IS ~黒き鋼の復讐者~   作:reizen

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第四話 終幕 織斑一夏

 ―――ブリュンヒルデ特売セール

 

 という横断幕がスーパーに設置されており、そこには当然幾多のも戦場を駆けてきたおばさんたちが集っていた。とはいえ俺も途中早退した俺もすでに戦闘モードに移行している。

 

「……何で俺まで……」

 

 俺の隣には、俺と同じで早退した五反田弾がそうつぶやいているだけでなく、呟き専用のSNSにも投稿しているところを見るに、かなり神経をすり減らしているだろう。

 ただ、弾の場合は早退したではなくさせられたという方が正しいのだが、それについてはあまり触れないでおく。

 

「それはもちろん男手が欲しいからよ。お爺ちゃんは定食屋があるし、お父さんは仕事があるから」

「だったら蘭も連れてこいよ!」

「あら、蘭は学校があるじゃない」

「俺も学校があるんだよ!!」

 

 弾は五反田家で明らかに差別されている気がしなくもないが、正直俺は五反田家がうらやましく見えた。

 家族団らんを物心付いた時から味わってない俺にしてみればそんな程度の低い格差なんて些細な話だからだ。

 

「でもすごいわね、千冬ちゃん。あの時の優勝はまだ高校生だったんでしょ?」

 

 と、連さんは無邪気に俺に聞いてくるが、弾は何かを察したのか注意する。連さんも俺のことを思ったのだろう、謝ってきた。

 

「ごめんなさい、一夏君。ちょっと無神経だったわ」

「いえ、気にしないでください。身内が褒められるのは素直にうれしいですし」

 

 そう言うが、理由は別にあった。

 

「―――こんなところで会うとは偶然ね、出来損ない」

 

 後ろから声をかけられたので振り返ると、振り返ったことを後悔したのですぐに視線を戻す。

 もうすぐすれば誓約書を書いてクジを引くのだから、クジ運がない俺はすぐに後ろの方に行くだろうから、離れられ―――

 

「ちょっと、出来損ないのくせに無視しないでくれません!」

「……ちょっと君。さっきから一夏君を出来損ない呼ばわりとはどういうことかしら?」

 

 俺が出来損ない呼ばわりしていることが気に食わなかったらしい連さんがそう言ってくれることに泣けてきたんだけど、

 

「というか母さん、それよりもどうしてこいつがスーパーなんかに来ているのか不思議で仕方ないのだが」

 

 弾の言葉に俺を出来損ない呼ばわりをした女は動きを止めた。

 

「そういえば、確かアンタって金持ちだったよな? それで千冬姉のファンクラブを作ったって」

「そ、それは関係ないですわ!」

「そうか。じゃあ行きましょう、弾、連さん」

 

 金持ち女を放っておいて、俺は誓約書を見る。

 ここは一見普通のスーパーだけど、ある意味では狂ったスーパーだ。

 というものここでは滅多に割引されない商品などが割引される時には―――それはもう怪我人が多数出てくるし、そのために訴えられないように誓約書を書いてもらっているのだ。

 ちなみにその内容とは、

 

『一、この場で起こったことに関しての怪我、死亡に関して一切の裁判を起こさないと誓うこと

 一、妨害は配布されるゴム剣のみ。轢く、投げる以外はカートでの妨害は認めない

 一、この場において女性優遇制度を持ち出した場合、買おうとしていただいている商品は回収し、このスーパーの立ち入りを今後一切禁止します

 一、以上のことを誓う者のみ、このスーパーでの戦争(セール)に参加する権利を得ることができる』

 

 色々と突っ込みたいと思っていた当初を懐かしく思う。

 俺は多いがあまり使いたくないから節約のためにたびたびこのセールに参加するので、躊躇いなくサインしてクジを引きに行く。

 このクジはA~Fに分かれていて、Fを引くと後ろになる。

 だからここはAを引くのが定石なんだけど、俺は運すら秋羅に取られているのでほとんどがFだ。

 

「F」

 

 ほら、この通り。

 

「あら、一夏じゃない」

 

 どうやら聞き覚えがある声が聞こえたので振り向くと、そこには中国からの転校生、凰鈴音こと鈴がいた。

 

「何だ、鈴も来ていたのか」

「アンタも早退したからもしかしてとは思っていたけど。で、アンタはどこよ?」

 

 おそらく今回も俺をからかうつもりだろう。まぁ、今回もFだから正直に白状すると、

 

「よっしゃぁ!!」

「そ、そんなぁ」

 

 何故か二通りの反応が得られた。前者は鈴、後者は何故か連さんだ。

 

「喜びなさい一夏。アタシと同じよ!」

 

 何故か反応が予想と違う鈴。その顔は俺と一緒になれたというより、どこか安心している風に感じた。

 ちなみに弾は連さんと同じCだったのだが、さっきの女はAだったので、何故か連さんと鈴が合掌していたのが妙に気になった。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

―――弾side

 

「弾。絶対に後ろの戦局から目を離しちゃだめよ」

「いや、意味がわからないんだが」

 

 こんなに真剣な母親を見るのは少し新鮮なんだが、ここまで真剣だとなんだか怖い。

 

 ―――パァンッ!!

 

 すると前の方で開始の銃声がして前から徐々に進んでいくが、そのスピードは少し遅い気がする。というか、

 

「なぁ、母さん」

「何かしら?」

「何でみんな、後ろを警戒しているんだ?」

 

 それは素朴な疑問なだったつもりなんだが、その顔は妹の蘭が一夏を鷹の目で見るぐらい真剣だった。

 

「良い? 一夏君は弾と違ってこのセールの常連なの」

「どこから突っ込むべきかわらないんだが。で、それがどうしたんだよ」

「私にしてみれば、さっきの女の子がどうして見下しているのか理解ができないわ」

「いや、何の話だよ」

 

 俺が突っ込みを入れると、母さんはこれまた真剣な目でこう言った。

 

「私はね、鈴ちゃんは邪魔だと思っているわ」

「息子の友達を邪魔者扱いする母親を初めて見たわ」

「悪いけど、一夏君は絶対に蘭の婿にする。幸いの蘭もその気だから勝機はあるわ」

「なんのことだよとか、まず兄である俺の話を聞けとか、そもそも蘭はいつ惚れたんだよとか、それ以前に一夏を入り婿させるつもりだよとか、俺にしてみれば一夏が弟とか死んでも嫌だとか色々と言いたい」

「まぁ、最終的には私が出るしかないと思っているわ」

「もうダメだ。この母親はもうダメだ」

 

 というかそもそも何で息子の前でこの母親は不倫宣言をしているんだ。

 最近、家の人間そのものが常識人でなくなってきていることに不安を感じている俺は、将来はまともな女と結婚しようと思っていると、

 

「―――戦王よ! 戦王が来たわ!!」

 

 そんな叫びが聞こえてくるが、俺の頭にはクアド○ガがでてきた。それは決して間違いではないと思うけど、

 

「何やってんだよ、アイツは」

 

 一夏が次々とおばさんを撥ね、段々と接近してくるではないか。

 

「ねぇ、あの子って織斑一夏よね、出来損な―――」

 

 噂話をしていたおばさんが、用意されたマットレスにぶつけられて俺は黙ってしまった。

 

「欲しいわ。法律なんて恐れないあの精神を持つ彼を」

 

 どうやら母親がおかしい原因の一端は一夏にあったらしい。

 

「というか何やってんだよ、アイツ」

「私だって最初は驚いていたわ。まさか小学生がおばさん連中を容赦なく轢くなんて思わなかったから」

「小学生の時からあれかよ!!?」

 

 友人の意外な一面知った俺は戦慄せざる負えない。

 

「確か最初の言葉が「そこを退け! 死ぬことを知らないクソ共が!!」だったわね」

「………」

 

 その言葉に俺は一つ心当たりがあった。

 それは何気ない会話だったのだが、一夏はぽつりと漏らしたのだ。

 

 ―――姉や弟に料理を作らせると、バイオ兵器が完成する

 

 その言葉に弾ともう一人の友人―――御手洗数馬が笑い飛ばしたが、後日「姉が作成した」というノートを持ってきて、その完成として持ってきたおはぎが完全にアウトものだったことをフラッシュバッグし、吐き気がしてきた。

 

 一夏は無言で俺たちの横を通り、その後ろに鈴が続く。

 

「お先に!」

 

 鈴は余裕に一夏に追いていく。俺はすぐに横に飛び出し二人の後を追う。

 

「雑魚共が。喧嘩だけでなく、こういう争い事でも俺が強いということを教えてやるよ!」

 

 それが俺と一夏の最後になるとは思わなかったけどな。そして、

 

「それがここの生きた伝説になるとは思わなかったな」

「だからと言って僕が駆り出されるとは思わなかったけどね!」

 

 隣で抗議する数馬を、俺はもちろん無視した。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

―――一夏side

 

「………なんだ、ここ」

 

 いつの間に俺は寝ていたんだろう。ていうか、俺は………

 

「―――何だ、もう起きたか」

 

 いきなり俺に声をかける男がいて、思わず身震いする。

 

「……えっと、アンタは?」

「俺か? 俺は……悪の組織の一員って、ところだ」

 

 嘘か本当か。この際どうでもいい。

 ただわかることは、俺は捕まった挙句、何故か買ってきた食材は勝手に料理されているということで、その男はいつでも俺を殺せるかもしれないってことだ。

 

「というか、ここはどこだよ。そしてお前は何者なんだよ」

「………お前はただ、黙ってそこにいればいい。場合によってはまた光を浴びれる」

「……は? 光?」

 

 意味が分からずに、つい聞き返してしまった。

 

(そういえば、前に数馬が「お前まるで十三番目だな」とか言っていたが、何か関係あるのだろうか?)

 

 ふと、数馬が言っていたことを思い出したけど、あれはゲームの話だということを思い出したからたぶん違う。

 

「そういうのは時期にわかるさ。お前がどんな人生を歩むのか決まるのかもそれで決まる」

 

 正直、この時の俺は何も理解していなかった。いや、理解しようとしていなかったのが正しいのかもしれない。

 だけど現実逃避は、点けられていたテレビに引き戻される。

 

『え? 織斑選手が棄権!?』

 

 テレビから織斑選手―――つまり千冬姉が棄権したことが伝えられる。

 すると男の方から携帯電話が着信音が鳴り響いた。

 

「俺だ。………そうか。わかった」

 

 それだけ言って男は電話を切り、どこか別の方に電話をかけた。

 

「俺だ。……なるほど。どの組織も動いていないか。三十分待とう。少しは少年に希望を持たせてやらないとな」

 

 俺に憐れみを向ける男。たぶんだけど、根は優しいんだろう。

 だけど三十分しても誰も来なかった。来ても男の仲間で、交代で料理を食べていたらしい。

 

「……時間だ。撤収作業もあるからこれ以上は待てない」

 

 そう言って俺に何かを当てて気絶させた。

 

 

 次に気が付いたときは、俺は何故か台の上に寝ていた。

 

「……手術は成功した模様」

「動けるか?」

 

 なんだろう。何かがおかしい。何か、変な気が―――

 

 ―――!?

 

 急に吐き気がして俺はその場に異物を吐き出す。それは緑色の液体だった。

 

「……え?」

「…吐いたか」

 

 一人が俺に銃を向け、淡々と語りだす。

 

「所詮、ブリュンヒルデの弟とはいえお前は出来損ない。不穏分子に負けるようじゃ、生かす価値も―――」

 

 だけど気が付けば俺は、その銃を弾いてその男の顔を蹴り潰していた。

 

「………え?」

 

 一番驚いていたのは俺だった。

 

「まさか、改造が成功したの!?」

 

 ……そう漏らした男の近くの壁を蹴り飛ばし、すべての事情を聞いた。

 そこで俺は平凡に暮らしていたのだが、それはあることをきっかけに崩壊した。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

―――アインside

 

(我ながら、うまい嘘を吐いたな)

 

 まさか誘拐された後に自力で逃げて俺の家でかくまった挙句、精神的に病んで奪った銃で自殺した、なんて筋書きを簡単に信じるとは思わなかった。

 実際は脳を改造されただけでなく、色々改造されて、物理的に安全を確保したら信じていた人間に襲われてからスティングに拾われたんだが、それまでバラす必要はない。ちなみにクロは神社で拾った綺麗な意思が気が付けばそんな形になっていたで通用した。まぁ、ざまぁみろということだろう。

 だってそうだろ。毎回毎回こっちは殺されないために主婦紛いのことをされた挙句、シンデレラ状態だったんだから。挙句、テストが悪ければ毎回毎回責めてくるから、半殺しにしたんだっけ。

 

(本当に、姉弟はウザいな)

 

 むしろ、いらない。いるならもうちょっとマシな奴がよかった。

 

 だから俺は、どれだけ超常的な力を手に入れても家に帰らなかった。だってすべては―――あいつ等のせいなんだから。

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