つ頷いてエレベーター乗り場へと走っていく。

 

 「許可が下りました。病室は6階の605号室ですので、エレベーターを使ってください。」

 

 受付の声を聞いた悠は夜吹と共に、小走りにエレベーターへと向かっていく。予めユリスが呼んでおいたエレベーターに3人で乗り込むと、6階へとエレベーターは上昇していった。

 

 

 




皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
さて。今後の話ですが、ここからは自分が温めていた展開をがっつり書いていきます。
今回の話は、そのプロローグみたいなものですね。一見平和に見えるけど、裏では殺伐とした事が平然と起きている、みたいな。そういう展開を書いていきたかったので。

ちなみに、前書きに書いた「悠の不安定性」、読んだ方の中に気付いた人はいましたかね・・・?次の話でその部分はもっと表面化させるんですが、今回の話で分からなかった方も、次の話では分かるはず・・・です。文章で上手く伝えられるか、不安な所があるので断言は出来ないんですが。

とにかく、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
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