私小説であり、試小説 作:陰月
書き上げたら投稿
唸り声を上げながら、剛腕を振りかざす達磨。
驚くべきはそのスピードである。見るからに重みのありそうな腕だが、それだけでなく速さのあるパンチが繰り出されてきた。
その拳に怯むことなくオジサンが一言告げる。
「お前、馬鹿だな」
先程のトラックの衝突の時と同様、全く意に介していない表情を浮かべる。
顔を青くして狼狽えているサナイにビニール袋を預け、鬱陶しそうに片手を上げ剛腕を受け止めた。
「お前の拳はトラックよりも威力あんのか?」
言うが早いか受け止めた剛腕を絡め捕り、後ろ手に捻り上げ、達磨を地面に転ばせてしまう。
「え」「ぬうぅ」
一瞬の出来事で、何をしたのか本人以外は理解できずにいた。
腕をとられた達磨も、急襲してきた痛みを回避しようと反射的に体を動かそうとしたが、体が言うことをきかず地面にキスするはめになった。
信じられなかった。
筆組で幹部職に就いているこの自分が、道具を使用してではなく純粋な腕力で倒れ伏すことになろうとは。
筆組における『武力』とはなにも腕力だけではない。銃火器を使っても、それを調達する資金力や組織的繋がり(パイプ)もまた『力』。刃物などの扱い、『武』。
とにかく相手を始末することこそ至上。
その中で刃物や銃火器に頼らず、身体的強さのみで幹部に上り詰めた。
喧嘩が強いことを自慢する高校生のようなものではない。トラックによる殺しが失敗しようとも、全てを遂行できる絶対的な自信があった。
なのに今、自分よりも小さな存在に敵わないでいる。
捻り上げてくる手を振り払おうと、先程から力を込めるもののビクともしない。
「ぐぅぅ、おまえはいったい。どこの組のモンだ」
硯組の組としての方針や、組員の情報はある程度知り得ていた。
これほどの実力ならば幹部で間違いない。しかし、幹部の情報の中には居なかったのだ。
苦悶の表情を浮かべながら、つい、疑問が口をついて出ていた。
「ああ?組だぁ?こんな良心的なオジサン捕まえてヤクザ呼ばわりか。失礼な奴だな」
変な騒動に巻き込まれて、ただでさえ迷惑しているのに失礼なことを言うな、と捻る手に力を込める。腕の軋む音が聞こえてきそうだ。
そしてこれ以上変なレッテルを貼られる前に、自らの身分を証明しようと口を開く。
「俺ぁ、ちょっと前からこの先で喫茶店始めた辻 功楼ってモンだ。ヤクザなんかと一緒にすんじゃねえよ」
分かったか?
押さえつけながら筋肉達磨に理解を促す姿は、新米のサナイよりも余程ヤクザらしい振る舞いであった。
自転車操業ですな