―――アインside
アリーナ全体が揺れ、俺はその場に残してすぐにその場から避難する。
『相変わらずの逃げ足の速さね』
『未来への布石だと言ってくれ』
すぐに近くのピットに入り込む。そこはたまたまというべきか、それとも運命というべきか―――
「アイン!? アンタ、どうしてここに?!」
「俺の運動神経と反射神経は異常でな」
PICをフルに稼働させて飛んできたけど、似たようなものでもあるのでそう答えておく。
「そう。って、ティナは?」
「さぁ?」
「さぁって、アンタ」
正直、あの場から連れ出してここに来るより、あの場でほかの生徒たちと混じって外に出るほうが安心だと思った。
「で、状況は?」
「わからないわ。甲龍を修理している最中に試合を見ていたんだけど、そしたら急に画面が映らなくなるし、それで修理が終わった甲龍を受け取ってこっちに来ると…」
カタパルトの方を見る。そこは閉じられており、近くに端末を接続できる部分もない。
「管制室は?」
「一応繋がるけど、なんか向こうが拒否しているみたい」
……俺の中に一人、無自覚にやっていそうな奴がいた。
だから管制室にいるであろう山田先生に対して禁句を盛大に言ってやった。
『山田先生は胸がデカいのに彼氏がまったくできないのは』
『ウォーヴェン君。それ以上言ったらいくら先生とはいえ、少し君に対して処分を下さなければなりません』
普段は温厚な山田先生だが、こう言うと正気に戻って背筋が凍ってしまうほどの横暴な発言をする。というか、
『さっきから織斑に欲情して通信を送って注意散漫になっているそっちの責任ではないのですか?』
『そ、それは―――』
『―――ウォーヴェンか?』
通信相手が変わり、反吐が出るかと思ったが今はこらえる。
『ええ。織斑先生、状況を教えてください。場合によっては俺たちも出ます』
『……そうか。すまないが教師部隊の到着は期待できそうもない』
『IS学園のセキュリティが強固だからと言って訓練をサボった結果でしょう? というか、教師ごときに何の期待もしていないのでご心配なく。それよりも状況を教えてください』
というか女自体に何の期待もしていない。
『そうだな。今は所属不明の機体が二機、だがその一機が妙な動きをしている?』
『じゃあ、その二機は味方同士ってわけじゃないのね?』
『そういうことだ。ただその一機は何故か更識の近くからはあまり移動しない。まるで守っているかのようにな』
それは奇妙な話だ。一機は暗部の関係者とでも言いたいのか?
『それで、カタパルトのドアは?』
『破壊しろ』
許可ももらえたので、俺は大型二銃身ライフル《シュペーア・ゲヴェール》を展開し、そこからIS界のエネルギー系統の武装で最大威力を誇る攻撃力でドアをぶっ壊した。
そしてすぐに突入し、件の二機が俺が過去に見たことがある機体だということに気付く。しかも、どっちも俺が憎む敵。
「………ああ、そういうことか」
シュペーアで三機まとめてターゲットを定めた。
シュペーア・ゲヴェールにはいくつかのモードが存在する。
そのうちの一つ《拡散追尾モード》を選んで、ビームを撃ち、その三機に向かって飛んで行った。
■■■
―――襲撃される少し前
雪片弐型一本で簪の死角から攻撃を繰り返す秋羅。だが、簪はあらかじめ読んでいるのか、それらのほとんどが回避または防御によってシールドエネルギーの減少を最小に抑えていた。
「……やっぱり」
「何?」
簪が呟き、その言葉に反応した秋羅。その隙に簪がミサイルポッド《
秋羅はそれを切り、または回避することで防ぐ―――が、
「ダメ押し」
さっきの倍を超えるミサイル群が秋羅に襲い掛かる。秋羅は飛んで回避することでそれを回避しようとするが、ライフルの弾丸が秋羅の装甲を壊した。
「……あなたは、天才じゃない」
「……何を言っているんだ。僕は―――」
「…私が知っている天才は、あなたみたいに弱くない」
さらならミサイルが秋羅に向けて発射する。それを秋羅が回避すると、いきなり上から爆発が起こり、さっきまで秋羅がいた場所を通過して何かが落下する。
「何だ!?」
秋羅はそっちの方を向き、そこに見たことない異物が存在するのを確認した。
その遺物はまるゆっくりと立ち上がり、大きな腕を簪の方に向けた。
簪はすぐにその場から離れようとするが、ここであることに気付く。
今回、簪が打鉄を選んだのは、自分の専用機が打鉄の後継機だったこともあったが、何より織斑秋羅が基線武装しか積んでいないからという理由が大きい。
だからこそ、今回の騒動なんて彼女の頭には最初からなかったから、防御型の打鉄を選んだのだ。
(……私、死ぬ―――)
最後まで思う前に襲い掛かる光が簪を包む
―――かと思われた。
「―――え?」
突如として簪の周りに翼が現れ、そこから三つのバリアが展開されて光とぶつかる。
「『悪いけど、それをもらおうか』」
光がそのバリアに吸い込まれていき、翼も徐々に光り輝き、先に切れた光に続き、その翼も縮小されて消え、簪を引き寄せている黒い機体が
「……誰だよ、お前」
秋羅のその言葉を聞き、口を除いてほとんどの顔を覆うヘルメットは秋羅へと視線を移す。
すると謎の機械は抱きしめていた簪を後ろに放ると、秋羅に向かって突っ込んでいった。
「『死ね、屑』」
「いきなり何を―――」
秋羅に接近する黒い機体。だが、その間に先に侵入した機体が割って入り、黒い機体に向かってビームを放つ。
黒い機体は左腕を顔の前に構えると、そのビームは機体の左手首で展開された装置に吸収されていく。
(こいつ、無人機か)
今の攻防でそう確信する黒い機体の操縦者。すぐに簪の近くに下がると追ってくる所属不明機が追撃してくる。
「うぉおおおおおッ!!」
黒い機体が簪の元に戻ろうとすると、先読みした秋羅は割って入り、黒い機体に向かって雪片弐型を振り下ろす。
「『邪魔―――すんなっ!!』」
振り下ろされる雪片弐型を回避し、秋羅の背中に回り込み、近接ブレードを展開して峰で殴り飛ばす。
同時に鈴音が戻っていったピットの方から爆発が起こり、そこには二機の機体が姿を現したが、アインはすぐさま大型二銃身ライフルを展開して無人機、黒い機体、秋羅に狙いを定めてビームを発射した。
「え―――!?」
秋羅はそれを瞬時に発動した零落白夜にシールドエネルギーをぎりぎりまで減らし、無人機は直撃、黒い機体さっきと同じくビームを吸収した。
『見つけたぞ、ゼロ』
『………あ』
殺意を向けるアインに対し、ゼロと呼ばれた黒い機体の操縦者は相手の顔を思い出した。
『お前は、確か………誰!?』
『!?』
プライベート・チャネルでやり取りする二人だが、アインの顔は絶望を浮かべていた。
『……忘れたのか、一年前の……』
『………ああ。そういえば、俺に向かって来た奴が一人いたな。……生きてたのか』
『おかげさまで、なぁ!!』
アインは飛び出し、近接ブレード《龍牙》を展開してゼロの首を狙う。
それを回避したゼロはすぐに無人機、秋羅、鈴音の三つ巴になっているところに突っ込む。
ゼロはアインのと似ているライフルを展開し、秋羅が振り下ろす雪片弐型を受け止めて秋羅ごとぶん投げ、無人機からのラリアットを回避する。
『乱闘して逃げるつもりか。そんなこと、させると思うか!!』
『私が言うのもなんだけど、落ち着きなさいアイン! あなたは―――』
『うるせえ!!』
クロの言葉を黙らせ、アインはクロに向けて自分の意見を述べる。
『理由はどうあれ、アイツは俺の居場所を壊した。それだけでアイツを潰すのには十分な理由だ』
もう終わりだ、と思い龍牙を握り直すアイン。だけどクロは、さらに言葉を続ける。
『いいわ。今は好き勝手にしなさい。だけど、これが終わればあなたにあの場所がどれだけ危険だったのか話すわ』
『……ご勝手に』
通信を終わり、アインは再びゼロに向かって攻撃を仕掛けようとすると、その足は再び止められた。
『秋羅ぁっ!』
急にアリーナのスピーカーからクラスメイトの声が響き始めたのだ。
「な、何してるんだよ、箒………」
アインだけでなく、その声でゼロと鈴音、そして後ろで入ろうと思っても入れない簪もある一点―――中継室に目を向けた。
「『いくらなんでもあれは……』」
中の惨状があまりにも酷過ぎて、ゼロはポツリと漏らす。
中では審判とナレーターが伸びており、どちらも気絶しているのだ。
『男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
「『こっちが言えることじゃないけど、いくらなんでもあれは問題だろ』」
「「「………」」」
ゼロの言葉を誰もが否定したかったが、やっていることは完全にKYだったので否定はできない。
だが、秋羅だけは無人機が箒に向けてビームを発射しようとしているところに割って入る。
「箒は絶対に―――やらせない!!」
そう言って一人と一機の間に入った秋羅。だがすぐにゼロが秋羅を蹴り飛ばす。
瞬間、ビームが発射されてゼロに当たるというタイミングでアインがゼロの前に乱入。シュペーアから発射されたビームで相殺し、無人機の周りにビットを展開。それらがすべて無人機の腕部に向けられており、レーザーが貫通して一基壊した隙に、アインが力を込めた龍牙での居合切りで無人機の二つに
通常、ISの装甲はそう簡単に切れないのだが、それでも切れるのはアインの能力と龍牙の刀剣としての優秀さが原因だろう。そして、
(……まぁ、いいか)
秘匿はされているが、各国のISコアは振り分けられた当時の数より現在保有している数は少ない。それは研究者たちがコアを研究するために壊したのもあるが、何より「優秀な兵」を造るための実験で使うからだ。
そのため、裏の者たちはそこからISコアを奪い、自分の物にする。アインも、そしてゼロもその点は変わらない。
『……なぁ、クロ』
『何かしら?』
『俺はどうして、あの場所を失ったんだ?』
唐突の質問にクロは一瞬言葉を失うが、それでも一瞬だけだ。
『そこにISコアがあったからのも一つの理由だけど、あなたの無自覚の罪を清算するためよ』
『……そうか』
『そして、そうするように仕向けたのは私よ』
『………そうか』
アインは、その言葉を責めはしなかった。友達という間柄だが、クロがどれだけ自身のことを大切にしているかを知っているからだ。
「『これで一件落着…ってわけにはいかないよな』」
ゼロは後ろの飛び、横薙ぎされた雪片弐型を回避した。
「当たり前だろ。大人しく掴まれ、不法侵入者」
「『美少女だったら進んでキスしに行くんだけど、悪いけど俺、お前と違ってホモじゃないから』」
「ふざけるな! 僕も違う!」
激昂する秋羅に対し、ゼロは明らかに余裕を持っている。
ゼロは一度だけ簪を見て、腰部に折りたたまれた筒を展開。それを広げ、二基の荷電粒子砲で秋羅を躊躇いなく撃った。
「うぁあああああああッ!!!」
『秋羅ッ!!』
装甲をほとんど潰され、シールドエネルギーも完全になくなり動けなくなった状態の秋羅を放って入ってきた穴から出ていく。その
■■■
その女性は、機嫌良く機械を弄っていた。
それは自分の最愛の妹へのプレゼントであり、一生妹を守る盾にもなる代物。一機、余分なものがいたが、それも妹を助けたことと少ないエネルギーで死のうとしていたのと変わりない秋羅を救ってくれたことで評価があがったが、同時に自分にとってはそれが当たり前なのでそういう意味では興味をなくした。今日という日を狙うやつなんていっぱいいただろうと思っているという理由もあったからだ。
「でも、さぁ……」
それは束の意思か、無意識か。空中ディスプレイには一人の少年が映る。
「さすがにこいつには、もうそろそろ退場してほしいよね」
過去に破棄したコアがかろうじて命を繋いだ結果だろうと、その女性―――篠ノ之束は思っているが、一つだけ気になることがある。
「何でこいつを見ていると、ドキドキするんだろう……?」
それがまったく理解できず、束は三度もその男の経歴を洗ったが、過去の経歴はおろか、生まれてか何をしていたのかすらも何も出てこなかった。一つだけわかるのは、自分が大切にしている人間に対して通常では考えられないほどの憎悪を持っている点ということだろう。
「ま、いっか」
どうせ今度の七月に妹にプレゼントを渡す時に会えばいい。そう思った束は再び機械の方に集中するのだった。