IS ~黒き鋼の復讐者~   作:reizen

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第九話 銀髪盲信

「……疲れた」

『でしょうね。特にあの牛女、何度もアインにおっぱい近づけてきてさ。もう何度あの女のISスーツを破いて裸体を屑斑にくっ付けて殺そうとしたか』

 

 と、本気で言っているクロの様子が最近心配なので、そろそろ凰に近づけないようにしたい。

 

『………ところで、だ』

 

 俺はチラッと横を見る。

 そこには何食わぬ顔で座って弁当を食べているハミルトンがいるが、彼女が件の牛女である。

 

「……どうしてお前は堂々と隣で食事をしているんだ?」

「え? ダメですか?」

「ダメに決まってんだろ。しかも、こんな誰も来なさそうなところで」

 

 校舎の中でそんなのがあるとは思わなかった俺は、ハミルトンが持っているスキルの内容が少し気になった。

 

「少しカビ臭いのが玉に傷ですが、二人で性欲を満たすのは最適だと思って……」

「それを本気で思っているんだったら、精神科へ通うことをお勧めする」

 

 もうここ一カ月近く邪険に扱っているはずなのに、どうしてかこいつは諦めずに来るのだ。一度どうしてこんなに興味を持ってしまったのか問いただしてみたい。

 

『しかもご丁寧に弁当を持ってきていることが物凄く腹立たしいわ』

 

 クロ、そこはあまり重要じゃない。

 

「ともかく、こういうのは控えてくれ」

「つまりそれは私の体を弁当箱として―――と言いたいんですか?」

「俺にはそんな変態趣味はない」

 

 もう既に食い終わったので、俺はそれを彼女に返して逃げるようにしてその場を去った。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 アインがいなくなった後、ティナはため息を吐く。

 

「………ちっ。本当に面倒ね」

 

 そこにはいつもアインに見せるブリっこな巨乳女の姿はなく、本来の彼女の姿が映っていた。

 

「それに、私の胸を見ても反応がないなんて。これで何人も男をオトして来たのに、プライドを侮辱された気分だわ」

 

 彼女は未だ処女ではあるが、それでも数多い要人を虜にし、暗殺しているスペシャリストだ。それゆえのプライドもあり、今度も厳重だが警備が薄いアイン・ウォーヴェンを狙っていたのだが、これが中々落ちないので、彼女は苛立っていた。

 

(でも、ちゃんと弁当は食べているのよね)

 

 それを見て、ふとある名案が彼女の頭に浮かぶ。

 

「………やるしかないわね」

 

 そう決意したティナは静かに微笑むのだった。その笑みは言わば彼女の決意の表れであり、絶対に仕留めるという勝利宣言でもあった。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 午後の実習を終えた俺は、夜も訓練をしてから上がる。あまり遅いと面倒なことになるので、普段の1/2程度しかできないのは残念でならない。

 

『アイン、スティングから報告が来ているわ』

『……そうか』

 

 荷物を自作した棚の上に置き、着替えを用意してからシャワーを浴びてスッキリしてからその報告書を開く。

 

『アインへ

 君からの報告を受けて調査を始めたところ、デュノア社には息子がいる確認は取れなかった。おそらくあれは女で、君たちのパーソナルデータと機体のデータを奪いに来たのだろう。

 もう既に君はIS学園のネットサーバーに侵入して自分のデータの書き換えを終わらせているだろう。だが、念のために彼―――いや、彼女の動きを警戒しておいてくれ。いざという時に捕まえて再起不能にしても構わない』

 

 報告書が同時に指令所に変わっているが、いつものことだから気にしないでおく。

 

「そういえば、俺のデータってどうなってたんだ?」

 

 ふと、気付いたのでクロに聴くと、クロは笑いながら具現化してこう答えた。

 

「一見普通に見えるデータだけど、実際はヴァンパイアウイルスで吸収される運命」

「なるほど。つまりロリ吸血鬼姉妹にデータを奪われる、と」

「………随分と毒されているわよ、あなた」

 

 そんなこと言われても、仕方ないと言えば仕方がない。最初のころはそういう趣味に巻き込まれてから興味を持ってやってハマってしまったんだ。

 

「となると、最悪デュノア自らが俺を襲ってくる可能性もあるってことだよな?」

「そうね。………へぇ、この子、母親が死んでから引き取られたんだ」

 

 付属されていたプロフィールを見て、俺は母親の死亡事件の報告書を閲覧する。証拠となるようなものは一切なく、運転中でハンドルを切る方向を間違えたための落車事故として処理されたようだ。死体などの血痕が細かく写真に―――え?

 

「ちょっと待て」

 

 俺はある違和感を感じ、その女性の傷跡を見る。それはどれも事故の衝撃でできたものじゃない。

 通常、事故の際は打撲痕が残っているのだが、その女性には打撲痕ではなく、どっちかというと………えーっと、

 

「……これって、もしかしてSMの痕じゃ……」

「クロ、それは口に出さない方がいいっての」

 

 ちょっと待て。フランスはこれを打撲痕として処理したのか? ……ということは、

 

「まだ、母親は生きているんじゃないか?」

「え?」

「考えてみろ。性別偽装は場合に認められてはいるかもしれないが、今回は少年院に収容で済むレベルじゃない。一生牢屋で過ごす可能性だってある。だがデュノアはそれをしたってことは、するしかない理由があるんじゃないか?」

 

 その言葉に驚くクロ。……最近、こいつがAIなのか気になる。主に「感情が入っている」という点についてだ。

 

「じゃあ、弱みを握られての犯行? だとしたらその弱みは―――」

「死んだはずの母親が実は生きていて、殺すか売られるかとかで揉めているんじゃないか?」

 

 ……………つくづく思うんだが、俺って完全にブラックな世界に入りすぎているよな? そうじゃなければ人を売るなんて言葉は出ないと思う。

 ともあれ、あくまでも予想だが動機は作れた。後はこれを確かめるだけだ。

 

「……この方面で調べてもらうか。場合によっては俺も負ける必要があるし」

「はいストップ」

 

 デュノアが弱みを握られていた場合のことを推定した場合の作戦が頭に思い浮かんだからつい漏らしてしまったら、何故かクロにストップをかけられた。

 

「何だクロ。まだ作戦の概要は説明していないんだから口を出すのは少し待ってくれ」

「いやいや、負ける必要って何よ」

 

 ………そういえば、クロって負けず嫌いだった。自分が負けることを嫌がるから、俺は地獄の日々を文字通り生き抜いてきたんだっけ。

 それに俺がシャドウナイツの面々以外に負けることをあまりよく思っていないらしい。ましてや所詮は代表候補生レベルでしかないデュノアに負けることが悔しいんだろう。

 

「いや、黒幕潰さないとこれは終わらない気がしてな。ついでに俺に対する世間の目を恐怖に変えられるだろ」

 

 今のところ、俺に対しては「暴漢」というイメージが強いらしいので、

 

「ここはひとつ、「知将武人」というイメージをだな―――」

「中二か!!」

 

 久々にクロが突っ込んできた。

 とはいえ、デュノア自身がどうしたいのかが決めてだろうし、そもそものデュノアの動機―――はある程度目星がついているな。

 

「……まったく、わざわざ俺達のデータを取らずに別に分野に手を出すとかすればいいのに」

「ノウハウがないんでしょ。それに、彼らは人間を雇う金すら惜しんでいるかもしれない」

「そういうこともあったな」

 

 可能性としては無くはない話だ。

 

「まぁ、私としては意外だけど」

「何が?」

「何度かテレビで見たことあるけど、とても愛人にできた娘とはいえ、子供にそんな汚い真似をさせる人間には思わなかったわ」

「人にはいくつかの顔があるんだよ。織斑がその例だ」

「……否定できないわ」

 

 苦々しい顔を浮かべるクロ。AIとはいえ、やっぱり女の子なんだと思った。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 あれから数日後、ドイツな奴が問題起こしたとか起こさなかったとかぐらいで平和に暮らした。

 そう、何もなく平和的に暮らしたんだ。目の前で起こっている下らない問答が始まるまでは。

 

 

 

 始まりは、トイレに行っていたことだ。俺だって人間なんだ。当然、俺が改造人間とはいえそういう生理的なことはある。

 だけど今回ばかりは―――さすがに切れた。

 

「何故こんなところで教師など!」

「やれやれ……」

 

 来た道を戻っていると偶然か必然か、軍人と暴君が何かを言い争っていた。

 

『お取り込み中?』

『らしいな。……とはいえ、能力やIXISを使うわけにもいかないし』

 

 どうしたものかと考えていると、言い争いは進んでいく。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある」

 

 暴君として振舞うならそれはお前の趣味だろう。

 

「このような極東の地で、何の役目があるというのですか!」

(というか、ブリュンヒルデがまともな理由もなしに一国に加担しすぎるのは問題があるいだろう)

 

 本人はそれほど気にしていないが、この女は無駄に地球全体影響を及ぼしている。だからこの学園で教えているが、それよりもまず花嫁修業に精を出せと言いたい気分だ。

 なにせこの女、男と寝たことなんて一度もなく、ましてやお見合いなんてしたことがない。齢24にして一度も彼氏なんていたことがない。言うなれば―――喪女だ。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

「ほう」

 

 あ、怒ってる。

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

「何故だ?」

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに時間を割かれるなど―――」

「随分とまぁ言いたいことをペラペラと話すなぁ、チッパイ」

 

 なんかムカついたので俺は乱入した。

 

「失せろ。今は教官と話をしている」

「俺にしてみれば未だに彼氏ができない喪女に何を教えてもらうかわからないんだが? 何? 男の逃がし方でも教わるのか?」

「貴様ぁッ!!」

 

 俺に掴みかかってくるボーデヴィッヒ。

 

「大体、この女は自分の弟すら見捨てた悪魔だぞ」

「それは織斑一夏が弱かったから―――」

 

 ―――ドンッ

 

 気がつけば俺はボーデヴィッヒを壁に叩きつけていた。

 

『アインッ!?』

 

 俺がしたことに焦りを見せるクロ。だがそんなこと、今の俺にはどうでもよかった。

 

「………答えろ。この場で首を割かれて死ぬか、男のおもちゃに成り下がるか」

「ウォーヴェン!!」

「アンタは黙ってろ!!」

 

 後ろで叫ぶ織斑千冬を一喝で黙らせる。

 

「…き……さま………ぁ」

「愚かにも死を選ぶか、出来そこない」

 

 こいつのドイツでのあだ名を言ってやると、表情を変える。

 後ろから何かが振り下ろされる気配を感じた俺は、ビット《焔》を展開して受け止めた。

 

「いい加減にしろ、ウォーヴェン! お前が何をしているのかわかっているのか!!」

 

 俺はそれを無視してボーデヴィッヒを殴る。

 

「貴様ッ!!」

 

 当然、反撃に出るボーデヴィッヒ。ナイフを抜いたのでこっちもナイフで応戦する

 

「止めろ!!」

 

 俺たちに対して一喝する織斑千冬。癖で動きを止めたボーデヴィッヒとは違い、俺は逆手に持ったナイフを振り上げた。

 瞬間、ボーデヴィッヒの制服が破け、上半身と股の部分が露わになった。

 

『よしナイス』

『棒読みすぎるわよ』

 

 生理現象か、ボーデヴィッヒはすぐに叫びながら胸を抱きつつしゃがむ。当然というべきか、拳が飛んでくる。

 

「私の前でこんなことをするとは、いい度胸だな」

「前も思ったが、アンタはどうして生徒を守ろうとしないんだ」

「!?」

 

 図星を突かれた反応を解り易く見せる。まぁ、正しくは守りたくも守れないってのが正しいんだろうけど。

 

「……これ以上言ってみろ―――」

「「お前を罰する以前に観察処分という名目で研究所へ引き渡す」か」

「!?」

「まぁ、学園としても俺を犠牲にしたほうが篠ノ之束に喧嘩を売らなくて楽なのはわかるけどさ、それを脅しに使うのはどうかと思うぞ。それに俺は警告をしたはずだが?」

「警告? 何のことだ」

「……オルコットがISで半殺しになっただろう?」

「…正気か?」

「これでも外交官でもないのにアンタに干渉するそいつや、アンタやアンタの周りよりかはまともだ」

 

 そう言って俺は一足先に教室に戻った。

 

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