普段と変わらない夕方の時間。空母寮の共有スペースに集まり、四人でトランプで遊んでいた。あたしも、大鳳に誘われたからやっている。気晴らしには良いかなとそんな気がした。
「でもさ。国連艦隊もきっと良いところだよ。」
「私もそう思いたい。」
「でも秋月さんも行くんですよね。良かったじゃないですか。瑞鶴先輩。」
「そうそう。天城ちゃんの言う通り。ほらさ、国連艦隊の拠点ロシアになるんでしょ。こことは気候も国も文化も違うからきっと楽しいよ。」
「雪と氷ばっかだと思いますよ。でももうここまできたのなら精一杯やってみます。ただ、翔鶴姉にさよなら言えなかったのが残念ですけど。」
「目が覚めたら私が言っておく。」
「いいの。お願いします。飛龍さん。」
「瑞鶴さん、飛龍さん。革命です。」
え。ほんとだ。しまった。弱いのしか残ってない。
「そう言えば、大鳳の転属願いは通ったんですか。」
大鳳は顔を横に降る。
「まだ結論は出てない。」
「そんなにイギリス艦艇と会いたくないの。」
「だって、彼女らのせいで私の姉は沈んだんですよ。」
天城がボソッと言う。
「そうですよ、飛龍さん。」
あのとき雲竜は私や翔鶴姉、大鳳と四人で機動艦隊を組んでいた。共同作戦として同海域で作戦行動をしていたイギリス艦隊がマラッカ海峡奪還作戦継続不可能と判断してなのん通達もなく撤退。そのために最も前進していた私たちの艦隊群は集中攻撃を受けた。それで・・・。でもこれには面白くない落ちがある。猛攻撃を受けて敗走している日本艦隊を深海棲艦は追撃。そうして守りが薄くなったマラッカ海峡にイギリスが再突入。そのままシンガポールを占拠した。
「私もあの時の事は許せない。でももしロシアであのイギリス艦隊のやつがいたらどういった反応して良いか分からないな。」
「私だったらとても正常じゃいられないかも。」
私と天城が頷いていたとき。
「瑞鶴さん。なんか手紙が届いてますよ。」
その声がした方向をむく。
「夕張さん。」
「いやさ、いつもみたいに鎮守府に届いてる請求書なんか取りに行ったら見慣れないものがあって。宛名に瑞鶴って書いてあるから。」
誰からだろう。
「何でも外国から届いてますよ。」
「外国から。もしかして国連艦隊に志願した海外艦じゃない。ほら、早く開けてみなよ。」
この手紙に飛龍さんは興味津々だつだ。外国艦との交流も全くないので、誰から点で予想がつかない。色々思考を巡らせながらも封を切った。
「それで。誰からだった。」
「嘘でしょ。こいつ、どの面下げて手紙よこしたの。」
手紙にははっきりとエンタープライズの名がつたないカタカナで書いてあった。
国連の要請に対する最後の最高幹部会議がついに名古屋で開かれた。
「皆さん、ここ二ヶ月忙しかったでしょ。ですが今日で取り合えず一区切りがつきますよ。」
「本当。気楽ですよ。」
「そう。さっさと肩の荷を下ろすために。早速会議を始めよう。」
今回は今までのような気楽な集まりとは異なり、正式なものとなる。その為我々だけでなく、その他の自衛官もいる。会話の内容を記録し、国連へ送る正規の書類を作成するための人員である。既に提出書類には総理大臣、防衛大臣の署名はもらっている。あとはそこにいる小澤幕僚長の署名だけである。
「では始めよう。まずは追加の国連からの要請を伝えよう。」
「まだ追加されるのですか。」
「ああ。。他の国は既にメンバーが決まっているらしく、その編成バランスを考え抜いた結果、まだ結論が届いていない海上自衛隊からの艦娘で調整しようとの事だ。」
「日本国は出遅れてしまったようだ。それで、小澤幕僚長。残っている二枠で解決できますか。」
「心配するな秋山君。要請されているのは兵站についての知識を持ち、実際にそれらを運用するだけの実力を持つ者を一名。それと、水雷艦としての高い戦闘能力を持つ艦を一名から二名だそうだ。それと潜水艦娘は一名で良いと。」
送る人員を一人減らせるのか。それはよかったな。ドイツなら潜水艦があまり余ってるから代わりに送ってくれたのか。
「秋山海将。後者は問題ないとして、前者はどうなんだ。兵站部の艦娘をよこせという意味だろう。」
「そうなると候補は二人、神鷹と大淀だ。」
「秋山海将は、どちらが適切だと考える。」
「そうだな。西村海将の言うように、兵站部の艦をよこせというのは大問題だ。そのような人材は育てるのに時間がかかる。しかし渡さなければならぬと言うのなら、大淀だろう。」
「しかし彼女は作戦立案などにも携わっていたはずだ。君から名前はたまに聞くからな。それを渡して良いのか。」
「田村海将の考えることも最もだが。作戦立案は他の艦娘でも出来る。それに、大淀と神鷹の能力は同程度。なら戦力になる方を残すのが筋だろう。」
「やはり空母は必要かい。護衛と言えども。」
「護衛と言えども、空母は空母です。それに彼女の索敵、対潜哨戒能力は高い。今はそちらの方が必要だ。それに、言葉には出さないが大淀はこの事に興味を持っている。関心があるだけ、適任だろう。」
「では秋山君の意見により、大淀君には国連艦隊に行ってもらおう。では、最後の人枠は誰で埋める。」
「水雷艦能力の高い者だとしたら、陽炎型か夕雲型ではいか。」
「西村海将の意見は正しい。では、不知火、野分、舞風、早波のうちの誰かが適切かと。」
「じゃあ、早波で良いんじゃない。」
「小澤幕僚長。そんな簡単に決めて良いのですか。」
「なに、何となくこれかなと思っただけだ。駆逐艦なんてみんな一緒だから問題ない。なあ秋山君。」
「軍艦としての能力はほぼ等しいですが、艦娘自体はほぼ人間です。しっかりと個性と意識、そして命があります。日本国憲法を守るものとして、個人は尊重しなくては。」
「それは失言だった。すまないな。」
「こちらこそ、身の程を知らぬ発言失礼しました。」
「秋山君。そこまでかしこまらないでくれ。では最後の二枠は大淀君と早波君でいいね。」
「御意。」
そのあとはスムーズに話は進み。派遣自衛官の菊地海将補の転属手続き。護衛艦いずもの国連軍移譲手続き。派遣自衛隊部隊の選択、転属手続き。小澤幕僚長の署名を終え。この会議は解散となった。あとは四日後、呉から八名の艦娘を送り出すだけとなった。
ついに国連艦隊へ転属するものたちが出港しなくてはならない日がやって来た。その日は雲も低く、暗かった。昨日のうちに艤装の整備と補給は整えているので、あとは乗るだけ。昨日までは覚悟を決めていたのに、起きたときからよくわからない不安がつのる。そんな中、我々八名を送り出すための式典は行われた。海上自衛隊の上層部から一部の政治家までがやって来て、それぞれ激励の言葉を述べてゆく。けれどもそんなものは今の私の心にはなにも響かなかった。式典が終わると、出港するまでに二時間の自由時間が与えられた。最後の挨拶をそこで済ませてこいということだ。
「瑞鶴ちゃん。」
「飛龍さん。」
「浮かない顔してるけど、大丈夫なの。てか、しょうがないか。不安だよね。」
「他の空母さん達は。」
「あー。もう軍港地区の方に行ってるよ。千代田ちゃんとか祥鳳ちゃんとかは豊後水道出口で対潜哨戒任務についてる。もしかしたら出港してすぐ会うかもね。」
ここにいても仕方がないよと言った飛龍さんと二人で軍港地区へ歩いていく。既に私の艤装は通常形態で停泊している。
「瑞鶴ちゃんの艤装、もう乗組員の人乗船してるの。」
「はい。昨日安部機関長と一緒に整備したんで。あの人はそのまま館内で寝泊まりしてる、たぶん。伊藤飛行隊長も乗ってるかな。」
「へー。まあ伊藤飛行隊長は出撃馬鹿だからね。出撃できるって一人だけ喜んでるんじゃない。そう言えば、秋山提督から流星五機もらったんだって。良かったじゃん。」
とは言っても、書類上もらっただけでまだ実物見てないんだよな。格納庫のなかにはあるけど、見に行くのはめんどくさいし。
「ほら、赤城さんと加賀さんいるよ。」
飛龍さんが指差した方向、二人ともバインダーをもって自衛官の人と話している。
「あれなんか仕事してるんじゃ。邪魔したらあれだし。後でにしませんか。」
「なに言ってんの。時間ないんだし、さよならは言えるときに言うものだよ。ほら行くよ。」
「え、ちょっと。」
飛龍さんに手を引っ張られ、二人のところへ行く。
「赤城さん、加賀さん。」
飛龍さんが声をかけて、あっちもやっと気づく。やっぱり仕事邪魔するのよくなかったと。でも飛龍さんなら仲良いから平気かも。
「あなた達、待ってなさい。すいません、国内供給課の皆さん。話の続きは後でにしましょう。」
うわ、ガッツリ仕事してるし。加賀さんに怒られないかな。
「それで瑞鶴、出港準備はしっかり済ませたの。」
「あ、はい。」
「見落としてるとこないの。国連の基地はカムチャッカ半島にあるから、しっかり整備しないと寒さでやられるわよ。あなた自信も、しっかし防寒着を着なさい。呉ならこのかっこでも良いけど、あっちは比べ物にならないくらい寒いわ。」
そうか、しまった。防寒着は買うの忘れてた。
「ほら、そんな顔をして。買うの忘れたんでょ。」
え、何でわかるの。私感情そんなに顔に出やすいの。
「はい。これ。あげる。」
赤城さんが手渡してくれたのは、外套だった。
「この基地の主計課の人に頼んで陸上自衛隊が使ってる外套を分けてもらったの。」
「普通のものにさらに綿を加えておいたわ。」
「加賀さんがしたんですよ、これ。」
私のために加賀さんがしたの。
「加賀さんも瑞鶴ちゃんことよく考えてるじゃん。」
「赤城さん。その言葉は不用です。」
「でも、それだけ加賀さんは瑞鶴さんのことを心配しているんですよ。」
加賀さんが赤面する。あれ、否定しないんだ。単純に嬉しいな。
「あ、ありがとう。」
その時、赤城さんの無線機に通信が入った。顔つきが厳しくなる。
「分かりました。通報ありがとうございます。攻撃されそうになったら逃げてください。」
そう言って通信を切った。
「どうしました、赤城さん。」
「爆撃機隊です。戦略爆撃機約55機が呉へ向けて飛行中とのことです。現在豊後水道上空ですから、すぐ来ますよ。」
「そんな。こんな時に。」
「私は各部署に伝えにいきます。皆さんは艤装をつけて制空隊を飛ばしてください。艤装は縮小型で。」
「はい。」
加賀さんと飛龍さんは地下の艤装格納庫へ。私は停泊中の空母めがけて駆ける。その間に本部から空襲警報が鳴り響く。
「早く。」
桟橋で手を招く自衛官がいる。
「斎藤航海長。」
「いいから、早くのれ。この船吹っ飛ばされるぞ。」
「はい。」
急ぎ艦に乗り込む。
「斎藤さんは艦橋へ急いでください。」
「おう。」
左手を広げ、艦に当てる。
「艤装、通常形態から縮小形態へ移行。」
すると艦内は光だし、25000トンの船は一瞬にして飛行甲板型の盾と弓矢に変化する。
「伊藤さん。発艦準備できてますか。」
「もちろん、15機は飛ばせるぞ。」
頭のなかに声が直接響く。矢を取り弦を引く。
「制空隊発艦。」
勢いよく飛び出していった矢は、上空で光を発して戦闘機に変化する。
「瑞鶴、敵はどっちだ。」
艤装が縮小形態の時、乗っている人間は何故かメルヘンな姿になってしまう。
「豊後水道方面、高度8000m。直掩機無し。」
「ちときついが、敵の戦闘機がいないだけましか。分かった、任せとけ。」
空はゼロで埋め尽くされつつあった。
「瑞鶴。早く防空壕へ。」
「分かりました。」
斎藤航海長の言うように、急ぎ防空壕へ走る。移動誘導員にいたがって壕に入る直前、ブーンという特有のエンジン音が聞こえ振り替えると雲の隙間から真っ黒な巨人機が表れるところだった。結局空襲は必死の防空戦闘により被害は軽微ですんだ。そのせいで、私たちはグダグダの出港となってしまった。そして11;00、私たちは秋山提督、先輩後輩たち、他の艦種の艦娘、お世話になった自衛官の人に別れを言って、呉を後にした。慌ただしかった周囲が、いつの間にか静けさに包まれた。とてつもない孤独感をその時私は感じていた。
呉を出港して十三日目、日本艦隊は信濃丸の巡航速度にあわせて、9ノットで航行していた。今日のうちにはペトロパブロフスクが見えてくるはず。けれど、外は猛吹雪で視界が悪い。なので、GPS等を使った計器航行をしている。艦橋の中までも冷えて冷えて仕方がない。赤城さんと加賀からもらった外套がとても役に立った。
「瑞鶴。新しい指揮官の顔見たか。」
艦橋には今斎藤航海長と数人がいるだけで、他の乗組員は見張り、対空戦闘員以外ほとんどは格納庫で暖をとっている。
「いや、見てないけど。斎藤さんは見たの。」
「ああ、驚いたよ。女なんだから。」
「えっ、そうなの。」
女性で海将補なんだ。結構すごいのね。
「でも、あまり柄の良い感じではない。服からした臭いからしてあれは相当のヘビースモーカーだな。」
「ヘビースモーカーなんてどこの船にもいるじゃない。おかげで私も煙草に慣れちゃったし。今さら珍しくも何ともないけど。」
「そうか。興味ないか。」
斎藤さんは舵を持ち直し、艦種の方へ視線を向けた。興味ない訳じゃない、この寒さをどうにかしてほしいだけ。それにしてもまだつかないのかな。何気なく外を眺めたあと、吉田通信士に席を変わってもらった。
「こちら航空母艦艦娘瑞鶴です。駆逐艦竹、応答願います。」
「こちら駆逐艦竹、何でしょうか。」
「ごめんなさい、竹に変わってくれない。」
「分かりました。少々お待ちください。」
わざわざ敬語なんて使わなくて良いのに。
「はいはい。こちら竹。」
「竹、あのさ、ペトロパブロフスク見えてない。」
「悪いねー。先行しているといっても視界ゼロだから全く。距離的には陸地が視認できるはずなんだけどさ。」
「電探には。」
「ちょっと待ってね。確認してくるよ。」
しかし、そのちょっとが長かった。どうしたんだろう。
「瑞鶴さん。瑞鶴さん。電探に感あり。」
電探に。まさかここに来て敵が。
「吉田さん。ごめんさい、竹から連絡が来たら教えて。」
「はい。」
「それで、どこに。」
「分かりませんが、それなりの規模です。」
それなりの規模って、抽象的すぎでしょ。
「いずもはなんて。」
吉田さんが急遽連絡を取る。
「瑞鶴、ここは。」
「分かってる斎藤さん。各艦に第一級臨戦態勢を取るよに通達してください。」
でも光学的な物に頼れない以上電探に頼るしかないけど、混成艦隊で電探を使った戦闘にも慣れてない。それに艦載機も飛ばせない。さらに言えばこっちには鈍足の輸送船がいる。圧倒的に不利。逃げるしかないか。
「いずもより、艦影は合計15隻。位置は本艦隊の右後方50キロ」
「竹より返答。未確認艦隊から通信がきたそうです。」
「何だって。というと、敵ではないのか。」
「吉田さん、変わって。竹、何てきたの。」
「どうやら未確認の艦艇はアメリカ海軍みたい。旗艦ノースカロライナから直ちに国籍と目的を明らかにせよだって。」
何その上から目線。これだから戦勝国の船は嫌いなのよ。
「話は私がするから、こっちに繋いで。」
「了解。待っててね。」
待つこと一分。いきなり声の大きい英語が耳に響く。
「もしもし、あなたが旗艦なの。えっと、こちら、アメリカ太平洋艦隊所属国連派遣艦隊旗艦ノースカロライナ。貴艦隊の国籍と所属を言いなさい。さもなければ敵と見なし攻撃する。」
何こいつ。
「私たちは日本国海上自衛隊国連派遣艦隊ですけど。何か。」
「何、日本海軍なわけ。」
え、今舌打ちが聞こえたんだけど。
「海上自衛隊ですけど。」
「どっちでも良いし。とにかくあんたら日本艦艇なのね。了解。全く、今も昔もあんたらは礼儀が成ってないわね。」
そこであちらから一方的に通信を切られた。たまらず、マイクを床に投げつけた。
「どうしたんだ、瑞鶴。」
「何でもないです、斎藤さん。ちょっとムカついただけですから。少し歩いてきます。何かあったら呼んでください。」
「なら、好きなだけ歩いてきな。」
「そうさせてもらいます。」
全く、あいつ何なの。加賀よりたち悪いわ。ほんと腹立つ。日本人だからって馬鹿にしたよね、あのアメリカ女。音をたてながら階段を下って対空砲銃座に向かった。何となくそとに出たくなった。それが生涯はじめての米国艦艇とのコンタクトだった。