急にテレビの放送が切り替わったり、外では大型ディスプレイが空中に映し出された。
そこに映ったスティングの演説を「ただの政治家の演説」としか思っていなかった。
『さて、今回ありとあらゆる世界の電波をジャックさせてもらったのには理由がある。栄光を取り戻したい男諸君よ、レヴェル国ならば我が国に来ることを勧めよう。ここならば君たちが望む「男女平等」の世界を取り戻すことができることを保証しよう』
その言葉に男も女も全員が動きを止める。男にしてみれば幸福であり、女にしてみれば不幸の知らせそのものだからだ。とはいえ女の場合は「ふーん。そんなところかぁ」という感じで歩みを進め始める者が大半だが。
『レヴェル国はつい最近できた国だ。当然、これから色々な発展を行う予定だが、何より人手が足りていない。故の呼びかけだ。近年では男のみの不況に見舞われ、女に裏切られた者、女に見限られた者、様々いるだろう。だがここにいる女はISに苦しめられた者ばかりだ。当然、そんな世界に批判的な者も多い。何故か? それはもちろんそれ以上の発展が見込めないからだ』
そう断言され、何人かの政治家が激怒する。
『もちろん、レヴェルでも闇を、業を背負っている。だがそれはどの国にも存在し、レヴェルでもそれは例外ではない。そしてこれからも我々はその業を背負っていくだろう。それでも良いという者は是非とも一週間後、私の下に表示されている日付に指定場所に来てくれ。当日、私の部下があなたたちを案内しよう。だが当日は妨害恐れがあるが心配しなくていい。部下があなた方を守ってくれるだろう』
そしてスティングが映るディスプレイの隣に大型のディスプレイが展開され、そこにはある機体の性能が表示されている。
『これはレヴェルが開発したパワードスーツ『IXA』だ。ISにも引けを取らない性能を持っており、4月に判明した二人目の男性IS操縦者「アイン・ウォーヴェン」はレヴェル所属のパイロットであり、今映し出されているのは彼の機体「黒鋼」の量産型「白銀」だ。そして送る部下はアイン君を含め全員がエリート操縦者。とは全員がそういうのには興味がないみたいだけどね。事実、IXAはISを容易に倒している。今IS学園に行くと一部が廃墟と化しているだろう。あれはすべてIXA使い達の仕業であり、すべては私の指示だ。自分たちが強いと思いあがった女たちに対する制裁と、IXAの能力の証明。そしてこのIXAは女はもちろん、男も乗れる代物だ。そしてこの技術は世界のどこにも開示するつもりはない』
その宣言に全員がそっちに視線を向ける。つまりIXAは―――ISを超える男女ともが乗れるパワードスーツなのだ。
『だが勘違いしないでほしい。我々は女を一方的に痛めつけ、子孫を残すための道具として見ているわけではない。女たちの権利の保証されるグレードは少しは下がるだろう。だが、女の権利は保証されることを約束しよう。話は以上だ。諸君らの集いに期待する』
そう言ってディスプレイが消え、男たちはロボットに乗れるという希望で年齢関係なく湧いた。
中にはそれに興味がない人間もいたが、自分たちの権利が保証されることに喜びを見せた者もいる。
だが当然、そのことに関して良く思わない人間もいた。それは、政府と女権団。
女権主義とは正式名称は「女性権利主張主義団体」という名前であり、言うまでもなく「男を奴隷のように扱う女たちの集まり」だ。
そんな人間が政府のIS省と手を組み、スティングの演説を聞いた人間は憤りを感じていた。
「ふざけるな!」
IS以上の性能を誇る機体。現に教師部隊は壊滅と言っていいほどの痛手を受けており、15機ほどのISがダメージレベルE―――つまり修理不可のレベルに達していた。それも生徒たちの格納庫からISコアがいくつか紛失しており、被害はIS学園にある50個の内15機が初期化後の作製に入るしかなく、10個のコアが奪われたことになる。
IS学園はアラスカ条約により日本の税金で運営されているため、その失態すべては日本の責任となる。当然、これから襲う各国からの電話の嵐は尋常じゃないはずだ。
「やはりこちらから攻め込むべきでしょう。少なからず、国民たちもレヴェル支持派が現れてもおかしくありません」
女権団の代表―――小泉玲子がそう述べると周りは頷く。実際、この場において彼女がリーダーのようなものであり、省の代表―――立花清彦は頷くしかなかった。
清彦は玲子の奴隷である。
昔二人に一悶着あり、そのせいで玲子に永遠の借りを作ってしまった清彦はただただ頷くしかないくなった。
すると会議中だというのにドアが開け放たれ、一人の士官が入ってきた。
「何事だ。今は会議中だぞ」
玲子からの厳しい視線を浴びながら清彦は入ってきた士官にそう言うと、士官は顔を青ざめながらこう言った。
「アメリカのIS省から電話が……」
その言葉に全員が息を呑んだのは言うまでもない。いくらISで並んだとはいえ、アメリカには未だ頭が上がらないのだから。
■■■
「……こ、ここは……?」
「秋羅!」
目を覚ました秋羅をいの一番に抱きしめたのは箒だった。
今、秋羅と箒がいる場所はIS学園の医療室であり、一夏の黒刃と白牙に貫かれたはずの秋羅はそこの一室で寝ていた。
「あれ? 僕は死んだんじゃ……」
「……姉さんが、助けていった」
箒の言葉に秋羅は納得する。「それじゃあ生きていてもおかしくない」と。
まだ二人には大きな壁があるから仲良くなれないと思っている秋羅は、この病室が少し荒れていることに気付いた。
「どうしたの、これ」
「……それは…」
箒にとって気付かれたくないことに気付かれてしまい、箒は顔を逸らす。
秋羅は「何か言いにくいことがある」と思ってこれ以上は聞こうとしなかったが、箒が口を開いた。
「……姉さんが暴れ―――」
―――カチャッ
箒が説明を始めようとするとドアが開き、秋羅がよく知る二人の人物が入ってきた。
一人は自身の姉で世界的に有名な織斑千冬。そしてもう一人はイギリス代表候補生のセシリア・オルコット。何故かオルコットの顔色が悪いのを秋羅は気になった。
「起きたか」
「あ、うん。何とか―――」
次の瞬間、秋羅と箒が知る限りありえないことが起きた。
いや、こんなことを誰が予想できただろうか。まさか秋羅の顔面に千冬の拳が当たるなんて。
―――え?
―――は?
セシリアは何故そんなことをするのか理解している様子だが、それでも信じられない様子だ。
秋羅の顔はベッド上から離れ、壁に激突している。最悪死ぬかもしれないものだが、達人級になるとその手の手加減はできるようだ。
とはいえ、壁の凹みなどを考えればかなりの威力で放たれたのは間違いないだろう。
「……いっつつ…」
「ち、千冬さん!? いきなり何をするんですか!!」
医療室の壁が凹みと秋羅の頭から拳を外して秋羅を自由落下させる。
「どういうつもりでお前はあんなことをした」
箒の言葉は無視して千冬は秋羅に問いかける。
「どういうつもりって」
「虐めのことだ。お前も加担していたのだろう」
秋羅は「なるほど」と言って千冬に対して口を開く。
「どういうつもりだって? そんなの、制裁だよ」
「何?」
秋羅から出た言葉に対して千冬は眉をひそめる。まさかそんなことが出るとは思っていなかったからだ。
「姉さんは一夏がどれだけバカかわかってないから言えるんだよ。常に平均だったせいで「異常家族」って言われてたんだ。それがしまいに「まぐれ一族」だよ! 僕と姉さんが取った栄光がすべてマグレ扱いだ! だから―――」
「だから制裁か」
「そうだよ」
千冬はもう一度殴ろうとしたが、すぐに出た秋羅の言葉にその動作も止めた。
「それに、姉さんにも原因があるんじゃないか」
「何?」
「テストのたびに姉さんは僕たちを比較して、いつも一夏を叱ってたじゃないか! それであの三年前の事件で誘拐された。どっちかというと姉さんのほうに非があるじゃないか!」
そう叫ぶ秋羅。それを途中から目を瞑って聞いていた千冬はこう言った。
「織斑。お前に無期限謹慎を言い渡す。篠ノ之、お前もだ」
「「なっ!?」」
まさか自分もとは思わなかった箒も驚きの声を上げる。
「確かに私の一夏に対する扱いは酷かったかもしれないが、お前のように制裁を下す必要はないと思っていた。それにお前は、少しでも一夏を手伝ったことはあるか」
「そ、それは……」
秋羅は顔を背ける。それが答えと思った千冬は続けて行った。
「覚えておけ。一夏の成績が悪い原因の一つはお前でもある。そんなお前に一夏に制裁を加える権利などない」
そう言って千冬はその場から出て行く。
この時、千冬はこれから戦乱が始まることを予見しており、今回の謹慎にはその介入を代表候補生ではない二人を参加させないためという意味合いもある。だから千冬にとってあの告白は都合がよく、それに秋羅の行動の肯定派と否定派の争いに巻き込みたくもなかった。
だからこその謹慎であり、争い種をまき散らすことを防ぐ唯一の手段でもある。
それに、今のIS学園でまともに指揮できる人間は千冬を除けば誰もいない。楯無はつい昨日、政府の人間に連れて行かれてしまい、生徒会の二人に至っては日、中、独の三人の代表候補生と同じく行方不明なのだから。
■■■
日本政府が更識楯無を逮捕するのに犯罪でっちあげるまでの時間はそうかからなかった。
責任問題うんぬんだけでなく、外の代表候補生とはいえ、国際問題だろうが冤罪などすぐにどうともなるのだから。
小泉玲子は政府を動かして楯無を女権団の本部に連れてきて尋問していた。
―――それがとある人物に喧嘩を売る行為だと気付いていない
無知は罪とはよく言ったものである。
それを更識の本邸に攻めていたゼロは羅刹から聞き、笑った。
その笑みの意味を知る者にとってその笑みは最早ホラーでしかなく、更識にしてみればここで死を覚悟するだろう。
だがゼロの殺す相手はここではなく、ほかにいる。
「ティア、後は頼む」
「わかりました、マスター」
ティアは更識を鎖を覆い始め、ゼロは明らかに改造されたバイクを展開、それに飛び乗る。
「待て、暁也君」
「暁也」と呼ばれてゼロは反応する。
「君はあの子を―――いや、あの子たちを殺すつもりなのか!」
そう問いかけるのは更識重信。現楯無と簪の父親だ。
「まさか」
その問いに鼻で笑うことで答え、宣言するかの如くゼロは堂々と言い放った。
「俺の目的はただ二つ。四人を独占し、四人を狙うゴミを如何なる手段を持ってしても排除する―――それだけだ」
ゼロを乗せたバイクは更識をすべて飲み込もうとする鎖の包囲陣を突破し、女権団の本部へと向かった。
―――本物の殺意と共に