第一話 見下す瞳と墓穴を掘る天才
―――秋羅side
今日は入学初日。入学式も終わり、今は自分のクラスで生徒が席に着いている。
周りからは視線を感じるが、僕にとっては想定内だ。
「みなさん、揃ってますねー。それじゃあSHRをはじめますよー」
「先生、一人いません」と誰かが言ったが、「彼なら後で来ますよ」と答えていた。そういえば、僕以外に男がISを動かした人間がいたらしいけど、一体誰なんだろう? まぁ、僕に勝てるわけないけど。なんたって僕はあの束さんからISのことを教えてもらったし、動かし方もほとんど習得している。僕を倒せるのは代表クラスぐらいかもね。
「あ、私は副担任の山田真耶です。一年間よろしくお願いしますね」
僕が返事すると、周りからチラホラと返事するみんな。男が返事したからしておこうとか思ったのだろうか?
「それじゃあ、出席番号順に自己紹介をお願いしますね」
そして始まる自己紹介。席順はどういう基準か知らないけど、僕を真ん中の最前列にしたのは問題児だからだろうか。心外だ。だとしたらもう一人も前にするべきだ。
「次、織斑君。お願いします」
山田先生から声を掛けられ、僕は立ち上がって自己紹介をする。
「織斑秋羅です。たまたま試験会場で迷ってしまった時に見つけたISを興味本位で触ったら起動させてしまいました。趣味は機械いじりです。一年間よろしくお願いします」
途端に周りから拍手が上がる。どうやらファーストコンタクトは完璧のようだ。
「……ほう。随分と騒がしいがお前だったか」
いつの間に入ってきたのか、姉さんがそこにいた。
織斑千冬。僕の自慢の姉さんであり、基本的には弱みを見せない強い女性だ。あの出来損ないが消えたせいで一時期は情緒不安定だったが、今は普通に暮らしている。まぁ、アイツが消えたのは料理ができなかった僕たちには少し苦しかったが、それでも僕がすぐに料理を覚えたので過ぎ去った問題となった。
「あ、姉さん。やっぱり―――」
―――スパァンッ!!
問答無用の攻撃。相変わらず姉さんの攻撃は痛い。
「織斑先生と呼べ」
「…はい。織斑先生」
そして僕は何の疑問を持たずに着席した。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
暴力発言だが、これくらいはしないといけないだろう。
彼女たちは入ったばかり。ISに対する知識はあるといってもその扱いには慣れていない。これは束さんに聞いたことなんだけど、中学ではあまりISを動かすことはしないらしい。
そしてみんなは「キャーキャー」とはしゃぎ、中には発言を疑うものがあった。というかレズとか本当にいるんだなぁ。当然、姉さんは呆れたがそれに便乗して余計にMな子が目立った。
「……はぁ。少しは静かにしろ!」
それを聞いた瞬間にみんなは黙りはじめる。そう言えば後から来ると山田先生が言っていた。初日から遅刻とは良い度胸じゃないか。ある意味その神経の図太さに敬意を表するね。
「入れ」
ドアに向かって姉さんはそう言うと、そのドアが開いて男が入ってくる。
(―――!?)
その男には見覚えがあった。
いや、それどころじゃない。僕が嫌いなあの男にそっくりなのだ。
「……自己紹介をしろ」
「初めまして、アイン・ウォーヴェンです。男性限定のIS適性検査に見事に引っかかったのでこのIS学園に入学することになりました。一年間よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるその男は―――約三年前に消えたはずの僕の兄にそっくりだった。
「……お前…何で……?」
気が付けば僕は立ち上がっており、その男の襟首を掴んでいた。そのはずなのに―――
―――ダンッ!!
回る世界、そして背中に走る衝撃。
それで僕は投げられたことに気付いた。
「挨拶が襟首とは随分と手荒だな」
「……あ、ごめん」
いや、違う。今投げられたことに気付いた。というか―――あの兄は僕を投げることはおろか、投げ技なんてものを知らないのだから。
「ちょっとアンタねぇ!!」
クラスの一人が立ち上がり、ウォーヴェンの肩を掴んだ瞬間―――その女は吹き飛ばされた。ウォーヴェンが蹴り飛ばしたのだ。
「嘘っ」
「女の子を蹴り飛ばすなんてサイテーよ!」
言うまでもなく周りは早速ウォーヴェンを目の敵にする。だけど、何故かウォーヴェンは鼻で笑った。
「クソビッチ共が、ビービ―喚くな」
その瞳はまるで―――いや、まるでじゃない。完全に見下している眼だ。
「いい加減にしろ、ウォーヴェン」
姉さんがそう言ってウォーヴェンの肩を掴もうとするが、それが空気を切る。
「引っ込んでろ、ゴミ女」
「ゴミ!? 貴様ッ!!」
姉さん侮辱されたことで箒が飛び出し、持っていた竹刀を振り下ろす。それを悠々と片手で掴み、その場に固定する。
「改めて言っておく。俺はお前らみたいな、生身で戦えない分際で自分たちで強いと思っている奴らはただのゴミだとしか思っていないし、ましてや―――」
竹刀を奪い取り、それを後ろ手で放ったウォーヴェン。竹刀はゴミ箱に入った。
「俺に本気で勝てると思っているなら、病院に行け。以上」
そう言ったウォーヴェンは唖然とする周りの視線を気にすることなく、席に着いた。
■■■
―――アインside
『……で、言い訳を聞こうか』
休み時間になり、通信回線が強制的に開かれたかと思ったら、何故か怒気を含んだ声を発する上司がそう言った。どこかで俺を監視しているというのなら、即急に辞めてもらいたい。
『何の言い訳だ?』
『惚けるのもそこそこにだ、アイン。まぁ、君が歩んできた人生を顧みれば気持ちはわかるが、入学初日であんな堂々と宣言するほどではないだろう』
『…もしかして、さっきのことか?』
そう尋ねると、いきなり俺の声と思われる男の声が聞こえてくる。
『改めて言っておく。俺はお前らみたいな、生身で戦えない分際で自分たちで強いと思っている奴らはただのゴミだとしか思っていないし、ましてや―――俺に本気で勝てると思っているなら、病院に行け。以上』
改めて聞かせられると、自分がどれだけ恥ずかしいことを言っていたのか理解できた。
『……で、言い訳は?』
『ついムラッとしてやった。恥辱されて反省している』
『君も随分僕たちの色に染まってきたね』
通信相手―――スティング・ゲイルがそう言ったので、今すぐにトイレに駆け込みたい気分だ。
というか堂々とそう言えるスティングが、段々とホモなのかと思ってきた。
『というか、これもそれもアンタらの影響だろう』
改めて思い出すと、いきなり本部に連れて来られてスティングの第一声が「ライトノベルを読むかい?」だったのは、今も忘れていない思い出の一つだ。
『それで、ここに潜入したのはいいが―――いつ祭りを始める気だ?』
『それはまだこっちも決めかねているんだ』
スティングは無計画性に定評があり、気が向いたら始めようというタイプだ。
一組織の長としてはもう少しその辺りの認識を変えてもらいたいとは思うが、それでも彼が長としていられるのは、単純にその政治力が凄いからだろう。というか、王政ならその王様が国民に慕われるタイプで、国税の大半が住民たちのシェルターとかに割り当てられたり、手に職がない男たちでも専門の教育機関を設立したりと、どこぞの国たちとは違い、男にも、そして女にも優しい国造りを目指しているからだろう。一度そこで済んだことがある俺にとって、まさしくそこは俺の望んでいた世界でもあった。
『まぁ、君の現状は学生気分を味わうことと、ハーレムを建設することだ』
『……心の底からお前が俺の上司でいいのかと心配してきたんだが?』
『ハハハ。冗談だよ。まぁ、気に入った女の子を誘拐する気があるのなら言ってもらえればいい。僕はそのためのチームを持っているからね』
そのチームの一員な俺は、どういう反応をすればいいのかわからない。
『ところで、さっきのことを教えたのは誰だ?』
『それは君のパートナーだよ』
まるで待ってましたと言わんばかりに俺やスティングじゃない第三者の声が聞こえてきた。
『まぁ、いい暇潰しにはなったわね。あの屑コンビの妹と片割れにある意味じゃ一泡吹かせられたなんだから』
上から目線がデフォルトな小さき妖精という名の小悪魔が俺の視界のみに現れる。おそらくスティングにも音声は伝わっているだろう。
『暇潰しって、お前なぁ』
『これでもAIは暇なのよ。あなたが触れた打鉄のデータ改竄なんて数秒でできることだし、いっそのこと織斑千冬の室内を映して世界に公表しようかしら。『元世界最強は、世界最悪のズボラだった』とかいう題名で』
『辞めておけ』
俺としては、そういうことはしてほしくなかったりする。いくら敵とはいえ、
『いくら敵とはいえ、昔から女にしかモテなかったから少し同情しているくらいだ』
『だったら僕が立候補しようか』
その瞬間、度が過ぎるシスコンが戦線布告する図が思い浮かんだが、スティングが圧勝する未来しか見えなかった。
俺たちはいつも通り、重大な位置にいるというのにいつも通りの他愛のない会話をする。だってそれが無駄にストレスを溜め込まない方法なのだから。
■■■
―――秋羅side
事実上、アイン・ウォーヴェンはこのIS学園から孤立しただろう。いや、当たり前か。あんなことを堂々と言い切ったのだから。
だけど僕もいくらあの出来損ないの兄に似ていたとはいえ、髪の毛が銀、瞳の色が青の時点で気付くべきだったんだ。あの男は本当に消えたんだと。
(だけど姉さんにしてみれば心中複雑だろうね)
僕に似ているとなれば、おそらく第三の―――いや、一夏と重ねて見るだろう。現にさっきの暴挙も信じたくなさそうにしていた。それに、いくら僕が発端とはいえ、女に対しての暴力が軽すぎるのも気になる。
(いや、そうでもないか)
僕と同じで彼も貴重な男性操縦者。あえて罪を軽くしてそれを盾に脅すことも可能だし、ね。
「あ、秋羅、久しぶりだな」
そうだ。僕、箒に連れられて廊下に来ていたんだっけ。
「ああ、そうだね。にしても写真じゃあまりわからなかったけど、綺麗になったね」
「そ、そうか?」
「それに、胸も大きくな―――」
―――バシンッ!!
何で箒は竹刀をその場に振り下ろしているよりも先に、今の発言でどこが間違っているのか模索している僕がいた。
「い、いや、すまない。今のはその、つい、な?」
……束さん。あなたは僕に箒を勧めてくるけど、個人的には少し遠慮したい。「つい」で竹刀を振り下ろされたら、する気はないけど不倫したら間違いなくこの世から消される気がするんだ。
「そういえば、去年、剣道の全国大会で優勝したんだってね。おめでとう」
ふと、脳裏に箒の名前がことを思い出し、その内容を口にする。
「な、なんでそんなことを知っているんだ?」
「ああ。新聞を読んだからだよ」
「……そういえば、昔からお前はそうだったな」
箒の目に僕の過去が移っているだろう。たまに新聞を借りていたから。
「……ところで、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何だい?」
少し聞きにくそうにする箒。何だろう? 僕の性癖のことならまだ不明なんだけど、
「一夏はどうしたんだ?」
「……ああ」
箒は一夏のことを知っている。というのも一夏は一時期箒の親が経営していた篠ノ之道場に入門していたんだけれど、一年ぐらいで辞めてしまった。
厳格な師匠のことだからよほどのことがなければ辞めさせないのだが、何故か「自殺したいなら止めなさい」と言った切り、師匠は一夏が辞めることを認めただけでなく、むしろ逆に追い出した風だった。
「一夏は死んだよ。理由は悪いけど機密事項だから言えない」
「……そうか」
彼女自身もそのことは十分に理解しているだろう。何せ今まで国に監視され続けられたいたのだから。
チャイムが鳴り、僕たちは教室に戻ることにしたのだけれど、家とは違ってだらしなくない姉さんが僕たちに出席簿を振り下ろした。
「何か思っただろう?」
「そんな理不尽な理由で叩かないでください!」
というかこれ、絶対教育委員会で訴えられるレベルだよね!?