「この五名のみが揃うのは一ヶ月ぶりなのかな。」
「そうだな、田村海将。さっさと席につけ。」
「それにしても恐ろしく長い議会だったな。秋山海将、一ヶ月も基地を離れて大丈夫だったのか。」
「藤田さんよ。うちには優秀な部下がたくさん居るんだ。一人かけたところで問題はない。それに、なんなための副司令官がいるのか分からないだろ。」
「それもそうだ。」
そこに小澤幕僚長がやって来た。
「皆さん、すいませんね、遅れてしまって。少し総理と会談をしていて。では着席してください。中間報告会議といきましょう。」
盗聴機がないことを確認したところで会議はホテルの一室で始められた。
「秋山君。どうやら予想を反して志願者が一名出たらしいじゃなないか。何て言ったっけ。」
「松型駆逐艦二番艦 竹 です。」
「その名前なら聞いたことがある。ここ十年で潜水艦を約70隻沈めているエースだろ。未確認、撃破を含めたら512隻を攻撃したと聞いている。」
「そんなエースを渡して良いのか。」
「本人の意思ですから。彼女はこの前の偵察作戦で強行偵察艦隊に所属していて、帰ってきたとたんに志願してきました。」
「そんな急に。なんかあったのか。」
「本人いわく、イギリス東洋艦隊の友人が行くことになったから私もとなったそうだ。」
「その友人とは誰のことなんだい。」
「英東洋艦隊所属のプリンセスオブウェールズです。他にもウォースパイトやエクゼダーとも交流を持っていると。」
「なるほど。でもそのように優秀な駒を失って本当に良いのかい。」
「東洋艦隊との心の溝はいずれは埋めて、共同作戦ができるようにしなければいけません。しかし当分は無理でしょう。そう考えると今すぐ必要な駒ではありませんから。」
「マラッカ海峡での遺恨は深いか。」
「まあ秋山君。その件に関しては理解出来た。しかし、志願者がいないとなるとこちらで人員を選ばなければならないか。」
「そのために持ってきたものがあります。」
そう言って、私が取り出したものは2031年5月現在様々な理由で長期戦力外と判断された艦娘のリストであった。
「要するに、この中から選びましょうと。そうだな秋山海将。」
「さすが西村海将。話が早い。負傷が理由で戦力外となっているものは除き、精神的にダメージをおっているものから選びましょう。」
「おやおや、秋山海将も存外残酷なことを考えるものだ。」
「日本国は現在滅亡の危機にあります。戦えるものを渡すゆとりはない。ならば、この機会を戦えないものの厄介払いにすれば良い。」
「良い考えだ。幕僚長はどう考えますか。」
「私も賛成だ。我々の優先すべき事は日本国の滅亡を防ぐことであり、交際貢献ではない。でだ。優秀な秋山君の事だから既に候補は考えてあるのだろう。」
「はい。まず二つの主力艦枠は瑞鶴と榛名で埋めましょう。それで残りの三枠は阿賀野、野分、85号。潜水艦は伊70と波202。輸送船は信濃丸。」
「悪くはないが、今すべての枠を埋めるのはやめよう。取り合えず瑞鶴、榛名、信濃丸、伊70は決定で、その影響がどの程度か様子を見よう。もしかしたら新しい志願者も出てくるかもしれない。」
「それに、波号なんてもらっても国連もありがた迷惑だろ。なら日本での使い道はまだあるのだから、呉に置いておくのが得策だろ。」
「藤田君の言う通りだ。そうゆう事で秋山君は進めてくれ。それと田村君。人事部として誰を国連に送るか決めたか。」
「はい。適任が。室蘭防空基地で厄介者扱いされていた菊池智美海将補です。」
「女か。」
「はい。なかなか有能なのですが、なんにせよ扱いにくいもので。基地司令の話では酒に賭け事にと。五度ほど問題をお越し降格させられていますが、その度に結果をあげてなんだかんだ海将補まで上り詰めたと。」
「問題児だな。自衛隊も落ちたものだ。」
「まあ良い。田村君。そのまま話を進めてくれ。では解散としようか。」
こうして中間報告会議は解散した。呉鎮守府に衝撃がもたらされるのはその五日後であった。
その時、瑞鶴は一人防波堤の端にいた。四日前の第七十三南方船団編成会議の事を思い出していた。私も含めてほとんどの艦娘がハイデラバード行きを良しとせず、全く輸送船も護衛艦も人手が足りず。メンバーが決まるまで丸二日かかった。結局輸送艦娘は42人、護衛は12人なった。そのなかには葛城や霧島さんなども含まれている。でもそんなことはどうでも良い。あのときついつい頭に血が上って何人かに暴言を吐いてしまったことを心の底から悔やんでる。
「瑞鶴さん。やっといた。」
その声は。
「秋月。どうしてここに。」
「大変です。今日の掲示板見ましたか。」
「い、いや。見てないけど。」
「だっだら早く来てください。」
秋月は私の手を引く。
「待って。」
その言葉に足を止める。
「怒ってないの。」
「どうして。」
「この前の、あんなこと言ったのに。」
「ああ。編成会議でですか。何でしたっけ、うるさい、駆逐艦ごときが分かったようなこと言わないででしたよね。」
そんな悲しそうな笑顔で言わないでよ。余計私が辛くなるから。
「良いんですよ。私だって立場が逆だったら同じこと言ったかもしれませんし。この空母ごときが駆逐艦の気持ちも知らないでって。」
駆逐艦に励まされてるなんて、私も駄目だな。
「ありがとう。秋月は強いのね。先の戦いで妹の一人が戦死してるのに。」
しまった。
「満月のことですか。満月も機動艦隊の撤退のために戦えたんです。テニアン沖で穏やかに眠っているはずです。」
二人でゆっくりと歩き出した。
「そう。思い出させてごめんなさい。」
冬の乾いた風が肌に刺さる。
「それで、何が起きたの。」
「そうでした。実はあまり良いことじゃないんです。」
そんなことは何となく感ずいている。軍港地区から戻ってくると、食堂前の掲示板には人盛りができている。
「何なのこれ。」
と言うと。声を聞いた皆がこちらを振り替える。皆哀れんだ視線で私を見る。そして静かに道を開ける。それに促されるように一歩づつ進んだ。やがて文字が見えてくる。
(第三機動艦隊 瑞鶴 第一巡洋艦隊 榛名 第五潜水艦戦隊 伊70 第八船団 信濃丸 国連艦隊への転属を決定する。なお、異論は認めない。)
と、印刷の文字で冷たく書かれていた。
司令室はいつもにまして賑やかになっていた。いや、この表現は適切ではないか。異論は認めないと書いたはずなんだがな。
「提督、どうしてよりによってあの四人なんですか。」
「赤城さんの言った通りです。彼女たちは心に深い傷を負っています。とても国連艦隊でやっていけるとは思えません。」
「特に妹の榛名は目の前で金剛姉さんの最期を見ています。とても戦える状況ではありません。」
一度に色々と言われても聖徳太子でもないから分からないよ。
「一度追い付いてくれ。君たちの言いたいことは聞くから、代表者だけ残ってくれ。」
そう何度も言ってるうちに、ようやく話を聞き入れ赤城 加賀 比叡の三名が残った。
「言いたいことは聖徳太子ではないがだいたい理解はしているはずだ。結論から言うと君たちの意見は聞き入れられない。」
「どうしてですか。」
「まあ、声を荒立てるな加賀。」
「瑞鶴はまだ翔鶴の事を引きずって立ち直れてません。そのような精神状態で荒れることが目に見えている国連基地に送ることは危険です。彼女自身にとって。」
そんなことは分かっている。回りにも自らにもとても危険であること。
「だが戦えない以上、ここにいることは無意味だ。」
「では秋山提督は瑞鶴が戦力にならないから国連に渡すと言いたいのですか。」
「さも、榛名や瑞鶴が戦力外の役立たずと言わんばかりの発言ですね。」
「そうとは言っていない。」
「でも否定してないですよね。」
やれやら追求が激しいな。悪行を炙り出すための記者会見を受けている気分だ。
「とにかく、上が決めた事だ。俺がどうもこうも言える立場ではない。」
「嘘ですよね。小澤幕僚長と繋がっている提督が決定権を持たないはずがない。」
んー。この手が使えないか。分かりやすい嘘はつくもんじゃないな。この場をどう乗り越えるか。
「聞いてますか。答えてください。」
「もういい。これは海上自衛隊最高幹部会議で決めた事だ。君たちがどうこう言って変わることではない。分かったならこの部屋を出ていきたまえ。」
その返答に彼女たちは怒りをあらわにした。
「分かりました。まさか提督がそのような暴挙に出るとは思ってもいませんでした。」
「失望しました。」
「では失礼させていただきます。秋山。」
比叡が執務机を蹴って、三人は退室した。これは少し不味かったかな。辞表でも用意しておくか。なかなか自らの本意を伝えるのは難しいことだな。一人の司令室で一人頭をかいた。その日の夜遅く、大淀と神鷹と三人で今後の南方経路確保のための話し合いをしていた。そんなとき、誰かがノックした。
「誰でしょう。」
「入って良いぞ。」
そういって入ってきたのは秋月だった。
「秋月かい。」
「こんな時間にどうした。」
「私、国連艦隊への転属を望みます。」
やはり、きたか。
「秋月、本当か。提督。」
「分かってる。良いのか。日本を離れて異国の地で何年駐留することになるかわからないぞ。」
「その辺の事は理解しています。けれど転生したときに、今度こそ瑞鶴さんを最後まで守り抜こうと決意したんです。ですから、瑞鶴さんの行くところには何処までも付いていく所存です。」
彼女の手に力がこもる。それが彼女の決意の証だ。しかしあれだな、何となく瑞鶴を国連にやったら秋月もついてくるだろうなと思っていたんが。予想通りだな。
「君の意思はくみ取った。頑張りたまえ。」
「ありがとうございます。それでは。」
秋月はそのまま退室しようとする。
「まて。言いたいことがある。」
「なんでしょう。」
「瑞鶴は今とても精神的に不安定な状態にある。これは瑞鶴だけではなく、榛名や伊70にも言える事だが。だから君には彼女たちをあちらに行ってもサポートしてほしい。これは私の真意だ。君の志願を受け入れたんだ。こちらの望みも聞いてくれ。」
少し間が空いて
「了解しました。」
と答え、秋月は出ていった。
「提督、どうしてこの事を赤城さん達にも言わなかったんですか。」
「必要最低限の人だけ知ってれば良いさ。それにこんなこと思っていることを多数の人間に知られるのは何となく恥ずかしいからな。それに長くは私もここにいられなくなるだろう。」
「海自の司令部でそう言う話があるのですか。」
「いや、決してそういったことはないんだが。そろそろ誰かが作戦失敗の責任を取らないといけないだろうからな。」
「でも、父島や硫黄島、沖縄の奪還作戦を成功させたのはあなたです。それに海自の中にもあなたの代理を勤まる人材はなかなかいません。責めて代理になる人が見つかるまで我慢してください。」
それもそうか。
「やれやれ。あと何年働くことになるやら。」
「私らの方が長く働くことになるんだ。たかが数年で音をあげるなよ。」
「そうだな、神鷹。さあ続きをしよう。」
そうして作戦会議を再開した。