第26話 ゼロ・アサルト
「……またか」
自分用に用意されたベッドから起きた少年―――桂木暁也は布団を捲ってため息を吐く。
そこには暁也に抱き着く一人の幼女が寝ていたのだが、年齢的には何の問題もない。
何故なら二人はまだ七歳になったばかりであり、入っているところは姉弟や兄妹同士で一緒に風呂に入っていたりするのだから。
彼らも同じようなもので、今も一緒に風呂に入ったりするが、その少女に仕えている身の暁也にしてみれば混浴など本来なら以ての外なのだが、今も寝ている少女の強い要望という名のわがままにより、一緒に入っている。
現在の時間は朝の5時。そろそろ一家全員でのマラソンが始まり、小学生となった頃から参加している二人も当然でなければならない。
暁也は拘束を解いて着替え始め、それからその少女を起こす。
「起きろナナ。もうそろそろマラソンが始まるぞ」
「……あと一発」
その「一発」が何かを聞きたくなった暁也だが、それを我慢して服を脱がし始める。
「あん、キョウのえっちぃ」
桂木暁也は小学生とは思えないほど聡明だった。
暁也の頭脳はとても高く、超能力を起こすことができる人工クリスタルを生成し、それを使って火を起こしたり、雷を落としたりなんて容易にできる。
それ故か、小学一年生にして中高生が持つ「思春期」で、その年で同い年な年下、年上に欲情する可能性もある。精通が来ていないので子供ができることはないが。
だが暁也にとって少女はそんな目で見る対象ではないので、それはそれでありがたいと思っている。それでも視線をそらせてしまうが。
「雪奈さんならともかく、お前にそんな魅力があるのかよ」
「酷いわ! 私と簪ちゃんに魅力がないというの?」
「お前には何もないが簪には「かわいさ」という魅力があるだろ」
そう言うと本気で拗ねる少女―――刀奈だが、暁也は気にせず刀を連れてみんなのところに向かう。
それは何の変哲もないコンビの風景。周りは羨ましがられ、冷やかされたが二人は気にしなかった。
―――あの日までは
それはあの日から三年後のことだった。
その日暁也は用事があってその仕事を終わらせて帰ったため、四人とは別行動を取っていた。
だから事件が起こっていることなんて知らず、そのまま帰っていたのだが、
「……あれ?」
門を潜っても誰からも出迎えがないことに対し暁也は違和感を感じる。
ここ最近、保健委員になった暁也はみんなと別行動を取ることが多かったのでこういう時は決まって誰かが飛びついてくるのだが、今回はそれがない。
(まぁ、ナナの場合は胸も出てきたしな)
それでも一緒に寝ることが多いので困っているが、そのことを相談できる相手もいないので暁也は困っていた。
「ただ今戻りまし―――どうしたんですか?」
何故か慌ただしい家の中。それに違和感を持った暁也は尋ねた。
「暁也君!?」
十六代目当主―――更識楯無は驚いて暁也を見る。
「君は無事だったのか?」
「え?」
意味がわからず聞き返す暁也。そしてしまったとなる楯無の胸倉を掴み、何かあったかを聞くとすぐに自分の部屋に戻った。
そしてある物を取り出し、大人たちの制止を振り切って単身敵地へと飛び込んでいった。
その後、簪を救出した後に最深部に送られていた刀奈を救うためにもう一度乗り込む。
「……見つけた」
敵地の最深部と言える場所に刀奈は敵の大将とおり、まず刀奈を保護したが、
「………」
敵が強かった。
更識にとって弱小とはいえ、ISの登場で発展した科学を駆使しているからかそれなりにやる。それも、
(さすがに、修羅場を潜ってきたことがある大人は違う)
暁也は強い。子供の中ではなんて言わずもがな。高校生の不良相手でも十分強い。
だが相手は殺すことに対して躊躇いがない人間であり、暁也は刀奈を守りながら戦うというハンデを背負っている。
だが、幸運なことにかなりの手傷を負った暁也に援軍が訪れる。羅殺と呼ばれる機械鳥であり、暁也が二年前に造った物で、ここ最近は自由にしていたが、こういう時のピンチには主に運搬役として暁也をサポートする存在だ。
その存在を感知した暁也がよそ見した瞬間に敵将は容赦なく攻撃しようとするが、暁也が発動した術でそれを防ぐ。
そして暁也は刀奈を抱えて羅殺に命令した。
―――刀奈を連れてここから逃げろ
その指示に羅殺は異論なく従い、離脱を開始した。
勝負はなんとか暁也が勝った。
だが暁也もかなりの傷を負い、今もなお息をしている状態がやっとだ。それでも生きながらえているのは、やはり暁也の肉体が普通じゃないからだろう。
それでも傷の深さで自分の状態を察した暁也は―――ようやく離れて行った存在がどれほど大切なのかを知った。
■■■
「ということで、マスターは最後の嫁を誘拐した人間がいる本部に向かいました」
「……………」
帰ってきたアイン達一向が見たのは、本当に珍しい光景だった。
というのも今スティングがしていることは―――膝だけでなく手すらついた
「……何故、止めなかった」
「過去の事例を考えれば、無駄かなって」
「………確かにな」
なんとか回復したスティングだが、それでも本当に珍しく冷や汗をかいている。それほど今の状況はスティングにとって悪夢でしかない。
(いや、そうでもないな)
だがまたスティングは頭を抱えた。頭に半壊した日本列島が浮かんだからだ。
「……アンタがここの責任者か?」
業を煮やしたのか、更識重信が声をかける。
「ええ。あなたは―――ああ、なるほど。上はともかく、ゼロがさらった三人は無事ですよ」
「…その証拠は―――」
すると重信はアイン達の方を見ると、そこには愛する娘と従者二人が柔らかいタオルで鉄の部分が巻かれている手かせをされていた。
「ああ。おかえり、アイン。……その手かせは」
「ゼロが最初から付けていたんだ。で、その人たちは―――」
「彼らは更識家の人たちだよ。家ごと転移してきたんだ」
「「「は?」」」
そこにいた人間のほとんどがそんなマヌケな声を出す。そもそも転移技術が確立されていないのだからその反応は当り前なのだが、実際日本にあるはずの家が目の前にあるので事実だ。
「本来なら肉親を裏切ったあなたたちを処罰するべきでしょうが、弟を怒らせるとこの島が崩壊する恐れがありますのであなたたちを歓迎することにしましょう」
さらりと重要なことを言ったスティング。それに反応を示した重信たちだが、スティングは耳を近づけてこう言った。
「ああ、ご安心ください。私もそうですが、弟はあなたたちを恨んでいることはありません。「遠ざかっただけで、娘を取ることが最大の復讐」と言ってましたから」
「………」
その言葉に少し反応が悪くなる重信たち一行。彼らに向けてスティングははっきりと言った。
「さて、付いて来てください。これから住むことになる国の主な名所を案内しますので」
内心では弟の心配をしながら。
■■■
―――女権団 本部
楯無がIS学園からここに連れてこられ、二日が経過した。
その間は大きな部屋で楯無は説得という名目でいろいろなことをされていたが、
「そろそろ飽きたわね」
そう漏らした小泉玲子は今もなお睨んでくる楯無の乳房を見て自分の胸に視線を移す。
「憎たらしいわね、本当に」
そう言って楯無を乳房を思いっきり握りしめる。
「―――ッ!?」
「これであなたは一体どれだけの男をオトしてきたのかしら?」
「…私はまだ処女よ」
「でも何度もあの蛆虫たちと寝て専用機をもらったんでしょう? それで処女だなんてありえないじゃない」
「……寝たことあるけど、アイツはいっつも見てくれなかったけどね」
ちなみに楯無が寝たことがあるのは父親を除けば桂木暁也のみである。
「へぇ。じゃあ、これからたくさん寝れるわよ」
玲子は少し離れてボタンを押す。すると楯無に液体の塊が落ち、モロに浴びてしまう。
「何これ。ドロドロして―――」
「それは媚薬よ。それも瞬間的に発情してしまう」
「!?」
「あなたは何度言っても私の言うこと聞かないし、人形のおもちゃにすることにしたの」
玲子が指を鳴らすとわらわらと男たちが現れる。
その男たちは所々異様な形をしており、明らかに目が虚ろだった。
「この人形たちは戦闘タイプだけど、たまにあなたのような餌を用意してあげないと暴れて施設を壊そうとするの。だからあなたのように説得ができなかった女の廃棄役としてもうってつけってわけ。本当はアメリカかどこかに売ってあのくだらない男が統括する島に攻め込もうと思ったけど、もう動いてくれたからこっちに充てることにしたの。光栄でしょ?」
そう笑みを浮かべる玲子。
その言葉の一つ一つが発する空気に影響され、楯無の体は徐々に得体の知れない何かが蝕んでいく。
「それにしても、あなたの家来は何をしているのかしらね。主が誘拐されても指をくわえてみているだけ―――」
最後まで言おうとする玲子だが、地震に似た衝撃で言葉を切る。
―――ズドォオオンッ!!!
衝撃が何度も起こり、ようやく緊急事態のアラームが鳴り響いた。
《緊急事態発生! 緊急事態発生! 本部の強襲する人間あり! 数は一! 次々と仲間がやられています! 非戦闘員は直ちに避難を! 繰り替え―――ちょっ?! この害虫が!!》
どうやら放送室に入っているらしく放送員も銃器を構えて攻撃しているらしい。
(……ちょっと待って)
そこで玲子はあることに気付く。
(放送室って、女権団の中央部分―――普通に入り口から侵入したらかなり距離があるのよ?!)
■■■
ゼロは徒歩で正々堂々と乗り込んだ。
当り前だといえば当たり前だが、当然女の守衛が行く手を阻んだ。
「止まれ不審者。ここから先は立ち入り禁止だ」
銃を向けるに一息で接近したゼロはその守衛を壁に叩きつける。
そして銃を奪い、予備弾倉や警棒なども奪って平然と中に入る。
ゼロの来ているのはシャドウナイツ指定の黒のローブだが、西風の王城をモデルにしている女権団の本部ではその格好はかなり目立つ。
すぐにそこから移動を開始し、女を潰しながら壁を蹴り破って放送室へと入った。
「数は一! 次々と仲間がやられています! 非戦闘員は直ちに避難を! 繰り替え―――ちょっ?! この害虫が!!」
ゼロの姿に気付いた女が普通に携帯している無反動のガトリングを発砲するが、それがゼロには届かずにあたり構わず次々と放送機器を破壊していった。
「え……? 何で―――」
―――ドグシャッ
ゼロの蹴りが一撃とガトリングの破壊で女の左腕がなくなり、血が勢いよく放出される。
「ヒッ?! ……い、嫌……」
ゼロその女に興味を失い、放送室から出てしばらく歩く。
「………」
そして歩みを止め、自分が包囲されていることを自覚した。
「………」
どう見ても常人なら突破できそうにない包囲陣だと理解するが、所詮は常人の域だと思い、笑う。
「なんだ。こんな低能しかいないのか」
笑うゼロに対して飛んできた手榴弾を避けなかったゼロはもろに食らう。
(低能は貴様だ。手榴弾を避けられない雑魚が)
勝利を確信した隊長らしき人物だが、次の瞬間に後悔した。
隊長の背中に衝撃が走り、息が苦しくなるのを感じた。
「ねぇ、隊長格っぽいから聞くけど―――更識楯無の居場所を吐いてくれる?」
(無傷だと?!)
明らかに食らっていたはずの爆発のダメージを感じられないその男を見て隊長女は戦慄した。だが、
「……言う、ものか……」
「そう」
それだけ言ったゼロは容赦なくその女を壁に叩きつけ、命を奪った。
「……あ……あぁ……」
「お姉様を……よくも!!」
そう叫ぶも誰も攻撃してこないことにゼロはため息を吐く。
すると遠くに控えていたスナイパーが隙と思って引き金を引いた。
(これで―――!!)
勝利を確信したそのスナイパーも次の瞬間に絶望する。
―――カンッ、カラララン……
撃った銃弾はゼロに当たらずに形を変え、落下して転がり始める。
「スナイパー対策してないわけないだろ」
撃ってきた方角を見て笑いながらその場を去ろうとするゼロ。
その態度に怒りを覚えたその女は自棄になり、何度も引き金を引くが―――いつの間にか死ぬことによって自分が狩られていた。
「―――仲間の仇!!」
そろそろ目的地に着くだろうと予想した矢先、一機のISとその操縦者が姿を現すが、ゼロは既にそのISに接近しており、すれ違い様にそのISを消した。
「え!? どうして?!」
ISを解除されたその女は地面に着地して混乱するが、すぐに警棒を抜いてゼロに強襲する―――が、
「邪魔すんな」
お預けを食らっているゼロの渾身の蹴りで頭を吹き飛ばされて息絶えた。
「所詮、こんなものか」
そう呟くゼロ。そしてドアを開いた時―――目の前にいた女―――更識楯無を見てさっきまでの怒りを捨て、駆け出そうとする。
「―――今よ!!」
玲子は叫び、ゼロの上から得体の知れない何かが強襲した。
ということで次回に続きます。
すみません。まさか思い出話と侵入だけでこんなに字を稼ぐことになるとは思わなかったので。