World Observer ~罪深き異世界の観測者~   作:7%の甘味料

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思いやる事が互いを苦しめる家族の観測記録 Part2

「こちらです……」

 

「ここは……」

 

それは街の中で最も大きい病院だった。

 

昼休憩終えて帰ってきたのだろうか、速足でこちら向かってくる看護師に軽い会釈を交わした。

 

来たは良いものの、深央は無言で立ちすくんでいる。

 

「家族が入院しているのか……」

 

重い沈黙を破り、俺は深央に声を掛けた。

 

「はい、私のおじいちゃ、いえ祖父が……」

 

深央は呼びなれたおじいちゃんと言う言葉を急いで祖父と言いなおす。

 

「すみません、いざ来てみるとやっぱり辛くて……

 そろそろ行きましょうか」

 

深央は辛そうな表情を見せながらも前へ歩き始めた。

 

俺も深央の後に付いて歩き始める。

 

深央の祖父の病室に行くまで俺と深央は無言で歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん……私だよ?」

 

ドアを開けて深央は室内の祖父に声を掛ける。

 

しかし、その声に返される言葉はなくただ空しく深央の言葉が消えていく。

 

病室の中を覗くとそこには呼吸器と点滴を繋がれ寝たきりで暮らしている一人の老人がいた。

 

「私の祖父は寝たきりで喋る事も、目を見開く事もできません……

 呼吸器がなければ自分で息をする事もできず死んでしまいます

 点滴を受けなければ自分で栄養を取る事もできません」

 

深央はゆっくりと祖父のベッドへと近づき、祖父の顔をしっかり見据えてこう言った。

 

ピコン……

 

定期的に医療機器から電子音が漏れている。

 

この重い雰囲気に包まれた病室にこの音だけが空気を読まずに響いていた。

 

「残念ながら回復の見込みもありません……死ぬまで寝たきりで生活をしなければなりません……」

 

深央は目に涙を溜めて今にもこぼれそうな涙を落とさない様に俺の頭より少しだけ上に焦点を当てて話を続ける。

 

「祖父を生かし続けるためにもお金がいります

 その費用もけっして安くないです……

 お、おと、お父さんも……お、おじいちゃんがもう二度と目覚める事はないと聞いて……

ショックで酒や煙草でストレスを解消するせいで家計も苦しくなっていて……」

 

深央は涙を堪えるのが精一杯で、自分を取り繕う余裕もなく話を続ける。

 

「おじいちゃん……言ってたんです病気が進んで寝たきりになる前に……

もし自分が話す事も目を開く事もできなくなったら……

じ……自分を……こ、ころ、殺してほしいって……」

 

深央は殺してほしいと言う言葉を発する時、今まで抑えていた涙のダムが決壊を迎えた。

 

しかし、泣いていても、涙を手で拭いながらも懸命に俺に言葉を伝えようとする。

 

「でも…ひっく……で、できないって……

 あ、安楽死のために……うっ……び、病院が手を下すのは……

 ほ、法律に違反するから……うぅっ……できないって……」

 

深央は泣きながらこの街の法律が自分たちを苦しめている事を訴えかける。

 

安楽死……この問題は様々な地域で様々な政策が取られているが、この地域では安楽死が認められていないのだろう。

 

生きる自由があるのなら死ぬ自由もある。その言葉をそのまま取るなら安楽死を選択できる事は当然の事である。

 

しかし、安楽死の選択の自由が生まれてしまえば別の問題が発生する事になる。

 

選択の自由が何時の間にか押しつけに変わってしまう事も起きてしまう事に繋がってしまう。

 

本人が生きたいと言っても周りの都合で安楽死を強要されたり、安楽死を騙った殺人が後を絶たなくなるに違いない。

 

だから、安楽死の自由を素直に認める訳にはいかないのだ。

 

口が聞けずに、目を開ける事の出来ない終末期患者は病院にとってもマイナスになる事も多いので、最悪病院ぐるみで終末期の患者を安楽死と言う名の大量殺人を行いかねない。

 

しかし、そのルールは結果的に目の前の娘を苦しめている。

 

「……す、すみません……

 泣かないで話そうと決めたのに……結局泣いちゃいました……」

 

「それは仕方ない、だが何故その話を俺にしてくれたんだ?」

 

「じ、自分でも分かりません……

 何と言うか……出会った頃から霧崎さんただ者じゃないと言うか……

 やはり、旅人をしているとそう言う風格が出てくるものなんでしょうか?」

 

ただ者ではない……。

 

死んでから数えきれない程の街を回っている間にその様な事を言われた事は何度かあった。

 

過酷な人生を歩むもの、沢山の時を経て色々な人間を見てきた老人。

 

時には自分の境遇を抽象的に見透かす様な人間もいた。

 

「さぁ……それは分からないな……

 それより深央おまえはどうしたいと思ってるんだ?」

 

「ど、どうしたいってどういう事ですか?」

 

「今そこで”生きている”自分のおじいさんをどうしたいと思っているんだ?」

 

俺は深央の目を見て真っ直ぐそう尋ねると、深央は考えてこう言った。

 

「おじいちゃん……喋れる時こうなったら殺してくれと言ってました

 寝たきりになったら、生きていてもお前たちの負担になる

 目が見開けなきゃおまえの元気な姿も見る事もできないって……」

 

深央は言葉を捻り出そうと握り拳を作り、力を込めて……そして、次の瞬間こう言った。

 

「わ、私がおじいちゃんを殺します……

 医者がやらないのならおじいちゃんを助けてあげられるのは

 私だけですから……」

 

 

 

続く

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