学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。閑話最終話の更新です。ようやくレポートも書けたので執筆出来ました。
見返してみると、場面転換が上手く出来てない所がありますねこの作品・・・メインストーリーは細かい部分以外は問題ないのですが、こういう閑話とかでかなり目立ちました。矯正しないとなぁ。
それでは、本編の方をどうぞ。





閑話ー帰省終了、新たな船出

 

 

 

 ーーー上手く馴染まない、というのがまず一番に浮かんだ感想だった。これまで二刀流でやってきたからか、どうにも片手が空くというのが落ち着かないのだ。

 

 「どうしたもんかなぁ・・・。」

 

 雪が降り続き、屋根に白を被った双月本家の中庭、納屋と並んで立つ大きな道場。その中でずっと鍛練をしていた悠は、そう呟くと右手を下ろす。その手には、先日縁から渡されたばかりの太刀が握られていた。つい一昨日めでたく元旦を迎え、色々と騒がしい日が続いたが、今日3日を以て悠達の帰省は終了。6日からはまた授業再開である事もあり、夕方には高速鉄道と船舶を乗り継いでアスタリスクに帰らなくてはならない。そのため、今日は最後にもう一度両親の墓参りと祖母との手合わせをする予定だった。

 

 「どうにも慣れないんだよな、一刀って。二刀流でずっとやってきたからか・・・。」

 

 そう呟きながら、太刀を収めると道場の壁に寄りかかって座る。いつも肌寒く感じる冷気が、風に乗って鍛練で熱くなった体を冷ましていくのが肌で感じられた。何とはなしに、傍らに横たえた太刀に触れる。

 

 「・・・星辰力(プラーナ)の混濁・・・か。まさかそんな事があるなんてな。」

 

 ーーー本当は、自分が周りと違う事に薄々感づいてはいた。幼い頃に、星辰力(プラーナ)を制御しきれずに暴発させかけた事。背負った過去の事。そして何より、縁も言っていたが両親だけしか触る事すら許さなかった絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)聖閃の魔剣(グロリア=フラム)が、両親が死んで間もない頃、何とはなしに触っただけの自分を新たな所有者と認めた事。アスタリスクに来て初めて知った事だが、本来純星煌式武装(オーガルクス)はそんな簡単に契約できるものではないし、所有者と認められた場合にも使う度に膨大な星辰力(プラーナ)を喰う。そんな代物を2つも持てる時点で異常なのは明白だった。

 

 「まぁ、なっちゃったもんは仕方ないし・・・潔く諦めるさ。それよか、一刀でもやれるように鍛え直さないと。」

 

 もう一度鍛練を再開しようと、腰をあげる。道場の扉が開いたのはそんな時だった。

 

 「やっぱここにいた。タオルと水、持ってきたわよ。」

 

 「珍しいな、お前が早起きしてくるなんて。しかも俺にやけに親切だし。明日は大雪か?」

 

 からかいついでに悠がそう言うと、実里は膨れっ面をした。そして、悠の横にどかっと腰を下ろす。

 

 「別に、目が覚めちゃっただけよ。それにシルヴィにばっかあんたの世話させるのも可哀想だから代わりにやっただけ。」

 

 「はは・・・そういうとこは昔から変わんないのな。昔からお前、そうやって口じゃあーだこーだ言いながら色々世話焼いてたろ。」

 

 「・・・うっさいわね。人間そう簡単には変われないのよ。」

 

 「だろうな。お前とかシルヴィ見てるとよく分かるよ。」

 

 「・・・どういう意味よ、それ。」

 

 「別に他意はないよ。思った事言っただけ。」

 

 そんな他愛もない会話をしながら、悠は先程までとは違う、太刀での素振りに鍛練を切り替えた。その様子を見ながら、実里は壁に寄りかかってそれを見守る。

 

 「・・・というか、変わらないのはあんたもでしょう。昔から自分だけで何でも抱える所とか、そうやって鍛練ばっかしてるとことか。」

 

 「うんまぁ・・・否定はしない。」

 

 呆れたように実里は溜め息をつき、悠は苦笑する。昔から変わらない部分があるのはお互い様らしい。

 

 「ま、あんたがそんな感じだから私達が放っとけなかった所もあるんでしょうけどね。そう考えると私達も大概お節介か。」

 

 「そのお節介で救われたってのも事実だからな。多分シルヴィとお前が声かけてこなかったらずっとあのまま引きこもってただろうし。」

 

 「間違いないわねそれ。あの時のあんた、大分酷かったもん。」

 

 ケラケラと笑いながらそう言う実里に、悠は返す言葉もない。そんな風にお互い時間を過ごしていると、不意にまた戸口が開いた。

 

 「やっぱりここにいた。これ見よがしに二人で仲良くしちゃってもう。」

 

 シルヴィアだった。どことなく膨れた顔をしながら、悠と実里の方に歩み寄ってくる。

 

 「おはよ。よく眠れた?」

 

 「まぁね。いつも早起きしてたから、気付かない内に寝不足だったかな。」

 

 「だから言ったろ。無理してやらなくていいって。ていうか、あんまりやらせてると俺がこいつに怒られるから本当無理しないでいいからな。」

 

 苦い顔で悠がそう言うと、実里がジト目でそれを見る。どうも既にやられた覚えがあるらしい。シルヴィアはそんな二人を見て溜め息をつくと、太刀を収めて滲んだ汗をふく悠とその傍らで呑気に欠伸をしている実里の所へ歩み寄っていく。

 

 「前にも言ったけど、私が好きでやってるから気にしなくていいの。実里も悠君も気にしすぎなんだよ。それより・・・。」

 

 と、悠の方に来ると、不意に彼の眼帯の紐をほどく。眼帯を取ると、露になった左目の傷に触れる。その左目はあの日から閉じられたまま、光を映す事はない。

 

 「・・・やっぱり、傷が薄くなったりとかはしてくれないか。もしかしたら、って、思ってたんだけど。」

 

 そう言って、少し悲しげに笑う。その表情からも、彼女があの時の事をまだ気にしているのは見てとれた。

 

 「・・・あの時、もうちょっと早く私が間に合ってたら悠君がこんな風になる事も無かったかもしれないんだよね。ううん・・・多分あの時、イリアさんを追うより先に悠君を助けに行ってたらあんな大怪我自体しないで済んだのかもしれない。・・・本当、ごめんね。痛かったよね・・・。」

 

 「・・・それは違うよ。」

 

 そんなシルヴィアの言葉を、悠は否定する。シルヴィアの手を取ると、軽く力を込めて握ってやる。

 

 「あの時シルヴィが助けに入ったとしても、代わりにシルヴィか実里・・・いや、最悪二人ともが大怪我なんて表現じゃ済まない状態になってたはずだ。それだけ、あの敵は強かった。・・・正直、俺自身あいつを倒して生還出来たのが奇跡だと思ってるくらいだしな。・・・それに、さ。」

 

 一呼吸おいて、シルヴィアの目を真正面から見つめる。

 

 「あの時は、お互いやるべき事が決まってたようなものだろ?俺や姉さんに出来ることが他の魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)達の排除なら、黒幕だったイリアさんを止めるのはシルヴィと実里にしか出来ない事だった。お互いにそれを果たしたってだけだよ。

 ・・・それに、何度も言うようだけど。あの状況から生きて帰ってきて、こうやって今一緒にいられてるだけで俺は十分だから。」

 

 その言葉に込められた意味が、病室で似たような事を言っていた時のものとは違う事を、シルヴィアはすぐに理解できた。同時に、胸につっかえていたものがスッと消える感覚を覚え、思わず笑みが零れる。

 

 「うん・・・ありがとう。そう言ってくれると、有り難いかな。」

 

 そうして2人、お互いに小さく笑う。そんな様子を、横で実里は呆れ気味に、しかしどこか嬉しそうに見ていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「腰はもっと低く!打ち込みが甘いよ、もっと深く!」

 

 「は、はい!」

 

 朝、各々が朝食を済ませた後。道場に集まり、2人1組でお互いに木刀を打ち合わせているのは双月流の門下生達。それを見守るのは光と、祖母の縁だ。ちなみに悠は彼らより体格が低かったり、体力が余り無いなど他と比べてハンデがある門下生達の面倒を見ている。

 

 「よーし、前に見たより大分振れるようになってきたじゃんか。んじゃ、昼休憩してから今度はさっきより5回多く振れるように頑張るか。凛、そっちはどうだー?」

 

 悠に凛、と呼ばれた少女がはーい、と答える。

 

 「大丈夫ですよー。こっちもちゃんと腕は上がってきてます。でもまぁ、疲れてきちゃってるみたいなので休憩ですね。」

 

 長い黒髪をサイドテールにした、どこかのんびりした印象の少女。年齢は悠やシルヴィアと同じく今年で16歳。しかしその割りに悠達に比べて若干大人びて見えるのは悠の影響だろう。

 昔から正義感が強かったからか、虐められていたりした門下生の助けに入っていた悠には凛も助けられた。その事に強い恩義を感じていたからか、それ以降、悠がいなくなってからはその代わりに彼女が虐めっ子達から他の門下生を守っていたのだ。

 

 「んじゃ姉さん、こっちは先に休憩してるから。」

 

 「はいはーい。了解よ。」

 

 姉にそう言うと、悠は凛と並んで子供達を連れ道場を出た。道場のすぐ正面にある離れで、完全に変装したシルヴィアと実里が昼食を用意していた。まだここに来て間もないが、彼女達は持ち前のコミュニケーション能力で子供達に懐かれていた。ちなみに名前は勿論伏せてあるが。

 

 「悠君と凛ちゃんもお疲れ様。ご飯出来てるよ。」

 

 「おう、サンキュー。シルヴィアも実里も助かるよ。」

 

 「ありがとうございます。頂きますね。」

 

 各々礼を言うと、昼食をとる。横目にワイワイと騒がしくしながら食事する子供達を見ていると、孤児院にいた頃の光景を思い出してついシルヴィアの顔は綻んでしまう。

 

 「どうかしました?何か楽しそうですけど。」

 

 「いやぁー・・・こうして見てると孤児院にいた頃思い出してさ。こうやって騒いでるのも楽しかったなーって。」

 

 凛の言葉に、シルヴィアは楽しそうにそう返す。

 

 「そう言えば、こっちにいた頃の悠ってどんな感じだったのか知らないのよね、私達。ねぇ凛さん、こっちにいた頃の悠ってどんな感じだった?」

 

 「こっちにいた頃の悠さんですか?うーん・・・何て言ったら良いんでしょうかね?正義漢というか、意識過剰というか。」

 

 「その評価は誉めてるのか誉めてないのかどっちなんだよ・・・。」

 

 実里と凛の会話に、悠は深く溜め息をつく。悠からすると、昔はこうズバズバ物を言うような性格では無かったのだが・・・どうも心境の変化があったらしい。

 

 「何か、良くも悪くも面倒見が良かったんですよねぇ。虐めっ子には問答無用で一撃入れた上に説教するし、虐められっ子にも説教するしで。その癖鍛練の時には両方に容赦ないし。それでよくお姉さんにやり過ぎだって叱られてましたよ。」

 

 「あれはほら・・・子供っぽいところもあったからノーカンだ、ノーカン。てか、それを言うならお前もお前だろ。俺が助けてやる前は虐められてばっかの泣き虫だった癖に。」

 

 「んなっ!?」と、予想だにしなかったらしい悠の反撃に凛は驚きの表情をする。

 

 「偉そうにあぁだのこうだの言ってるが、こいつ昔はすごい泣き虫だったんだぞ。しかも虐められてばっかだったし。俺が助けなかったら多分未だに泣き虫だったんじゃないのか?」

 

 「そ、それは言わない約束じゃないですか!酷いですよ、私の黒歴史なのに!」

 

 「おう特大ブーメラン発言止めーや泣き虫凛。」

 

 「あーっ!また言いましたね、また!もう泣き虫じゃないです!撤回してください!」

 

 「断る。俺の過去話を勝手に解禁した仕返しだ。」

 

 そんな会話を次々繰り出す二人に、シルヴィアと実里は揃って顔を見合わせる。

 

 「・・・な、何か・・・。」

 

 「大人びてると思ったけど・・・案外子供っぽい・・・?」

 

 その会話を見ていると、改めて自分達が知っている悠が一部だけである事に気付かされる。どうやら孤児院に来る前の悠は、自分達が知っている悠とはまた違う様子だったらしい。

 

 「・・・まぁでも、悠君らしいと言えば悠君らしいよね。虐められてる子の助けに入る所とか。今も人助けしてるもんね。」

 

 「ま、そのせいで大怪我したりもしてるけど。それがこいつの人間性だと思えば納得よね。」

 

 「悠さん、今もそんな感じなんですね。なら納得です。どうせその目も人助けしてて付いたものでしょ?相変わらず無茶苦茶してますね。」

 

 不意に女子3人に温かい目を向けられ、居たたまれない様子で悠は顔を背ける。その空気を破ったのは祖母だった。

 

 「おーおー、女子を3人も侍らせて楽しそうだね悠。盛ってるのかい?」

 

 「誤解を招くような発言するなよ婆ちゃん!?」

 

 あからさまにニヤついた顔で縁がそう言ってくるのを、悠は必死に否定する。ちらりと背後を見れば、シルヴィアと実里は何故かジトっとした目でこっちを見てくるし、凛は何が楽しいのかニコニコしている。

 

 「とまぁ・・・馬鹿な話は置いといて。悠、ちょうど良いから午後にあんたに稽古つけるよ。道場でガキ共の鍛練の続きだろ?あの子らにもいい体験になるだろうしね。」

 

 ・・・そんなこんなで、急遽悠の稽古が決定したのであった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・じゃ、始めようか。あんたにはこの稽古で"天眼"を完璧に扱えるようになってもらうよ。」

 

 午後、昼食が終わった後。道場でシルヴィア達や門下生の子供達が見守るなか、悠と縁は向かい合って木刀を構える。

 

 「じゃあ、こいつは外した方がいいか。ちょっとこれ頼む。」

 

 縁の言葉に、悠は左目を覆う眼帯を外した。閉じられたままの左目と大きな傷が露になり、子供達や凛が顔をひきつらせる。縁も事情は知っているにせよやはり実際見ると違うのか、顔つきは痛々しいものを見るそれだ。

 

 「・・・ちゃんとこの目で見るのは初めてだけど、随分と派手にやられたね。よくもまぁ、それを『この程度』で済ませれるもんだよ。」

 

 「いやまぁ・・・なっちゃったもんは仕方ないよなっていうか。過ぎた事にどうだこうだ言っても無駄だよなぁと。ならさっさと自分の中でけじめつけといた方がいいと思ってさ。」

 

 「はぁ・・・その性格は誰に似たんだか。まぁ十中八九孝弘だろうけども。あの男は、死んでまでまぁ息子に変な影響与えよって。」

 

 悠の言葉に、縁は深く溜め息をついた。それに苦笑しながら、悠は"天眼"を発動する。開かれた左目から漏れる星辰力(プラーナ)は、以前見せた時に比べて青白以外にも黒や緑といった色が混じって見えた。

 

 「まぁ、それはいいか。準備はできたようだし、始めるよ。本気で来な。」

 

 「はいはい、分かってるよ。」

 

 スッと左足を引き、腰だめに木刀を構える。そしてーーー跳んだ。

 

 「・・・っ!」

 

 縁が袈裟懸けに木刀を斬り下ろす。瞬間、それと交差するように一拍遅れた剣閃が走り、火花を散らした。そこには、既に低い姿勢で上段へ右手を振り抜いた悠の姿がある。だがーーーその姿は瞬時に掻き消えた。

 

 (・・・これはまた、随分と・・・!)

 

 背後へ回し斬りを振るい、下段へと振り下ろされた剣閃を相殺する。すかさず下段へのカーブを描いた振り下ろし。それにも一拍遅れた剣閃がぶつかり、火花が散る。

 

 「・・・危ない危ない。予測が当たってなかったら今頃やられてたよ。」

 

 「何で逆に予測できるんだよ、怖いっての。」

 

 若干冷や汗をかきながらもまだまだ余裕そうな縁に、再び姿を見せた悠は呆れたような、そんな溜め息をついた。

 

 「まぁでも、今のであんたの"天眼"の弱点は理解できたよ。次はこっちから行かせてもらおうか。」

 

 そう言うと、縁が今度は仕掛けた。悠は迎撃しようとしてーーー刹那、不意に走った違和感に動きが鈍る。咄嗟に防御はできたものの、先程の違和感に悠は集中出来ずにいた。

 

 「ぼさっとしてる場合じゃないよ!」

 

 その間にも、縁の攻撃が悠へと迫る。防御しようとする度に不快な違和感が走り、悠の動きを阻害する。

 

 (何だこれ・・・動きが、把握しきれない・・・!?)

 

 "天眼"は確かに発動している。しかし、情報を受け止める度にノイズのような感覚が走って事象把握を阻害してくるのだ。絶え間ない縁の攻撃に、たまらず悠は距離をとる。

 

 「・・・やっぱりそうかい。あんた、その"天眼"まだ制御しきれてないね?」

 

 縁の言葉に、二人の手合わせを見ていたシルヴィアと実里は悠の方を見て驚いた表情をし、光は険しい表情をする。

 ーーー悠の息が、既に上がっていた。汗をかき、木刀を握る手が滑るのか何度も握り直す仕草をする。以前、序列1位決定戦で綺凛や光を相手にしていた時とは全く様子が違う。その表情からは、あの時見せていた余裕は微塵もない。

 

 「あんたは"天眼"(それ)のオンオフは完璧に出来てるよ。ただ、発動中が全然扱いきれてない。前に使った時は相手が余程分かりやすい動きだったか、どう動いてくるか分かってたから問題なかったんじゃないかね。」

 

 「どういう事だ・・・?」

 

 縁の言葉が理解しきれず、反射的に聞き返してしまう。そんな悠を見て、縁は溜め息をついた。

 

 「・・・"天眼"の本質は星辰力(プラーナ)を媒介にした『世界』への接続と、それによる万物の『事象』としての把握。それは分かってるんだね?」

 

 「あぁ・・・それは分かってるけど。」

 

 「じゃあ、もう分かるだろうさ。今のあんたの"天眼"は、不完全なんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。」

 

 縁の言葉に、悠は何かに気付いた表情をする。一方、光も何かに気付いた様子で「なるほどね・・・」と呟いていた。

 

 「あ、あの。何が何やら、さっぱりなんですが・・・?」

 

 おずおずとそう聞いてくる凛を一瞥すると、光は悠の方へ視線を向ける。

 

 「"天眼"の本質については、そのまま言葉通りに解釈すればいいのよ。問題は、それによって悠へフィードバックされてくる『事象』の情報を悠自身が処理しきてない事。」

 

 「良い?『事象』として把握したものは、情報として悠に返ってくる。そして、それを処理するのは悠の方。ここまでは良い。だけど・・・悠の場合、その情報全部を処理しようとするせいで逆に上手くいかなくなってるのよ。余分な情報を排除するって事が出来てない。余分な情報まで処理しようとしてるせいで、必要な情報を処理する事が出来なくなってるの。だから、お婆ちゃんがどう動いてくるかが分からなくなってるし、余分に星辰力(プラーナ)を使う分、自分への負担も大きくなってる。多分私や綺凛ちゃんの時は、動きを知ってたからその分処理が軽くて済んだのね。」

 

 光の説明に、3人は納得した表情で悠を見る。同じ事に悠も気付いていたらしく、1つ深呼吸をすると改めて木刀を構え直した。

 

 「気付いたみたいだね。それじゃ、続けるよ。」

 

 そういうが早いか、縁が素早く踏み込んでくる。案の定、鋭い剣閃とノイズのせいで軌道は視認出来ない。

 

 (意識しろ・・・全部受け止める必要はない。必要なものだけを、把握しろ・・・!)

 

 それは、ほんの一瞬。ノイズのような感覚が走り続ける中、悠は意識を集中させ、流れ込んでくるものを視る。そしてーーー不意に意識がクリアになった瞬間、悠は木刀を振り抜いた。直後、確かな手応えと共に、質量と質量がぶつかり合う。

 

 「っ・・・!今の・・・」

 

 先ほどの感覚に、悠は何かに気付いたように顔色を返る。同時に、その目付きが変わった。

 

 「・・・っ!!」

 

 二度、三度。剣閃がぶつかり合い、火花を散らす。次に二人が姿を現した時、さっきまでとは明らかに違う事に光は気付いていた。

 

 「・・・星辰力(プラーナ)が、漏れ出してない・・・?ううん、それだけじゃなくて、動きも・・・」

 

 左目から漏れ出ていた焔のような星辰力(プラーナ)が、全く見られなくなっていた。そして何より、先ほどの悠の動き。あれは間違いなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 (まさか、気付いてすぐにあの一瞬で感覚を掴んだの・・・!?)

 

 だとしたら、どれ程末恐ろしい事か。星辰力(プラーナ)を介しているとはいえ《世界》に接続するという事自体とんでもない事なのに、そこから受け取った情報だけであらゆる事を把握してしまうなど、規格外という以外の何者でもない。それが完璧に行使できるようになった上に剣術と合わさろうものならば、もはや敵無しではないか。

 

 (今なら・・・もしかしたら!)

 

 悠は身体強化をかけると、木刀を腰だめに構えた。そして、星辰力(プラーナ)をその刀身にも纏わせる。

 

 「へぇ・・・面白い。来な!」

 

 縁も、嬉々とした顔で木刀を構える。直後ーーー悠が動いた。その姿が、3つに分裂するほどの速度に縁は目を見張る。

 

 「おおおおぁぁぁぁ!!」

 

 咆哮と共に、悠が縦横無尽に超速で駆ける。その度に剣閃が走り、縁を襲う。ようやく悠が動きを止め、縁がそれを視認した直後ーーー振り抜いた体勢からすぐさま木刀を構え直した悠が、右手を大きく薙ぎ払った。

 

 「双月流、我流・極天秘技ーーー"月葉"!!」

 

 悠がそう言葉にした直後、剣閃が走った範囲全体に凄まじい疾風が走る。よく見ればその中には空気の刃が舞っており、縁は堪らず吹き飛ばされた。床に叩きつけられ、木刀が地面に転がる。同時に、光が間に入って宣言をした。

 

 「両者そこまで!!この勝負、双月悠の勝利とします!!」

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「むぅ・・・まさか、孫に負けるとは。あたしもまだまだって事かね・・・。」

 

 「いつまで同じこと言ってるのよ、お婆ちゃん・・・。」

 

 双月本家の大広間で、ゆったりとした着物に着替えた縁がずっとぶつぶつ同じことを繰り返すのを、光は呆れた顔で見ていた。よほど孫に負けたのが悔しいらしい。

 

 「大体最後のは何だい、ありゃあ。反則だよ反則。いくらあたしでもあれは無理ってもんだよ。」

 

 子供っぽい言い訳をする祖母に、光は深く溜め息をつく。

 

 (それにしても、"我流"ねぇ・・・序列1位戦の時も思ったけど、我流なのに本流より強いって本格的にどうなってるのよあれ。何をどうやったらあんな技が思い付くのやら・・・。)

 

 動きを見ていれば、あの技がいつぞやの序列1位戦で見せた悠の極天秘技・"朧雷"を派生させたものである事は分かった。全てを一刀に集中させるべく時間すら超えて限界まで加速するのが"朧雷"だが、ついさっき悠が披露した技ーーー確か"月葉"といったかーーーは少し速度を抑えつつ、幻像を生み出す程度の速度は維持して"朧雷"と同等の威力の斬撃を複数回放つ大技だ(といっても、悠本人以外はあくまで残像のようなものなので星辰力(プラーナ)で強化して質量を持たせてやらないと先程のような幻痛にしかならない)。どちらにしても、我流の技にしてはオーバースペック過ぎるのだ。

 

 (星辰力(プラーナ)での身体強化が高度に出来るっていっても、あそこまでやって何の支障もないって滅茶苦茶でしょ・・・。もうやだホント私の弟怖い。)

 

 あれが剣士として完全に大成してしまったら、一体どうなるやら。末恐ろしい想像に、つい身震いしてしまう。

 

 「光様、縁様。悠様達の支度、無事終わりました。」

 

 不意に声がしてみれば、女中が襖の前で自分達を呼んでいた。見送りの事もあり、悠達がお墓参りの後に荷物を纏めたら呼んでくれるよう光が頼んであったのだ。

 

 「ありがとう、今行きます。お婆ちゃんもほら、見送りに行くよ。」

 

 まだぶつぶつと言っている縁を引っ張りながら、光は正面玄関へと歩いていく。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「何をぶつくさやってんだよ・・・そりゃまぁ、こっちが勝ったわけだし悔しいのは分かるけどさ。」

 

 「ふん・・・まぁ、孫が成長したと思うことにしといてやるよ。」

 

 「そして何で物言いが上からなんだ・・・?」

 

 そっぽを向きながらそんな事を言う祖母に、悠は呆れた溜め息をつく。そんな姿に、実里とシルヴィアは苦笑いするしかない。

 双月本家の正面玄関。そこに女中達と、倉沢と、縁と光が並んで立っていた。その正面に悠が、シルヴィアと実里と共に立っている。

 

 「・・・まぁ、あたしの事は置いといて。・・・本気で気を付けなよ、悠。前にも言ったが、あんたの星辰力(プラーナ)はギリギリのとこでバランスを保ってる状態だ。そのバランスが崩れたらどうなるか分かったもんじゃないからね。」

 

 「分かってるよ、気を付ける。てか、それを言うなら婆ちゃんもいい加減年なんだし体とか気を付けなよ?病気とかしないように。」

 

 「それなら心配いらないよ。あたしは昔から体の強さが取り柄だったんだ。そう簡単に病気なんてならないさ。」

 

 お互いに、他愛もない会話を交わしていく。残り少ない滞在を惜しむような、そんな時間が過ぎていく中、ついに時間が来てしまう。

 

 「悠君、そろそろ時間だよ。電車が来ちゃう。」

 

 「あぁ、分かった。・・・じゃあ、俺行くよ。体、本当に気をつけてな。姉さんも当主なんだし、しっかりやってくれよ?」

 

 二人を気遣う悠の言葉に、縁と光は揃って同じものを見る。それは、まだ小さい頃の悠の姿。まだまだ子供の割に誰より周りを気遣う性格だった、小さな子供(おとな)の姿。

 

 「・・・悠。」

 

 歩み寄った光が、悠を抱きすくめる。驚いた様子でそれを見る悠に、光は言葉をかける。

 

 「悠こそ、向こうでもしっかりね。近くで見ててあげられないのは姉としてはちょっと寂しいけど・・・まぁ、私がいなくてももう大丈夫でしょ。貴方を見守ってくれてる人は、向こうにも此方にも一杯いるし。だから、その・・・何にせよ、1人で頑張ろうとしないで、必要な時は頼りなさい。今ここにいる私達を含めて、皆貴方の頼みを無下にしたりなんてしないし、するつもりもないから。だからーーー"いってらっしゃい"。」

 

 何でもないように、いつも通りのようにーーー光はそう声をかける。

 

 「分かってるよ。ーーー"行ってきます"。」

 

 それに、悠も笑って返して。体を離すと、それっきり踵を返し、二人の少女と共に去っていく。それを女中達と倉沢がお辞儀で見送りーーー縁と光は、暖かい眼差しをその背中へ、それが見えなくなるまで向けていた。

 

 

 






 皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。大変長らくお待たせしました、帰省編終了です。ようやく第1章完了です・・・個人的にかなり長かった・・・。
 大学の方の試験が近いので、また更新はしばらく先になりますが・・・春期休暇もあるので、そのタイミングで第2章も始められたらいいなぁと思っています。
 まずはここまで見てきてくださった皆様にお礼を。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!第2章も見ていただければ幸いです。
 最近知ったという方、正直駄文極まりないものではありますが、ぜひ第1章から読んでいただければ有難い限りです。第1章を読んでおかないと分からない設定なんかもありますので。
 第2章、まずは人物設定やプロローグ辺りを春期休暇中に出す予定ですのでよろしくお願いいたします。
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