―――気絶前 アインの部屋
「ということで、俺は一度負ける」
シャルル・デュノアからの手紙を手に入れた俺はすぐに開いている面子に声をかける。と言っても俺は経歴が経歴だからあまり人気がないから、不安要素を抱えた奴としか組めない。
『なるほど、敵は一人……いや、何人か来ることを予想して備えるべきか』
『じゃあ伏兵は俺がやるから、アルは周囲に察知されないようにコントロールよろしく』
隠密行動用の特殊結界が俺たちは持っているのだが、それをISやIXAで戦えるほどの広範囲に広げるコントロールはかなり難しい。俺も持って10分程度だ。しかも、やりすぎると廃人化するのも否めない。
『安易に押し付けるな、と言いたいところだが構わない。どうせお前じゃできないだろうからな』
『何かアルに言われるとムカつくなー』
ちなみに「アル」とはアルトのニックネームだったりする。
「すまないが頼むぞ、アル」
『それは構わない。命の保証がされていないのが不安だがな』
『いくら俺でもクタクタなお前を見捨てるってことはしねーよ!?』
この二人の仲がもう少し良かったら良いのになと思う。
―――名も無き荒野 崖周辺
「退けぇえええええええッ!!」
学園内で優等生だったシャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアはその面影を残しておらず、ただただ母親を取り戻そうと抗っている。
「ああ、もう! いい加減に落ち着けッ! 俺たちがいつお前の母親に危害を加えた!? とっとと黙って話を聞け!!」
「男なんて信用できるか!! お母さんを酷い目に合わせたお前たちなんて!!」
「俺たちを一括りにするな! こちとらまだ童貞だ!!」
さっきから龍牙と焔しか使っていないから、段々と刃こぼれしてきている。焔だって威嚇程度でしか使えないが、何度も抜こうとしてきているデュノアに対して攻撃するのでもうそろそろ限界かもしれない。
(チッ。本当は抜きたくなかったけど、こうなったら抜くしかないか……)
限りなく俺に合わせた日本刀を抜こうとすると、予想外なことが起こった。
「どうして邪魔をするの………。僕はただ、お母さんと一緒に暮らしたいだけなのに……」
そう言ってデュノアはドデカい銃を展開した。……え? それって………
『アイン! アレ、荷電粒子砲よ! しかもあれって一発でこの辺りを殲滅できる―――』
聞きたくなかった単語が聞こえた。
『ちょっと待て!? それって今のデュノアは―――』
『明らかに正気じゃないわね。元々ヤンデレ化は進行していたみたい』
ヤンデレとか誰得だよマジで。
シュペーアなら出力的に対抗できるかもしれないが、ここで出したら明らかにデュノアの母親は反動で巻き込みそうだと思う。
(ここはコウがテレポートで突っ込んで斬れば、まだデュノアの機体をある程度破壊できる程度で終わ―――)
そんな希望を持つが今はコウが女の防御に入っている。だから瞬時加速を使って接近するしかないと思っていると、デュノアが爆発したかと思ったら地面へと落下していった。
■■■
白鬼の力でテレポートし、シャルロットが持っていた荷電粒子砲を斬ったコウは、墜落したシャルロットを追って降下し、爆発で満身創痍となったラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの前で停止する。
「イチカ、お前はもう一人の少女の守ってやれ。もう持たないだろう」
『いや、その前に女性はどうした』
「アルに渡した」
それだけ伝えたコウは通信を切り、シャルロットの方を見ると呆れた。
「まだ戦う気か、お前は」
「……当り前だ。まだ、お母さんを助けて―――グッ?!」
いきなり殴り飛ばされたのを最後にエネルギーが切れたらしく、ラファールは解除された。
「な、何するんだよ!?」
「どう考えても勝負は見えているのにまだ抗おうとする敗者に現実を教えてやろうと思って―――な!!」
今度は蹴り。装甲を解除しているからか威力はあまりないが、それでも満身創痍なシャルロットには大ダメージだ。
もう動かないシャルロットの首からラファールの待機状態を取った。
「……さて、と」
シャルロットをお姫様抱っこをするコウ。
「や、止めろ!? 僕は―――」
「うるさいからごちゃごちゃ言うな。お前ら母娘の保護が上からの命令なんだよ」
「え?」
訳が分からないという顔をするシャルロット。すると上の方から爆発がして、反応したコウはポツリと漏らした。
「……ヤバい。イチカがキレてる」
■■■
―――アインside
「させるか!」
今にも止めを刺そうとするデュノア夫人の攻撃をシュペーアで受け止める。
「この、男風情が!!」
やっぱり女尊男卑思考を持っていたと思いながら、拡散ビームを撃って相手を撃ち抜くつもりだったが、見事に回避されて重機関銃《デザート・フォックス》を展開して俺と自分の娘に向けて撃つ。
俺は鉄傘を展開して少女を守り、シュペーアで応戦した。
「自分の娘だろうが! どうして撃てる?!」
「その娘は裏切り者よ。どう処分しようが私の勝手でしょう?」
正直に言って反吐が出るが、デュノアの一族って正直まともじゃないのが多い気がしてきたから何とも言えない。
「ああ、そうかよ」
「まぁ、あなたと違って優秀だから、正直に言うと惜しいわね」
「あ?」
何を言っているんだ、このおばさん。
確かに俺の素行は悪い方だが、それでも俺の成績は―――
「だってそうじゃない? あなたは秋羅君とは違って出来損ないの一夏君じゃない」
やっぱり察せられてしまったかと舌打ちする―――だがしかし、それが俺たち二人の関係を本当の意味で知る前の話だ。
今の俺は違う。知ってしまった俺は比べられることを完全に拒否していた。
「あら? 図星かしら」
ニヤニヤと気持ち悪い顔を浮かべてくるのを見て、俺の中の何かが吹っ切れた。
「……コード、レイヴン」
『アイン、ダメ!!』
装甲が消え、クロが近くに具現化する。代わりに俺の周りにはまるで鴉を彷彿させる装備が展開された。
「姿を変えたところで、操縦者が大したことなければ同じことよ」
そう言って嘲笑いながら俺に攻撃をしかけてくるが、その油断が命取りと言うものだ。
そもそも、コードレイヴンで出てくる武装はクロを分離して自分自身の力で戦う対IS用武装。当然、
女の後ろに飛行した俺は容赦なく連撃を入れ、吹き飛ばす。鴉の翼を模したスラスターの付け根にあるブースターで飛び、奴の懐に飛び入る。
「な、何―――」
話せないほどのスピードで奴に攻撃し、徐々にシールドエネルギーを減らしていく。
「こいつで終わらせてやる」
俺の手に登り龍が掘られた日本刀が握られ、それを逆手に握る。
「その程度の武器が、ISに通用するわけが―――」
「するさ。お前の知識は古いから―――」
連続で装甲のつなぎ目に刃を入れ、抉る。
次第に装甲は徐々にはがれ、形を失い、吹き飛ぶ。
「これで終わりだ」
《
同時に俺の体にも限界が来たのか、空中で装甲が消えていく中、俺はそのまま意識を飛ばした。
■■■
―――何で誰も助けてくれないんだ
―――俺が一体何をしたって言うんだ
―――俺は何もしていないのに
少年はただそう呟き、衝動的にその施設を破壊する。
その光景を見ていた少女―――ラウラ・ボーデヴィッヒはただただ信じられなかった。
「……何で」
ラウラは知っていた。その少年が誰かを言うことを。そしてその人物のことを少年の姉から聞いていたため、この光景が信じられなかった。
「何をしているんだ、織斑一夏!」
ラウラはその少年―――織斑一夏に触れようとするが、何故か透き通った。
「何? いったいどうなっている……」
試しに自分の顔を軽くつねるラウラ。そこで自分に痛みがないことを知り、これが夢だと理解した。
(……ということは、まさか!?)
自分が今、どれだけのことをしているのかを理解した彼女は、ここから抜け出すために色々とするが、
「……何故出られないんだ?」
―――君の好奇心が君自身をここに引き留めているんだ
ラウラの中で声がしたからか、思わずラウラは身構える。
―――心配しなくてもいいよ。君の味方だ
「信じられるか」
―――でも君は何もできない。目の前の悲劇を止められるわけではないでしょ?
「………」
沈黙するラウラの前に黒い球が現れ、そこから少年が出てくる。
「お前は……」
「そんなことは今はいい。君はこれからどうしたい?」
「………」
そう言われたラウラは黙り、暴れている一夏の方を見る。
「……どうやら、答えは見つけたようだね」
微笑む少年はラウラの後ろに黒い球を出した。
「ここから帰ることができるけど、どうする?」
「……帰る。これから、私がしたいことができたから」
そう言ってラウラは疑いもなくその球の中に入る。するとその球は消え、別の方から同じような球が出てきた。
「相変わらずの主人思いね、あなたは」
その少女―――クロは少年に語りかける。
「やぁ、クロお姉ちゃん。借りた映像は役に立ったよ」
「知っているわ。見てたもの」
その少年は笑うと光の粒子になり、そこから消えた。
「さて、彼女がどうするか気になるわね」
微笑むクロの顔はこれから始まる出来事が楽しみで仕方がないそれだった。
■■■
あの後、俺はIS学園の人間に回収されて事情聴取されたが覚えていないと言って話すことを回避した。
コウとアルトの報告書によるとフランスのデュノア社は倒産。そしてシャルロット・デュノアの性別偽装デュノア社の社長は逮捕されるかと思っていたが、実はスティングと一部の人間がデュノア社の社長を保護していたらしい。
「で、正妻母娘はどうなったんだ?」
『母親はこれから色々としたデータを揃えるためのモルモットとして使うらしい』
「モルモット、ね」
色々と言いたいことはあるが、データということは俺たちが考えていることのためのデータだろう。
「ということは娘もか?」
『いや、娘の方は違うんだらしい。そっちは俺も詳しく聞かされていない』
「……そうか」
確かに急に裏切ったらしいからな。精神的に問題があると思われてもおかしくはないだろう。
『で、そっちはどうなのだ? 何か変わったことは?』
「いや。精々デュノアではなく俺が死ねばいいのにという戯言ぐらいだ」
『相変わらずの評価だな』
ケラケラと笑うコウ。後は適当に一、二言を会話すると電話を切り、ベッドから起き上がって用意をし、学校に向かう。
(……あれから二日、か)
昨日は事情聴取、そして一昨日は大会で潰れた。それはどうでもいいが、周りからの視線が痛いのは確かだ。
というかそもそも何で俺が一方的に批難されるんだろうか……なんて今更か。
(………)
俺が横目で隣を見ると、何故かボーデヴィッヒが俺を見ていた。
「………」
何でこいつは俺を見るのかを理解できないが、何かが起こったのは間違いないだろう。
(まぁ、いいか)
邪魔になるなら消せばいいし。
などと思っていたらボーデヴィッヒは立ち上がり、俺の所に来た。
「……少しいいか?」
「……ああ」
何だ? 急にどうしたというのかどこかしおらしい。
俺は無言でボーデヴィッヒの後を追いて行き、屋上へと出た。周りには誰にもいないし盗聴器もない。
「ウォーヴェン。お前は、織斑一夏だな」
すぐさま俺は龍裂を展開し、ボーデヴィッヒの喉元に刃を当てる。
「何故お前がそれを知っている」
「……それは言えない。私にも、どうして知ったのか理解できていないのもあるが、口でもどう説明していいのかわからないからな」
………クロ、か。
もしくはISの機能か何かだろうな。まったく、凰ならともかくよりにもよってこいつに知られるとはな。
「とぼけるのも無駄だろうから言っておく。確かに俺は織斑一夏だった。まぁいい。お前には消えてもらう」
龍裂の刀身が光らせて俺は首を刎ねようとしたが、AICが発動されていて動けなかった。
「………一つ、聞きたいことがある」
「何だ?」
「……白騎士は、
妙に真剣な顔をして聞いてくるので何かと思ったが、そういうことか。それに名前を言ったのも覚悟を持ってのことだろう。
「そうだ」
「………わかった」
AICを無理矢理解こうとした瞬間、俺の唇はボーデヴィッヒによって塞がれた。
実はこの場に一人、この光景を目の当たりにした人物がいるが―――二人はそのことに気付いていなかった。
こんな終わり方ですが、これで二巻は終了です。
デュノアの女たちが幸せに暮らせるかどうかは本人たち次第。
次回からかなり時間が飛ぶのでご注意ください