学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

26 / 39
皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
執筆開始までかなり時間がかかってしまいましたが、今話から本格動乱へと移っていきます。





第24話 六花動乱編ー7

 

 

 

 ・・・それは正に、地獄だった。あちこちで建物が崩壊し、あるいは炎上し。道路はあちこちで崩壊し、車両は横転し。あちこちで恐怖と怨嗟の声が響き、それを掻き消す程の、人外な咆哮が鳴り渡る。

 

 中央区・商業エリア、大交差点。その中央で咆哮しているのは・・・全身を蒼白の体毛に包み、人間の身長の数倍はあろうかという巨体に、口から鋭牙を覗かせ、両足に巨爪を備えた、狼の怪物だった。

 

 「ウオォォォーン!!」

 

 と、狼が嘶く。その声が原初的な恐怖を呼び起こすのか、逃げようとしていた人々はその場で固まってしまう。そんな無抵抗の人々を、単なる本能に従うだけの獣が見過ごす訳がなかった。

 巨爪が振るわれ・・・そして、真っ赤な飛沫が散った。それが舗装道路へと、降りかかる。それを見た、爪を逃れた人々が喉をつまらせ・・・そして、悲鳴と共に今度こそ逃げ出した。

 

 「逃げろぉぉぉっ!!」

 

 「嫌ぁぁぁぁっ!!」

 

 「死にたくない!!まだ死にたくないぃぃぃぃ!!」

 

 その場に満ちる声は、恐怖。死と、現実にあるはずもない怪物への恐怖。それを悦ぶがごとく吼える怪狼・・・それにも臆さず、刃を向ける者が二人。

 

 「全人形(オール・パペッツ)総攻撃(フルファイア)!」

 

 その号令と共に、交差点に面した通りの先から大量のミニドールが飛んでくる。その手には槍やら銃やら弓やらと、様々な武器が装備されていた。近接武器を持った人形は怪狼の全身を這うように動きながら零距離でその巨体を斬り、あるいは突き、叩く。小さい体ゆえに小回りが利くからか、その対処に怪狼は苦戦していた。その合間を縫うように、遠距離武器を持ったミニドールが弾丸や矢を叩き込む。

 さらに、その合間を縫って接近してきた剣士が両手に構えた二刀を素早く一閃し、その胴体へ強烈な一撃を叩き込み、怪狼を僅かに吹き飛ばす。

 

 「こんだけ力込めてもそんなしか吹っ飛ばせないのかよ・・・!くそ・・・っ!!」

 

 「んな事言ってる場合じゃないでしょ!私が動き止めるから、その間にさっさと攻めなさい馬鹿悠!」

 

 「言われなくてもそうするっての!これ以上被害者を出させる訳にはいかないんだよ!!」

 

 その二人・・・実里と悠はお互いに悪態をつきながらも連携しつつ目の前の怪狼を叩き続ける。連携の訓練は先生相手に散々やらされたので、無論悠は実里との連携も鍛えさせられていたのだが・・・正直シルヴィアとの連携に比べると、悠と実里では連携が決して上手いとは言えないのが現状だ。今現在上手くいっているのは単純な話、悠が近距離、実里が遠距離を担当しているからに過ぎない。孤児院時代は悠とシルヴィアのペアか、悠・シルヴィア・実里の3人での連携訓練が普通だったので、無理もない。何しろ悠・シルヴィアペア/悠・シルヴィア・実里の3人の場合はシルヴィアが悠の意図を汲み取って彼をサポートし、3人の時は実里が他二人が動きやすいよう補助するのが主だったから上手く回っていたのに対して、悠・実里ペアでは実里がシルヴィアの分まで悠をサポートしなくてはならず、我流過ぎる悠の動きについていけずに連携が上手くいかない事が多かったのだ。

 

 「ウオォォォーンッ!!」

 

 と、業を煮やした怪狼は全身にまとわりついていたミニドールを強引に引き剥がし、悠へと巨爪を振りかぶる。だが、相手が悪かった。

 

 「・・・っ!!」

 

 素早く後方宙返りをしつつ爪を回避。砕かれた道路の強化コンクリートが飛び散るが、それを気にも止めずに悠は両手に持っていた二刀・・・"村正"と"村雨"を腰の鞘に納め、即座に背中から絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を抜き放つ。地を蹴り、縮地の要領で距離をつめ、交差させるように一閃。怪狼の喉元を抉る。片や万物万象を絶つ刃、片や所有者を守る刃。そんなものを相手に、無事でいられるはずがない。

 

 「ウオォォォーン・・・!!」

 

 と、先程より弱い嘶きと共にその体を大きく揺らがせる。喉元には深く抉れた傷が出来、真っ赤な鮮血の代わりに青白い粒子が流れ落ちていく。

 

 「案の定というか何と言うか、やっぱり空想人形(フィクション・パペット)か・・・。」

 

 「しかも、ただ人を殺すために生み出された・・・ね。」

 

 悠と実里は一旦呼吸を整え、怪狼を見る。その目はきつく悠達を睨み付けていて、酷く憎まれているのは明らかだった。

 

 「あいつ、相当キレてるわよ・・・まぁ無理もないけどさ。」

 

 そんな実里の声を聞きながら、悠は怪狼へ注意を向け続ける。・・・そして不意に、気付いた。

 

 「・・・あの足の傷・・・。」

 

 怪狼の足に、何か刺々しいものでやられたような傷痕があった。それはさながら・・・何か、罠のようなものにやられたようで。

 

 「ぼーっとしない、悠!また来るよ!!」

 

 思考に落ちそうになっていた意識を、実里の言葉が引き戻す。見れば、怪狼が突進してくる所だった。咄嗟に全身を捻り、その巨体を交わす。飛び散る唾液に混じって香ってくる血の臭いに、否応なく顔が歪んだ。

 悠を捕らえられなかった怪狼は、その勢いのままにミニドールを操っていた実里へと迫る。咄嗟に巨大な盾を構えたミニドールを引き戻して巨体を受け流すと、その勢いを殺しながらこちらを相変わらず睨み付けてくる。そこに、とてつもなく強い憎しみを見た悠の中で、沈みかけていた思考が1つの答え・・・すなわち、怪狼の正体に至った。

 

 「・・・あぁ、そうか。・・・ようやく分かったよ、お前の正体。」

 

 そう言うと、悠は両手の剣を水平に構えた。

 

 「実里、少し下がってろ。あと念のため、盾持ちのミニドールを張っておいた方がいい。」

 

 悠の言葉の意味が分からないまま、流れに乗せられるようにして相槌を返すと、悠は少しだけ視線をこちらに向けてから怪狼へと向き直る。

 

 「ある意味じゃ、お前も被害者だよな。こんな時代に呼び出されて、ただ人を殺すためだけに利用されて。・・・まぁ、お前からしたら憎くて堪らない人間を好きなだけ殺せるんだし別に気にもならないんだろうけど。俺達からしたら、お前は死神みたいなものだからさ・・・もう1度物語の中に帰れ・・・狼王、ロボ。」

 

 「ウオォォォーンッ!!」

 

 悠の呟きを聞いてか知らずか、怪狼・・・狼王ロボが雄叫びと共に突進してくる。それを迎え撃つように、悠も地を蹴って飛び出した。真正面から両者が突進し・・・そこで、信じられないものを実里は見る。

 

 「何よ、あの急加速・・・!?」

 

 突進中の悠が、ロボ以上に加速したのだ。もはや、その姿は残像でしか捕らえられないレベルまで。そのまま加速し続け・・・交錯するその刹那、悠が両手の剣を一閃する。

 

 「・・・双月流・烈技、"幻狼"。」

 

 ただでさえ加速した刃に、身体強化をした状態で振るわれ、かつ自身すらも超えた速度。そんな技の前では、憎しみに捕らわれ、憎しみの向くままに動く狼など相手にもならず。その巨体は道路へと叩きつけられ、巨体の重量が余りに道路を叩き壊し、滑り、自身が生み出した亡骸すら巻き込んで・・・がら空きの店舗へと突っ込み、ようやく止まる。

 

 「・・・2度と、こんなとこに来るなよ。お前のためにも。」

 

 そう悠が呟く中、全身傷だらけになったロボの身体が薄れていき・・・星辰力(プラーナ)の粒子を散らしながら、消えていった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・大丈夫?・・・って、そんな訳無いか。」

 

 もう助からぬ人々の亡骸を乗り越えながら、中央区を進んでいく悠に、後ろからついていく実里がそう声をかける。

 

 「・・・大丈夫だ。・・・正直、間に合わなかったのはキツいけど。今は、1人でも生存者を逃がすのが先決だ。」

 

 と、さらに歩を進めようとして・・・地面が、揺れた。

 

 「・・・っ!?何!?」

 

 実里が動転する横で、悠が何かに気付いたように周りを見る。そして、不意に届いたメールに、悠達は目を疑った。

 

 「『これより、外縁居住区・行政府エリア及び各学園への接続橋を脱離し、中央区を閉鎖する』・・・って、はぁ!?まだ避難できてない人だっているでしょうが!」

 

 「・・・これが、行政府のやり方か。」

 

 実里は声を荒げ、悠はただでさえ固く握っていた拳をこれでもかと言わんばかりにきつく締める。そこへ、不意に聞こえてきたのは歌声だった。荒波のようになってしまった心を落ち着かせるような、そんな歌声。何とか激情を静め、改めて自身の決意を思いだし・・・悠は口を開いた。

 

 「・・・実里、シルヴィアは何処にいる?マネージャーなんだから分かってるだろ。」

 

 「・・・確か、今日は新曲の打ち合わせがあったはず。その会社は・・・そうじゃん、あっちだよ!」

 

 実里が指差した先は・・・ちょうど歌が流れてくる方向。それを確認すると、悠は絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を背の鞘に収めると、不意に実里の手を掴んだ。キョトンとする実里に、悠が声をかける。

 

 「歯食い縛っとけ。あと口も。」

 

 そう言うと、瞬時に星辰力(プラーナ)を圧縮、増幅して両足に身体強化をかける。

 

 「飛ばすぞ。」

 

 と、そう言うが早いか、道路を蹴って駆け出した。無意識にいつも以上の身体強化をかけていたのか、1歩1歩、地を蹴る度に道路が軋みをあげる。その顔は、いつもの余裕は欠片もない・・・シルヴィアにも、実里にも、いや・・・恐らく誰にも見せた事の無い、覚悟を決めた者の顔。それまで見せてきた激情とも、暗いものとも違う、初めて見る表情だった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 四方八方から飛んでくる炎、雷、氷・・・周りを囲む魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)が放った攻撃を弾き、あるいは避けながらシルヴィアは歌を紡ぎ続ける。その歌のコンセプトは、「生きてほしいと願われた少女が必死に生きようとする姿」。それをイメージ源として、自身の全身を覆うように障壁を張っていた。

 しかしその対象はあくまで自分だけであり、周りの人々までは守れない。そこでシルヴィアが選んだのは、自分が危険に晒されるのを覚悟の上で、避難する民間人への被害をとにかく抑える事だった。一歩間違えれば自身が命を落とすかもしれない状況だが・・・彼女の中には1つだけ、確かな確信があったのだ。

 

 (きっと悠君も、実里も来てるはず・・・悠君を1人になんて、させない。私は死ぬわけには、いかない!)

 

 そう心の中で叫びながら、目の前に飛んできた雷槍を叩き落とし、お返しと言わんばかりに銃砲型煌式武装(ルークス)をぶっ放す。だがしかし、後方支援らしい1団に向かって放たれた光砲は、どこからともなく現れた少女が展開した巨盾によって防がれた。

 

 (本っ当に嫌らしいなぁ、もう!さっきから遠距離攻撃ばっかり!)

 

 そう内心で毒づきながらひと呼吸置こうとして・・・咄嗟に左へ身を捩る。何処からか飛来してきた黒い槍が障壁にぶつかり、掠めていく。同時に、障壁がくだけ散った。

 

 「・・・っ!?」

 

 突然の出来事に、驚きの余り歌うのを止めてしまう。それを好機とばかりに、四方八方から攻撃が飛んでくる。

 

 「しまった・・・っ!」

 

 自身の考えの甘さに、シルヴィアは歯噛みをする。事前に悠から「魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)なんて、正直何でもありだから過信してかかるな」と言われていたにも関わらず、障壁に頼っていた。障壁が何らかの力で壊される事を考えていなかったのだ。

 そんな事を考えている間にも、攻撃はシルヴィアへと迫る。半ば諦めて、目を瞑りかけた・・・その瞬間。

 

 「・・・!」

 

 風が、吹いた。ゴゥ、という音ともに風が吹き荒れ、シルヴィアに迫っていた攻撃の全てを吹き飛ばす。

 

 「・・・やっぱり、来てくれた。」

 

 そんな彼女の呟きに、フッと、笑うのが分かった。顔を上げ、目の前で剣を振り抜いた態勢で止まっている少年を見る。

 

 「当たり前だろ?守るって約束したんだから。」

 

 少年も、不敵に笑う。それは小説などで言うところの盛り上がり場面なのだが・・・少年の足元でもう1人の少女がへたりこんでいるのが色々と台無しだった。

 

 「二人だけの空気作ってんじゃないわよ、馬鹿ぁぁぁぁ!!」

 

 と、耐えきれなくなった実里が叫ぶ。それを攻撃命令と認識したらしく、周りに浮遊していた人形達が一斉に散らばり、シルヴィアを攻撃してきていた者達へ襲いかかる。

 

 「・・・とりあえず、この場を収めないとな。シルヴィア、バックアップよろしく。あと実里も早く立て、ぼーっとしてると死ぬぞ。」

 

 「誰のせいだと思ってんのよこのスカポンタン・・・!!」

 

 と、いい加減に実里の怒りリミッターが限界突破しそうな所でシルヴィアが仲裁に入る。

 

 「ハイハイ、実里、落ち着く落ち着く。今は馬鹿な話してる場合じゃないでしょ。」

 

 「・・・うぅ・・・後で覚えときなさいよこの剣術バカ・・・!!」

 

 たったそれだけの会話(実里の暴言含む)だが、3人の間ではそれだけで十分だった。打ち合わせるでもなく自然と、悠が最前、シルヴィアがその3歩後ろ程の位置で悠を援護できるように立ち、それと並ぶようにしてイライラしきった実里が立ち、人形達を無数に生み出して待機させる。昔やっていた鍛練の時から変わらない、一番安定するフォーメーション。

 悠目掛けて、幾つもの攻撃が放たれる。だが、悠は動じない。左の聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を仕舞うと、右手に握った絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を構える。その顔は、不敵に笑っていた。

 

 「双月流・・・"舞崩"!!」

 

 そうして、軌跡を残しながら猛スピードで剣が振るわれる。敵の攻撃をすべからく叩き落とすために放った技はあらゆる攻撃を吹き飛ばし、その場の空気すら圧倒した。爆発で発生した煙の中から現れた彼には傷ひとつ無く、悠は不敵な笑みのままだ。

 

 「・・・っ!プランBだ!包囲して確実に始末する!」

 

 流石に動揺を隠せなくなったか、魔術師(ダンテ)の1人が声を上げる。それに合わせて周りを囲んでいた者達が立ち位置を変えていくが、悠達は全く警戒する様子もなく、ただ視線でその動きを追っているだけだ。

 

 「悪あがきにしかならねぇよ、そんな事しても。・・・悪いけど、あんた達に時間を割いてる暇はない。押し通させてもらう・・・!」

 

 そう言うや否や、悠は地を蹴って飛び出した。左手で"村雨"を抜刀し、その勢いのままに眼前の男へ叩きつけ、氷槍を手に迫ってきた女の攻撃をしゃがんで回避、体を回転させつつその背を返した刀身で叩く。

 その背後からさらに迫ってきた炎はシルヴィアが銃砲型煌式武装(ルークス)で叩き落とし、逆にその爆煙を利用してお返しと言わんばかりの出力にした砲撃を放つ。

 そんな二人を打尽にしようとする者達は、両指に嵌めた指輪から放った無数の星辰力(プラーナ)の糸を操り、その先に繋がっている人形達を操作する実里が片付ける。

 

 「私の恨みをなめんなぁぁぁぁ!!」

 

 ・・・半ば八つ当たり気味なのはまぁ、ちょっと気になる所だが。そんな状態でも二人との連携が出来ている所は流石幼馴染である。そんな実里を見て悠は内心「俺後で殺されないよね?」とか考えていたり、シルヴィアはシルヴィアで「相変わらず仲が良いのか悪いのか」なんて思っていたりする。状況は決して良いとは言えないはずだが、3人の様子は昔とこれっぽっちも変わらない。

 

 「・・・何だよ・・・何だよ、こいつら!」

 

 誰からは分からないが、そんな声が発せられる。悠達が全く動じるどころか、馬鹿みたいな会話混じりに、いとも簡単に仲間達を倒していく事が信じられないのだろう。その声は酷く上ずっていた。

 ・・・恐らく彼らは、自身の行動を間違っているとは思っていないのだろう。だから、悠達がなぜ抵抗しているのか理解していない。いや、出来ない。自分達の理想が、行動が、正しいと信じきっている。だからこそ、平気で人に能力を使う。中には、洗脳教育によって彼らの思想に染められた者もいるのかもしれないが。

 

 (・・・それでも、お前達には償ってもらわなきゃならない事が沢山ある。悪いが、大人しく捕まってもらうぜ。)

 

 そう言うと、右手に提げた絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)をさらに閃かせる。眼前に次々迫る攻撃を斬り払いながら、1人、また1人と斬り伏せていく。

 

 「ヒッ・・・!!」

 

 「来るな、来るなぁぁぁ!!」

 

 ある者は恐怖に顔を歪め、ある者は半狂乱になりながら攻撃をしてくるが、悠はそれら全てを斬り払って迫る。その後ろではシルヴィアと実里が周りの魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)の相手をしつつ悠の援護に砲撃と人形を飛ばしてくる。

 

 「嫌だ・・・死にたくない!まだ死にたくないぃぃぃぃ!!」

 

 その絶叫すらもまとめて、悠は一刀の元に斬り払った。斬られた者が力尽きたように倒れていく様に、周囲は最初の勢いなど見る影もない。

 

 「これで、終わらせる・・・!!」

 

 そう言うと、悠は右手に握った絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を振り上げた。同時に、尋常ではない量の星辰力(プラーナ)が込められ、刃がとてつもない大きさへと伸びる。

 

 「これで、吹っ飛べぇぇぇぇ!!」

 

 悠の咆哮と共に、巨剣と化した絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を振り下ろす。地面に叩きつけられた刃は激しい衝撃を発生させ、周囲にいた残党すらも吹き飛ばす。その一撃で、この場は完全に制圧されていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「悠、全員縛り上げといたわよ。能力も使えないように、人形も特殊なやつにしといたから。」

 

 「あぁ、ありがとな。後は、全部終わらせ次第あいつらも連れ出すだけだ。」

 

 そう言うと、悠は念入りに周りを警戒し、次いでどこかへインカムから通信を繋いだ。その背中を見ながら、シルヴィアと実里は様々な感情が入り交じった表情で見ている。

 

 「しっかし、まさか全員『意識を斬って』気絶させただけとはね・・・大概無茶苦茶だわ、あいつ。」

 

 「あはは・・・でも、悠君らしいと言えば悠君らしいかも。」

 

 シルヴィア達が知る限り、悠は余りにも無茶をする人物ではない。むしろ、周りの無茶を諌める側だ。自分の事に関しても、今回のような深刻なものでなければ無茶をする事はまずない。今回は事態が事態だったから無理もない、例外としか言いようがないのだ。

 

 (・・・それでも、悠君はさっき、自分や私達の命を狙った彼らを助けた。それは、多分・・・。)

 

 ・・・考えるまでもない。それが、双月悠という少年の本質だからだ。どんな人間が相手でも、救える余地があるのなら、助ける。以前までの悠はそんな余裕も無かっただろうに、どんな心境の変化があったのか。

 そんな風に思考に耽っていると、不意に携帯端末に通信が入った。誰かと思って出てみると、相手は不明。どうも未登録の相手らしい。

 

 「はい、もしもし・・・?」

 

 『・・・シルヴィア・リューネハイムだな?』

 

 展開されたホロディスプレイには、「SOUND ONLY」の文字が映っている。聞こえてくるのは、聞いたこともない男の声。

 

 「・・・誰ですか。何の用?」

 

 『フン・・・生徒会長だからと、運営母体の我々に対して随分な口調だな。』

 

 その言葉に、シルヴィアと実里は揃って表情を固くする。その横では、通話を終えた悠が険しい顔で画面を睨む。

 

 『まぁ、それも今となってはどうでもいいが。単刀直入に言おう・・・シルヴィア・リューネハイム。

 

 我々は今後、君に何があろうが関係なく・・・君との一切の契約と権限を、放棄する。そこでの垂れ死ぬのも、生きるのも君の自由だが・・・今後はこの世に居ない者として扱わせてもらう。』

 

 それは、唐突で・・・余りにも無慈悲な宣告。事実上の、死刑宣告だった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「ふんっ・・・!!」

 

 場所は変わり、中央区・シリウスドーム前。剣閃が走り、巨体の鎧武者が放った斬撃を両断する。それを見た鎧武者はもう1刀を抜き放つと、地面を砕きながら駆け出した。

 それを、相対していた少女ーーー双月光は真っ向から迎え撃つ。1撃を打ち返し、返す刃でもう1撃も弾く。垂直に振り下ろされた1撃を僅かな横ステップでかわし、直ぐ様水平に刃を構える。

 

 「双月流ーーー"弦月"!!」

 

 その斬閃は弧を描き、鎧武者の胴を両断する。その体を構成していた(コア)を破壊したためか、鎧武者は力なく崩れ落ちるとその体を四散させた。

 

 「ふぅ・・・とりあえず、ここは制圧出来たかな。」

 

 そう呟くと、周囲を見渡してみる。周りの損壊具合は他の場所と大差ないが、人的被害は一切見られない。早い内に星猟警備隊(シャーナガルム)が一般市民を退避させたおかげだろう。外縁から攻められていたため、シリウスドーム地下の地下通路からアスタリスク外周の港湾エリアへと逃がしたのだ。唯一、そこだけは一切の被害が見られなかった。

 

 「・・・うん。まぁ、分かってはいたけどさぁ・・・何も一段落したとこで来る事ないよね?」

 

 不意にそう言うと、光は背後を振り返る。そこにいたのは、2人の男女だった。

 

 「あらら・・・気付かれてしまったわ。どうしましょうね、リク?」

 

 「どうしようも何も、やるしかないだろう?アリア。せっかくだ、僕達のコンビネーションを見せてやろうじゃないか。」

 

 そんな会話を交わす男女に、光は黙って剣を向ける。すると、男ーーー「リク」と呼ばれた男は慇懃無礼に御辞儀をした。

 

 「大変な失礼をしました。僕は相原リクと言います。そして此方がアリア・セニアス。どうぞお見知りおきを。」

 

 と、相原リクがそう言う横で、アリア・セニアスが長スカートを持ち上げながら礼をする。

 

 「双月流後継、双月光。・・・それで、一応聞くけど貴方達は敵?それとも味方?」

 

 「敵か味方か、と聞かれれば、まず間違いなく敵ですよ。ただ、完全な敵というわけでもありません。」

 

 その言葉に、光は訝しげな目を向ける。その言葉に続けてきたのは、アリアの方だった。

 

 「何も見なかった事にして、ここを立ち去ってくださらないかしら。そうしてくださるなら、私達も貴方に危害を加えるつもりはありませんから。」

 

 ・・・つまりは、今の状況にアスタリスクを陥れた元凶である自分たちを見逃し、まだ避難中の一般市民を見捨てて逃げるなら手は出さないと。そう言う事か。

 

 「・・・ふざけないで。」

 

 と、光の冷えきった声が響いた。拒否される事も想定してはいたのか、それを聞いた二人は小馬鹿にしたように笑う。

 

 「悪いけど、二人とも倒させてもらうわ。これ以上貴方達の横暴は放っておけない。」

 

 そう言うと、光は剣を真正面に構える。それを見た二人も、懐から発動体を取り出した。

 

 「なら、仕方ないですね。・・・やろうか、アリア。」

 

 「えぇ、仕方ないわね、リク。やりましょう?」

 

 そうお互いに声をかけながら、発動体を起動する。そうして現れたのは、黒と白のツートンカラーがそれぞれ逆になっている二振りの片手剣。その剣を、光は知っていた。

 

 「・・・純星煌式武装(オーガルクス)、干将・莫耶。貴方達が盗んでたのね。」

 

 純星煌式武装(オーガルクス)、干将・莫耶。古代、かつての中華人民共和国に実在したという二振りで1対の双剣の名を関する武装。6年前まで界龍《ジェロン》第七学院で管理されていたが、ある日突然紛失事件が起きて騒ぎになったものだ。

 それを聞いた二人は、何が楽しいのか、微かに笑う。そして、光目掛けて飛びかかっていった。

 

 

 





皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
さて、第24話ですが、どうだったでしょうか。アスタリスクの状況に関してはシリアス感を、悠達のやり取りなどに関しては盛り上がりを出したいなぁ、なんて思いながら書いてみましたが、どうだったでしょうか。
余り上手く書けてる自信がないんですよね・・・ちょっと不安。

次の話を投稿するまでに、反省などをしてから執筆するのでまた時間が空くかもしれませんが、気長にお待ち頂けると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。