IS<インフィニット・ストラトス> for Answer 作:Akimiya
場面がころころ変わる結果に。
私の夜勤は、一杯のコーヒーから始まる。
兵士用宿舎から将校用の既に粉末に加工されている豆を少量拝借し、時計が深夜0時をまわるぐらいに仲間内で飲み合う。これが最近の日課である。
「あー、上の奴等贅沢ばかりしやがって」
自分の階級は伍長。本来ならばこのコーヒーは少尉以上から支給されるもので、自分たち下の者たちがせっせと野外で働いている時に将校は空調管理が整った部屋で悠々とこんな上等なものを飲んでいるとなると、どうも納得できない。
「まあそう言ってやるなよサイード。俺たちもいつかはそうなるさ」
ズズズ……と隣でコーヒーを啜りながら飲んでいるのは同僚のカーレッド。最近結婚したとかで幸せ絶頂の26歳だ。
「まったく、そう楽観視できるもんかね」
「できるさ、俺たちはコーヒを飲みながらのんびりと侵入者を監視する。あとは時間が俺たちを昇格させてくれる、とな」
「簡単だろ?」と笑みを浮かべる同僚。焚き火の
私とカーレッドが中東協力建設基地群『トライアングル』の唯一の臨海基地『α』に配属されたのは今から4年前。一昔前と比べて現在情勢は安定している。そしてここは中東国家が大国の侵攻に対応すべく造られた最新鋭の基地。配属されてから戦闘や斥候侵入などに出くわしたことは無い。
加えて、トライアングルには一基地につき三機のISが駐留している。
しかし重要性は高いので配属される兵士たちの待遇は良い。つまり一軍人が手っ取り早く昇格するにはここは最適な場所だ。
通常兵器でこの基地を陥落できる可能性は皆無。ISにはISが対抗する。私たち一般兵士はただ突っ立っているだけで充分なのだ。
「この基地が直接ドンパチする事はないさ。それにどこの国も企業もIS九機相手に戦いを挑もうとは思わんさ」
「けど駐留してるのってフランスのやつじゃなかったっけか?」
「アホ言え。天使様はどうすんだ?」
天使様とは基地群に各一機以上配備されている天使の名を冠した軍用ISのことだ。
トライアングルには『α』『β』『γ』と三基地が対応しているが、それを守るISの隊長機とでも言うべきか。
私、サイードが配属されているαには『アズラーイール』が配備されている。
アズラーイールは第二世代型、中距離武装を多く積んでいる支援型のISである。
支援型といってもその性能は天使の中でも高く、特に目を引くのが発現している
天使機以外はフランスのデュノア社のラファールリヴァイブの軍用機仕様だが、量産機といってもISだ。性能の差など搭乗者の技能でいくらでもひっくり返るし量産機故の部品の互換性がある。もし戦闘不能に陥ったとしてもそれぞれ無事なパーツを持ち寄って再び出撃する事も可能である。
「天使に量産機三機。それに戦闘状態になったら他からも天使が飛んでくるんだ。俺が指揮官なら間違いなく手を出さんだろうな」
「ハハハ、違いねぇ」
その言葉と共に私とカーレッドは温くなったコーヒーを一気に胃袋に入れる。
さぁ仕事だ。
大きい獲物は天使様らに任せるとして、我々は雑兵の相手をしよう。
サイードはマグカップを仕舞い、銃を脇に抱え、ゆっくりと立ち上がる。そしてその後大きく伸びを一回。
同じく立ち上がったカーレッドと共に見張りを開始しようと行動を開始しようとした。
だが、ここで彼らの意識は途絶える。
最後に彼らが見たのは空を翔る
*
中東協力基地群『γ』は砂漠のオアシスに位置しており、砂漠の緑化を基地全体で行っている珍しい基地だ。
だが、それは表向きの話であり、実際は基地付近に埋蔵されている石油資源を独占するための採掘施設が秘密裏に建設されている。基地群はその資源で得る事ができる金銭を元手にして軍用ISの開発に勤しんでいた。
第二世代、後に天使と呼ばれる軍用ISの開発には成功した。その数は合計で三機、今はαを守護するアズラーイール。βのジブリール。そしてγのミカール。
これら三機は第二世代とは思えないほどの性能を発揮した。天使機の特徴は
中東協力の賜物、その名も『神の恩恵』。
この神の恩恵というシステムが組み込まれた事により天使機は単一仕様能力が初期設定の時点から使用することが可能となった。
だが、どうしたものだろうか。神の恩恵を組み込んだ機体には共通してある欠点が発見された。
たかが人間如きが神の使いである天使の能力を御しきれる訳がなかったといえばいいのだろうか。
御しきれない能力は身を滅ぼすだけ。
天使は選ばれし者にのみ力を与える。つまり機体が搭乗者を選んだのだ。その基準は高く、開発部でもその傾向を発見する事ができなかった。
結果的に搭乗者は見つかったが、開発部は頭を悩ませた。
そこで提唱されたのが通称『鎖計画』。
神の恩恵を組み込んだISを自由に使う事ができるように改変する新たなプログラム、天使を空より墜とす鎖の開発だった。
だが、開発は困難を極めた。
神の恩恵は偶然が生み出した産物であり、奇跡の機構だった。奇跡を御する機構の開発などそう易々と出来るものではない。
そこで目をつけたのが謎の巨大部品。未知の機構をもつそれは開発者たちの心を鷲づかみにした。
そして彼らは、鎖を完成させるには未知の解析が一番の近道だと考えた。
しかし、そこに立ちふさがる巨大な壁。ドイツやフランスをはじめとするヨーロッパ各地、そしてアジアにも出現する
未確認は単機ながらも圧倒的な戦闘能力を所持し、襲撃された国はどこも例外なく苦汁を味わった事だろう。
狙ったものはわからない。だが、恐らくは巨大部品だろう。そう仮説を立てた。
もし仮説が正しいならば、きっと未確認はやってくる。
圧倒的な戦力に我々は蹂躙される……!?
そこで考えた。考えて考えて考え抜いた。
そんな中、一人が口を開いた。
「天使に相手をさせればいいではないか」
中東協力基地群が誇る最強のIS。さらに各基地に配備されている量産型。これらの戦力を結集し、未確認が耐えられない程の飽和攻撃を行う。
倒せなくてもいい、無力化できればそれに越したことは無いが、最悪時間を稼げるだけでも問題は無いのだ。解析が終わり、データを転送できさえすれば我々の勝利なのだと。
故に準備を行った。唯一拮抗できる可能性をもつ天使たちを中心に緻密な作戦を立てていった。
この作戦は基地群の司令部の者しか知らない事だ。故に機密レベルは最高に設定され、外部に漏れることは無い。
そして、彼らは挑む。
これから起こる戦いは基地群の威信を賭けた戦いでもあったのだ。
聖戦。彼らはこれから起こるであろう戦いをそう呼称するのだった。
*
洒落にならない。
私、エミリア・クロンヴァールが抱いたのは恐怖の感情だった。
私は天使の一角『ミカール』を駆るIS操縦者だ。
私の辞書に敗北の二文字は無い。
機体の性能も要因の一つなのだろうが、私が受け持った任務は今まで失敗で終わったことは無い。
私とミカールが恐れるものなど、こんなにも苦戦する事など、一度も無かった。
奴がγに進行してきたのは現地時間で午後8時頃、私が夕食を食べ終わった時だった。
無謀。基地に居る者は皆そう思ったことだろう。
中東協力基地群、この言葉は近辺では最強とも名高い軍事機関である。
その軍事力は小国のそれを軽く上回る。基地群が所有するISは合計で12機。国ごとで分けて考えると決して多いものではないのだが、基地群単体で見るならば、大国にすら対抗できる力を持っている。
意気揚々と「食後の運動を兼ねて」などと言って出て行ったのだが。ああ、もう考えたくない。
淡紫の装甲の怪物。その姿はまさに流星。圧倒的な機動力、圧倒的な火力で基地を破壊していった。
此方の攻撃が届くことは無い。戦車や戦闘機などの銃撃、砲撃はおろか量産ISの武装すら奴に届くことは無かった。
対して、向こうの攻撃は全て必殺の威力を持っていた。
マシンガンと思われる銃撃はISの装甲を易々と削り、通常兵器に大穴を開け、建造物を蝕んでいく。
スラッグガンと思われるものは一度引き金を引くたびに辺りを根こそぎ削り取っていく。
極めつけは背部武装から発射された巨大ミサイルだ。
そのミサイルはあろう事か基地のある一帯を吹き飛ばしてしまった。
圧倒的、その一言に尽きた。
建築物は崩れ、コンクリートは砕け、アスファルトは塵となる。
基地は破壊しつくされ、残るものは何も無い。
一面はただただ火の海。その光景はさながら地獄。
陥落することが無いと言われた中東最強の基地群の一角は数十秒の攻撃で落とされたのだ。
数十秒、この言葉が意味するものは大きい。
ただただ異常、そう形容するほかないだろう。
ISを超える兵器。天才科学者篠ノ之束が開発した最高の兵器。圧倒的性能を見せつけ、通常兵器のお株を奪った最強の兵器。それをいともたやすく無力化する。もう怪物だ、悪魔だ。ISと同列視なぞできるわけがない。
気づいた時には既に体が動いていた。
基地はすでに豆粒のように見える。
ああ、私は逃げたのか。それほどまでも恐ろしかったのか。
敵前逃亡。私は傭兵だが契約中は軍人として処理される。死罪またはそれと同等の処罰が下るはずだ。
だが、あの怪物から大切な
さらに怪物の情報が持ち帰る事ができる。武装データもある程度は掲示する事ができる。寧ろ報酬さえ得る事ができるのではないか。だとすれば……
「フ……フフフ……」
ああ、考えただけでも笑いが出る。報酬は幾らだ? 十万? 百万? それとも億か? ああ、金、大金が手に入る。笑いが止まらない。最高だ。
『取ラヌ狸ノ皮算用トハコノコトカ』
「――!?」
後ろを取られた!? ありえない!? 誰だ!?
まさか……あの怪物の一味か!?
振り向くとそこに居たのはあの怪物ではなかった。
淡紫の装甲、赤く輝くカメラアイ。そこまではあの怪物とは変わらない。だが、目の前に居たのは
「……」
『オヤ? ドウシタンダ?』
無機質なマシンボイスを放ちながら首をかしげる未知のIS。そう、ISだ。怪物ではない。恐れる要素など何の無いではないか。
だがどうしたこたか。体が動かない。あのISは
「お……お前は誰だ……?」
『ソレヲ答エテ何ニナル?』
向こうが此方の質問に何らかの反応を示す。それは交渉する余地があるということ。つまり交渉しだいでは見方にもなりえるという事だ。
「お前は……見方か……?」
『Noト言ッタラ?』
「……幾らだ?」
『……フ。買収カ?』
「……そうだ。幾ら出せば見方になる?」
軍人ならば所属と名前を言うはず。つまりこのISは軍関係ではないということ。
そして、敵ならばあの瞬間に私は殺されている。つまり、奴の言葉は「見方ではないが敵でもない」という意と捉えてもいいだろう。なら依頼をせずに何とする?
見栄もプライドもない。ここは戦力が必要だ。そして、死にたくない。
「お前も私と同じ……傭兵なのだろう?」
『ソウダ』
肯定の意。これならば――!!
「――なら!!」
『悪イガ、モウ
トン。と小さな音が響く。
「……え?」
ゆっくりと目線を下げ、音の源を確かめる。そこには自らの胸に生えている刀剣の姿が確認できた。その刀剣は青く光り輝き、まるで一つの太陽のような錯覚を覚えさせる。
『……ソノ機体、貰イ受ケル』
敵はそのまま刀剣を薙ぎ、私の体を両断した。
*
世界は基地群の壊滅を大々的に報道した。
中東最強の砦の陥落。前々から中東の資源を狙い、基地群に阻止されていた国、企業は驚きを隠せなかった。
11機のISの撃破。天使の名を冠する中東協力の守護者がいともたやすく撃墜されたというのだから。
特にγは酷かったらしい。γは基地群最大の開発基地として話題になっていたが、研究データは全て奪取、削除され、研究者は誰一人として生きてはいない。
天使は三機の内二機が原型を留めない規模で破壊され、一機は行方不明。破壊された二機の
やったのはどこの組織なのか。さまざまな憶測が飛び交ったが結局答えは出なかった。
未知の敵性勢力による電撃作戦。各国はその勢力の特定し、コンタクトを取ろうと躍起になっているようだ。
評価が高かったら執筆速度が上昇する今日のこのごろ。
因みに未知のISが傭兵さんに話しかけたのはちゃんと意味があるのです。
それも含めてそのうち書くことでしょう。
5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。
2013/03/27 感想のご指摘により一部内容を修正
2013/04/03 一部表現及び誤字を修正