「・・・えぇ、えぇ、分かっておりますとも。問題はありません。後は
夜も更け、人気の無くなった、星導館学園の通学路。その路を囲うようにそびえる広葉樹の幹の1本に背中を預け、通話をする1人の若者がいた。通話内容が不穏なだけに、その口元に浮かべる笑みは不気味でならない。
「そちらこそ、私の提示した条件は分かっていますよね?私とて、自分の学園でバレずにリスクを冒すような真似は難しい。何しろ
・・・えぇ、それではまた。」
そうして通話を切ると、若者はうんざりだと言わんばかりに溜め息をついた。そして、頭上に浮かぶ月を見ながら1人ごちる。
「こちらが下手に出ていれば偉そうに・・・余り調子に乗るなよ、クズ共が。」
ー■■■ー
「断る。」
「それこそお断りします。」
「却下。生憎と受ける必要性が無ければメリットも無いでしょそれ。」
「
「要は体のいいプロモーションでしょうが。そういうのはそっちで勝手にやればいいだろ。とりあえず俺を巻き込まないでくれ。」
生徒会長室に、緊迫した空気が漂っている。机越しに睨み合う2人を見ながら、シルヴィアと実里は揃って溜め息をついた。
「・・・ねぇ、ああやって言い合い始めて何分経った?」
「・・・30分くらい。」
「・・・馬鹿なの?あの2人。」
2人が揃って呆れた顔をしているのには、理由があった。1つは
「そこまでしてエキシビションにすら出たがらないのは何ですか?意地ですか?馬鹿ですか?」
「何がエキシビションだよ・・・今更出る理由ないだろ?」
「
「尚更却下だわ腹黒馬鹿。俺は見せ物じゃないし、そんな事のために序列1位になった訳じゃないの。」
エキシビションーーー昨年度
クローディアは本来悠やシルヴィアが出場予定だった
「はい、ストーップ!!2人とも一旦落ち着く!」
流石に状況を見かねたのか、シルヴィアが間に入る。それで一旦は2人とも落ち着いたものの、お互いまだ納得いっていない事もあって纏う雰囲気は剣呑なままだ。
「クローディアの気持ちは分かるけど、少し強引過ぎるよ。悠君の事情や性格だって知らない訳じゃないでしょ?」
シルヴィアに落ち着き払った言い方でそんな事を言われては、流石のクローディアも黙るしかない。今でこそ同学年かつ学生という立場だが、目の前の彼女には世界的トップアイドルという肩書きがある。何よりも、これ以上頑固に譲らない状況を続けて、「怒らせると怖い」彼女の機嫌を損ねるのは避けたかった。
「悠君も悠君です。君の事情も性格もよく分かってるけど、だからって話もまともに聞かないんじゃクローディアだってそりゃ怒るよ。せめて話くらいは聞いて上げても良いんじゃない?」
悠も悠で、恋人の機嫌を損ねるのは避けたいのか素直に彼女の言葉を受け止めていた。とはいえ、やはりどこか不満そうなのは変わらない。
そんな2人を見て1つ溜め息をついてから、シルヴィアは執務机の上に置かれた学内宣伝ポスターを手に取る。その目は明らかにバトル・セレモニアへの興味がある人間のそれだ。
「・・・一応聞くけど、シルヴィは出たいのか?それ。」
悠がそう言えば、少し驚いた表情でシルヴィアが顔を上げると、少し恥ずかしそうに頬をかく。出場したいという気はあれど、先程の発言からするにどうやら悠に気を使っているらしかった。
「・・・確か出場するならペアでって話だったか・・・。」
それからしばし黙る事数十秒。何か決めたらしい悠が口を開いた。
「・・・やっぱ気が変わった。クローディア、俺とシルヴィのペアで出場登録よろしく。」
突然の手のひら返しに、クローディアもシルヴィアも2人揃って驚いた顔をする。そんな2人を見ながら、悠は言葉を続けた。
「シルヴィがやりたいって思う事なら、なるべく叶えてあげたいしな。それに、いざ出場するってなった時にペアがいないと変な虫が寄ってくるだろ。じゃ、そういう事で。」
それだけ言うと、悠は荷物片手にさっさと帰り支度を始めた。我に返ったシルヴィアもいそいそと帰り支度をしながら、「本当にいいの?」だとか、「無理してない?」とか、そんな疑問を繰り返す。
その疑問に、悠は悠で「やりたい事があるなら遠慮しなくていい」とか、「どこぞの馬の骨にチャンスを与えるよりよっぽどマシだろ」などと繰り返していた。
ーーーちなみにこの出来事以降、悠がシルヴィア関連になると滅法弱い事を悟った黒ーディア・・・じゃなかった、クローディアのせいで、彼が何かにつけて色々巻き込まれる事になるのだが。それはまた別の機会にでも話すとしよう。
ー■■■ー
「
「知らん。元々私はそういうつもりで参加している訳ではないし、私に同意を求められても困るぞ。」
「はいはい、相変わらず固いねぇお姫様は。てか参加するのはいいけど、ペアの方はどうなってんの?」
夜吹が思い出したようにそう聞くと、ユリスは露骨に顔を逸らした。その様子に、「ははーん」と嫌みったらしいニヤニヤ笑いを浮かべる夜吹。
「さては、まだペア見つけてないんだろ。良かったら俺が良い相手探しでもしてやろうか?んー?」
その言葉が図星だったのだろう。ユリスの顔が一気に赤くなったかと思うと、矢継ぎ早に反論が吹き出してくる。
「私に見合う相手が居ないだけだ!というかわざわざ言わなくても良いだろう!嫌味か!大体お前に頼むとろくなことにならないだろう今までの経験で嫌というほど身に染みているんだ騙されんぞ!というかお前はだなぁ・・・!!」
そんな反論を耳を塞いでシャットアウトしながら、夜吹も尚彼女の火に油を注ぎにかかる。
「いやぁ・・・ちょっと高望みしすぎじゃねぇ?てか、お姫様のブレーキ役ってなると大分大変だし早々アテも・・・」
「さっきから失礼な!人を暴走車に例えるんじゃない!」
・・・そんな会話が朝の通学路に響く。ユリスと夜吹のそんな会話を聞きながら、数歩後ろを歩く悠は深い溜め息をついた。
「お前ら・・・よくもまぁそんな会話で盛り上がれるな。てか夜吹、ユリスがこういう性格なの分かってやってるだろお前。色んな意味で融通利かないの知ってんだから加減してやれよ。」
「んなっ!?」
悠の擁護になっていない擁護に、ユリスが驚いた顔をする。そんな事など露知らず、悠の口からは容赦ない言葉の槍が飛び出した。
「図星の事言われたらとりあえずすぐ焼こうとするか顔真っ赤にして息継ぎもせず反論してくるし?」
「違う!あれはつい手が・・・」
「普段優しい癖に変なとこでツン属性出してくるし?」
「ツ、ツンだと!?」
「頑固だし、頭でっかちだし?」
「頑っ・・・」
「何よりそういうのを相手にまで押し付けがちだし。そりゃあペアなんて組めないだろ。ユリスの頑固さに肩並べて、尚且つそれについていけるやつなんてそうそういないぞ。」
矢継ぎ早に飛んでくる悠の言葉の矢に、ユリスのメンタルは早くもボロボロだった。普段は自分が相手にズバズバ言う癖に、こういう受け身は弱いのである。
そのくせ変に自分にストイックで、頑固で、そのわりに相手には自分の考える理想をつい押し付けてしまいがち。そりゃあ性格に難ありだと思われても無理はない。
「まぁ、強いて言うなら綾人辺りはお人好しだし武道の心得がある分、ユリスにもついていけるかもな。あいつに出場する意志があるかは別として。まぁいずれにせよ、ある程度要求ハードルは下げないとホントにペア見つからないまま出場できませんでしたで終わるぞ、ユリス。」
「むぐぅ・・・。」
もはや何も言えないユリスに、悠は再び溜め息をつく。そんな悠に対して、シルヴィアや実里は「容赦ないなぁ」と思いつつも言っている事がなまじ事実である分、止めにはいるにもいかず脇を小突いてそれ以上言わせないようにするしかない。
そんなやり取りをしている内に見えてきた校舎に入り、教室で分かれるまでユリスがただただ黙っていた事は言うまでもない。
ー■■■ー
それから悠は、暇さえあれば鍛練にうちこむようになった。リハビリを重ねてきたとはいえ、近接戦を得意とする悠にとって片目が見えないというデメリットはそれなりに影響が出るものだったのである。
「うーん・・・やっぱ左側から来られた時の対応が遅れるよね。気付いてすぐ反応出来てるからまだどうにかなってるけど、実際どう?」
「いや、どうもなにも今言われた通りなんだよな・・・左側から来られるとどうにも気付くのが遅れるんだよ。なるべく左側を取らせないようにポジション取ってはいるんだけど。」
シルヴィアと実里に付き合ってもらって鍛練を続けていた中、やけに左側からの攻撃に対して反応が遅れている事に気付いたシルヴィアにそう指摘され、そんな会話になった。
「とりあえず、バトル・セレモニアに出るんなら死角になっちゃった左側をどうするのか考えないとよね・・・。私はこの子の扱い方的に後方支援になるし。消去法的にはシルヴィアがサポートに回るしかないんだけど、大丈夫?」
「んー・・・多分大丈夫じゃないかなぁ。悠君が近接戦メインだからそのサポートってなると私も近接戦メインにしなくちゃいけないけど、そこは慣れればどうにでもなるし。
ただ、そうなるともう少しコンビネーションの訓練は必要かもね。今までは悠君が前線で動いてくれてたからこっちもどう動くか読めたし。それが出来ないとなると、いきなり今までと同じようにって訳にはいかないと思う。」
シルヴィアの最もな言葉に、悠も実里も「そりゃそうだ」と同意する。実際シルヴィアの言っている事は事実だからだ。
ある意味、前のような完璧な連携はシルヴィアが悠の動きや目線での意思疎通を通して後を読んでいたからこそ出来たものだ。しかし、連携の要になる悠が死角を抱えてしまった今、そうした連携は上手くいかなくなる。
となれば、必然的に連携の仕方を考え直す必要があった。
「まぁどのみち、今後はシルヴィアにサポートしてもらわないと多分どうにもならないよな・・・なんか、自分が情けないや。」
状況を認識し、仕方ないと思いながらも、そう言葉に出てしまうのは止められなかった。シルヴィアと実里にも聞こえていたのだろう、2人が揃って目を丸くする。
これまでもそうだったが、悠が1人で前衛に立っていたのは決して自分自身が元々そういう戦闘スタイルだったからというだけではない。
昔、孤児院で別れた時の約束がずっと心にあったからだ。あの時から、悠の中には「守れなかった」、「助けられなかった」という無力感が少なからず重りのようにのし掛かっていた。まだ彼自身も当時子供だったし、それ自体が土台無理な話だったかもしれない。だが、子供ながらにそういう感情を抱える事になったのもまた事実だった。
だからこそこれまでずっと、前衛に立つ事で1度は守れなかった2人を改めて自分の手で守ると同時に、そういう弱い自分を隠し通してきたのだ。
ある意味そうやって2人を背中に守る事で、未だに心の奥底に消える事のない過去として滞留し続けている、何も出来なかった自分を否定したかったのかもしれない。
「・・・急に何を言い出したかと思ったら。あんたそんな事思ってたわけ?」
先程まで目を丸くしていた実里だが、次の瞬間にはいつもよくやる呆れ顔になっていた。それに続くように、シルヴィアが真剣な顔で言葉を紡ぐ。
「この際だから、ちゃんと言うね。私も実里も、君の事を悪く思った事なんて1度もないよ。ていうか、もしそうだったらこうして一緒にいないでしょう?
昔も今も、ずっとそう。確かにこれまで色々あったけど、その度に君はちゃんと助けてくれたし、守ってくれた。子供同士の拙い約束だって、ずっと忘れずにいてくれた。私達2人とも、君には感謝しかないの。それじゃ足りない?」
「あんたの事だから、昔私達に何も出来なかった事とか、そういうのを気に病んでたんでしょ。それで1人で頑張る事に拘ってたんでしょうけど、正直バレバレなのよアンタ。アンタがそんなで、シルヴィがどれだけ心配したと思ってんの。
いい?アンタはもう十分頑張ってくれてるの。普通に考えて返しきれないくらいに私もシルヴィも、アンタに助けられて、守られてるのよ。」
そこまで言って、2人共が一旦言葉を切る。その後に言葉を続けたのは、優しく笑うシルヴィアだった。
「前にも言ったよね、私。悠君の事を守るって。同じ事を繰り返すようだけど、悠君には返しても返しきれないくらいに助けられたし、守られてるの。
だから今度は、私達が君を助けて、守る番。お返しって言える程じゃないけど、それ位なら今の私達にも出来るから。だから、もう1人だけで頑張ろうとしないでよ。」
その言葉1つ1つが、心に染みていくのが分かった。ずっと心の中に抑え込んでいたものが、まるで氷が溶けていくようにすっと消えていく。
「・・・そっか。・・・うん、そうだな。」
あの時からずっと、何も出来なかった事を後悔してきた。何も出来なかった自分が無力で、悔しくて。だからこそ、必死に強くなろうと思った。強くなれば、あの時と同じ後悔をする事なく、自分1人でも大事な人を守れるからと。
ーーーもう、1人じゃないよ。
昔、孤児院にいた頃にシルヴィアに言われた言葉を思い出す。あの時も自分は1人で頑張っていて、そんな自分に「1人じゃない」事を教えてくれたのは彼女だった。
(・・・ホント、色々気付かされてばっかだな。相変わらず敵わないや。)
そんな事を思いながら、悠は暗くなってきた空を見て帰りを急かしてくる2人の元へと足を向けるのだった。
はい、皆様おはこんばんにちは。Aikeです。
久しくの更新なうえ、卒論が思ったより大変だったので執筆がちょくちょく止まってしまったりもして、感覚が少々分からなくなってしまって途中から若干話が迷走してます・・・。
とりあえずはまずリハビリの1話という感じです。次の話からは例の第1巻終盤のお話からかなぁと思いますので、こんな作品でも良ければ見てくださると有り難いです。