「色々と試さないといけませんねトールさん。魔法やスキル、アイテムがちゃんと使えるのかとか、発動の感覚とかゲームとの差もですね。」
本来こういった実験が好きっぽいモモンガさんが、ノリノリで語りかけて来た。
俺はその問いに『モモンガさんまずは、指輪の実験から始めますか』と答えた。
モモンガさんは、自分の指にはまっているリングを見た。《リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》ギルドの紋章が刻まれた指輪で、ギルドメンバーの証である。墳墓内で、玉座の間とギルドメンバー達の部屋以外なら自由に転移することができる便利アイテムである。
二人は半信半疑で、リングに転移先である闘技場の大広間をイメージした。
俺はこんな時に一度は言って見たいセリフを呟いていた。
『ジャンプ』
【ナザリック地下大墳墓・第六階層 闘技場大広間】
「成功ですね」
モモンガさんが、辺りを見回し興奮気味にそう告げた。
何層にもなる客席が中央の空間を取り囲み、古代ローマを髣髴とさせる場所に転移していた。目的地である闘技場がそこにはあった。
俺達は闘技場の周囲を見渡し、次に空を眺めた。そこには、まさに漆黒と言った夜空が広がっていた。星が煌き美しく、作成者の拘りが伺えた。
ここはナザリックの地下であり、しかも第六階層。本来であれば、星空などはありえない偽りの空だ。それを偽りと感じさせない完成度は、おそらく相当のデータを割り振っており、作成に時間を掛けたのだろう。
俺が居た頃は、まだ完成していないシステムであった。プラネットさんが何人か巻き込んで、そんな話をしていた事は薄っすらと覚えていた。
モモンガさんは、周囲を見渡していた。おそらく、茶釜さんが作り出したこの階層の守護者である娘達を探しているのだろう。たしか、ダークエルフの姉妹だか兄妹だかの双子だった気がする。
「とあ!」
掛け声と共に貴賓席から跳躍する影があった。ビルにも匹敵する高さから飛び降りた影は、空中で一回転し見事に着地をした。(10点満点をあげたい)
「ぶい!」
両手にピースを作る。
飛び降りてきたのは、10歳ほどの子供であった。子供の特有の可愛らしさがあり、金色の絹のような髪が特徴的である。耳は長く尖っており、ダークエルフと言われる種であった。
「アウラか」
モモンガさんは、登場したダークエルフの子供の名前を呟く。
ナザリック地下大墳墓第六階層の守護者であり、幻獣や魔獣等を使役する魔獣使いであり、レンジャーでもある《アウラ・ベラ・フィオーラ》
アウラは、小走りにモモンガに近づいてくる。小走りではあるが、守護者である彼女のスピードは、獣の全速力と同等以上のスピードだった。わずか数秒で、モモンガさんの所に到着した。
アウラは急ブレーキをかけ、地面を削り土煙を起こす。擬音にすれば、まさにギギギーーといった感じである。そして、動物の子供が尻尾を振っている感じが幻想できる様な笑顔を浮かべて、モモンガさんに挨拶をする。
「いらっしゃいませ、モモンガ様。私達の守護階層までようこそ」
アウラは挨拶の後に、モモンガさんの後ろにいる人がいるのに気が付いた。
「ま、まさか!!」
アウラは視線の先にいる妖狐が、かつて自分達の主の一人であったトールである事にようやっと気が付いた。
「トール様だぁあぁーー!!」
『久しな、アウラよ。ようやっと帰って来る事が出来た。』
とアウラに話かけた。記憶の片隅にしかなかった存在だが、茶釜さんの娘となれば粗略にも出来なかった。
「御方に気が付かなとは、大変な失礼を致しました。この罰は」とか言って恐縮そうにしている。そんなアウラに向かって俺は、モモンガさんが昔やっていたRPの真似をして『お前のすべてを許そう。アウラ・ベラ・フィオーラよ』と語りかけた。
横でモモンガさんが子声で「ちょおま」とか言っているのが聞こえたが、無視しておく事にした。
『ところで、もう一人はどうした?』と話題を変える為に、つっこんでみた。
アウラが顔を押さえながら、貴賓席に向かって叫んだ。
「早く来なさい!マーレ!!!」
アウラが叫ぶと、先程の貴賓席から「降りられないよーーおねーちゃーーん」という声が聞こえて来た。もう一度アウラが叫ぶと、履いているスカートの裾を押さえながら飛び降りた子供の姿が見えた。
《マーレ・ベロ・フィオーレ》その容姿はアウラとそっくりだが、姉より随分と大人しい雰囲気がした。
マーレは、姉とは比べるまでもない速度で走ってくる。全力で走っているのだろうが、テクテクと言った擬音がぴったりあった速度で、待つこと数分でようやっと到着した。
「お、お待たせしました、モモンガ様・・・そしてお帰りなさいトール様」
妹?弟?の方は俺の存在に気が付いていた様であった。
『マーレも久しいな。元気だったか』
と声を掛けておいた。