IS ~黒き鋼の復讐者~   作:reizen

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惚気なんだよこれは


第20話 既に黒化は進行していた

 最初はただの落ちこぼれとしか思えず、ただの親友の弟だから少しは目にかけている―――そんな程度の認識だった。

 九つも離れていたし、正直恋愛云々には全く興味がなかった()にはただ彼は目の上のたんこぶとしか思っておらず、このまま邪魔になるなら事故に見せかけて消そうかなとすら思っていた。幸い、身体的にも技術的にも力があったから。

 だけど彼は、私には予想できない方法で進化し、私や親友、そしてもう一人の弟すらも超えていたのだ。―――8歳で。

 

 

「……水分が欲しい」

「はい、束様」

 

 いつからそこにいたのか、周りに対して注意散漫だった私の後ろについ半年ぐらい前に拾ってきた遺伝子強化素体(アドヴァンスド)のクロエ・クロニクル(くーちゃん)が台所の方へと向かっていく。

 

「うぅ……やりすぎて痛い」

 

 そう呟いた私はその後処理のためにいくつか機械を操作して片付けさせる。一日十回もしちゃうから、もうその量は凄かった。流石は私!

 ……だけど、一人でする時の空しさも半端ない。

 

「……いっくん」

 

 帰ってきてほしい。ずっとずっと、私があなたの面倒を見るから。

 戻ってきてほしい。ずっと私のところで、あなたが飽きるまで癒してあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 これは彼の話。

 彼は弟よりも勉強、そして小学生に上がると同時に始めた剣道の腕は劣っていて、私は当然聡明だった弟を気に入った。

 そんなある日。彼は師範だった父に言った。「剣道を辞めたい」と。

 

「元々姉にやらされていた剣道です。それに、今のあの家に俺を遊ばせておく余裕はありません」

 

 その時の話は母に聞いた。だけど、妹も聞いていたんだ。

 その話を聞いていた妹は抗議しに行った。本当に何も知らずに、ただ剣道を愚弄されていると思ったんだって。だから「お前は臆病者だ」って何度も言ったらしいの。

 当然、両親はそのことを謝ったけど、妹は「謝らなくていい。そいつが悪い」と言って止めに「弟はあんなに頑張っているのに、どうしてお前はそうなんだ!」って言った。

 

 ―――その瞬間、彼が何かをしたかと思ったら妹は倒れたんだって

 

「すみません、二人とも。早急に手術でも何でもして口に入れた物を出した方が良いですよ」

 

 何でもない風で彼はその部屋を出て行って、荷物をすべて持って帰って行ったんだ。

 話を聞いた私は飛び出して、後を追った。すると道端には彼の弟が倒れていて、妹と同じような状態だったから急いでその弟を連れて彼を追った。

 幸い、まだ家の前にいた彼。それを止めて治療薬をもらおうとすると、

 

「そんなのありませんよ」

 

 だから私は衝動的に彼を殴り飛ばしていて、思いつく限り罵倒してやった。

 だけど彼はなんでもない風にこう答えた。

 

「それだけですか?」

 

 まるでどうでもいいと言う風にそう答えた彼に、とっておいた切り札を言ってやった。

 

秋羅(あっくん)と違って出来損ないのくせに!」

 

 すると彼は常人じゃ立ってられないほどのダメージを受けたはずなのに私の方に歩いてきた。

 

 ―――満面の笑みで

 

 そしてすばやく私の髪を絡め取って引き寄せる。あのオヤジは余計なことを覚えさせたなと思いながらもすぐにそれを振りほどこうとしたら口に何かを入れられた。

 

 ―――すぐに吐き出さないと

 

 直感的にそう思った私は吐きだそうとするけど、もう手遅れだった。

 心臓と顔はかろうじて動き、指先から腕や足、上半身ですら動かない状態で私は親友の家の前でまるでやられかけの動物のようになっていた。細胞レベルでオーバースペックなはずの私が。

 

「えっと、確か女の人って―――胸を晒されたら恥ずかしいんだっけ?」

 

 そう言って彼は丸い何かを私の胸の上に落とす。すると服が溶け、自作のブラジャーが溶け始め、見せてはいけないアレを見せられた。

 

「でも意外だったなぁ。天才って言われてる束さんも―――所詮はそこらへんにいる人間と変わらないなんて」

 

 そう言いながら、私の口にまた丸い物を入れる。

 

「あ、先に言っておくけど、俺を罵倒して倒れた奴とはこの薬は違うから。まぁ、束さんは苦しむ程度で済むレベルに調整してるけど、最悪死ぬから」

 

 満面の笑みでそう告げた彼―――織斑一夏。三つほど入れられた私は気を失った。

 

 

 

 

 

「それで惚れるなんて束様はどれだけMなんですか」

「えぇっ!? いくら何でもそれはおかしくない?!」

「いえ、誰だってそんな話を聞けばこんな反応になると思います」

 

 そこから言い合いが始まり、篠ノ之束の飛空艇は珍しく騒がしくなるのだった。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

―――アインside

 

「まさかゼロがスティングの弟だなんてな」

 

 ゼロと楓の存在がレヴェル内で存在が認知がされてはや数週間。もうすぐ夏休みが終わり、俺は帰り支度をしながらそんなことを呟く。というか「ドーン」って何だよ。

 

「本当に意味が分からないよな、このネーム」

「だからゼロって名乗っているのか」

「まぁ、そんなところだな」

 

 そう言いながらゼロも荷造りを始める。ところでさっきから盗聴器とかがたくさんある風に見えるのは目の錯覚だろうか?

 

「あ、これ?」

 

 俺の視線に気付いたゼロは機械の一つを指す。

 

「これは学園内のある一室に仕掛けるカメラ。これで楯無のパンツがばっちりと撮れるようになっている」

「へ、変態だ!!」

「それがどうした。お前の嫁たちに手を出していないだろ」

 

 平然と認めるゼロ。もうこいつは末期すぎる。

 

「大体こっちは七年もエロいことを我慢したんだ。そろそろ解き放っても良いと思う」

「……絶対俺に干渉してくるなよ」

「大丈夫。お前や雑魚い方が余計なことをしなければ命の保証はしてやる」

 

 絶対に接触してこないでほしいが、俺が男性操縦者である以上はそれは無理だろう。

 

「あ、凰鈴音とラウラ・ボーデヴィッヒの写真もあるけどどうする?」

「いや、いらねえよ。というか何でそんなものを持ってんだよ」

「売れば金になるなかぁって」

 

 普通に考えて訴えられたら負けるんだが、こいつのことだからその対策もばっちりなんだろう。何せあのスティングが認めるほどだから。

 

「まぁ、更識姉妹の写真の量に比べると圧倒的に少ないのですが」

 

 そう言うのは何故か更識に似ているティア。

 何故そんな姿をしているかというと、ISが人間体になるのに必要な条件の一つで「操縦者の理想となる」というものがあるらしい。クロの場合は俺の理想の女だが背が低く―――というわけではなく、たまたま出会ったのが9歳ぐらい(その時はまだ篠ノ之道場に差し入れを渡しに通っていた)だかららしい。それでも少しは大きくなったのだが、俺は年下好きではない。

 そしてティアの場合は―――

 

「彼が更識の現当主と別れたのはちょうどこれくらいでしたので」

 

 何というか、静かな雰囲気がある妹に似ているのはティアの性格がそれだからだろうか?

 ちなみにアテネはクロを反転させた感じなだが、それはクロが昔スティングを助けるために出会い、別れるために手助けとなるためにコピーを生み出したかららしい。

 さらに補足だが、普段は元からある金属変換装置として特殊なクリスタルを変換し、映像として人の形をしているために普通に見る分には人間と変わらないらしいが、ある一点の部分だけは構築できないらしい。つまりは子供ができないということだからどの箇所かは言わなくてもわかると思う。俺も理解したからそれ以上は追及することは止めた。

 

「つまり私たちISの意識はその操縦者のイメージ通りに構築されるの。場合によって男型の意識が芽生えることがあるわ」

 

 という講義を受けた俺は思わず納得した。……って、あの時から既に俺は癒しが欲しかったということか? それはそれで嫌だな。

 

 ―――閑話休題

 

「ちなみにですが、あの段ボールの中には主に姉の方の写真がたくさん入ってます」

「………」

「別にいいだろ、それくらい」

「アウトだろ」

 

 軽く三つはあるんだが、どれくらい溜めこんだんだろうか。

 

「というか、こんなに写真を撮るなら帰ってやれよ」

「ん~。それはちょっと無理かなぁ~」

 

 表情に陰りが入り、俺が言ったことが地雷だったことに気付いた。

 

「悪い。無理だからここにいるんだったな」

「それもあるけど、俺を探すためにロシアの代表になるとか言い出したから体を狙われる可能性が出てきたからだ。そのための掃除をするなら身を隠していた方が便利だし―――なにより、そっちの方が地獄を見せやすい」

 

 その目は本気だった。絶対に注意するべきだと思えるほどにな。

 

「ゼロ! そこにいたのか!」

 

 遠くからマドカを引き連れたコウが現れた。数週間もすれば兄としての自覚が出始めたが、今は「どっちが兄か姉か」ということで論争している。

 

「どうしたんだ、コウ」

「いや、さっきスティングからアルとマドカと一緒に乗るように言われたのでな」

 

 どうやらいつものコンビにマドカも同伴するらしい。

 

「別にいいが、コウは嫁さんはいいのか?」

「よ、嫁じゃない!」

 

 ちなみにコウはあのボロボロだった女性に振られ、今は娘と付き合っている。つまりシャルロット・デュノアと付き合っているのだが、いくら何でもドロドロすぎないだろうか?

 

(しかも断られ方が悲惨だったからな)

 

 覚悟を決めて告白したら「夫とやり直すから」と言われ、代わりに娘を紹介させられる状況になったのだからさぁ大変。それでなし崩しで付き合っているみたいだが、果たしていつまで続くだろうか。

 ちなみに元デュノア社長ことアラン・デュノアは愛人だったミレーヌさんを選んだ。そのため、本来ならデュノア家に戻るはずのリゼットがこっちで住んでいるのだが、正直別の意味で迷惑している。

 基本的に俺の部屋にはクロも住んでいるが、時たまリゼットが侵入してくるのだ。

 

(なんとか年相応の甘えだと割り切れているが、いずれそれが効いてくるかどうか)

 

 幸いの救いと言えば、ハミルトンとナターシャ・ファイルスがあまりこっちに来ないということだな。元々前者は俺に近づくために来たものだし、後者はクロの影響で人間体となった福音改めシェリルの世話だろう。

 

(というか、そう考えると結構バラバラになったよな)

 

 そもそもあの隊列付けも仮のようなものだったし、俺の直接の部下となったのは結局はリゼットのみ。一人は元からか自堕落な生活をしているし、もう一人は育児に忙しいし。

 

 ―――ピピピッ

 

 ゼロの方から端末が鳴り響く。それを見たゼロは嫌な顔をした。

 

「げぇ。呼び出し食らった」

「すぐに行った方がいいぜ。スティングはよく女を連れ込んでいるから」

 

 そう言うと顔を青くしてティアを連れて消える。するとさっきコウたちが現れた方向からリゼットが現れた。

 

「アイン様。ゼロさんは見ましたか?」

「ああ。さっき呼ばれたから総帥室に向かったけど。何か用か?」

「いえ。私も皆様方に同行することになったのでその挨拶に来ました」

 

 どうやらリゼットの機体もIXIS化をしたらしく、これからやる強襲作戦に参加するらしい。

 

(何だかんだで大所帯になるな)

 

 とはいえ俺たちはなんだかんだ明るい組織だからこの人数でもいいかもしれない。言わないけどな。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

―――総帥室

 

 ゼロがそこに来たときには既に呼び出された面子が揃っており、そこにはティアとアテネを除けばゲイル兄妹しかいない。

 

「で、俺たちだけ集めて何を企んでいるんだ、兄貴」

「そう勘ぐるな。ただお前たちに確認するだけだよ―――本当についてくるかを」

 

 その言葉にすぐに返したのはサイレスだ。

 

「確かにアタシには良い世界かもしれないけど、正直あんな低能たちと同レベル扱いは嫌だから動くわ。お兄ちゃんもでしょ?」

「え? 俺は更識さえ手に入れば何でもいいけど」

「………」

 

 ゼロの言葉に頬を膨らませるサイレス。その顔はいつもクールな女ではなく、年相応より少し下を思わせる少女となっている。

 

「ま、そう言う意味じゃここは最適だしな。それ相応の貴族身分さえ保証してくれるなら協力するさ」

「ゼロにはその貴族たちをまとめてもらう予定だが……堕落するなよ」

「大丈夫。女は更識以外は興味ないから」

 

 自信満々にそう答えるゼロ。その言葉にゼロを除く全員がため息を吐いた。

 

「では始めようか。ゼロ、君はこのメンバーを引率してアインのサポートを頼む。こちらからは整備技術員を数人しか送れないが」

「大丈夫だ。俺の零騎の調整はクルーたちがやっていたからある程度のサポートはできる」

「そうか。ではサイレス。君は後からとある連中を連れてきてくれ」

「とある連中?」

 

 サイレスの言葉にスティングは邪悪の笑みを浮かべ、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――倉持技研第二研究所の移住志願者たちだ」

 

 

 

 

 

 

 




ということでオリジナル編がすぐに終了

これから学園祭編が開始します。
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