本格的に六花動乱編の始動です。ちなみに悠ですが、彼自身が何もせずとも向こうから勝手に仕掛けてくるのでこの先しばらくは平穏とシリアスの混じったカオス展開になるでしょう。後で平穏も無くなって純シリアスになりますが。
晴天の下に、似つかわしくない悲鳴と絶叫がこだまする。学生達の前で、慣れ親しんだ世界があっさりと崩れ去っていく。
中央の大学部校舎屋上から衝撃が伝播するように走り抜け、悠達が立っていた地面をも揺さぶってくる。窓ガラスが割れて飛び散り、校舎の外壁にヒビが入ったかと思うと、一際大きな音をたてて崩壊した。それに釣られるように、高等部校舎、中等部校舎も崩壊を起こす。
何とか悠達は踏ん張っていたが、周りは正に阿鼻叫喚だった。突然の驚きと恐怖で腰を抜かしたり、中にはしゃがみこんで絶叫している者もいる。恐怖でおかしくなったか、発狂している者もいた。
「くそっ、何が起きてる!?」
「んな事分かるか!とりあえずヤバいってのは確かだがな!」
そんな事を言い合っている間にも、衝撃は地面を揺さぶってくる。その衝撃は、校舎を崩壊させるだけに留まらなかった。あちこちで施設や地盤にヒビが入る音が響き、もうもうと煙を上げる。
「逃げろぉぉぉ!!」
と、突如として前方から金切り声が響き渡る。声のする方を見ると、それまで整然と並んでいた大木が何人かの学生を巻き込んで倒れ込んだ所だった。それだけではない。他の大木も根本からへし折れ、次々と倒れてくる。悠達が立っている道路の強化コンクリートにビシビシと甲高い音をたててヒビが入っていく。
そんな中を学生達は我先にと逃げ出した。様々な音が入り乱れ、鼓膜を破らんばかりに叩く。現場は混乱をきたし、あちこちで人のドミノが出来、道路の一部が煙と共に崩壊する。
「・・・っ!?お姫様!逃げろ!」
背後から、夜吹のそんな声がした。急いで振り向いてみれば、少し後ろの方に流された夜吹と姉が必死に声を上げており、人の雪崩に揉まれたからか尻餅をついて動けずにいるユリスとその周りの学生へ向けて大木が倒れ込もうとしていた。
それを見た悠は、素早く人の雪崩を抜け出すと
ミシリ、と腕に衝撃が走ったが、構わず両腕に力を込めるとそれを持ち直し、何とか植え込みに投げ倒す。それは縦に並んだ植え込みを下敷きにしながら土煙を上げて倒れ、さらに地面を揺らした。
思わずその場に座り込むと、夜吹達が駆け寄ってくる。その後、程なくして衝撃は収まり、星導館学園の崩壊も一応の収束を見た。
ー■■■ー
「・・・中度の打撲傷だね。肉体強化をかけていたのが幸いしたんだろう。痛み止めの飲み薬、塗り薬と患部保護シートを出しておくから。飲み薬は毎食後1錠、塗り薬は適度に塗り直すように。患部保護シートは1日持つものだから、替えるのは翌朝でいい。」
そう言われ、医師にお礼を言って悠は医療車両を出る。落ち着いて見た周りの風景は、見る影もなかった。敷地内の施設は悉く崩壊し、地面にはヒビが無数に走り、所々には完全に地盤が崩落した場所もある。整然と並んでいた木々は殆どが根本からへし折れ、自然豊かだったはずの敷地内は様相を一変させていた。
現在、星導館の学生は敷地内で唯一被害を免れた外周港湾区近くの緑地へと集められている。重傷の者は救急隊により発見され次第ドクターヘリや救急車両で病院へ搬送、命に別状がない程度の怪我人は医療車両によりその場で治療を受けていた。
医師の中には精神科医や、それに混じってカウンセラーもいる。どうも、発狂してしまった学生やこの事態で精神をやられた学生達の心的ケアにあたっているようだ。
「よ、診療お疲れさん。」
と、夜吹がユリスと姉と共にやってきて、そう声をかけてくる。彼と姉は幸い怪我らしい怪我をしていなかったが、ユリスは雪崩に揉まれた時に倒れて足を何度も踏まれていたせいか、軽い捻挫をしていて右の足首にアイスパックを巻いていた。悠の視線に気付いてか、ユリスは自分の足首を見てから何事もないように笑う。
「そんな顔をするな。下手をすればもっと酷い怪我をしていたかもしれないんだから、それに比べればこの程度、怪我の内にも入らない。」
「・・・そっか。ユリスが良いなら、何も言わないけど。」
そんな会話をしてから、彼らなりに情報を集めようと携帯端末を見たり、状況見聞をしていた調査隊の人間に話を聞いてみる。しかし、結局は何も得られず仕舞いだった。
「しっかし、見れば見るほど酷いな・・・ホントに何なんだよ、これ。」
「そもそもとして、何かがおかしい。初めは地震の可能性を考えたが、アスタリスクで地震など久しく聞いた事もない。それに、アスタリスクの耐震性は世界でも随一のはずだ。」
夜吹とユリスがそんな会話をする中、光は何かを考え込むようにしており、悠は悠で突然来た電話に出ている所だった。
『悠君!?大丈夫なの!?』
電話に出た途端、ホロディスプレイに映し出されたのはシルヴィアの顔だった。その背後からは、ラジオを通して星導館学園崩壊のニュースが伝えられている音声が聞こえてくる。
「あ、うん。大丈夫だから落ち着いて。ちょっと打撲したくらいだから。」
『・・・良かったぁ・・・。』
ディスプレイの向こうで、心底安堵したようにシルヴィアは深く息を吐く。それを見て、悠の張り詰めていた雰囲気は緩いものになっていった。
ー■■■ー
『・・・そっか。そんな事が・・・。』
事のあらましを話すと、シルヴィアはふぅ、と小さく息を吐いた。
「まぁ、こっちはこっちでどうにかなるだろうから心配しなくて大丈夫だよ。それより、シルヴィが目覚ました事の方が俺としては安心なんだけど。」
『うん、分かってるよ。実里から聞いたもん、昨日も来てくれたんでしょ?心配してくれてありがと。』
そう言ってシルヴィアは小さく笑う。と、そこで悠はクローディアがこちらに歩いてくるのが見えた。
「今日もまた見舞いに行くから、細かい話はその時にするよ。とりあえず、此方で色々と一段落したらまた連絡するから。」
『うん。待ってるね。』
電話を切ると、早速クローディアが声をかけてくる。その腕には包帯が巻かれ、顔にもパッド型の絆創膏が貼られていた。
「クローディア、その怪我・・・。」
「あぁ、心配要りませんよ。軽い裂傷ですから。」
そう言うと、クローディアは何でもないように笑う。そして、神妙な顔をした。
「ただ、学園はこの有り様ですし怪我人も少なからず出ていますから楽観視は出来ないのが現状ですけれど。」
周りの風景を改めて見渡し、悠もまた顔を曇らせる。
「まぁ、そうだよね。・・・そういや、こういう場合って学園はどうなるの?復旧まで一時閉鎖?」
「えぇ、被害状況が被害状況ですから。銀河の資本を以てしても、復旧までは時間がかかると思いますし仕方ないですよ。・・・それより、少し聞きたい事があるのですが良いでしょうか?」
クローディアはそう言うと、緑地内の学園側にある奥まったスペースへと向かっていった。夜吹とユリスは一部の学生と共に作業員に混じって周囲の小さな瓦礫の撤去を手伝っており、光は光で調査員に話を聞いたりしている。それを見た悠は、3人から少しずつ距離を取ってクローディアの後を追った。
「・・・双月君は、今回の件をどう見ますか?」
「・・・関係ない、とは言い切れないと思う。むしろ、関係ある可能性の方が高い。ただのテロにしては明らかに被害規模が大きすぎるし、地震が原因だとしてもアスタリスクの建造物や地盤がこうも簡単に壊れるとは思えないから。」
「・・・
クローディアの言葉に、悠は静かに頷いた。
「彼らの力がそれぞれ違うのは確かだけど、発現する能力自体には『絶対に発現し得ない能力』みたいな制限はないからね。『破壊』、あるいは『壊滅』みたいな能力を発現させた
知らず知らず、悠の掌が強く握り込まれる。現状、この事態に最も怒り狂っているのは悠かもしれない。たった一人の生き証人を消すためだけにここまでやる所は、やはり過激思想のらしさと言えた。
「あぁ・・・そうだ。クローディア、頼みがあるんだけど・・・。」
そう言うと、悠は小さくクローディアに耳打ちする。それを聞いた彼女は、驚いた表情をした。
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星導館の学生達は数日を災害用テントで寝泊まりをした。その後の動きで、最終的に寮すら失った星導館の学生達は一時的に銀河が学園再建まで1件丸々貸し切った中央地区のホテルに宿泊する事になった。決して安い金額ではないーーーというかむしろ馬鹿にならない超絶大金が飛んでいるはずだが、流石は統合企業財体というべきか。
ただ、問題も少なからず発生していた。最も大きな問題が、学園再建まで学生達の修学カリキュラムが進められなくなる事。文武両道を学則理念に掲げる星導館にとっては大きな問題だった。
もう1つは、設備的な問題。学園内にあったような設備や規模には劣るため、何人か学生達には少なからず不自由を強いる事になる。例えば、ホテルの大部屋を仕切りで区切って授業をやる事が決まりはしたものの、人数の問題上入りきらずに授業を受けられない学生が出たり。
銀河は勿論、何より星導館学園運営部がこの問題に1番頭を悩ませたのだが、これらの問題は思ったより早く解決する事になった。
まさかの、支援のオファーがあったのだ。オファー元はクインヴェール女学園ーーー彼のシルヴィア・リューネハイムが生徒会長をし、ペトラ・キヴィレフトが理事長を務める学園からであった。
その内容というのが、「学園内敷地の一部を星導館学園女子生徒への学習場として提供、トレーニングルームも一時的に利用許可を出す」というもの。
現在、星導館の学生はおおよそ4:6の割合で男子学生の方が多く、星導館学園女子生徒を全員受け入れた所でクインヴェール女学園にもさほど負担は掛からない。それに、大規模のホテルを貸し切りにしているので男子学生のみであれば何とか入る範囲だったのもある。
そこで、星導館学園は学園再建までの期間に限りクインヴェール女学園と正式に提携契約を結び、このオファーを受けた。
直後に六花園会議が召集され、特にレヴォルフからはしつこく突っ掛かられたらしいが、退院後、最近の事情でアイドル活動を中止し生徒会長職務に専念しているシルヴィアとクローディアがその場で黙らせた。
その会議後、何とはなしにクローディアがなぜそんなオファーをしてきたのか聞いた所、シルヴィアは
『だって、皆困ってるんでしょ?学園としての正式契約なら問題は一切無いし、何より少しでも恩返ししたいしね。』
と言っていたそうだ。それをクローディアが面白そうに聞かせてきて、悠が内心「そっちも大概危ない事してんじゃん・・・下手したら運営母体が敵に回るだろそれ」と思ったのは言うまでもない。
で、その肝心の悠はと言えば・・・。
「ほら悠君、次行くよー。」
「えぇ・・・まだ回るのかよ・・・。」
中央区の商業エリアの一画。変装を済ませたシルヴィアが楽しそうに店を回り、悠がその後を追いかける。二人の両手には、既に大量のブランド服が入った紙袋が提げられていた。
「いいじゃない、こうやって二人だけで出掛けるのも久し振りなんだから。それに今日はどの道何も無いんでしょ?」
「そりゃそうだけどさ・・・。」
・・・とまぁ、何故かシルヴィアと二人で商業エリアのブランド服屋巡りをしていた。色々と彼の周囲は大変な状況のはずなのだが、悠は「息抜き」と称してここに来ている・・・というか来させられていた。
『双月君はとにかく一人にしたら危なっかしいので、せっかくですし行ってきたらいいじゃないですか。というか行ってください。あ、勿論
『まぁ、悠の事だから心配はしてないけど女の子をあんまり遅くまで連れ回さない事。それさえ守るなら気にしないから、適度に楽しんできなさい。』
『こういう時こそ誰かと一緒にいた方がお前には良いだろう。せっかくだから楽しんでこい。』
『別に遠慮する事ないだろ、行ってこいよ。むしろ行ってくださいネタが捗る。』
とまぁ、こんな感じである。2人はまだいいが、他二人は何かおかしい。特にあのルームメイトと生徒会長。何だよ、
「・・・何やってるんだろうか、俺・・・。」
もはや自分にすら呆れてしまう。こんな大変な時に、呑気に出掛けていていいのかと。
「ほら、何ぼっーとしてるの。早く行こう。時間が無くなっちゃうよ。」
「・・・はいはい、分かったよ。」
そうして、自分の少し前を行くシルヴィアの背中を追いかける。
きっと、自分がこうして生きている限り。彼らとの因縁が続く限り、自分は狙われ続けるのだろうと。・・・それでも。だからこそ、こういう平穏を大事にしたいと、悠は思うのだ。
ー■■■ー
「いやぁー、買った買った。予定通り色々買えたし、満足だよ。ありがとうね、悠君。」
一通りショッピングを終え、以前に叔母と姉とで来た喫茶店のテラス席で二人はくつろいでいた。シルヴィアの言葉に苦笑混じりの笑顔で悠も言葉を返す。
「どういたしまして。といっても、俺荷物持ちやってただけだけどね。」
そう言うと、シルヴィアは「そんな事ないよー。」と言いながらふわふわと笑う。あんな事があった後なのに、シルヴィアは何も変わっていない。
「私にとっては、悠君と二人で来る事に意味があるんだよ。久し振りに時間が出来たんだし。」
「・・・何か、そう言われると恥ずかしいんだけど・・・。」
えへへ、と無邪気に笑うシルヴィアに、悠は少し顔を赤らめながらも笑い返す。
そんな笑顔の彼女を見たら、大体の人は今の彼女を「世界の歌姫」などと呼ばれ、どこか浮世離れした雰囲気を持つアイドルのシルヴィア・リューネハイムと比べてどう感じるのだろうか。
「・・・ぇ、悠君。悠君ってば!」
「え、あぁ・・・うん、ごめん。ぼーっとしてた。」
そんな事を考えていたら、いつの間にか意識が彼方へ飛んでいたらしい。引き戻されてみたら、目の前でぷくーっと頬を膨らませて不機嫌そうにするシルヴィアの顔があった。
「何でせっかく二人だけで出掛けてるのにぼーっとしてるのかなぁ・・・全くもう・・・。」
「悪かった。悪かったって・・・また実里にシメられたら堪らないから勘弁してくれ・・・。」
はぁー、と深い溜め息をついてから、シルヴィアはまたふわんと笑う。
「まぁ、そういうとこも含めて悠君らしいから好きなんだけどねー。今回は勘弁してあげる。」
何だかんだ、結局悠には甘いシルヴィアであった。というか、実里がいるからこの二人の間に漂う雰囲気が調整されているのであって、この二人だけではひたすら甘ったるい雰囲気が溜まるだけである。
「そう言えば、まだ行きたい所があるって行ってなかったっけ?今年度の
「・・・あ。」
悠の言葉で思い出したか、シルヴィアが文字通り口をあんぐりと開け、次いでごまかし笑いを浮かべる。そんな彼女の様子を見て、今度は悠が深い溜め息をついた。
「何やってんのさ・・・。」
悠にそう言われ、若干しゅんとしてしまったシルヴィアは「だって悠君と久し振りのお出掛けだったんだもん・・・」と小さく呟く。
「まぁ、まだ予約した時間までは余裕あるし別にいいんだけど・・・その前に、ちょっと済ましておかなきゃいけないなぁ、これ。」
そう言うと、悠は不意に鋭い目付きで周りを見た。それを見たシルヴィアも気付いたか、真剣な表情になる。
「・・・もしかして、つけられてる?」
「あぁ・・・多分、初めっから、ずっとね。」
悠の顔が剣呑なものへと変わる。シルヴィアもシルヴィアで、二人だけのお出掛けに水を差されたからか不機嫌そうな顔をした。
「シルヴィアは先に会場の方に行ってていいよ。俺はこの状況どうにかしてから行くからさ。支払いは俺が済ませておく。」
そう言って、悠が席を立とうとする。それを、シルヴィアが制止した。
「私も一緒に行く。悠君を一人にするわけないでしょ?」
そう言う彼女の目は、本気だと言っていて。説得しても意味がないのを、悠は即座に察した。
「・・・危ないぞ。」
「分かってるよ。だから尚更悠君一人で行かせられないって言ってるの。」
はぁ、と悠は諦めたように溜め息をつく。「分かった」と彼が言うと、シルヴィアは安心したように小さく頷いてから、悠と揃って席を立つと会計を済ませて店を出た。
「ちょっと待っててね」と、そう言ってシルヴィアは悠が持っていた分の買い物袋も持つと、喫茶店向かいにある荷物預届署へ向かっていく。アスタリスクの商業エリアには、あちこちにこうした荷物の預届署がある。
行政府が公共事業の一環で、観光客がショッピングを終えた後に直接家へ荷物を送れるようにしているのだ。こうする事で観光客は手軽にショッピングを楽しめるし、アスタリスク行政府は観光収入が入ってWinーWinの関係になる、という算段である。
程なくして預届署から出てきたシルヴィアは手ぶらだった。どうやら、大量の買い物袋はクインヴェールの学生寮にある自室宛に預けたらしい。
外で待っていた悠と合流し、足を向けた先は
ー■■■ー
「・・・不味いな。」
「・・・何がだ。」
商業エリアの一画、悠達の姿が見える位置にある喫茶店。そこに、如何にも行政府官僚然とした黒服に眼鏡の男女がいた。その視線の先では、二人の男女が席を立って向かいの荷物預届署へ行くところだった。
「・・・もしかして、感づかれた?」
「・・・あぁ。あの男、予想以上に危険に対して敏感だ。派手に手を出しすぎたな・・・馬鹿共が。先日の炙り出し作戦はまだしも、直接接触したりその場で殺しにかかったりするなぞ話にならん。だから下の連中にやらせるのは反対だったんだ。
そうぼやいている間に、さっきの男女が荷物預届署を出てきた。そのまま二人はどこかへと向かっていく。その後を少し遅れて追うように、黒スーツの女が電話をかけながらついていく。
「何処へ行くつもり・・・?」
「あの方角・・・再開発エリアか。・・・まずいな、また下の連中が騒ぎ出すぞ。」
そう言うが早いか、男は携帯端末を取り出すとどこかへ電話を繋ごうとする。しかし、そこから返ってくるのは虚しいまでのコール音だけだった。それを確認するが早いか、男が立ち上がる。
「行くぞ。奴等、また手を出すつもりだ。これ以上あの男を刺激しない内に止めさせる。」
そう言うと、テーブルに二人分の代金を置いて女と共に店を出る。その足は先程の男女と同じ方向へ向いていた。
「・・・やっぱりか。」
歩く事数十分。悠とシルヴィアは、再開発エリアへと到達していた。昼間でも細く薄暗い路地を、互いに前後上空を警戒しながら進んでいく。
「・・・何か、嫌な空気だね・・・。」
3歩後ろの距離でついてくるシルヴィアが、小さく呟いた。その言葉に小さく頷きながら、さらに奥へと進んでいく。その路地の先・・・ビル同士が向かい合う十字路まで来た瞬間。
「・・・っ、シルヴィ!!」
悠がそう叫びながら、左腰に提げていた
それを見たシルヴィアも、素早く両腰に提げていたブレード型と銃砲型の
「私の能力で索敵してみる。時間稼ぎ、お願いできる?」
「問題ないよ。任せて。」
悠の返答に、シルヴィアはこくりと頷くと、フォールクヴァングを地面に突き立てた。元々彼女が能力を最大限活かせるよう設計されているそれは、スタンドマイクも兼ねている。
目を瞑ってからすぅ、と少し息を吐き、彼女は口を開いた。同時に、その口から旋律が紡がれる。どこか儚げで、しかし同時に力強さもある歌。その歌に乗せて、
それを黙って見ている相手でもないのは当然だが、彼女と悠目掛けて炎槍や雷、暴風など、明らかに
が、悠は動じない。左手で抜き放ち、
全方位から殺到した炎槍が、雷が、暴風が、その障壁に触れた途端、
アスタリスクに来て以来、初めて悠が
全ての攻撃が止んだ時、その場にいたのは結界障壁の中心で左の剣を突き立てつつ鋭い眼光で前方を睨む悠と、フォールクヴァングを構えつつ悠の背中を守るように立つシルヴィアの姿だった。
「悠君側のビルに6人、私の方に4人。・・・ちょっと、面倒だね。」
「案の定分かれてるのか・・・。」
そう呟くと、悠は少しだけシルヴィアの顔を見てから、はぁ、と小さく溜め息をついた。
「・・・仕方ないか。」
そう呟くと、悠は右手に握った
シルヴィアが驚きに目を見開く中、悠がそれを一閃する。瞬間、四方を囲んでいたビルが内部骨格も、外壁も、支柱も、
本当に一瞬。されど、その一瞬の内に、全てが終わっていた。ビルがあった場所にはさきほどまでビルを構成していたはずの破片が小さな山を作っており、面影は微塵もない。
中にいたはずの人間は、携帯していたのだろう
「・・・悠君。」
背後から、シルヴィアはそう声をかけた。両手の剣を降ろすと、彼は彼女の方へ振り返る。その顔は、どこか悲しそうで・・・どこか、弱々しい笑みで。
「ごめん、嫌なもの見せて。・・・こうするしかないんだ。こうしなきゃ、きっとまたシルヴィも実里も危険に晒される。前にも、こうやって一人殺した。」
そう言う悠の手がより強く握り込まれ、剣の柄が微かに軋む。その様子を見て、シルヴィアは察した。
・・・彼は、怖かったのだ。自分の大切なものが消えるのが、奪われるのが嫌で、とてつもなく恐ろしかった。だからこそ、確実に守れる方法を取った。
内心、自分達や向こうの友人にはこんな姿を見せたくなかったに違いない。それは、先程の彼の表情が証明している。
「守ってくれて、ありがと。」
彼の心中を察したからこそ、シルヴィアはそう言って彼の手を包み込むように握ってやる。悠はハッとした顔でシルヴィアを見た。
「守ろうとしてくれたんでしょ?だったら私は・・・ううん、実里も、君の友達も、皆悠君の事を責めたりも、怖がったりもしないよ。だって、元を辿れば悠君は悪くないもの。」
悠は何も言わない。シルヴィアはより強く彼の手を握りながら、言葉を続けた。
「せっかくだから、今言っておくね。悠君に守られてるだけは嫌だから、私達も悠君のことを守るよ。というか狙われてるのは悠君なんだから、そうしなきゃ釣り合わないでしょ?」
その言葉を聞いた悠は、憑き物が落ちたような表情で彼女を見ていた。その言葉が指す所の意味を理解してか、少しずつ表情はいつもの優男らしいものへと戻っていく。
「・・・歓談中の所ですまないが。」
と、不意にそんな声がして、来た方の路地を見ると二人の男女が周りを見ながら現れた所だった。二人とも黒いスーツに眼鏡をつけており、胸には職員バッジらしいものがついている。
「これをやったのは君達か?随分と派手にやったようだが。」
「あ、これは違うんですよ?えっと、その・・・」としどろもどろに答えようとするシルヴィアを制止するように悠が前に出ると、即席の作り笑顔であくまでも淡々と答える。
「いやぁ、ちょっと物騒な集団に絡まれちゃって。彼女を守るのに必死で、気付いたらこんなになっちゃってたんですよ。すいませんけど、見逃してもらえませんかね?」
男の方が怪しむような目付きで悠を見やり、次いでその手に握られた2本の剣を見る。
「・・・まぁ、
それだけ言うと、二人はその場を去っていく。その背中を、悠は怪しむような目付きで見ていたが・・・シルヴィアに手を引かれながら、また日の当たる街道へと戻っていった。
皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
第18話ですが、この話で一番書きたかったのが「双月悠とシルヴィア・リューネハイムの支え合い」です。
個人的な話になりますが、主人公とヒロイン・友人の関係で一番好きなのが「互いに支え合う」シチュなんですよ、私。分かってもらえるかな・・・何か燃えません?ヒロイン・友人が主人公の背中を守って、主人公は彼らを信頼して背中を任せて前だけを見てる、みたいな展開。
今回の話でも、初めの方でクインヴェールが星導館に支援オファーをしたり最後の方でシルヴィアの決意が固まったり、前の話でユリスや夜吹、クローディアが彼を支えるために色々やってますが、彼らの根底にあるのは同じように「大切な人/友人を支えたい」という気持ちなんですよ。だからシルヴィア達は悠を色んな形で支えるし、悠は悠でシルヴィアやユリス達を守るために戦うけど、彼らの事があるから決して命を捨てる真似はしなくなる。
これが一番主人公とヒロイン・友人の関係性として噛み合っているんじゃないかな、と個人的には思ってます。
・・・て、よくよく考えるとここまで自分語りがほとんどですね。まぁ、言いたい事は言ったのでよしとしましょうか。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。次の話も読んでいただければ幸いです。