IS<インフィニット・ストラトス> for Answer 作:Akimiya
「遅かったじゃないか、セシリア」
一夏の危機的状況を救ったのはセシリアだった。一夏はこの支援を受けて直に体勢を立て直し敵ISを切り伏せた。これによって敵は沈黙。事態は収束したと思われた。
これはその後の裏方の話である。
織斑千冬は同僚の山田真耶を始めとする複数人で先の侵入者の解析を行っていた。
研究畑の人間は解析を結果から発覚する新事実に狂乱しているが、彼女は憂鬱であった。
原因は研究員が狂乱している理由とほぼ同じである。
「今回侵入してきた機体数は三。一機にはまんまと逃げられ、一機は織斑がコアごと両断、そしてこの機体は更識が鹵獲した。そしてその全てが無人で未登録のコア。これが偶然だと思うか?」
「織斑先生はこの事件は篠ノ之博士が関係していると思っているのですか?」
「その可能性は高いだろう。現状ISコアを量産できるのは奴だけだ。まったく、余計な事を・・・・・・」
千冬は頭を抱える。彼女は今までの傾向、そして今回の事案を照らし合わせてあの天災が関わっていると確信していた。
「けど、どうして博士はこんなことを?」
「奴の行動原理は謎だ。どうせ面白そうとかそんな理由だろう。しかし・・・・・・解せんな」
「なにがですか?」
「ああ、奴は話したがりやでな。何か新しいものを発明したり改良したら何かしらのコンタクトをとってくるはずなんだ。しかし、この技術・・・・・・この技術は私も欠片も知らない」
敵ISのレーザー武装。これは長年ISに関わる彼女でも見たことのない代物であった。
あのような収束率。IS学園という性質上、各地のデータを収拾することができるがこの武装はどの技術体系にも当てはまらなかった。
「この技術。もしどこかの軍需産業に流出してみろ。大騒ぎになるぞ」
確信する。これは一種の革新であり、軍事の歴史を変える可能性すらもっていることを。
「じ、じゃあこれをどうしかしないと」
「そうだな。恐らく学園内では戒厳令が敷かれるだろう。この情報少し精査する必要がある」
軍事バランスが崩れる事態は避けなければならない。これはISという
「とにかくこれは重要事項だ。山田先生、くれぐれも内密に」
「はい、先生」
この技術は、まだ流出させてはならない。まだ解析が数パーセントしか行われていないとしても、その脅威の片鱗を見せている、これはまだ世に出てはいけない。
そのときだ。後ろの扉が開き、人が入ってくる気配がした。
その扉は本来限られた学園関係者しか入ることが出来ないものだ。千冬は同僚が来たのかと思い後ろを向いた。
「貴様は――!?」
「どうも、
そこにいたのは一人の青年。恐らく20前半。癖のある黒髪でセルフレームの眼鏡をかけている、
千冬はこのような男は知らない。教員でもなく、生徒でもない。であれば誰なのか。
高速で思考が巡り,結論を出す――敵だと。
千冬は直に近くの警報装置に手を伸ばし,押す。本来ならばけたたましい警報が鳴るはずなのであるが何故か作動しない。
「何故だ・・・・・・」
「ああ、この部屋周辺の制御は我々が握ってるっすよ。無駄っす」
男から無慈悲な言葉が放たれる。セキュリティが握られた。この学園のセキュリティは世界最高といっても過言ではない。それが誰も知ることなくクラッキングされる。この世界においてそれが可能なのは千冬が知るうえでただ一人。
「これも奴の差し金ということか」
「奴が誰を指しているのか判らんっすけど,上からはその機体を奪取するか情報が出ないぐらい破壊しろって言われてるんすよ」
「だから差し出せと?」
千冬は殺気の篭った目で男を睨む。だが男はその殺気を飄々と受け流し言う。
「無駄な犠牲を生むことがないことは確信してるっす。俺自身はそんなことしたくないっす。でも――」
男は一度言葉を切る。そして放たれるは濃密な殺気。千冬のと比べても遜色ない程のソレが男から放たれる。
「そちらが望むのであれば,仕方ないことだと思わないっすか?」
最初に動いたのは真耶だった。真耶は与えられた自身のISを展開する。濃緑の翼を持つその機体はラファール・リヴァイヴと呼ばれる第二世代。
ISに対抗できるのは同じISのみ。男は直に制圧されると思っていた。
しかし男は動かない。まるで動く必要が無いとでも言うかのように不敵な笑みを浮かべている。
何故だ。何故そこまで余裕なのだ。
千冬は疑問に思う。だが彼女は同時に理解していた。そもそもこの学園はISの為の学園だ。防御の要は勿論ISであり、そこに潜入するぐらいだ。何らかの対策をしているとみてもいい。
男は静かに口を開く。まるで当たりとでも言わんかのように言葉を紡ぐ。
――クロエ。
変化は劇的だった。制圧しようとする真耶のISはその形を崩し、消滅する。真耶は理外の出来事に動揺する。故に男の動きには対応できなかった。
男は真耶に近づき、その肩に手を当てる。そしてもう片手を顎下に添え、全てを連動させて真耶を掌握する。そのあと男は懐から拳銃を出し、制圧した真耶の米神に当てた。
「さぁ、どうするんすか?」
「――っ」
ISに対する圧倒的優位性。この男はISを無効化する手段をもっているのだ。現在の防衛の主流派IS、それはここも例外ではない。つまりはこの学園の防御機構はすべてこの男には通用しない。
「もって行け・・・・・・ただし、約束しろ。山田君の安全は保障すると」
「織斑先生っ!?」
千冬は折れた。このままでは本当に同僚が殺されてしまうかもしれない。このままでは生徒達に被害が及ぶかもしれない。
被害を考慮しないとしても今の自分では止められないかもしれない。
世界最強はこの時点で得体の知れない男の脅迫に屈したのだ。
「良い判断っす」
男は満足そうに言う。
「では少し眠ってもらうっす。二時間ほどで帰ってこれると思うんで後の処理は任せるっすよ」
結果から言うと千冬が目覚めた時には機体は無く、ただ静かな研究室が広がっているだけだった。
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『博士、あれの回収は終わったようだ。貴方が懸念していた織斑教諭への被害も皆無。クロエ嬢の助力あってか、作戦は無事完了と言えよう』
「あったりまえだよ。私のくーちゃんが付いて行ってるんだよ。万が一にも失敗なんてないに決まってるじゃん」
『それもそうか。まぁ奴にはよろしく言っておこう』
ここは束ラボの一室。篠ノ之束は滅多に開かない通信回路を開いてとある人物と話をしていた。
彼女の肌は少し上気している。紙も少し濡れているところを見るに、シャワーでも浴びていたのだろう。
『あまりそのような姿、異性に見せるものではないぞ』
「別に見られたって気にしないよ。君は猿に姿を見られて何か思うの?」
『猿、か。博士の人嫌いも筋金入りだな』
「まぁ冗談だけど。見せてもいい人にしかこんな姿見せないって」
『冗談半分に聞いておこう、話は以上だ。何かあったらユリアーナ経由で伝えよう。ではな』
通話が切れる。なんともあっけない終わりではあったが、束は気にしない。
彼らは自分の野望のために働いているのを知っている。彼女にとって彼らは意見の代弁者であり、手であり、足であり、剣であり、盾なのだ。
彼女は過度な逸脱がない限り特に口出ししないと決めていた。
それが彼らの力を十二分に引き出すための秘訣であり、同時に強みでもあった。
「あと、一人。あと一人揃えば全てが始まる」
そう始まるのだ。全てを元に戻すための戦いが。自分の求めたものを実現するための戦いが。
彼女は求め続けるのだ。
無限の成層圏を。
次回から原作でいう二巻の内容に入っていきます。もしかしたら短編がひとつ入るかもしれません。
今回は難産に難産を掛け合わせたようなすごい難産でした(どういうこっちゃ)。多分内容的にかなり急展開かもしれません。謝罪いたします。
次回からは大丈夫だとおもいます。執筆時間がどうなるかは微妙なところですが。
ではまた。
-オマケ-
誰か「エロイ格好して出てくるな。焦ったじゃねーか」