Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第13話「美遊の想い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ落ちるがれきの中、響は空中を泳ぐようにして必死に美遊を追いかける。

 

 バーサーカーの一撃によって崩されたビルの床。

 

 そこに落下した美遊を助けるべく、響は自らも穴に飛び込んだ。

 

 視線の先には、尚も真っ逆さまに落ちていく美遊の姿。

 

 凛やルヴィアの姿は見えない。

 

 彼女たちは落下に巻き込まれなかったのか?

 

 仮に落下しなかったとしても、上にはバーサーカーが残っている。

 

 いずれにしても、無事を祈る以外に無い。

 

 手を伸ばす響。

 

 落下する美遊に、手が届く。

 

 響は美遊の肩を掴み、必死に抱き寄せる。

 

「み・・・・・・ゆッ」

 

 呼びかける響。

 

 しかし、返事は無い。どうやら、気を失っているらしい。

 

 響は美遊の体を抱きかかえ、頭に手をやる。

 

 2人はそのまま、真っ逆さまに落下していった。

 

 

 

 

 

 それは、いつの事だったか?

 

 その日は、朝から妙に浮ついた気分だったのを覚えている。

 

 異変が起きたのは、昨夜の事。

 

 その後すぐに、屋敷の中が慌ただしくなった。

 

 いつもは自分に気さくに笑いかけてくれる使用人も、今日はその余裕も無いのか、挨拶だけして通り過ぎていく。

 

 その空気に充てられ、自分も落ち着かなかった。

 

 父がやってきて、優しく頭を撫でる。

 

 心配し無くても良い。大丈夫だから。

 

 父はそう言うと、屋敷の奥へと入って行った。

 

 その背中を見送りながら悟る。

 

 ああ、そうか。

 

 いよいよなんだ。

 

 喧騒に包まれた屋敷の中、縁側に座って大人しくしている。

 

 どれくらい、そうしていただろう?

 

 退屈さから、足をぶらぶらと振りながら、待っている。

 

 その時だった。

 

 突如、聞こえてくる、元気な泣き声。

 

 ハッとして、顔を上げる。

 

 同時に、パタパタと駆けてくる音が聞こえて。

 

 使用人が、息を切らせて走ってくる。

 

「お生まれになりました!!」

 

 興奮した様子の使用人。

 

 どっちだ?

 

 尋ねると、使用人は、ニッコリ微笑んで答えた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 軽い呻き声とともに、美遊は目を覚ました。

 

 いったい、何があったのか?

 

 体中が、軋むような痛みを発している。

 

 傷自体は既に塞がっているが、受けたダメージまで完全に消せたわけではない。

 

 痛みは尚も、体に残り続けている。

 

《美遊様、ご無事ですか?》

「サファイア・・・・・・・・・・・・」

 

 手の中のステッキから声を掛けられ、美遊の意識は覚醒する。

 

 気を失う前の事を、思い出す。

 

 確か自分は、バーサーカーと戦っていたはず。

 

 しかし狂戦士は一切の攻撃を寄せ付けず、あまつさえ致命傷ですら治癒してしまった。

 

 そして美遊はたった一撃で大ダメージを負ってしまった。

 

 撤退中の事は、意識が朦朧とした為、殆ど覚えていない。

 

 しかし、サファイアが撤退の為の魔術を起動した瞬間、再びバーサーカーの襲撃を受けたのは、何となく覚えていた。。

 

 そこで、美遊の記憶は完全に途切れている。

 

「あれから・・・・・・どうしたんだっけ・・・・・・・・・・・・」

 

 身を起こそうとする美遊。

 

 その時、すぐ自分の傍らに、誰かが倒れているのに気が付いた。

 

「響ッ!?」

 

 手を伸ばし、少年の体に触れる。

 

 既に英霊化は解かれ、響の姿は普段着に戻っている。

 

 美遊は響の体を揺さぶるも反応は無い。

 

《大丈夫です。生命反応はあります。どうやら、気を失っているだけの様子です》

「そう・・・・・・・・・・・・」

 

 サファイアの言葉に、美遊はホッと息をつく。

 

 ともかく、響の事は心配いらないようだ。

 

 そこで美遊は、もう一つの懸念事項に意識を向ける。

 

「サファイア、ルヴィアさん達は?」

《はい、少々お待ちください》

 

 この場にいないルヴィアと凛の事は気になる。どうにか、2人と合流したいのだが。

 

 程なく、サファイアは安堵したように言った。

 

「お二人の生命反応を鏡面界内部に確認しました。移動しているところを見ると、どうやらご無事なようです」

 

 サファイアがサーチした結果、凛とルヴィアの反応は少しずつ動いている事が分かった。それはつまり、2人が自分の意志で移動してい事を意味している。

 

 バーサーカーから逃げているのか、あるいは美遊達を探しているのかは分からない。

 

 しかし生きているなら望みはあった。

 

「2人と合流して脱出しよう」

《同感です。それでは、私が誘導をしますので、美遊様は響様を何とか・・・・・・・・・・・・》

 

 言いかけたサファイア。

 

 その時だった。

 

 突如起こった強烈な振動に、思わず美遊はその場でよろける。

 

 振動は断続的に起こり、徐々に大きくなっている。

 

 地震でない事は間違いない。

 

 何が来たのかは、すぐに判る。

 

 バーサーカーが接近してきているのだ。

 

 このままでは恐らく、ルヴィア達と合流する前に、追いつかれてしまう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊はチラッと、響の方へと目をやる。

 

 相変わらず、気を失っている少年。未だ目を覚ます気配はない。

 

 美遊は良い。この場から逃げ、バーサーカーを避けてルヴィア達と合流する事は不可能ではない。

 

 バーサーカーがその巨体故に小回りが利かないのは想定済み。この狭い空間では、美遊の方が素早く動くことができる。

 

 しかし、気を失っている響はそうはいかない。

 

 彼を連れて、バーサーカーから逃れる自信は、美遊にもなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・サファイア」

《はい、何でしょう?》

 

 決意とともに、美遊は語り掛ける。

 

「合流は中止。ここで迎え撃つ」

《しかし、それではッ!!》

 

 抗議しようとするサファイア。

 

 しかし、それを無視して、美遊は太ももに巻いたカードホルダーから1枚のカードを取り出す。

 

《おやめください美遊様ッ 美遊様の力では、あの怪物に敵わないのは、既に明白のはず!!》

「大丈夫。手はある」

 

 そう言って、美遊はカードを掲げる。

 

 それは剣を掲げた騎士のカード。

 

 「セイバー」のカードだ。

 

《何をするおつもりですか?》

「響と同じ事。なぜ、彼にもできたのかは分からない。けど、同じことを私なら・・・・・・・・・・・・」

 

 静かに言うと同時に、

 

 美遊はセイバーのカードを地面に当てる。

 

 同時に、魔法陣が形成される。

 

「告げる」

 

 凛と響く声。

 

「汝の身は我に、汝の剣は我が手に!!」

 

 驚くサファイア。

 

 それはかつて、響が夢幻召喚(インストール)した時と似た文言だった。

 

「聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば答えよ!!」

 

 その間にも、地鳴りはさらに大きくなる。

 

 バーサーカーは、もうすぐそこまで来ているのだ。

 

「誓いをここに!! 我は常世総ての善と成る者!! 常世総ての悪を敷く者!!」

 

 ついに、天井を突き破り、バーサーカーが姿を現す。

 

 怒りに満ちた凶相が、射殺さん勢いで美遊に向けられる。

 

《美遊様ッ 敵が!!》

 

 サファイアが警告を発するが、美遊は構わず続ける。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天!!」

 

 美遊に向けて拳を振り上げるバーサーカー。

 

 サファイアが悲鳴に近い声を上げる。

 

 だが、

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手!!」

 

 美遊は留まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよく振り下ろされた、狂戦士の拳。

 

 しかし次の瞬間、

 

 一振りの剣が、バーサーカーの拳を受け止めた。

 

 狂戦士は、その狂った瞳に、驚愕の色を見せる。

 

 その機を逃さず、美遊は押し返す。

 

 手にした剣を力の限り振るう美遊。

 

 溜まらず、蹈鞴を踏むようにして大きく後退するバーサーカー。

 

 それは、この戦いが始まって以来、初めて見る光景だった。

 

 狂戦士は、自分よりも遥かに小さな少女に力負けしたのだ。

 

 両者の間合いが開く。

 

 美遊はそっと、背後で眠る響に目をやった。

 

「安心して。あなたは、私が守る」

 

 呟く美遊。

 

 その姿は、先ほどまでの魔法少女の物ではない。

 

 青い衣装の上から、腰と脚部、そして前腕には銀色の甲冑を纏い、手には優美な外見の西洋剣が握られている。

 

 意匠こそ違えど、それは間違いなく、数日前に戦ったセイバーの物だった。

 

「響には、触れせない」

 

 不退転の決意とともに、切っ先をバーサーカーに向ける美遊。

 

「全ての力をもって、今日ここで、戦いを終わらせる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振動は、足元から聞こえてくる。

 

 その状況が、戦いは尚も続いている事を現していた。

 

「ああ、もうッ このビル、無駄に複雑なんだから!!」

 

 凛は必死に駆けながら、階下を目指している。

 

 その背後からは、ルヴィアも遅れずに続いていた。

 

 とは言え、戦場となる場所まではなかなかたどり着けない。

 

 先の戦闘と、バーサーカーが強引に破壊しながら移動した影響で、通路は各所において寸断され、通れなくなっている場所が多い。その為、2人は焦りばかりが募っていた。

 

「グズグズしている暇はありませんわよ!!」

「判ってるわよッ ったく!!」

 

 舌打ちする凛。

 

 階下で戦っているのは美遊だろうか? それとも響?

 

 いずれにしても、あの化け物相手に子供2人では危険すぎる。

 

 せめて援護に入らない事には。

 

 先ほどから、振動は徐々に増してきている。

 

 それは戦闘がいよいよ激しくなっている事を現していた。

 

 早く。

 

 早く行かなければ。

 

 焦慮が募る。

 

 しかし、

 

「ッ またですわ!!」

 

 ルヴィアが舌打ち交じりに呟く。

 

 またも、瓦礫が行く手を塞いでいるのだ。

 

 足止めを食らう2人。

 

 これでまた、迂回路を探さなくてはならない。

 

「こんな事、してる場合じゃないってのに!!」

 

 苛立ちと共に、壁に拳を打ち付ける凛。

 

 こうしている間にも、階下では戦いが続いている。

 

 それなのにッ

 

「ともかく、他の道を探しますわよ!!」

 

 そう言って、ルヴィアは踵を返す。

 

 それに追随して、凛も駆けだした。

 

 

 

 

 

 死闘は、続いていた。

 

 轟風と共に繰り出される巨大な腕。

 

 巨木をも凌駕するほどの太さを持った腕の一撃を、美遊は低く疾走する事で回避する。

 

 速度において、英霊化しセイバーとなった美遊は、バーサーカーのそれを大きく凌駕していた。

 

 繰り出される剣の切っ先。

 

 先には、響の一撃すら防いだ鋼の肉体(よろい)

 

 その鎧に、

 

 美遊の繰り出した刃は突き込まれた。

 

 貫通する一撃。

 

 さしものバーサーカーも、咆哮を上げる。

 

 それは苦痛の咆哮。

 

 美遊の剣は、確実にバーサーカーの胸板を貫いていた。

 

 だが、美遊はそこで止まらない。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 気合と共に、突き込んだ刀身を斬り下げる。

 

 その軌跡に従い、バーサーカーの体は斜めに斬り裂かれた。

 

 膝を突くバーサーカー。

 

 鮮血が、巨体から噴き出す。

 

 明らかな致命傷だ。

 

 これなら、倒せたか?

 

 美遊も、期待と共に一瞬そう思う。

 

 だがしかし、

 

 見ている目の前で、再び傷の修復が始まったではないか。

 

 やはり・・・・・・・・・・・・

 

 失望と諦念を、同時に浮かべる美遊。

 

 あの程度の攻撃では倒せないのでは、と心の中で思っていたことだが、結果はその通りだった。

 

 またも、バーサーカーの蘇生能力が発動していくのが分かる。

 

 その時、

 

《美遊様ッ》

 

 手元の剣から、サファイアの声が聞こえてきた。

 

 その様子に、流石の美遊も少し驚く。

 

「サファイア・・・・・・その姿でも喋れるんだ・・・・・・」

《これが以前、響様に言っていた夢幻召喚(インストール)なのですね。まさか、私の姿まで変わるとは・・・・・・・・・・・・》

 

 つまり、今のサファイアは剣の形になっているわけだ。

 

 美遊は魔術礼装であるサファイアを解する形で夢幻召喚(インストール)を行っている。恐らくは、その影響だろう。

 

 とは言え、

 

《まさか、美遊様までこのようなことが可能とは・・・・・・・・・・・・》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 サファイアの言葉に、美遊は黙り込む。

 

 夢幻召喚(インストール)の事を知っていた事。それを美遊も可能だった事。

 

 それらの事態に、流石のサファイアも困惑を隠せずにいた。

 

 だが、

 

「話は後。敵が来る」

 

 険しい声で言いながら、美遊は剣を構えなおす。

 

 その視界の先では、傷も塞がり、立ち上がるバーサーカーの姿が見えた。

 

 駆ける美遊。

 

 先手必勝。

 

 敵が体勢を整える前に斬り込むのだ。

 

 バーサーカーの懐へと、一息に飛び込む美遊。

 

 その手にある剣が、高速で斬り上げるように振るわれる。

 

 次の瞬間、

 

 ガキッ

 

 ありえない異音と共に、美遊が繰り出した剣はバーサーカーの脇腹に当たり、そこで受け止められていた。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちしつつ、素早く剣を返す美遊。

 

 今度は肩口を狙い、袈裟懸けに繰り出される。

 

 だが、結果は同じだった。

 

 剣はバーサーカーの体表によって受け止められ、1ミリたりとも斬る事叶わない。

 

 愕然として、動きを止める美遊。

 

 先程までは間違いなく通っていたはずの刃が、今は通らない。

 

 バーサーカーの肉体は、明らかに先程よりも硬度を増している。

 

 間違いない。もう、美遊の攻撃はバーサーカーには通じないだろう。

 

 最高クラスの防御力に蘇生能力。おまけに進化までする。

 

 今こそ美遊は、バーサーカーの真の能力を理解していた。

 

 そこへ、バーサーカーは反撃に出た。

 

 振るわれた巨大な拳が、容赦なく美遊を襲った。

 

「グゥッ!?」

 

 強烈な一撃を受け、容赦なく吹き飛ばされる少女。

 

 英霊化した事で、美遊の耐久力は上がっている。先ほどのように、一撃で致命傷を食らう事は無い。

 

 しかし、それでもダメージは残る。

 

 額や口元から鮮血を流す美遊。

 

 だが、

 

 しかし、

 

 それでも、

 

 尚、美遊は立ち上がって見せる。

 

《美遊様、お願いですッ もう撤退してください!! 今なら・・・・・・その御姿ならば、響様を連れても、敵を振り切れるはずです!!》

「・・・・・・だめ・・・・・・まだ」

 

 サファイアの説得にも耳を貸さず、頑なに剣を構え直す。

 

《美遊様!!》

「撤退は、しない!! 今ここで、終わらせる!!」

 

 決然と叫びながら、美遊は手にした剣にありったけの魔力を込める。

 

 輝きを増す刀身。

 

 その様は、建物の内部に太陽が出現したかのようだ。

 

《美遊様・・・・・・どうして、そこまで・・・・・・・・・・・・》

 

 茫然として、サファイアは主に尋ねる。

 

 いったい何が、美遊をここまで頑なにしているのか。

 

 対して美遊は、向かってくるバーサーカーを見据えながら口を開いた。

 

「私が負けて・・・・・・響も勝てない・・・・・・そうなると、次はきっと、イリヤが呼ばれる!!」

《ッ!?》

 

 その言葉に、ハッとするサファイア。

 

 美遊が言っている事は十分あり得る。

 

 ここでバーサーカーを倒せなかったら、当然、撤退と言う流れになる。しかし、一度倒せなかった敵を相手に、もう一度同じ戦力で挑むほど、凛もルヴィアでも愚かではあるまい。

 

 となれば、彼女たちが切れる最後のカードを切るしかない。

 

 イリヤを加えた万全の態勢で挑むしかない。

 

 だが、イリヤはもう、戦いを望んではいないのだ。

 

「イリヤも・・・・・・響も・・・・・・初めてだったんだ・・・・・・私を『友達』と言ってくれた人達・・・・・・だから!!」

 

 輝きを増す剣。

 

 その刀身を、美遊は大きく振り翳す。

 

 其はブリテンに名高き騎士王の佩刀にして、人類史に刻まれし最強の聖剣。

 

 振るえば万軍を打ち滅ぼし、担い手に勝利をもたらす絶対の輝き。

 

約束された(エクス)・・・・・・勝利の剣(カリバー)!!」

 

 剣を振り下ろす美遊。

 

 同時に、闇を斬り裂くほどの光が迸った。

 

 

 

 

 

 回復する意識。

 

 その瞼が、光によって埋め尽くされる。

 

「・・・・・・・・・・・・あれは」

 

 呟きが、口を突いて出る。

 

 瞼を埋める、懐かしい光景。

 

 あれはかつて、自分の中にもあった光。

 

 全ての闇を払い、希望を齎す光。

 

 そして、

 

 それを振るう、少女。

 

「・・・・・・・・・・・・ああ、そうか」

 

 少女の姿を見て、笑みがこぼれる。

 

 あの子が、自分を守るために戦ってくれていたのか。

 

 それは光栄であり、同時に嬉しくもある。

 

 まさか、こんな事があるとは。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 さて、

 

 もう寝るのは十分だろう。

 

 そろそろ、起きる時間だ。

 

 

 

 

 

 閃光が晴れる。

 

 終わった。

 

 崩れ落ちそうになる美遊は、剣を杖代わりにしてどうにか立っている状態だった。

 

 全ての魔力を、今の一撃に込めた。

 

 まさに、手ごたえは十分。

 

 確実に、バーサーカーを葬り去る事に成功したはず。

 

 そう思った次の瞬間、

 

「ああッ!?」

 

 悲鳴と共に、美遊の胸の内から「セイバー」のカードが飛び出し床に転がる。

 

 同時に手からステッキが離れ、美遊の姿は元の魔法少女の衣装に戻ってしまった。

 

 どうやら、先ほどの一撃で魔力の殆どを使い果たしてしまい、夢幻召喚(インストール)が解けてしまったようだ。

 

 それでも、響の時のように意識を失わずに済んだのは、サファイアから常に魔力供給を受けていた為。それが無かったら、彼女も意識を失っていたはずだ。

 

 事実上、美遊の魔力量では宝具は1回の使用が限界だった。

 

「サファイア、すぐに戻ってッ 魔力供給を!!」

《は、はい!!》

 

 急いで戻ろうとするサファイア。

 

 だが、

 

 突如、崩れた階下から伸びてきた手が、サファイアを掴んで床に抑え込んだ。

 

「なッ!?」

 

 驚愕する美遊の目の前に、姿を現す狂戦士。

 

 その体からは煙を発している。

 

 これまでと同様、ダメージを与える事には成功したものの、バーサーカーの蘇生能力を削り切るには至らなかったのだ。

 

 迫りくるバーサーカー。

 

 対して美遊は、見上げたまま動くこともできない。

 

「そんな・・・・・・こんな所でなんて・・・・・・・・・・・・」

 

 サファイアは手に無く、戦う手段を全て失った少女に、もはや成す術は無かった。

 

 自分は死ぬ?

 

 こんな所で?

 

 何を成す事もできず?

 

 絶望が、美遊の胸を支配する。

 

 振り上げられる、致死の拳。

 

 一撃のもとに、少女を粉砕せんと、

 

 振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横合いから飛び出してきた小さな影が、美遊の体をさらうようにして飛びのき、バーサーカーの拳を潜り抜けた。

 

「え・・・・・・・・・・・・」

 

 驚く美遊。

 

 目を見開いた先には、

 

「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」

 

 そう言って優しく微笑む、少年の姿があった。

 

 

 

 

 

第13話「美遊の想い」      終わり

 

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