私小説であり、試小説   作:陰月

22 / 23

 書き上げたら投稿


二十二話 その怒り、当然

 唸り声を上げながら、剛腕を振りかざす達磨。

 驚くべきはそのスピードである。見るからに重みのありそうな腕だが、それだけでなく速さのあるパンチが繰り出されてきた。

 その拳に怯むことなくオジサンが一言告げる。

 「お前、馬鹿だな」

 先程のトラックの衝突の時と同様、全く意に介していない表情を浮かべる。

 顔を青くして狼狽えているサナイにビニール袋を預け、鬱陶しそうに片手を上げ剛腕を受け止めた。

 

 「お前の拳はトラックよりも威力あんのか?」

 言うが早いか受け止めた剛腕を絡め捕り、後ろ手に捻り上げ、達磨を地面に転ばせてしまう。

 「え」「ぬうぅ」

 一瞬の出来事で、何をしたのか本人以外は理解できずにいた。

 腕をとられた達磨も、急襲してきた痛みを回避しようと反射的に体を動かそうとしたが、体が言うことをきかず地面にキスするはめになった。

 

 信じられなかった。

 筆組で幹部職に就いているこの自分が、道具を使用してではなく純粋な腕力で倒れ伏すことになろうとは。

 筆組における『武力』とはなにも腕力だけではない。銃火器を使っても、それを調達する資金力や組織的繋がり(パイプ)もまた『力』。刃物などの扱い、『武』。

 とにかく相手を始末することこそ至上。

 その中で刃物や銃火器に頼らず、身体的強さのみで幹部に上り詰めた。

 喧嘩が強いことを自慢する高校生のようなものではない。トラックによる殺しが失敗しようとも、全てを遂行できる絶対的な自信があった。

 なのに今、自分よりも小さな存在に敵わないでいる。

 捻り上げてくる手を振り払おうと、先程から力を込めるもののビクともしない。

 「ぐぅぅ、おまえはいったい。どこの組のモンだ」

 硯組の組としての方針や、組員の情報はある程度知り得ていた。

 これほどの実力ならば幹部で間違いない。しかし、幹部の情報の中には居なかったのだ。

 苦悶の表情を浮かべながら、つい、疑問が口をついて出ていた。

 

 「ああ?組だぁ?こんな良心的なオジサン捕まえてヤクザ呼ばわりか。失礼な奴だな」

 変な騒動に巻き込まれて、ただでさえ迷惑しているのに失礼なことを言うな、と捻る手に力を込める。腕の軋む音が聞こえてきそうだ。

 そしてこれ以上変なレッテルを貼られる前に、自らの身分を証明しようと口を開く。

 「俺ぁ、ちょっと前からこの先で喫茶店始めた辻 功楼ってモンだ。ヤクザなんかと一緒にすんじゃねえよ」

 分かったか?

 押さえつけながら筋肉達磨に理解を促す姿は、新米のサナイよりも余程ヤクザらしい振る舞いであった。

 





 自転車操業ですな
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。