そんなこんなで一週間が経過した。
現在は放課後で、今は俺が使用する機体が訓練機ということもあってか、専用機同士で戦っている。もっとも、俺には何もないというわけではないが。
音は完全にシャットダウンされており、俺の愛機の黒鋼ことクロの声しか聞こえない。
『それで、あの女を倒すための作戦は考えてきたの?』
クロが俺にだけ聞こえるように耳打ちしてくる。
専用機は使えない状況だが、俺にしてみればまったく問題ない。
俺が使うのは打鉄。本当はラファール・リヴァイヴにしたかったが、貸し出されていることと、入試の時に打鉄を使ったのが原因だろう。
『まぁ、なるようにはなるだろ』
『……そうね。あなたに対して心配という言葉はいらないか。ここは『レヴェル』でも『シャドウナイツ』でもない。
クロがそう言うと、全体に勝者の名前が知らされる。
『勝者、織斑秋羅』
どうやら織斑が勝ったらしい。所詮は候補生と言ったところか。
(まぁ、天災のところで特訓していた可能性もあるな)
そう思っていると、こっちに織斑千冬が近づいてきた。
「ウォーヴェン、次の試合は十分後に始める。その間に武装を決めて機体を慣らしておけ」
「りょーかい。で、誰が相手だ?」
興味本位で聞くと、意外な言葉が返ってきた。
「オルコットだ」
「へぇ、総当たりかよ」
「そうだ。全員が戦わないと今回は意味がないからな」
ということだが、実際はどうだかわからない。ただでさえこいつは些細な差でもいちいち比べる奴だ。双子だからとか、理由ばかりを並べてな。
「武装の選び方は山田先生に聞け。いいな」
それだけ言って今度は織斑の方に行った。だが俺は今更何とも思わない。むしろさっさと消えてくれてありがたい。
俺は指示通りに山田先生のところに向かった。
「あ、ウォーヴェン君」
まるで子犬が主人を見つけたような笑顔でこっちに来る山田先生・・・・・・って、アンタ教師ですよね。何でそんなにペット(卑猥な意味ではない)みたいな雰囲気を醸し出しているんですか? 某鉈を持ったゴミ大好き少女が一瞬にして覚醒するレベルですよ。
内心でため息を吐きながら、俺は指示に従いながら武装を選ぶ。
「う~ん」
ISには初期装備の他に拡張領域に収納する装備なのだが、どうすればいいのか迷う。
「どうしたんですか?」
「いえ。オルコットを心身ともに潰すのにどれを使おうか迷っているんです」
刀一本あればいいなんてものは所詮は出鱈目。そんなことをできる超人なんて本当に数少ない。
「・・・・・・え?」
山田先生は信じられないのか、驚いた様子だ。
「えっと、本当にこれだけで良いんですか? 相手はオルコットさんなんですよ!?」
どうやら本気で心配しているらしい。俺の人生の中で表でまともな女性に会ったのは初めてだ。
なぜ彼女が心配しているかというと、俺が入れたのは近接ブレード《葵》三本のみだからだ。
「まぁ、よく考えてみると、俺は素人なので銃とかの扱いってあまり知りませんし」
というのはあくまでも名目。実際は三本あれば一本折れても続けて攻撃できるだろうし、後は空手家が保護用としてつけるグローブと、拳銃でも入れておけば大丈夫か。
ホッと安心している山田先生。その後ろからクソ女が叫ぶ。
「何をしている。早く出ろ」
言われなくてもと思いながら、俺は渋々と外に出る。
「レディーを待たせるなんて、秋羅さんと違ってマナーがなっていませんわね」
侮蔑。そんな瞳で俺を見ていた。止めろよオルコット。お前程度がそんな瞳で俺を見てもまったくと言っていいほど堪えない。
そんなことを思っていると、回りが俺の悪口を言っているのが黒鋼を介して聞こえてきた。
『ウォーヴェン君、訓練機だね』
『これじゃあ負けちゃうね』
『まぁ、織斑君はともかく、ウォーヴェン君には期待してないっていうか』
『というか、あんな奴に期待しない方がいいって』
そんな会話が俺の耳に聞こえてきた。
(・・・・・・くだらない)
そう思っていると、オルコットが面白いことを言い出した。
「最後のチャンスをあげますわ」
・・・・・・・は? アイツ、今なんて言った?
「チャンスって?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロのみじめな姿をさらしたくなければ、今ここであなたの暴言すべてに対して詫びるなら、わたくしはゆるしてあげないこともなくってよ」
そしてオルコットは、続けてとんでもないことを言い出した。
「―――なにせあなたは、織斑さんと違って弱いのですから」
―――は?
ちょっと待てよ。こいつ、本気でそう思っているのか?
だとしたら傑作だ。俺がアイツより弱いなんて、自分で言うのもなんだが
そう。そんなことはありえない。
「くくくくく……アァッ、ハハハハハハハハハハ………ッ!!!」
やばい。だめだ。こいつが愚かすぎて、笑いが止まらない。
やっぱり愚者だ。というか、ISはここまで女を下げるのか。
「な、何がおかしいですの!?」
まさかここまで馬鹿だとは思わなかった。まさかここまで無自覚だとは思わなかった。
「いやぁ。悪い悪い。まさかイギリスはここまで屑な奴に専用機を与えなければいけないくらい、人手不足だとは思わなくてな」
試合開始のブザーが鳴り響くが、それでもオルコットは攻めてこないので俺はある動作に入る。
「ふ、ふざけないでくださいまし! わたくしが屑など、よくもそんなことを―――」
「そりゃそうだろ」
瞬時加速を行った打鉄は、量産機故かブースターがつぶれた。
通常、瞬時加速した機体はそれだけでは壊れない。だが、そのエネルギー量が想定されている量よりはるかに多ければどうなるか、言わなくてもわかるだろう。
そして通常を超えた拳には追いてこれなかった装甲は今もなお火花を散らしていた。
「たかが代表候補生のレベルであれだけほざいたんだ。殴りたくもなるし―――そもそも強いのはお前らがISを用いて自分の力だと勘違いしているしているだけだ」
左手に刀を出し、回転切りと同時に蹴り飛ばして壁にぶつけ、さらに腹部を思い切り蹴った。
ISをまとったまま落下するが、そのまま意識を飛ばせば良かったものを、プライド故か意識を保っていた。
「まったく。意識を捨てて楽になれば慰み者として生きられたものを」
はっきり言って馬鹿だと思う。刀をぶつけ、全身を痺れさせたが、たまには漫画の技も参考になるな。
「そ、そんなこと……したく―――」
容赦なく蹴り上げ、頭部を壁に叩きつける。いきなり襲った衝撃に耐えきれず、オルコットは意識を失ったらしい。
(チッ。操縦者保護システムが作動したのか。手加減したつもりだったんだがな)
まぁいいか。こんな屑なんて生かしておいても意味はない。俺が葬ってやろう。
そう思ってISを解除しようとすると、
『―――キタ』
興奮を抑えきれないという声がした俺は踏みとどまり感じる微弱な殺気に対応すると、光の刃が俺がいたところを通過する。
「おっと」
PICの操作なんて手馴れているので今の攻撃は余裕で回避。
「このっ!」
続けて繰り出される刃。というか戦いが素人すぎてアクビが出る。
「おいおい、いきなり攻撃って。いくらなんでもどうかと思うけど?」
「この惨状を見て、お前は何も思わないのか!?」
「いや、別に」
オルコットを指してどこかのヒーローみたいに言うが、俺にとってはそれは死亡者を指すのと同じだし、大抵が敵だったので優しさなんて向けない。
「この、人でなしが!」
そう言って俺に凶刃を向けながら、突進してくる織斑。途端に八方からレーザーが襲う。
(待て。今のってまさか―――)
飛んできたレーザーの元を確認すると、そこには見覚えがあるフィンがあった。
『……返せ』
「え?」
『……私の半身を、カエセー!!!』
急に俺の胸元から黒い光を放ち始め、辺りを混乱させる。
(抑えられないか。……なら)
打鉄のコアを抜き取り、ピットに投げ入れて後ろに跳ぶ。俺が逃げたのを察知したのか、織斑はコアを失った打鉄を切った。
「やったか!?」
「いや、外れだ」
『アハハハハハハハ!!』
あろうことか織斑の機体に白騎士のコアが埋められているとは想像できなかった。しかし、さっきも使っていたのにどうしてその時は反応しなかったのだろうか?
試合を見ていないため状況判断を下せずにいるが、それよりも先に管制室から直接アナウンスが入ってきた。
『どちらも剣を納めろ』
俺の場合は装甲を展開しただけだから、納めるも何もない。
『織斑、オルコットを医務室に運べ。そしてウォーヴェン、お前は今すぐAピットに戻ってこい。いいな』
それだけ言って通信を切る織斑千冬。織斑はというと自業自得と言わんばかりに俺を睨んでくるが、どちらかと言えばお前が原因だろと思う。
俺は黒鋼を纏ったままピットに戻ると、そこには俺がオルコットを痛めつけた時から用意していたのだろう、教師部隊が囲んでいた。
「随分と手荒い歓迎だな」
そりゃそうか。普通なら持っていない俺が専用機を持っているのだから。山田先生もラファール・リヴァイヴを展開して俺に銃口を向けている。
「ウォーヴェン君。すぐにISを解除して大人しくしてください」
代表なのか、山田先生は怖がりつつも俺にそう言った。クロの調子も戻っているので俺は大人しく解除すると同時にドアが開き、アサルトマシンガンを持った部隊が現れ、再び銃を突きつける。
「あー、なるほど」
ISを解除してから送り込むことでこっちの抵抗を削ぐつもりなのだろう。
「ウォーヴェン、そのISをこっちに投げ渡せ」
「………」
投げることを要求してきたので、俺は少し考えている。
というのもクロにしてみれば家が浮いた後に激突して食器が壊れて大惨事になるからできるだけ投げるのは止めてほしいと言われているのだ。
『別に構わないわよ』
『……良いのか?』
『それよりも今は、あの女の恥ずかしい姿がどうやって全国ネットに流そうかと考えている』
おそらくようやく見つけた半身を手に入れようとしたのを邪魔されたんだ。
『それに私の秘密を調べるってことでしょ? 逆にこっちがデータを抜いてやるわ』
『それはまたの機会で頼む』
今したら間違いなく疑い眼が俺に向くのはわかりきっているので遠慮することを願い、俺はネックレスになっているクロを織斑千冬に投げ渡した。
すると武装した奴らが一気に俺を取り囲み、拘束した。
「連れて行け」
「ハッ!」
俺を拘束した奴が俺を引っ張り、俺は何故か独房に入れられ、それに続くように何故か織斑千冬が入ってきた。
「…やってくれたな。よくもイギリスの機体を量産機でああも破壊するなど、普通じゃできることじゃないぞ」
淡々と話を始める織斑千冬。それよりも俺は本題を切り出す。
「で、何の用だ?」
「……あのISはどこで見つけた」
「さぁな」
正直、答える気なんてなかったので適当に言うと、襟首を掴まれて壁に叩きつける。
「ふざけるのも大概にしろ」
「ふざけてねえよ」
正確にはクロ―――黒鋼はISではない。
俺が所属するシャドウナイツでは
当初は黒鋼もISだったのだが、諸事情で俺が動かせることが判明してから本格的に拉致され、俺自身は色々と改造されたがクロが防衛本能に従って自己防衛システムを起動させ、無事だった。そして目覚めた俺がそこで本物の地獄を見たのだが、スティングとの出会いによってシャドウナイツに入隊を認められたのだ。
ちなみにだが、改造内容は脳もされていたのだが、今では何ともない。どうやらその組織の人間は腕は確かだったようだ。
「……まぁいい。ウォーヴェン、貴様に二週間の謹慎を言い渡す」
「随分と早いな。アンタの独断か?」
「そうだ」
あっさりと答える織斑千冬。何を考えているかわからないが、まぁいいだろう。
「また後で勉強道具や着替えを持ってくる。それまでは大人しくしていろ」
「へいへい」
出席簿を振り下ろそうとしてきたので、それを避ける。
「しっかり返事をしろ」
「うるせえよ無能教師」
つい、ポロリと本音が出たら俺の横を拳が通過する。
「…ほう。謹慎の身でありながら教師に喧嘩を売るとはな」
「いやいや。むしろすぐに暴力を振う時点で無能そのものだろ。大体、そんなことをしたら弟の二の舞になるぞ」
「何!?」
まさか食いついてくるとは思わなかったので、この反応は意外だった。
「貴様、どうして一夏のことを知っている!?」
「そりゃあ、俺の目の前で死んだからな。アンタを恨みながら」
「―――!?」
むしろ冷静に考えて、あれで恨まない方がおかしいことに気付くにはかなりの時間を有すると思いつつ、俺は半ば