第21話 ISを動かす条件
―――アインside
ゼロの艦「ファングオーガ」に送られて仮住居に戻ってきた俺は、その場所で一日休んでからIS学園に戻った。
というか何で牙鬼?
(まぁ、それはともかくだ)
およそ夏休みギリギリまで戻って来なかったから色々と変わっているだろう。とはいえ俺の場合はゼロの強さを見せつけられたり楓のことでいろいろあったり、篠ノ之夫妻がいつの間にかレヴェルに移住しているとか知ったので正直色々と疲れている。
だから大人しくしていたのだ。例え怪しい視線を感知していようとも関わらないようにしていた。
「久しぶりだな、アイン」
どうしてこいつはそんなに乗り気なのか一度聞いてみたいが、ボーデヴィッヒを久々に見て俺は何故か和んでしまう。それほど刺激的な日々を送っていたからだろうか。というか、
「今日も普通に会っただろうが」
「いや、そうではなくてだな。私が言いたいのはこうやって二人っきりになれたことだ」
「あー………」
確かに今は凰が――いや、鈴がいないし、久しぶりと久しぶりだ。
ところでボーデヴィッヒさんや、さっきから体と体が当たっている風に感じるのは気のせいではないと思うから早急に退いてくれるとありがたいな。
『とか言いながら地味に鼻の下を伸ばしているよね、あなた』
リゼットと散々一緒に寝たのにな。妹属性とは何かと縁があることに俺はどこか罪悪感を感じる。その妹は友達に恋しているのだが、どうすればいいのだが。
(そういえば、俺が出る時にいなかったな)
まさか盗撮しに行ったのならゼロから引き離すことを検討しなければならない。
そう考えているとボーデヴィッヒがいつの間にか俺の顔を覗き込んでいた。
「考え事か? まぁ、私との結婚生活を考えているなら、今すぐ現実にするが―――」
「しなくていい。というかできないだろ。俺まだ15だぞ」
「既成事実を作れば問題ない」
「問題大アリだ馬鹿」
既成事実を作ると言うこと自体が特にな。
「……むぅ。やはり興奮しないか」
「何が?」
呟くようにそう言ったボーデヴィッヒ。しかし、次に出た言葉はさすがに度胆を抜かれた。
「だがお尻には自信がある!」
「お前もう黙ってろ!!」
俺が不在の間、ボーデヴィッヒは抜けていたはずのネジの穴から大事なものが出て行ったようだ。
そして俺は、彼女がこんな風になったのは弾と歩いていたあの女性が原因だということを後に知ることになる。
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生徒会室。
そこの会長の席に一人の女生徒が座っており、一人の資料を見ていた。
―――アイン・ウォーヴェン
その人物が前々から異常だと言うことを見張らせている人間から報告は受けており、実際横やりがあったとはいえ軍用機をたった一人で沈めたことからその少年が持つIS「黒鋼」ももちろんだが、彼自身も場馴れしていると彼女は思っていた。
「どうにかしてこっちに引き入れたいわね」
そう呟くのは生徒会長の更識楯無。彼女は日本の暗部組織の当主でありながらロシアの代表を務めており、ロシア製のISを持っている。そんな彼女はある意味色々と狙われる立場にあるが、実はそれほど怪しい仕事がないということが怪しいと思っていた。
そんな彼女の言葉には近くにいた女生徒が紅茶を持ってくるついでに反応した。
「あの噂が本当でしたら、おそらくは希望はないでしょうね」
「……ああ」
楯無自身も「噂」というものを知っていた。
―――曰く「アイン・ウォーヴェン」は織斑一夏だ
千冬や真耶以外の教師や裏の人間ではまことしやかに囁かれている噂であり、ISを動かせるのは「実は織斑だから」という説があるのだ。実際、楯無たちもその噂を聞いた時に秋羅のことを調べたのだが、正直この三姉弟の関係は不安定すぎる。なにより、周りの「一夏」に対する評価が冷たすぎたのだ。
それ故に二人は「アイン・ウォーヴェン」が「織斑一夏」だった場合はすぐに敵とみなし、すぐに作戦責任者から千冬を外すように手を打っている。
「それもあるけど、こっちもよね」
楯無はある資料を出す。それは大半がロシア人であり、楯無自身が共通している。
「しかもこの人たち、全員私を見る視線がいやらしかったのよね」
「それは自意識過剰ではなくて?」
「そうだと思いんたいんだけどね」
楯無とは別の女生徒―――布仏虚にはある人物が頭に浮かんでいた。
だが同時に否定するが、そのすべての資料を見て共通点を探す。
(男…年輩……)
否定しきれなくなり、虚はとある人物を容疑者に挙げる。
「まさかとは思いますが、ゼロではないのでしょうか?」
「……………」
楯無はその名前を聞き、沈黙する。
というのも彼女はクラス対抗戦以降のあの行為をされてから無関心だったゼロのことを極端に嫌い始めたからだ。これも更識の掟故なのだが、虚はゼロの正体にはある程度当たりを付けているのだ。
そして、ある人物だったらこの死体を築くのに躊躇いがないことも知っているのだが、今のあの家ではそのことは御法度になっていた。
「そうね。あの男は絶対に殺さないといけないわね」
その笑みはとても普段の作り笑いとは違って恐怖そのものだったため、虚は意見を言えなかった。
■■■
―――アインside
翌日。俺はというと何故か凰とボーデヴィッヒに挟まれた状態で朝から始まる全校集会に出ていた。
というのも今度から始まる学園祭について話を聞くべきだと思ったからであり、ちょうどその時期にある計画を行おうと思っている。
「それでは、生徒会長から説明させていただきます」
生徒会長、か。
今のIS学園の生徒会長は更識楯無。ゼロの思い人だが、話してる感じだと一方的なストーカー並の恋だが、時たま「一緒に寝たことがある」と妄想の域にまで達しているのでもうそろそろ病院に入れるべきだろう。
「やぁみんな。おはよう」
ちなみに何故か織斑が焦っているが、そういえば昨日遅れてたな。何かあったんだろうか。
「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」
二年も裏にいたからわかるが、この女は相当のやり手だ。とてもゼロが妄想で勝てる人間とは思えないが、俺の実力が単に低いのか、もしくは向こうの実力が低いかだ。
「では今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは―――」
閉じている扇子を慣れた手つきで取り出し、それを横へスライドさせる。するとそれに応じるように空中統制ディスプレイが浮かび上がった。
「名付けて『各部対抗織斑秋羅争奪戦』!」
織斑の写真が映し出され、このホールが崩壊すると錯覚させられるほどの叫び声をあげる一同。そんなにあの雑魚が賞品にされたら嬉しいのだろうか?
「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物をだし、それに対して投票を行って、上位組には部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い―――」
織斑を扇子で指した更識は堂々と宣言した。
「織斑秋羅を一位の部活動に強制入部させましょう!」
良かった。これが俺だったら間違いなくキレてここにいる奴ら全滅させているところだった。
『まぁ、そんなことをしたら間違いなくゼロに殺されるでしょうけど』
洒落にならないことを平然というクロ。アイツなら平気でやりそうなのは怖い。だが―――
「うおおおおおおっ!」
「素晴らしい、素晴らしいわ会長!」
「こうなったら、やってやる……やぁぁぁってやるわ!」
「今日からすぐに準備始めるわよ! 秋季大会? ほっとけ、あんなん!」
いやいやいやいや。秋季大会の扱い酷過ぎるだろ!!
「……っていうかあの女、僕の了承とかないんだけど……」
『はぁ? 誰がアンタの了承なんて取ると思ってんのよ。天才(笑)の分際で』
『まったくな。というか―――今すぐ消そうかな?』
明らかに笑えない言葉をほざく一人が簡単に通信回線に入っていることに突っ込みを入れたいし、さりげなく消すことを宣言しているゼロに突っ込みを入れたい。というか向こう行ってた時にわかったことだが、サイレスがブラコンすぎてコワイ。ただ話をしているだけで殺気ってホラーだよ。
「よしよしよしっ、盛り上がってきたぁぁ!」
「今日の放課後から集会するわよ! 意見の出し合いで多数決取るから!」
「最高で一位、最低でも一位よ!」
どうして俺、こんなところに戻ってきたんだろうな。
火付け役としてやりやすい立場にあるのは理解しているが、この場にいると本当に弱くなった気がしてくる。
やがて解散となったが、俺は二人に気付かれずにその場から離れた。
■■■
「………ふぅ」
一通り的を破壊し、辺りを蹴散らす。
(最近、手加減ばっかりする練習しているな)
IXAだと通常のISより性能が高い。というのも一機一機が福音並みの戦闘力を誇っており、IXISレベルとなると少し上になる。
この計算だと女の方が強くなるが、実際のところISコアの数が圧倒的に少ないことや、量産できない点から本当にIXISは選ばれた人間が乗れるものだ。……こうして言うとまるで自分で「俺は選ばれたんだぜ」って言っている気がする。
『まぁ、実際アインの場合はあの女が設定した遺伝子情報が一致したから動かせるんだけどね』
と、さりげなく会話に入ってくるクロ。
『だとしたらゼロが動かせるのはおかしいだろ』
『ゼロの場合はその兄のスティングが動かせるからよ』
と、重大なことを遠慮なく言ったクロ。俺は思わず口に近づけていたボトルを落とす。
「……はい?」
正気に戻った俺は今もなおこぼれている温めのスポーツドリンクを拾い、飲み口の砂を払って再び口を付ける。
『だから、スティングが動かせるからよ。ゼロとスティングは本当の兄弟だから遺伝子情報は少し違うけど片方が合っているなら認識するように設定したから』
『いや待て。それは知っているが、スティングは今までIXAしか使ってないぞ』
『……たぶん意地ね』
それってどういうことか尋ねようとすると、織斑千冬が現れた。
「姿が見ないと思ったら、こんなところにいたのか」
「何の用だ?」
「脱走兵を狩りに来たというところさ」
脱走兵、ね。
言い得ているが、果たしてアンタのレベルで狩れるかどうか。
「まぁ、その気持ちはわかるがな。私もよく授業をサボっていた」
「大方、好きだった奴に振られた時とかか?」
そんな話を聞くことはなかったから知らないがな。
「さぁ、どうだかな」
と意味深に答える織斑千冬。
やがて「今回は見逃してやる」と言ってそのまま去る織斑千冬。するとクロがとんでもないことを言った。
『ビンゴよアイン』
『何が?』
『織斑千冬はただのガリベンだったスティングに惚れてたの』
俺はあまりのことにショックすぎて再びボトルを落とすのだった。