第18話 それはちょっとした小休止
―――イギリス 某所
「ここのセキュリティってザルだよな。Mもそう思わないか?」
そう言った少年の隣を歩くMはジト目でその少年―――ゼロを見る。
「そうは言うがな、ゼロ。お前はセキュリティうんぬん以前にそれがなかったかのように突破しただろ」
そう言ってMは後ろの壊れた鋼鉄のドアを見る。
「いや、いくら俺が改造されたからってここまで簡単に破壊されるってのはどう考えてもセキュリティの低さが原因だと思うけど」
「………」
この言葉にMは「こいつは一般の人間とは違う別の次元にいる」ということを察する。
「にしてもまさか、イギリスの二号機が目標に入ってたなんてなぁ」
「まぁ、私のBT適正がSだからだろう」
「俺に言ってくれたら可愛い妹のためにひと肌くらいは脱ぐのに」
「お前の機体に比べたらどのISも児戯に等しいが、な」
涙目になっているMを見て考えるゼロだが、原因はすべてこいつだ。
「って待て。まさかお前、亡国のボスだったのに知らなかったのか?」
「そう言うのって基本俺のより低いから興味ないんだよ。後ほとんどが更識家のプロマイドを集めるのに必死だったし、その前は二人の体を狙うオッサン共を消すのに忙しかったし」
淡々と吐かれていく言葉に恐怖を超えてむしろ呆れているレベルになっているM。だが、同時にゼロの能力は認めていた。
特に戦いにおいては自分の目的を果たす以前に―――最悪の場合には消されることも。
何せ今Mと並んでイギリスの重要IS開発拠点の中を無断で歩く男は部下を裏切り、激怒した奴を遠慮なく殺したから。例えそれがどれだけ自分の近くにいてもだ。
そう言う意味では本当に一夏が助けられたのは「作業」であり「ついで」、同時に「理解」していたからである。
「見つけたぞ、貴様ら」
後ろから銃器を構えた人間が現れ、数人が先回りして二人を囲もうとするが、それよりも早く男たちが足元から現れた鎖に呑みこまれた。
「せっかく妹との楽しい楽しい散歩に興じていたというのに」
「いや、別にそれはここでなくてもいいのではないのか?」
Mの言葉にゼロは同意しつつ、唯一一人だけ逃げた女を見つけたのでそっちを見る。
「おい貴様、我々に逆らって生きてか―――」
瞬時に女の体が吹き飛び、コンクリートに叩きつけられた。
そしてゼロはすぐにMの手を引いてそこから奥へと移動し、ようやく目当ての物を見つける。
「M、早く装着を」
「わかった」
すぐにMは触れ、目当てのIS『サイレント・ゼフィルス』を纏ってメインウェポンのスターブレイカーで天井に穴を開けるが、
「あ、やっぱり無理か」
予め強奪対策として対IS用装甲が使われていたため、脱出することはできなかった。
「やはり戻るしかないか」
「んにゃ、その必要はねえよ―――羅殺」
『おおせのままに』
天井が崩壊し、そこから福音に形が似ている黒い機体が現れた。
『今の内に』
「ああ」
Mは飛び、その後に羅殺に乗ったゼロも外へ脱出し、追手すらも撒いて彼らは生き延びて自分たちの戦艦へと戻って行った。
■■■
―――アインside
俺にとっては難関だった期末テストを無事終え、俺は用意された一室のアパートに帰ることにしたのだが、一人の生徒が突然の退学と失踪をしたことでそのことが話題になっていた。
「ということでさ、ティナ知らない?」
もうそろそろ帰るというのに、ギリギリまで押しかけてきた凰はそんなことを聞いてきた。
「いや、知らないな」
一時期付き合っていたとか噂されている俺たちだが、実際は付き合ってないからその辺りのことは知らない。
(何だかんだ言って鈴はハミルトンのことが気になるんだな)
そう思いながら聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「胸の脂肪を取る相手にちょっと良かったんだけどな」
前言撤回。意外どころか粗方予想通り且つ恐怖という感情が俺を襲うかのような答えが返ってきた。
「ま、それはどうでもいいとして」
良くねえよ。
「それよりも
俺はつい動きを止めて凰の―――いや、鈴の方を見る。
「大丈夫よ。ここには盗聴機はすべてないことは確認済みだから、弟や姉に聞かれる恐れはないわ」
部屋の中を探検する理由がようやくわかった。まぁ、一応毎日そんなことをされているかこっちもチェックしていたからそれはわかっていたが。
「……いつ知った?」
「あなたがドイツのチビ兎と話している時よ」
「………」
……………え? マジで?
『まさかとは思っていたけど、聞かれていたか』
『何で気付かなかったんだよ!?』
『パターン的に寝ていたそれだったからよ。完全に油断したわ』
あ、サボりってことか。
「まぁ、十歩ぐらい譲って一夏が偽名を使ってここにいるのは認めるし納得するわ。どうせあの二人とかに自分がそうだということを知られたくなかったことでしょ」
「……まぁ、そうなんだが」
どうせ最後は知らせるつもりだったのだが、そのことを今は黙っておく。
「でも、さすがにへこんだわよ」
「そ、それは―――」
いきなり飛び着かれたかと思うと、鈴は再び俺にキスをした。
いや、それだけならまだよかったんだ。だけどこれはもうダメかもしれない。
『ちょッ!? それは深すぎ!!』
外で抗議するクロ。流石に鈴の前では具現化を控えているようだが、そろそろ具現化してほしいところだ。
ようやく離してくれた鈴はそのまま部屋を出て行った。
『………これって、間違いなくアレだよな?』
『そうね。ホの字ね』
どうすればいいんだよ、この状況。
『とりあえず帰りましょう。そしてゆっくり体を休めてあそこに行けばいいわ』
『そうだな』
そんなことでとりあえずは一度アパートへと向かう。
とはいえ最近借りたアパートで用意したのはスティングだからどんな部屋なのか少し楽しみだ。
……楽しみ、だったのだが、
「本当に普通のアパートだな」
『ボロよりマシじゃない? とはいえ、ここでも監視されているようだけど』
『俺にも安らぎが欲しい』
『ここにいるじゃない!』と自己主張しているクロはさておき、俺は自分の部屋と向かう。
『……なぁ』
『いるわね。誰か』
自分が持つ鍵とドアの番号を合わせ、ついでに鍵が刺さることも確かめる。
そして俺は意を決してドアを開けると、そこには信じられない光景があった。
(………まぁ、ここはシャドウナイツの簡易アジトではあるな)
そう言い聞かせ、もう一度目の前の光景を見るが―――それでも異常だろ。
(何がどうなればこうなるんだ)
目の前では失踪した張本人―――ティナ・ハミルトンを元令嬢のリゼット・デュノアが虐めていた。
「その程度の心構えでよくもまぁイチカ様の奴隷になろうと思えましたねクソビッチ。それともなんですか? イチカ様抜きで生き延びれるほど今のあなたの戦闘能力は高いとでも言いたいのですか? 馬鹿ですか? 大きな胸を使えば男なんて簡単に落ちると思っているんですか? 何か言ったらどうですか? それともあなたの口はイチカ様の《自主規制》を入れるための《自主規制》だとでも言いたいんですか?」
「ギャァアアアアアアアッ!!!」
俺の耳に飛び込んできた18禁の言葉に対して俺の体は拒否反応を起こし、廊下を転げまわる。
それで俺に気付いたリゼットさんがこっちに来た。
「い、イチカ様!? もうお帰りでしたか。ですがすみません、まだあのメス豚の調教は済んでいないのです」
「いや、そんなことしなくていいからな」
「そういうわけにはいきません。それに師匠は仰ってました。「その男を狙う女が他にいれば、調教しろ」と」
「受けいれろを飛び越えて調教しろってどうなのよ」
具現化したクロがすぐにリゼットさんに突っ込みを入れた。
「ですがあの女もイチカ様の部下なのですから、体を差し出すのは当然のこと」
「いや、いいから服を着せてやれよ」
もうそろそろ首が持たない。
「わかりました。私の胸は義姉と違って乏しいので満足させられるか自信ありませんが、イチカ様の命令とあればしかたありません。良かったですね、新入り。服を着ることができて」
さっき近づいた時に肌色が多かった気がするので、一応そっちも注意しておく。
「いや、お前も着ろよ?」
「……わかりました」
渋々と言った感じでリゼットさんも服を着る。というか、
「ハミルトン、お前が失踪と言う名目でレヴェルに来ることは知ってたが、まさか同行とはな」
「私もそれは知らなかったのよ。それに気が付いたら首輪を付けられた状態で下着姿になっていて、二人が来るまでずっと恥ずかしいことをされていたわ」
「悪いな。まさかあの子が俺の部下になっているなんて知らなかったから」
というかまさかあの子が性に関してあそこまでできるとは思わなかったから。あれも実家の影響なんだろう。
「では改めまして。本日0900付でアイン様の部下になりました、リゼット・デュノアです」
普通にそっちで呼べよと言うと、「でもそっちが本名ですよね?」と返されたので俺は黙るしかなかった。
「まぁ、ここにいるのはクロさんを除けばアイン様の部下しかいませんが」
俺は思わずハミルトンの方を向いてしまった。
「私も初耳なんですけど!?」
「言ってませんからね。時間がなかったのでそっちよりも調教を優先するべきだと思いましたので」
あの夫人の血はちゃんと受け継がれているらしい。
「で、これで全員そろったのか?」
今回はこのアパートにある潜水艦でレヴェル島に移動することになっており、俺はクロを除けば一人だけと聞いていたのだが、この二人が来るのをクロは把握していたようだ。サプライズなのか?
「いいえ。後一人来るわね」
「ISを含めれば二人だけど」と続けるクロ。ということはクロみたいに具現化できないISということか。
―――ピーンポーン
ドアチャイムが鳴り、リゼットが素早く動いて俺とクロはその後に続く。
ドアが開くと、そこには女児を抱えた見覚えのある女性がいたのだが、
「警察だな」
「待ってアイン君! これには深いわけがあるから!!」
そう言われても、さすがにこの状態で「人さらいじゃない」と言われても説得力がない。
だが俺はクロに止められて電話をしまう。
「私の影響かしら…?」
そう呟くクロが気になったが、時間が惜しいのでとりあえず荷物を持って俺たちは潜水艦の方へと移動した。
■■■
―――某所 潜水艦
「進路はここからレヴェルだ。ほら動けよお前ら! 動かないと給料は出ないぞ!!」
そう言ってゼロは艦長席に座り、来ている服のジッパーを下げる。
その隣にはM―――マドカが立っていたが、そ気を遣った船員が椅子を用意した。
「ありがとう」
するとその船員は顔を赤くしてその場から走り去る。
そのことを理解できなかったマドカを見てゼロは密かに笑った。
その様子を見ていたひとりの少女がこちらに来てゼロの服の裾を引っ張る。
「…起きたのか、ティア」
「……うん。姉様たちとの出会いが近いから」
ゼロはティアを膝の上に乗せ、まるで妹を撫でるかのようにティアの髪を撫でる。
「艦長、進路調整終わりました」
「そうか。じゃあ発進だ。それと整備員に伝えろ。ゼフィルスをいつでも運べるようにしておけってな」
「ハッ!」
指示を受けた船員はブリッジを出て、まるでがそれが合図かのように艦が発進した。
ということでオリジナル編。ここでいくつかの疑問点が明かされます。(たぶん)