私小説であり、試小説 作:陰月
遅くなりました
金バッジを所有しているということは、目の前の男が特定の組に属していることを意味する。墨流会という組織において取り扱いが許されるのは、本家である墨流会を除いてわずかに3組のみ。
硯組
筆組
滴組
ならば当事者に関係している組で考えるのなら、該当する組は1つしかない。筆組だ。
しかし面識がない。入れ替わりの激しい筆組だからこそだった。
唯一分かることは、力で序列を決める筆組においてナンバー1は組長となり、必然的に2番目3番目と順に役職が決まることから、
「厄介な奴が出てきたもんだ」
残念ながら見た目に反して弱かったりしないことが困りものである。
「なになに?被害者面すんの?俺らが悪いの?か~わいい舎弟をやられて傷心の俺たちが悪者?」
匕首に手をかけながら歩み寄る男。抜け抜けとよく口が回るものだ。
「豪く物騒なモノを持ってるな」
男の一挙手一投足に神経を集中しつつも若い奴らに指示を出す。
若いとはいえ硯組の端くれ、散開し熊組のチンピラそれぞれに対峙する。
喧嘩、暴動の際、もっとも注意をすべきは堅気の迷惑を考えること。
被害を未然に防ぐために人気のない場所への移動を試みる、できない場合は話し合いでことを収める。
最終手段は相手を迅速に排除すること。
この組長の考えを念頭におき対処を考えるが、既に解決策は一つしかなかった。
実力的排除だ。
チンピラだけなら他の方法を考えもしたが、墨流会きっての武闘派 筆組の幹部が居てはどうにもならない。
話し合い=喧嘩、殴り合い、刃傷沙汰
和解=相手が反応しなくなっての、一方的解決
異常こそが普通。
ヤクザの世界においては硯組のような存在こそが異常だと揶揄されることもあるが、筆組の武力実力主義は常軌を逸している。
平和的な硯組にて金バッジまで上り詰めたナツには、そう考えられるだけの経験があった。
「ナツの兄貴たち今頃どうしてますかね?」
組長の前へ緑茶を注いだ湯呑を置きつつ、下っ端サナイが尋ねる。
「なに、あいつ等なら大丈夫だ。心配すんな」
心配顔のサナイの頭をガシガシとこねくり、ニカッと笑って見せるハルミだったが、その表情が普段よりも固いということはサナイにも分かった。
まだまだ見習いの域を越えない自分でも何かできないのかと考えていると、事務所の窓が急に割れ、破片と共に拳大の石が壁に当たった。
事務所内にいた全員は咄嗟に身を低くし警戒態勢に入る。
しかし、ある人間にとっては渡りに船となった。
いち早く足を動かし事務所前の道へと躍り出たのである。
「誰だ、この野郎!」
サナイだった。
「サナイ!!」
ハルミは急いで呼び止めようとしたがそれはサナイの耳に届くことは無かった。
今の立場や状況を考えるなら、先程のことは筆組か熊組の仕業だろう。
もしかすると、拳銃などの武装でもって殴り込みに来たのかもしれない。
普段部下に言い聞かせている分、自らも動き出すのは早い。
周りの組員の誰よりも早く組長が援護に動いた。
次で、どうにか