私小説であり、試小説 作:陰月
なんとはなしに作ったキャラが物語の進行とともに、成長していく
こうやって徐々に愛着が湧くのでしょうね
「さて、そろそろ信じて頂けましたか?」
全体の雰囲気が切り替わるのを促すように、パンッと両手を合わせて音をならす。
サナイは考えた。
ガクトは自分ですら知らなかった情報を提示して見せた。
先程から敵対の意思は感じられないし、危害さえ加えなければ手は出さないと宣言もしてきた。
それに助力を頼んだ相手も相手なのだから、これ以上詮索しても事態が変わらないと判断を下す。
「分かりました、ご協力よろしくお願いいたします」
兄貴分の頭が下げられた。
ガクトにはやられっ放しでいけ好かないが、絶対の信頼を置いている人が頭を下げたのだ。
キンヤ、マドカもそれに倣い頭を下げる。
「ありがとうございます」
一先ず信じられたことを確認し、ゆっくりと三人に歩み寄る。
顔を上げるようにお願いし、出会ってから気になっていたことを確認することにした。
「手始めに一つだけ宜しいですか?」
「なんでしょう?」
「いえね、簡単に実力を見せるついでと言いますか。マドカさんでしたね?」
「あ、ああ」
何故自分に声を掛ける必要があるのか、全く予期していなかった事態に少しどもってしまった。
ガクトはゆっくりと手を、ポケットに突っこんでいる左手首へと伸ばしてくる。
その手を、急に何だ、と体を左へ捩じり半身で遮った。
「何だよ、お前の腕が立つのは分かったよ」
てっきり武力証明でもするのかと思い告げたのだが、その考えは次のガクトの言葉で否定される。
「ふふふ、違いますよ。あなた左手を怪我されてますよね?」
この発言には、本人含めてヤクザ三人は驚愕の表情を浮かべた。
「な!?」「えっ!」
「!?、、、本当か、マドカ」
サナイの視線が鋭くマドカを射抜く。
バツが悪そうに黙るマドカだったが、次の『出せ』という言葉まで無反応ではいられず、渋々の体でポケットから手を出してくる。
その手は全体が
「どうしたんだ、コレは」
「いえ、今朝にちっと」
さらに詰め寄るサナイを回避しようと、肩を竦めて見せるマドカだったが通じるわけがなかった。
「嘘を吐くな。マスターの店に入るまで力いっぱい振り回してたろうが。馬鹿にしてんのか?」
「まさか、あの時!?」「しっ、黙ってろ!」
何か思い当ったキンヤだったが、マドカがそれをさせない。
痛みに耐えるために左腕を握る右手に力がこもる。
今、目の前にあるサナイの表情は、ガクトが出会って一番鬼気迫るものがあった。
実を言うと、この坂下佐内という男。典型的な自己犠牲人間だった。
辛いことや悲しいことでも、自分が傷つく分には平気の平左。だが逆に世話になった組長どころか弟分であっても、傷つくことを良しとはしない。
弟分としては、兄貴分の盾になってこそという気概を全うさせてくれない。自分の命は二の次で子分の命を優先させてしまう。怪我をしたならすぐさま治療に走れ、という人なのだ。
当然今回のような火傷も見つかれば、先に帰らされていた。
命の危険なんかないと素人でも分かる傷でも、関係はなかった。
しかしマドカにも譲れないことがあるのだ。
今回のような非常事態、もしも襲撃にあい。自分ひとりを失うことと兄貴を失うこと、天秤にかければ重要なのは火を見るよりも明らかだ。
これを制したのは二人目の弟分であるキンヤ、ではなく、
「まあまあ、今は良いじゃないですか。それよりも『手当て』が先ですよ」
出会ってから一度も微笑みを絶やさない、この男だった。
弟思いの長男♪
兄さん思いの三男♪
自分が一番 次男♪