投稿ペースを頑張って戻すとか言ってた奴がこの様ですよ全く・・・我ながら適当こいてんじゃないよって話ですよね。何はともあれ、とにかく更新だけは切らさないよう頑張りますのでお付き合いいただけますと助かります。それでは本編をどうぞ。
---最近、ユリスの様子が変だ。悠と綾斗の二人共がそう感じるようになったのは、開催予告から更に月日が経って、
そして、今日も今日とてユリスは何か考え事にふけるように、しかし同時にふと顔を上げて周りを気にするような仕草を見せていた。
「・・・なあ、ここ最近ずっとそんな感じだけど大丈夫なのか?何をそんな気にしてるんだよ?」
「ああ・・・いや…大丈夫だ。心配される程の事ではない。気にしないでくれ。」
妙に取り繕った顔でそんな事を言う彼女だが、明らかに大丈夫な顔ではないのは見え見えだ。それこそ、ある意味昔の悠の性格を彼女に当てはめたような感じだった。正直、「昔の自分ってこんな感じだったのかな」と思うくらいには、今の彼女が見せる雰囲気や様子はかつての自分と似ていた。
「・・・今の内に言っておくけどな。俺が言えた話じゃないかもしれないが、あんまり一人で抱え込み過ぎるなよ。1人で抱えられる限界なんてたかが知れてる。それこそ限界以上に抱え込もうもんなら、昔の俺みたいに取り返しのつかない事になるかもしれないんだから。無理だと思ったらちゃんと話してくれ。そのための”友達”だろ?」
「・・・ああ、そうだな。ありがとう。そうなったら、その時にはちゃんと話す事にする。・・・まさか、お前にそんな事を言われる日が来るとは思わなかったがな。」
悠の言葉にそう返すユリスの顔は、少しだけ緊張が和らいでいるように見えた。出来る事なら自分の不安も、彼女の緊張も杞憂で終わればいい・・・そう願わずにはいられない。が、そう上手く事が運ばないのが現実というものだ。早くも、悠の不安は的中する事になる。
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一通りの講義も終わって放課後になり、あとはシルヴィアと実里との3人で自主練をするために屋内運動場へ向かっていた時の事。学園敷地内の奥まった場所、ちょっとした緑地公園のようになっている土地がある方角で、悠が聞いたのは紛れもない爆発音だった。
「!悠君、今の!」
一緒にいたシルヴィアも聞こえていたらしく、焦ったような声を上げる。躊躇う事もなく、悠は駆けだした。爆発音が聞こえた位置までは、学園敷地内である以上そう遠くない。
程なくして見えてきたのは---薙ぎ倒されてあちこちで倒れた木々と、その周辺を縦横無尽に動き回りながら逃げ回るユリスの背中。そして、彼女を取り囲むように
「下がれ、ユリス!!」
回避に必死でがら空きになっていたユリスの背中目掛けて振るわれた
そんな2人の乱入に驚きながらも、ユリスは言われた通りに、悠とシルヴィアを
「シルヴィ、全部一気に叩く!」
「任せて!弾幕張るよ!」
悠がそう声をかければ、すぐさまシルヴィがガンユニットを猛連射し大量の弾幕を張る。それに阻まれ身動きが取れなくなった
「これでー-ー!」
居合の要領で納刀したそれを、瞬時に身体強化をかけた右腕で抜刀する。超高速で抜き放たれた刀身は空を切り、空間すらも斬り、とてつもない衝撃波を伴って前方を走り抜けた。双月一刀流が居合術、”絶裂空”。その一撃は容赦なく眼前の
「・・・これで全部か。ったく、こんなん作るあたり、犯人の野郎相当頭のネジ飛んでるだろ・・・。・・・ああ、クローディアか?悪いが森林保護区域とその周辺で警備員を配置してくれ。・・・ああ、そのまさかだよ。またユリスだ。」
1つ大きなため息をつきながら背後にいたユリスとシルヴィアの下に戻ると、悠はそうぼやきながらおもむろに電話をかけた。会話から察するに、相手はクローディアだろう。そんな悠を横目に、シルヴィアはユリスに状況確認をする。
「とりあえず、ユリスさん。これ一体どういう状況?何があったの?」
「どうも何も・・・見ての通りだ。急にあいつらに襲われてな・・・応戦していたらこの有様だ。まさか2人が来るとは思っていなかったが・・・。」
ユリスもどこかうんざりしたような、苛立ちを孕んだような表情でそう返す。周囲の被害は酷いもので、ユリスが応戦した結果一部が焦げ付いてしまった木々もあるが、それ以上に
「ユリス、とりあえず学園棟に戻るぞ。クローディアが経緯の聞き取りと今後の話をしたいそうだ。シルヴィも俺と一緒に来てくれ。実里には俺から先に帰ってるように伝えてある。」
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「・・・経緯は把握しました。しかし、こうなるとユリスを1人にしておくのはやはり危険ですね。」
あれから学園棟へ戻り、クローディアに事情を話した後。一通り話を聞き終えたクローディアは、そう言葉をまとめた。
「ああ、それに関しては俺も賛成だ。24時間ずっとってのは流石にユリス自身のプライバシーもあるし無理だけど、出来る限りの範囲で警護はつけた方が良いだろうな。あの1度目だけならまだ状況を静観するって手もあったけど、ここまで短期間で執拗に狙われてるとなると話は別だ。」
クローディアの冷静な判断に、悠も肯定の意を返す。当の本人によく似た経験があるからか、その言葉は真剣そのものだ。
「それは良いけど、となると実際どうするかが問題だよね。外部に委託できるなら24時間警備してくれる会社とかも無いわけではないけど、犯人が誰か分からない以上、どこで犯人とつながりがあるかも分からないし。
・・・最悪、前に悠君の周辺警護を請け負ってたっていう人達に頼んでみる?前の話を聞いた限りじゃ、一応は『銀河』の下部組織だしちょっと危ない橋だとは思うけど・・・。」
シルヴィアが言っているのは、以前悠の周辺警護にあたっていた『影星』の事だろう。確かにその手もないわけではなかった。ただ、あの時とはそもそもの前提状況が異なる事もあり、余り期待できるとは言えないのも事実である。というのも。
「あちらがが受けてくれるとなれば確かに一番心強い手ではありますが・・・まあ、余り期待は出来ないでしょうね。悠さんの時は幹部格に親族の方がいる事もありますが、何より悠さんを警護もとい監視する事で、結果的に『
ユリスの場合、リーゼルタニアの王族という出身と肩書きは大きなものとはいえ、全体として見れば『あくまでも一般学生の1人』のような認識でしょうし。『銀河』がユリスを保護するメリットをどこまで重視してくれるかが問題になるでしょうね。」
「ほんっと、こういう時に統合企業財体の利益主義が面倒というか、迷惑極まりないんだよな・・・。なまじ企業としての利益を優先してくるあたりが何よりも質悪い。」
クローディアと悠の言葉に、その場にいる全員が険しい顔をする。統合企業財体が「自分達企業の利益のため」ならば幾ら人命を軽視する事であっても厭わなかったり、当人らの意思に関係なく物事を押し通してしまう性質がある事はここにいる誰もが理解している事だった。
それこそ悠とシルヴィアは当の統合企業財体のせいで幼少期に引き離された経験を持つ者同士だし、ユリスもユリスで、自らの生まれ育った故郷は現状統合企業財体の傀儡に等しい状況を強いられてきた。クローディアも彼らほどの経験は無いとはいえ、親族が統合企業財体に関わりがある以上、その裏側も含めて見てきた人間だ。
現状に対する最善の対応策が分かっていても、確実にそれを実行できる安全策が取れない状況である事もまた、ここにいる面々は理解していた。
「・・・なあ、クローディア。思ったんだけど、ユリスの寮部屋を俺達のいる寮に移す事って出来ないか?別にずっととは言わないが、特例的になら一時的でも部屋を移す事は出来るよな。あそこならシルヴィが入居してる事もあって建物周辺は監視カメラ含めて諸々の監視設備が整ってるし、建物内外のセキュリティも他の寮に比べれば断然整えてあるだろ。
確実に身を守れるっていう保証がある訳じゃないけど、少なくとも何もしないよりかマシじゃないか?」
ずっと難しい顔をしていた悠がおもむろにしてきた提案に、一同は「何もしないよりは」と納得の反面、「確実かつ安全な策にはならない」事への不安も綯交ぜになったような表情を見せる。ただ、それ以外には現状有効打が打てるわけではない事もまた事実だった。
「まあでも、それくらいしか現状出来る事も無いですしね・・・。分かりました。明日中にでも、ユリスの部屋の転居手続きを取りましょう。部屋割りは悠さんと同じように1人部屋にしますか?万が一を考えるなら、実里さんかシルヴィアは悠さんの部屋の方に移動してもらって、ユリスは相部屋にした方が良いとも思いますが・・・。」
「・・・いや、そこまでしてもらうのは申し訳ないし、1人部屋で構わない。とりあえずは言われた通り、しばらく共同寮の方で世話になる事にさせてもらう。すまないな、色々と。」
一通り話が進み、ずっと黙っていたユリスへクローディアが声をかけると、ユリスはそう返した。出来れば悠達としては可能な限りの安全策を取ってもらいたかったが、ユリスの頑固な性格を考えればこれ以上譲る事が無いだろう事も目に見えている。
「・・・分かった。なら、とりあえずはしばらく共同寮の方に避難して様子見しよう。あとユリス、せめて学園内で移動する時とかは誰かと一緒に行動しろよ?1人でいたりしたらそれこそ犯人に隙をさらすようなもんだしな。」
「ああ、分かっている。そこは気を付けるようにするつもりだ。」
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「・・・で、俺が指名されたと。」
「ああ、すまないな・・・クローディアのやつが『信頼出来て、かついざという時にすぐ対処できるような人物』となった時にお前が浮かんだらしい。悠達は《バトル・セレモニア》に向けた調整で大変だそうだし、クローディア自身も生徒会長としての仕事があるしな。そこであいつが白羽の矢を立てたのがお前だったんだ。」
ーーー翌日、早速移転手続きを済ませ、私物を移動させた後日の事。週明けから、ユリスは綾斗と一緒に行動する事が多くなった。その理由は至極全うで、ユリスが心を許していて、かつ学園内で一緒に行動しやすい人物だったからである。
「いや、それは気にしてないよ。俺も一応現場を見た当事者だし、気に掛かってはいたからさ。・・・けど、『いざという時にすぐ対処できる』っていうのはちょっと買いかぶり過ぎな気もするんだけど。」
「その事なら、すまないが悠に言ってくれ。誰についてもらうかの話になった時、お前の名前を挙げたのはあいつなのだ。話を聞いたが、幼少から大分強かったらしいではないか。その事で、『あいつなら任せて大丈夫』と言っていたぞ?」
「・・・まあ、確かに嘘は言ってないね・・・。」
確かに嘘は言っていない。幼少の頃とは言え、以前何度も手合わせをしたから悠だって綾斗の本来の実力は知っているし、綾斗だって悠の実力はよく分かっている。ただ、自分が知っている以上に実力をつけていた悠に対して、自分の場合はむしろ色々と制限されてしまっているのが現状だ。そんな自分が彼女を守れるのかと、一抹の不安があるのも事実だった。
「まあ、出来るだけの事はやってみるよ。何かあったらすぐ言ってくれれば、俺に出来る限りは助けになるから。」
「ああ、助かる。・・・何かあれば、ちゃんと話すようにさせてもらうな。」
どこか引っかかる所はあるが、おおむね2人の関係に問題はないようだった。そんな2人を少し離れた所で見ながら、悠は安堵の溜め息をつく。
「良かったね。2人とも思ったより影響なさそうで。これで2人の関係が変にこじれないといいけどって、正直不安だって言ってもんね。」
「実体験があるからなぁ・・・色々抱えてると、それまでの関係に影響する事って往々にしてある事なんだよ。それがあいつらにも起きるかもと思ってたんだけど・・・あの調子なら、まあ大丈夫そうだな。」
なまじ自分が経験している分、その言葉は相応の重みを持った聞こえだった。そんな彼を見ながら、一方のシルヴィアはどこか不安げな様子で前方のユリスを見る。
「・・・あのさ、悠君。ユリスさん、ホントにちゃんと何かあったら話してくれると思う?」
「ああ・・・まあ、言いたい事は分かるよ。あいつもあいつで、どこか俺と似た所があるしな。・・・心配なんだろ?いざ何かあった時に、俺みたいにあいつが1人で解決しようとするんじゃないかって。」
流石というべきか、なんというべきか。同じような経験がある分、悠は彼女が言わんとする事を察していた。その肩に手を置くと安心させるように言葉をかける。
「まあ、その時はしっかり言ってやればいいよ。もし自分で解決しようとするようなら、俺達がフォローしてやればいいしさ。それこそ、俺があんなだった頃のシルヴィとか実里みたいに。」
そう言う悠に対して、シルヴィはまだ不安が拭えないような、けれど少しだけ和らいだ表情を返す。その場はいとまず安心と思われたがーーーやはり似た者同士、その身に起きる事も共通してしまうのか。それから程なくして、事件は起きてしまう事になる。
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それは、例の襲撃から2週間が過ぎた、とある朝の事。綾斗がユリスと登校し、荷物を置いている時、視界の隅で彼女が何かを見ているのが見えた。それはどうやら手紙らしかったが、ユリスの目はどんどんと険しいものへと変わっていく。
「・・・ユリス?どうかした?」
「・・・っ!?あ、綾斗か・・・いや、何でもない。手紙が入っていたんだが、人間違いだったようだ。気にしなくていい。」
綾斗が声をかけると、ユリスはあからさまに動揺を見せた。急いで取り繕ったような落ち着いた表情を見せると、その手紙をポケットにしまい込む。その様子に一抹の不安を覚えないではなかったが、綾斗は一旦様子見をする事にしたーーーのだが。
(・・・やっぱり、なんか変だよなぁ。)
いつもなら真面目に授業を受けているはずのユリスが今日はどこか上の空だった。いつもなら紗夜が寝ていたら注意したりするはずなのだが、今日はそういった事にも気づいていない様子だ。それが気になって仕方なく、それに引きずられるようにして綾斗も今日は授業に集中出来なかった。
そうこうしているうちに昼休みのチャイムが鳴り、放課後のチャイムが鳴り。ユリスは綾斗に「今日は用事があるから」と言うだけ言って、足早に教室を出ていってしまう。
「ユリス・・・まさかとは思うけど。一応報告入れて、追いかけるか・・・。」
そう1人呟くと、綾斗は足早にユリスの後を追いかけながら、通信端末でメッセージを飛ばした。
「・・・ん?メッセージ?」
放課後、悠がシルヴィアと実里と3人でバトル・セレモニアに向けた調整のため、屋内運動場に集まった頃。不意にメッセージを知らせる着信音が鳴った。端末を見ると、差出人はユリスだった。
(・・・何だこれ?画像が添付されてるだけだが・・・座標データ?)
メッセージには一切の文字が入力されていなかった。代わりに表示されているのは、1つの画像データ。しかも、そこにあるのはアスタリスクのどこかの一区画を示したらしい座標だけだ。
「訳が分からないな・・・って、今度は電話か。」
『急な電話ですみません。ユリスの件でお話が。』
メッセージを確認していると、不意に電話が鳴る。通話モードにしてホロディスプレイを開くと、そこに映ったのは深刻な顔をしたクローディアだった。通話に気づいたのか、背後で準備運動をしていたシルヴィアと実里も集まってくる。
『実は先ほど綾斗からメッセージが来まして、ユリスがどこかに出かけてしまったそうです。後を追いかけたのですが、見失ってしまったそうで。』
「おいおい・・・あいつホントに話聞いてたんだろうな?あれだけ1人になるなって言ったろあのバカ・・・。行先とか分かりそうな情報無いのか?」
『いえ、特には・・・ただ、綾斗によると、今朝ごろに、何か手紙のような物を見ていたそうです。それ以降、1日ずっと様子がおかしかったとも。』
そこまで聞いた所で、悠の脳内に嫌な想像がよぎった。同時に、先ほど見たメッセージの画像を思い出す。出来れば想像だけであって欲しい・・・そう願いつつ、クローディアに先ほどの画像を見せる。
「・・・一応確認したいんだが、クローディア。この画像に映ってる座標ってアスタリスクのどのあたりか分かるか?」
『え?あ、はい・・・このあたりなら、確か再開発エリアの奥にある集合ビル地帯の一角ですね・・・。えっと、この画像は?』
「・・・ついさっき、ユリスがメッセージで送ってきた画像だ。メッセージが無かったから最初は訳わからんと思ってたんだが・・・今の話を聞いて、まさかと思ってな。
その手紙ってやつが脅迫状の類だとしたら・・・急がないとまずいことになる。」
その言葉に背後で話を聞いていた実里も、シルヴィアも、そして画面の向こうのクローディアも顔をこわばらせる。悠が言わんとする所は、その言葉だけで十分だった。
「悠君、急がないと!今ならまだチャイムが鳴ってそんなに時間経ってないし、間に合うかも!」
「正直状況が掴めてないけど、急がないとまずい状況なら早く行くわよ。私としても、あの子には色々助けられた恩があるし。」
シルヴィアと実里が各々そういう横で、悠とクローディアはそれに同意を返す。この時点で、それぞれがやるべき事ははっきりしていた。
『綾斗には私からこの座標を転送してそこに行くよう伝えます。悠さん達もその座標に向かってください。私も後から向かいます。』
そうしてディスプレイを閉じ通話を切ると、悠達はそれぞれが、即座に行動を開始する。
ー■■■-
「・・・ここか。」
ーーー場所は変わり、薄闇に包まれつつある水上学園都市・六花の再開発エリア。その一角にある、巨大な廃ビル。そのエントランスに立ち、ユリスはそう呟いた。手紙に示された座標が示していたのが、この場所だった。綾斗やクローディアに黙って来てしまった事に多少なりとも申し訳なさを覚えなかった訳では無いが、念のためにと悠にだけは示された座標を送ってあるし、万が一が起きたとしても悠ならば気づいてくれるだろう。
手紙に『1人で、誰にも伝えずに』と一方的とはいえ条件を突き付けられ、それが破られた場合に何が起こるか分かったものではない事を考えての行動だったが、上手くいく事を祈る他ない。
そこらじゅうが錆びつき、長い事使われていない事を物語る1階を抜け、ボロボロの外階段を気を付けながら登っていく。10階まで登り、フロア内へ足を踏み入れると、目の前には鋼鉄製の床と、その上に伸びる吹き抜けがあった。その吹き抜けの下へ足を踏み入れた所で、異変を感じたユリスは咄嗟に《アスペラ・スピーナ》を起動し能力を発動する。
「
炎の花弁が彼女を守るようにドーム状に展開され、落下してきた廃材を受けとめ、破壊する。破壊されたそれが地面へ落下し土埃を上げる中、ユリスは目の前の暗闇へと声をかける。
「望み通り来てやったぞ!姿を見せたらどうだ!」
その声は鋼鉄に反響し、ビル全体へ響く。しばらくして、その声に応えるように、闇の中から姿を見せた人間がいた。
「やあやあ、わざわざご足労頂いて感謝です。ユリス=アレクシア=フォン=リースフェルトさん。」
「・・・!貴様、サイラス・ノーマンか!?」
そうーーー目の前にいるのは、以前ユリスが何度も相手をした事がある
「いやあ、まさかのこのこ出てくるとは。序列5位ていっても、頭の方は良くないんですかねぇ?」
「っ・・・!元はと言えば貴様が元凶だろうに・・・!」
「いやあ、貴女が素直に
後は貴女さえ対処してしまえば、僕の役目は完了です。他の
「どういう事だ・・・何を言っている!?」
「だーかーらー、言葉から察してくださいよォ。僕はね、
達成すれば莫大な金が手に入る。これほど楽に稼げる手段って、このアスタリスクだからこそですよねえ。」
どこまでも飄々として、悪びれもしないサイラスの態度にユリスの怒りは早くも限界を迎えかけていた。そんな最中、突如として聞こえた声がユリスを引き戻す。
「てめえ・・・どういうつもりだサイラス!!何でそんな真似しやがった!!俺を呼び出したのはそんな話を聞かせる為か!?」
「・・・っ、レスター!?」
突然姿を見せたのは、当のレスターだった。口調から察するに、彼もここに呼びつけられたらしい。
「いやいや、それだけな訳ないでしょう。ホント頭が固いというか、考え無しですよねぇアンタ。まあ、どのみち生きて消すつもりは無いですし教えてあげましょう。
・・・アンタには、一連の参加者襲撃の犯人役になってもらうんですよ。ここで最後の
「どこがっ・・・!」
何か言いかけたユリスとレスターを遮るように、サイラスは言葉を続ける。
「大体ねえ、僕はアンタ達みたいな人が一番嫌いなんですよ。正々堂々とか、真正面からとか。
どんなに汚かろうが外道だろうが、自分が目立つことなくスマートに稼げるなら使わない手はないでしょ?所詮、ここに来る奴らは最終的に皆敵同士のようなものじゃないですか。目的の為に協力する事はあっても、最終的には蹴落とし合う。結局はそんな奴らの集まりでしょうに。」
「・・・っ、外道め・・・!」
ユリスが絞り出すように、そう言葉を放つ。それにはレスターも同感だったようで、懐から戦斧型
「はあ・・・ホント、これだから馬鹿の相手は疲れるんですよ。」
「っ・・・てめええええ!!」
その言葉で怒りが限界を超えたのだろう。怒りの雄たけびをあげながら、レスターが《ヴァルディッシュ=レオ》で斬りかかる。その巨大な刃がサイラスに届くと思われた、その瞬間ーーー横から飛び出した黒い影が、その刃を受けとめていた。
「なにっ・・・!?」
「っ、あれは・・・何度も襲ってきた、あの
そんな2人の言葉の何が可笑しかったのか、サイラスは声高らかに笑いだす。
「あっははは。嫌だなあ。あいつらは所詮、ちょっとプログラムを弄って殺傷能力を持たせただけの人形ですよ。
こいつらはそんな生易しいもんじゃないーーー紛れもなく、目の前の対象を無残に、残虐に、徹底的に!!打ちのめして、痛めつけて、苦しめて!!殺してくれというまで苦しめあげてから嬲り殺す、正真正銘の兵器ですよォ!!」
そう言うや否や、サイラスが大きく手を広げた。その手の甲に文様が浮かび、同時に吹き抜けになっている天井から無数の
「なんだこの数・・・!?お前、せいぜいナイフを操る程度が関の山だとか言ってただろうが!!聞いてねえぞ!!」
「ホント、馬っ鹿じゃねえーの!その足りない頭で考えろよ!?はなっから手の内全部晒すようなアホがどこにいるんだよ!?ホントに脳みそ入ってんのかアンタ!!お笑い草もいいとこだぜぇ!?
あいにくこいつらは僕が丁寧に印を刻んで
興奮しているのか、その口調はもはや原型を留めていなかった。その言葉に呼応するように、
「クッソ・・・このォ!!」
レスターが《ヴァルディッシュ=レオ》を振り抜き、眼前の
「ぐぅっ・・・か、はっ・・・。」
すぐさま四方八方から迫った
「ああ、安心しろよォ。アンタには犯人役になってもらわなきゃならないからなァ。今はそこで寝てろ。」
サイラスはそう言いながら、どうにか
「行けーーー
ユリスの周辺を囲うように展開された魔法陣から炎の龍が飛び出し、
「くっ・・・!」
どうにか《アスペラ・スピーナ》で振り降ろされた
ーーーが、その腕を、腹を刺された
「!?くぅ・・・っ!」
そのまま他の
「ああぁぁぁっ!」
両足と両肩に走る激痛に、たまらずユリスの口から苦悶の悲鳴が発される。しかしそんなものお構いなしと言わんばかりに、
「あー・・・そろそろ限界かねえ?仕方ない、もう少し甚振ってやりたかったんだけどなあ・・・まあいいや。さっさとそいつ殺せ。」
サイラスが感情のこもっていない声で、そう無慈悲に命令する。その命令に従うように、一体の
(・・・すまない、悠、綾斗・・・)
薄れかける意識の中、振るわれる戦斧を前に、ユリスがなすすべはない。そのまま、やられる事を受け入れかけたーーーその刹那。
「ーーー勝手に死のうとしてんじゃねえよ、馬鹿ユリス。」
「ーーーごめん、遅くなった。」
ーーー聞き慣れた、何度も聞いてきた声が、耳に届いた。
ー■■■-
「勝手に死のうとしてんじゃないよ、馬鹿ユリス。」
悠が腰から《人護照世》を抜き放ち、ユリスに向けて振り上げられていた戦斧を粉々に破壊し、その身体を真っ二つにする。
「ごめん、遅くなった。」
綾斗がここに来る前にクローディアから届けられた
悠と綾斗。久々に出会い、お互いに剣士としての人生を歩んできた2人が、ユリスという1人を守るためにこの場に立っていた。否、それだけではない。
「お待たせ、ユリスさん!もう大丈夫!」
「全く、どこぞの誰かさんじゃないんだから1人で無茶するんじゃないわよ!」
「本当にそれ。リースフェルトがこんな無茶をするとは思わなかった。」
「状況はよく分かってませんけど、助けに来ました!」
シルヴィアが、実里が。(たまたま近くにいて、綾斗に頼まれたとはいえ)紗夜が、(偶然悠に会い、半ば無理やり引っ張られてきたとはいえ)凛が。ユリスを知る人が、彼女を助けるために集結していた。
「ーーーっ、ふっざけるなあ!!いい所だったのに邪魔するんじゃねえよ空気読めやクソがァ!!」
流石にこの状況は想定外だったのか、サイラスが怒りを露わにする。ボロボロのユリスを綾斗に任せながら、悠が鋭い目つきでサイラスを睨み付けた。
「いい加減黙れ、クソ野郎。これだけユリスに好き勝手やってくれたんだーーー覚悟は出来てるだろうな。」
悠の言葉は、この場にいる全員の総意だった。関わりの程度は違えど、ここにいる全員は少なからずユリスと関わり、その人となりを見てきた者達だ。そんな彼らが、ここまでやられて黙っているはずもない。
「クソがーーーだったらここで全員殺してやるよ!!やれェ、
サイラスの言葉に応えるように、
「綾斗、ユリスを連れて逃げろ。凛は俺と一緒に前衛頼む。それからシルヴィと実里は中衛で俺達の援護、紗夜は後方から支援砲撃。とにかくお互い常にフォローし合える距離間だけは忘れるなよ。」
その言葉で、それぞれが指示通りのポジションを取る。ユリスを抱えた綾斗が、妨害される前に素早くビルを離脱するのを視界の端で見届けると、目の前の敵に集中するべく再び眼前を睨み据える。
「ちっーーーまあ、どうせまた機会はある・・・その前にこいつらだ!!全員行けェ!!」
サイラスが勝ち誇ったように、一気に
はい、皆様おはこんばんにちは。Aikeです。最後の更新から2々月、大変お待たせいたしました・・・。ようやく最新話の執筆完了です。そしてようやく1巻の内容という・・・我ながらここまで長い事書いてきましたが、どんだけオリジナル展開書いてきたんだという話ですね・・・。
今回も今回とて原作改変もりもりですが、本作を書くにあたっての前提として綾斗とユリスの関係性は原作に合わせていきたいと思ってます。なので、本話では描写できなかった綾斗とユリスの心情は次の話で描写できればなと。
ちなみに「凛」こと長瀬凛がこの話から悠サイドの話にちょくちょく関わってきますが、ユリスとの関わりについても次のお話から描写していくつもりです。
相変わらず「完成次第」という名の亀更新、相変わらず改変もりもりの本作ですが、今後ともお付き合い頂ければ幸いです。
それではまた、次のお話で。( ̄ー ̄)