―――アインside
「ちょっと、よろしくて?」
二時間目が終了後、クラスだけでなく外にいる女たちからの圧力に耐えながら(といっても温いのでそんなにないが)教科書を読んでいると一人の女生徒が現れた。
その女生徒はここ最近現れる『女尊男卑』に染まりまくった哀れな金髪ドリルだった。というか中に黒い服着ているみたいなんだけど、暑くないのか?
そんなことを考えたのはほんの数瞬であり、俺はその女を警戒するような目を向ける。だってそいつの目は俺を見下しているから。
しかもどういう因果か、何故か織斑まで現れた。
「悪いけど君は下がっていてくれ」
「何ですの、その態度は。このわたくしが話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら」
俺からしてみればISに乗れてそんなにいいことないし、たかが500に満たない程度の機械に乗れて何がそんなに誇らしいのかわからない。
「ごめんね。僕、君みたいな人間は知らないし」
「何だ。態度が悪いからお前の知り合いかと思った」
そう言うと二人は俺を睨む。織斑に至っては「それはどういう意味だ」と聞いてくるが、自分がしたことを忘れているとは、記憶障害か?
だが、彼女にとっては自分を知っていないのはおかしいということらしい。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを?」
人の話を聞くことから覚えろ。知らないと言っているだろ。
「ん? 代表候補生?」
ふと、思ったことが口に出ていたのかオルコットがこっちを見る。
「あなた、まさか代表候補生を知らないとか言いませんわよね?」
「いや、知らないけど」
途端に周りが転けだした。目の前にいた二人は俺を信じられないような目でこっちを見ている。
「あなたっ、本気で仰ってますの!?」
「何度も言っているだろ、知らないって」
耳悪いんじゃないか? というか俺はここ最近ISと操縦者を討伐していたのだが、それの強いか弱いかの違いだろ。そもそも敵のことなんて興味ない。全員潰したし。
「信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら? 常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら…・・」
ほとんどがゲームをするために使われていたけどな。
「で、代表候補生って何だ?」
「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。…・・あなた、単語から想像したらわかるでしょう?」
「へー、エリートなんだ」
「そう! エリートなのですわ!」
これで自称エリートが二人。もう一人は目の前の男だったりする。
オルコットは俺の目の前に人差し指を向ける。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「何言ってるの、君」
いきなりだが、織斑が会話に乱入してきた。
「君と同じくするだけでも奇跡? それはこのクラスの女子に言えることでしょ。僕たちは本来なら女しか動かせないISを男で動かせるんだよ? だったら君が僕たちと同じクラスになったこと自体が奇跡じゃないか」
「さらに言うと、高が代表候補生程度で威張るな。お前より強い人間なんていくらでもいる。現にこのクラスの担任は元代表だしな」
織斑の言葉に俺は追い打ちをかけるように言葉を続ける。この女とクソ女がどちらが強いかと聞かれれば俺は間違いなく後者を選ぶ。だって白騎士だしな。それにこっちは何人も代表クラスを潰しているんだ。……男だからって見下している奴はどうなったか知らないが、おそらくはまともなことにはなっていないと思う。いや、まぁ……知らないが。
「……!!」
それに気付いたのか、今更ながら顔を引きつらせるオルコット。何かわからないが、こういう女は地獄を味わうのだろう。
「あ…、ところでオルコット」
「何ですの?」
俺が声をかけると、オルコットは案の定、俺を睨む。
「後ろに金棒を持った鬼がいるんだが」
「何を言い出すんですの? オーガなんてこの世に―――」
「……ああ。確かにそうだな。この世に鬼はいないだろう」
第三者の声にオルコットは驚きながら後ろを見る。そこには憤怒の表情でオルコットを見下ろす
「だがオルコット、私としてはそろそろ授業を始めたいのだが?」
「そ、それは―――」
―――スパァンッ!!
そこは謝っても無理―――事実上のBad・Endだ。
「それとウォーヴェン。私が鬼とはどういうことだ?」
「いや、これは誰が見ても同じ表現をするから言っただけですよ。言う勇気がないだけで」
まぁ、少しは自分がした過去でも思い返してみればいい。
「……そうか」
だが少しばかり気にしていたのか、それだけ言って教卓に戻る。何か思うところがあったのだろうか? まぁ、俺が「
■■■
針のむしろな目に合ったからか、俺はもらった鍵に書かれた番号とドアに埋め込まれた番号を確かめてドアを開ける。
(一人部屋か)
中に入ってしばらくすると、俺はそう確信した。……自分で言うのもなんだが、俺は要人なんだから護衛とかないのだろうかと思うのだが、適正試験の時に俺を無理やり連れて行こうとした奴らの骨を折ったからそれは仕方ないかもしれない。
『世界に反抗する邪魔者って認識されたんじゃない?』
その言葉のすぐに俺の胸元が光り、目の前に小柄の少女が現れた。
「……周りに見られたらどうするんだ?」
「大丈夫よ。設置されている監視カメラはすべて壊しておいたから、誰からも干渉されないわ。だから、やり放題よ」
「AIなのに生意気だな」
というか何をする気だ。やり放題って、意味がわからない。
「………相変わらずそういうところは鈍感よね」
「おい待て。まるでそれじゃあ俺が女の好意に気付かない最悪最低な織斑秋羅って言いたいのか?」
「向こうの方が性質悪いわよ」
いや、まぁ、確かに気付いていたな。言われてみればあっちはそれを利用して俺を苛めてきていたのだから。
「それで、どうするのよ」
「何が?」
「こんなところに戻ってきたのはいいけど、アンタはこのまま普通に待つだけ? そんなのつまらないじゃない」
「戻れ」
胸にあるアクセサリーを二度叩き、目の前にいる女が吸い込まれていく。ふと、昔にみた「アク○ちゃん」を思い出した。
『ちょっと、何するのよ!!』
何するのよと言われても、余計なことをされてもたまらないし、しばらくこいつのことは隠しておきたい。というか、
『ここに来る時に言ったよな? 大人しくしておけって』
『……だって。たぶん来るから』
『…わかってる。だが、それも時期を見てからだ』
『……うん』
ここに来たのは、これから忙しくなるから学業というバカンスを楽しむためじゃない。ほかの代表候補生と同じで他国の機体レベルがどれだけ高いかという確認と、
『たぶん、もうすぐ現れるから、私の半身が』
『わかっているさ』
俺の専用機『黒鋼』を元の存在に戻すことだ。
■■■
俺の機体はちょっと特殊だ。
元々俺が表で普通に暮らしていた時にすでに自我を得ていたらしく、過去に人を助けて以降、元に戻っていないって話をするが、能力的にもそれだけで戦えると思っている俺にしてみれば、完全体になるということはどれだけの出力を出すのかと思うと恐怖対象でしかない。
まぁ、本人とまとな会話をして以降は率先して問題を起こそうとするので、別の意味で問題を起こそうとするので孫悟空を戒める三蔵法師のように監視をしないといけない。
クラス全員が教室に入った時、織斑千冬と山田先生が教室に入ってくる。
「今日のSHRと一時間目はクラス代表を決めるための時間として使用する。決まり次第は授業を始めるので教科書は用意しておけ」
その指示に従い、何人かは教科書を出し始めた。
「わかっていない者もいるかもしれないので念のために言っておくが、クラス代表は生徒会の開く会議や委員会への出席…・・つまりは一般校で言う委員長や学級委員という役職が担う者だ。そして今度行われるクラス対抗戦にも出てもらう」
そう言われて、俺はもちろん拒否したい衝動に駆られた。
―――何でそんなものに出なければいけない
そもそも俺は頭がお堅い馬鹿共にここに入れさせられたんだ。データを取りたいためにな。……最悪の場合はあの権利を使うか。
「はい! 私は織斑君が良いと思います!!」
「私もそれが良いと思います!!」
「じゃあ、私はウォーヴェン君で」
「ちょうどいいんじゃない? 素質あるし」
ワイワイガヤガヤと騒ぐ集団。後の二人は明らかに俺に恥をかかせようと考えている奴らだろう。
「では候補者は織斑秋羅とアイン・ウォーヴェン。他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「あ、俺は辞退します」
わずかに手を挙げて俺は発言する。
「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権はない。選ばれた以上は覚悟を決めろ」
……やっぱりそう返すと思った。まぁ、どう考えても織斑の方が人気だから俺が選ばれることはないだろう。
―――バンッ!!
急に机を叩かれる音が響き、昨日の女が立ち上がった。
「待ってください! 納得がいきませんわ!!」
と、いきなり周りに喧嘩を売る発言をする。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか!?」
……は? 何言ってんのこいつ?
俺は半ば呆れながら意味不明な女の方を見る。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
こっちはこんな堅っ苦しい場所に閉じ込められているんだけどな。というかイギリスも島国だからな。極東はともかく。
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
興奮しすぎか、オルコットは
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくていけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
「イギリスだって大した国自慢はないでしょ。世界一まずい料理で何年覇者に輝いていたっけ?」
今度は織斑がイギリスを侮辱し始める。よっぽど許せなかったんだろう。俺なんてとっくに冷めていた。
「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先にしたのはそっちでしょ。それとも君は鳥頭なわけ?」
うわぁ、うるせぇ(棒読み)。
というか良いのか? いくら一時間目も使うからとはいえ、あの鬼が黙っているのか? まぁ、織斑は頭がいい(笑)から優遇されるからなぁ。
「で、ハンデはどのくらいつけるの?」
「あら、早速お願いかしら?」
「何言ってるの? 僕がどのくらいのハンデを付けるべきかを聞いているんだけど?」
途端に周りは笑い出す。そりゃそうだろう。このIS学園のほとんどの生徒は一般人、しかも男より女が強いと思っている連中ばかりだ。
「あ、織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「二人は確かにISを使えるかも知れないけど、それは言い過ぎよ」
織斑の表情を確認すると、織斑は悪魔的な笑みを浮かべていた。
(……絶対に動かしているな、アイツ)
織斑がISを動かしたのは中学三年生の私立校の試験日になっているが、おそらくその前に動かしているだろう。
「…じゃあ、ハンデはいらない」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」
ここは黙っておこう。俺が所属する機体があればISなんて潰せるよなんて言ったら絶対に各国がうるさい。
そう思っていると、あのクソ女は、
「それにもう一人の方なんて言い返す根性もない臆病者。ろくな教育を受けてこなかったんですのね。まぁ、所詮東洋人なんてその―――」
「で、織斑先生。その決闘はいつ行うんですか? 俺は今すぐこの場でしたいんですが」
もちろん、殺しをだ。それ以外の何がある。もし要求するならイギリスを叩きつぶすだけだが?
「落ち着け。勝負は一週間後、第三アリーナだ。いいな」
「……チッ」
あの人たちを侮辱したあのメスの首を今すぐ飛ばせると思ったのに。融通利かせろよ。
「……クスッ」
後ろからまるで「逃げたな」と言わんばかりに笑うオルコットの声が聞こえたが、「秘密を守るため」と自分を抑えて何とか事なきを得た。―――わけがなかった。
『ねぇ、あの女―――今すぐ殺していい?』
「ストップの方向で」
その後、授業を無視しての再三の説得で納得してもらえたが、今度の試合でオルコットの絶望は確定したようだ。