第八話 金と銀の転校生
『それで、君は今ISコアを保持している、と』
「ああ。同じ素材だが偽装した物を向こうに渡した。IS学園が保持しているのは自作したダミー。調べてもセキュリティに引っかかって面倒なことになるだけだ」
ここしばらく外に出ていたスティングが戻ったと報告を聞いたので、俺は完全な秘匿通信を使ってスティングに報告している。
『なら、ゼロのことは……』
「さぁな。あの事件以来、何度か更識簪に張り付いてみたが現れなかった」
『その子に気があるのかい?』
「まさか。あんな暗い奴なんて付き合う奴はよっぽど面倒が好きだろう」
『………まぁ、君がそう言うのならそうだろう。彼女には頑張ってもらうとしよう』
何故か歯切れが悪い返事をするスティング。更識の機体が開発されなかった理由を知っているから同情でもしているのだろうか?
などと感想を抱いていると、俺はある気配を察知したのでスティングに通信を切る旨を伝えた。……その際に
『頑張れ』
という不愉快極まりないエールをもらった。
―――コンコン
ドアがノックされ、大人しくドアを開けた。
「こんにちは、ウォーヴェン君!」
何故か二人分の弁当を引っ提げて、ティナ・ハミルトンは現れた。
「ハミルトン、今日は休日だぞ?」
「なので部屋デートを―――」
「帰れ」
ドアを閉め、大人しくお引き取り願おうとしたらハミルトンは足を隙間に入れた。
「痛いッ。でも、これからされる痛みに比べたら、これくらい………」
「俺はお前に何もする気はないし今日はゆっくり寝るぐらいしか思い浮かばないからもう帰れマジで!!」
「そんなぁ……」
思うんだけど、これって女が普通は求めないはず―――
『さっさと帰りなさいよこのクソビッチ! アインは貧乳派なんだからね!! ……まぁ、私にその無駄に多い脂肪をくれると言うのならベッドに乗せてやらなくもないけど』
つい、一週間ほど前に同じようなことを言っていた凰のことを思い出し、最近俺は二人が似てきたなと思う。しかもあの高級なベッドで手術しようとするのだから、その精神は恐れ入る。というか、それよりも俺がいつ貧乳好きになったのかを聞きたい。
「こうなったら、もう寝込みを襲うしか……」
それを聞いた俺は、すぐにドアを開けるのだった。
■■■
翌日。妙に疲れた俺は机に突っ伏した。
『アイン、やっぱりまだ女の子に慣れていないんだね。この際私と―――』
『……ごめん。今日は突っ込みを休ませてくれ』
『………』
割と本気で言うと、どこかショックを受けたような顔をする。
「―――諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
ふと、顔を上げると山田先生を巻き込んだとある集団が震えあがっている。どうやら急に織斑千冬に話かけられたことで緊張か恐怖でもしているようだ。
などと感想を抱いていると、周りには見えないようにしたらしいクロが俺の膝に座り、何故か俺の手を不安がる妹のように……って、ヤバい。アイツらの影響で何故か萌えとして表してる。要、反省だな。
「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないように。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」
という教師としての問題発言があったのだが、それよりも俺は別の言葉に笑いを隠すのに必死になった。
『つまり、早く誰かと付き合わないと露出狂になると』
何故かしてそうだと思ってしまい、忘れ物をチェックすることで受けたことを回避する。
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ」
眼鏡を拭いていた山田先生は急に呼ばれて慌てて眼鏡をかけ直す。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。
何故なら転校生は普通、二人以上の場合はクラスを分けるのが普通だ。それとも、今回はそれなりの事情があったのだろうか。
(さすがはIS学園、ということだな)
干渉を受けないという理念は何処に行ったのか是非とも聞いてみたい。
教室が騒がしくなる中、山田先生は外にいる二人を連れてくる。一人は礼儀正しく「失礼します」と言い、もう一人は無言で入ってくる。クラスメイト達は一人をみて沈黙した。
(こりゃまた凄いのが来たな)
その内一人―――金髪の方は男子の方の制服を着ていたからである。もしこの中に一人冴えない男子がいたら逃避するだろうと予想した。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
丁寧な挨拶をし、一礼するデュノア。
『クロ、スティングに暗号文。『デュノアの関係者に男あり。調査頼む』だ』
『ラジャー』
たしかデュノア夫妻には娘が一人いたって話だけど、今の所は放置か。まぁ、無理矢理接触してきたなら、向こうでどうにかしてくれるだろう。
「お、男……?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の型がいると聞いて本国より転入を―――」
イケメンは、いらぬ災いを呼び起こすので俺は耳を塞いだ。途端にハイパーボイスを食らう。
「男子! 二人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「人間に生まれて良かった~~~~~~!」
結構本気で耳を塞いでいたのにも関わらず、俺はあまりの激痛に顔をしかめる。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
元は同じ血筋だから共感してしまう。というかこいつら本気で大丈夫か? たかがこんなイケメンでハイパーボイスって、俺を除く美形ぞろいの部隊を見たら卒倒かつ鼻血ものな気がしてきた。
「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」
どう考えても視界の外にやるのが難しそうな小柄な女生徒。俺にしてみれば企業よりこっちの方が重要だった。
その女生徒はたぶん―――
訳あってそれを知っている俺は、匂いでそう感じた。
『……あの子、調教したらそれなりに可愛くなると思う』
ポツリとそう漏らすクロはこの際無視。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
いきなり佇まいを直して素直に返事をした転校生。それと「ラウラ」という名前で俺は一人の名前を思い出す。
―――ラウラ・ボーデヴィッヒ
俺がいた施設で知った名前で、シャドウナイツで詳しく調べたから知っているのだが、確かあの女はドイツ軍所属の本物の国家の犬だ。
(まぁ、いざとなったら潰すか)
女なら色々と使い道があるだろう。クロも性別上は女らしいので詳しいことは考えたくはないが。
(そういえば、アイツはどうしているだろうか?)
ほとんど赤に近い茶髪で薄紫色のバンダナをしている元親友の妹を思い出す。あの家が経営する五反田食堂という店はおっさん達のたまり場として有名で、密かにファンクラブが結成されていたはずだ。俺がいなくなってからも新参者が入会しているに違いない。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
銀髪と担任の話をよそにそんなことを考えていると、銀髪が自己紹介をした。……したのはいいがそれだけであり、山田先生がそれだけか聞くと、
「以上だ」
それだけ言って沈黙。だが、織斑を見るといきなり殺気を向け、腕を振りぬくが、
「いきなり平手打ちなんて、礼儀がなっていないね」
「貴様……!!」
織斑はそれを受け止め、顔面に向かって拳を出す。相手は軍人だから大丈夫だと思ったのだろう。だが―――
「そこまでにしろ、馬鹿者共」
そう言って出席簿を素早く振り下ろす担任。どちらもあまりの痛さに頭を抱えた。
「転校早々問題を起こすな」
「……はい」
担任に怒られたのがそんなに悲しかったのか、大人しく席に着くラウラ・ボーデヴィッヒ。必然的に俺の隣に座ることになり、俺に気付いたボーデヴィッヒは何故か睨んできた。
「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
行動を促すために手を叩く織斑千冬。俺も席を立ち、着替えを始める女子のためにさっさと教室を出てグラウンドに向かおうとすると、
「貴様も待て、ウォーヴェン」
「あぁ?」
急に呼び止められた。
「二人とも、デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
「ウォーヴェンみたいな屑と一緒なんて嫌です」「織斑みたいなゴミだけにさせればいいだろ、クラス代表なんだし」
その言葉にため息を吐く織斑千冬。俺はすぐにその場から離れ、そこから移動を始めた。
■■■
デュノアは織斑が面倒を見ているので、俺はそれを放置して先にグラウンドに向かった。
予想通り、グラウンドには誰もいない。いるのは俺とクロと、
「………いい加減離れろ、ハミルトン」
何故か俺にベッタリなティナ・ハミルトンと、その後ろにいる凰ぐらいだった。
「まぁいいじゃないですか。私みたいな大きな胸の女の子と一緒にいるの、嬉しいでしょう? いつでも私を襲ってくれてもいいですからね?」
「ごめん。俺、積極的な女に興味ない」
「まさかの好感度ダウン!?」
というか俺に興味を持つ時点で、ほとんどの確立でクロだと思っている。
「で、一組に男子が転校してきたって本当?」
むしろ最初に興味を持つべき質問をしてくる凰。
「ああ。冗談だと思うならしばらく待てよ。来るだろうから」
「誰も冗談だとは思わないわよ。ほら、あたし達には色々とあるのよ」
凰の言葉の意味を察した俺は、同情する。
しばらく人が集まり、残すは男子二名だけになった。
「遅い!」
そう言って叩かれる二人。どっちも女の大群に呑まれたのだろうか。どっちにしろ同情するにしてもデュノアのみだろう。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「「「はい!」」」
人数はいつもの倍なので、気のせいか返事にも妙な気合が入っていた。初めてまともにISに触れるのだから楽しみなんだろう。
「今日は戦闘を実演してもらおう。凰! オルコット! 前に出ろ!」
二人からはやる気が感じられない。だからか、織斑千冬は二人に耳打ちするが、テンションを上げたオルコットとは違い、凰は睨むように織斑千冬を見ていた。
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「………はぁ」
いや、仮にも生徒の前なんだからやる気を出せよ。
「それで、わたくしの相手はどちらに? まぁ、凰さんとの勝負でも構いませんが」
「……………」
凰はジッとオルコットの胸を見る。
「な、何ですの!? さっきからわたくしの胸を見て、そんなにわたくしのが―――」
「いや、この際誰でもいいんだけどね―――」
瞬間、凰は絶対零度という言葉と対して変わらない意味の冷たさをこの場にいる全員に放った。
「誰かアタシに、その脂肪を全部欲しいなぁって思って。特にアンタとか篠ノ之とかアンタとか篠ノ之とか………」
その眼は完全に死んでいて、見る人によっては恐怖を覚えるだろう。
「まぁ、この際全員殺してからもらうっていう手も―――」
「おい、対戦相手が来たぞ」
織斑千冬に言われ、顔を上げるみんな。するとラファール・リヴァイヴを纏った山田先生が、体制を崩した状態でこっちに来た。
「ああああーっ! ど、どいてくださーいっ!」
全員がその場から離れ、唯一織斑だけが巻き込まれた。
着地の衝撃で舞った埃が次第に晴れてきたが、そこでは何故か山田先生に馬乗りしていた。周りから何故か山田先生に向って羨ましいとほざく奴らが数人いたが、オルコットがレーザーを撃ったことで沈黙する。
―――ガシーンッ
何かが連結する音が聞こえ、俺たちはそっちのほうに視線を移す。そこにはもう手遅れかもしれないと思わせる目をした凰がいた。
「―――さいっこうじゃない。こんなところで屑一匹に牛一頭殺せるなんて」
今すぐ模擬戦を中止するべきだろうと思った俺は、凰の前に現れて出鼻を挫く。
「どきなさいアイン。こっちは真剣なのよ」
「………悪いがそれはできない。どうだろう、織斑千冬。今の凰を戦わせると最悪一組と二組が全員殺される可能性も出てくるが、オルコットのみで戦わせた方が良いんじゃないか?」
「………そうだな。オルコット、すまないが一人で山田先生と戦ってくれ」
「!? ……ええ、わかりました」
どうやら最初から一人で戦うと思っていたらしい。
(………まぁ、あんなのでも実力はあるんだろ)
蓋を開けてみると、山田先生の圧勝だった。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は把握できただろう。以後は経緯を持って接するように」
まぁ、どこかの誰かさんみたいに殺気立ったオーラを噴出しているわけではないから、すぐに元通りになるだろうけど。
それから俺は織斑千冬の指示で専用機持ちをリーダーに数人のグループを作り、実戦訓練が始まった。