1
「これはこれは・・・・・・・・・・・・」
迫りくる巨漢を前にして、少年は苦笑せざるを得ない。
その腕には、魔法少女姿の美遊が抱かれている。
それにしても、
何とも、素敵に大ピンチな状況だった。
「目覚めてはみたけれど、いきなり随分と、絶体絶命だね」
しかも、
スッと、目を細める。
迫りくる巨漢。
見覚えのあるその姿。
「何とまあ、またしても出会ってしまうとは・・・・・・・・・・・・」
苦笑せざるを得なかった。
どうやら、因果の鎖と言うのは、境界を超えた果ての果てまで繋がっているらしい。
一方、
「あ、あの・・・・・・・・・・・・」
恐る恐ると言った感じに声を掛けたのは美遊だった。
「響?」
目の前の少年は間違いなく衛宮響だ。
だが、何かが違う。
いつもの響じゃない。
美遊は、そんな風に感じていた。
対して、
「ヒビキ、か・・・・・・・・・・・・成程ね」
ヒビキは、どこか納得するように頷くと、美遊の体を床へと下した。
それにしても、
「うわッ 手、短いな~ ていうか、小っちゃくなってるし。これは完全に予想外だよ」
ヒビキは自分の体を見回しながら、何やら驚いたように呟いている。
そんな少年の様子を、呆気に取られた感じで眺める美遊。
いったい、どうしたと言うのだろう?
だが、そうしている間にも、バーサーカーは徐々に近づいてくる。
顔を上げるヒビキ。
その眼差しが、鋭く狂戦士を射抜く。
「ごめん美遊。話は後だ。まずは、あのデカブツをどうにかしないと」
言いながらヒビキは、美遊を背に庇うようにしてバーサーカーに向き直る。
見上げるような巨漢の姿は、小学生2人にとって、小山のごとき存在となって迫ってくる。
その腕が、2人を握りつぶさんと延ばされる。
対して、美遊を庇いながら身構えるヒビキ。
次の瞬間、
階上から飛び込んで来た小さな影が、バーサーカーの体を斬りつけた。
体を縦に斬り裂かれ、思わず蹈鞴を踏むように後退するバーサーカー。
対して、バーサーカーを攻撃した人物は、2人を守るように手にしたステッキを構える。
イリヤだ。
弟と親友の危機を前に、小さな魔法少女は間に合ったのだ。
「効いたよッ 凛さん!! ルヴィアさん!!」
合図を送るイリヤ。
同時に、サファイアの先端に取り付けられていた宝石が外れる。どうやらあの宝石によって魔力の刃を一時的に形成していたようだ。
同時に、2つの影が戦場に踊り込んで来た。
「
「
飛び込むと同時に、手にした宝石をまとめて投げつける凛とルヴィア。
同時に、無数の縛鎖が出現して、バーサーカーを絡め取る。
「「
身動きを封じられるバーサーカー。
怪力を誇る巨体を、完全に封じているのが分かる。
「
「あはははは!! 大赤字だわよ、コンチクショー!!」
喝采を上げるルヴィアと、やけくそ気味の凛。
魔術の詠唱にはいくつかのパターンがあり、詠唱無しで発動できる「
当然、後者に行くほど威力は上がるが、準備にも時間がかかる。
それでも敢えて今回、凛とルヴィアは実行に踏み切ったのだ。そうでもしなければバーサーカーにダメージを与える事は不可能であると判断したのだ。
一方、
美遊は自分達を助けてくれた少女を、茫然と眺めていた。
イリヤ。
美遊にとって、ヒビキと同等に大切な友人。
だが、彼女は戦うことを恐れ、逃げ出した。
その事を美遊は、責めようとは思わなかった。
戦いに恐怖を感じたイリヤの反応は当然の物だし、何より彼女の分も自分が戦えば問題ないと思った。
イリヤの為に戦えるなら、美遊にとってはむしろ本望だった。
だと言うのに、イリヤはまた
「イリヤ・・・・・・どうして、ここに?」
茫然として尋ねる美遊。
対して、
「ごめんなさい」
イリヤは、振り返らずに答えた。
「わたし、バカだった・・・・・・何の覚悟もないまま、ただ言われるままに戦ってた・・・・・・ううん、結局はそれさえも、どこかで他人事みたいに思っていた・・・・・・こんな嘘みたいな戦いは現実じゃないって・・・・・・・・・・・・」
魔法少女を夢見た少女にとって、今こうしている事は夢の実現に他ならなかった。
しかしだからこそ、と言うべきか、実際にその力を持ち、自在に振るう事が怖くなってしまったのだ。
しかし、
イリヤは、帰宅した母、アイリとした会話を思い出す。
アイリは愛娘に言った。
力を恐れているのは間違いであり、力その物に良いも悪いも無い。重要なのは、その力を使う人の意思なのだ、と。
そしてイリヤは思い出した。
自分にとって、美遊は、響は、どんな存在なのか、と言う事を。
響は大切な弟であり、美遊は掛け替えのない親友である。
その2人が、今も自分の代わりに戦ってくれている。
ならば、自分は行かなくてはいけない。
2人を助けるために。
その想いが、少女を再び奮い立たせた。
「ごめんねミユ・・・・・・ごめんね、ヒビキ・・・・・・・・・・・・」
「イリヤ、もう良い・・・・・・もう良いから」
謝る親友に、そっと寄り添う美遊。
元より、美遊に蟠りは無い。
何より、こうして再び、イリヤと共に立つ事ができるのは、彼女にとっても何よりの喜びである。
と、
「さて・・・・・・・・・・・・」
それまで黙っていたヒビキが、頃合いを見計らったように口を開いた。
「仲直りも無事に終わったところで・・・・・・あちらは、お待ちかねみたいだよ」
「ヒビキッ!? 何か雰囲気違ってない!?」
普段、あまり見られない弟の様子に、驚愕するイリヤ。
しかし、あまり呆けてもいられない、と言う意味ではヒビキの言うとおりである。
彼らが見ている前で、バーサーカーが縛鎖を破ろうとしている。
凛とルヴィアが放った強力な魔術も、狂戦士が相手では足止め程度の効果しかできなかった。
眦を上げる一同。
間もなく、鎖は千切られる。
その時こそ、最後の戦いだった。
「今度こそ、終わらせよう」
言いながら、ヒビキは床に落ちていた「セイバー」のカードを拾い上げる。
そっと目を閉じ、カードを掲げる。
捧げる、祈り。
お願いだ・・・・・・
どうか、もう一度、力を貸してくれ・・・・・・
今一度、守り通すために・・・・・・
狂戦士の拘束が解かれる。
同時に、ヒビキは目を見開いた。
「
叫ぶと同時に、展開される魔法陣。
暴風が少年を包み込み、その姿は英霊へと変じていく。
遥かな時の彼方、
最高の騎士王と称された、伝説の騎士を、その身に召喚する。
やがて晴れる風。
その中に立つ少年の姿は、一変していた。
蒼い衣装の上から銀の甲冑を身に纏い、手には装飾の施された剣を握っている。
全体的に美遊がセイバーとなった時と似ているが、細部は所々、変化が見られる。
特に剣は、美遊の時のシンプルな刀身に比べて大振りであり、さらに装飾も多い造りになっていた。
「ヒ、ヒビキ、その姿は・・・・・・・・・・・・」
唖然とするイリヤ。
そんな少女に、響は笑いかける。
「これで、最後だよ」
告げると同時に、ヒビキは地を蹴って駆ける。
咆哮を上げるバーサーカー。
そのまま障害物を破砕しながら突っ込んでくる。
「やれやれッ」
その様子に、ヒビキは苦笑する。
「相変わらず、やる事が大雑把だな、あなたは!!」
言いながら、大上段から剣を振り翳す。
同時に、拳を振り下ろすバーサーカー。
両者が激突し、激しい衝撃波が発生する。
だが、
ヒビキは一歩も引かない。そのまま押し返す勢いで剣を振るう。
溜まらず、後退するバーサーカー。
そこへ、ヒビキは追撃を仕掛ける。
地を這うような低い姿勢で剣を振りかざし、一気に間合いの中へと斬り込む。
斬り上げる一閃。
バーサーカーの体は、縦に斬り裂かれる。
「やったッ」
「いや、まだだよ」
喝采を上げるイリヤに、ヒビキは険しい顔で首を振る。
「彼の宝具は『
言っている間にも、バーサーカーの傷は塞がっていく。
そこへ、ヒビキは再び斬りかかる。
激突する剣と拳。
ヒビキの振るう剣は、デザインこそ違えど、先に美遊が振るったものと同様、「
しかしヒビキは、この剣を真名解放せずに使うと決めている。
宝具の真名解放は強力だ。特に「
しかし、同時に消耗も激しい。
今のヒビキの魔力では、おそらく宝具の開放は一度が限界。一発放てば
ヒビキが重視したのは、「一撃必殺」よりも「交戦時間」だった。なるべく長く時間を保たせ、決め手となる一手を探すのだ。
その時、
バーサーカーの周囲で、爆炎の華が躍る。
動きを止めるバーサーカー。
対して、ヒビキはハッとして振り返る。
「まったく、あんたは次から次と妙な事をしてくれるわね」
「ほんとですわ。説明がほしいですわね」
そんなヒビキを援護するように立つ、凛とルヴィア。
彼女たちも、ここが正念場である事を自覚しているのだ。
バーサーカーの攻撃をヒビキが剣で捌き、その間に凛とルヴィアが側面から攻撃を仕掛ける。
しかし、それでも狂戦士は揺るがない。
狂った咆哮を上げ、尚も襲い掛かってくる。
振り下ろされる拳。
その一撃を、剣で打ち払うヒビキ。
僅かだが、バーサーカーに苛立ちのようなものが見え始める。
どうやら、自身の怪力をもってしても仕留めきれない事実に、いら立っているかのようだ。
もちろん、相手は理性の無い怪物。気のせいである可能性もあるのだが。
その時だった。
ヒビキの左右に、小さな足音が響く。
振り返れば、2人の魔法少女が、ステッキを手に立っていた。
「君たち・・・・・・・・・・・・」
「わたし達も戦うよ」
「ここで諦める訳にはいかないから」
決意とともに言い放つ、イリヤと美遊。
その気高い意志に答えるように、
2本のステッキは輝きを増す。
攻め込んでくるバーサーカー。
対して、
イリヤは、
美遊は、
そしてヒビキは、
真っ向から睨み据える。
ヒビキの手にある
それと全く同じ物が、イリヤと美遊の手にも握られる。
それだけではない。
彼らの周囲に、同様の剣が6本浮かんでいる。
そう、
まるで「
「「「並列限定展開《パラレル・インクルード》!!」」」
同時に、剣を振り被る、ヒビキ、イリヤ、美遊。
襲い来る狂戦士。
だが、恐れるべき何物も、そこには存在しない。
なぜなら、
何よりも大切な友達が、一緒に戦ってくれているのだから。
振り下ろされる剣。
九つの剣から、一斉に放たれる閃光。
バーサーカーは尚も向かってくるが、もはや彼にできる事は何もなかった。
奔流と化す閃光。
その光の中で、バーサーカーは消滅していくのだった。
2
「それじゃあ、行ってきまーす」
「ん、行ってきます」
玄関先で挨拶をする、イリヤと響。
いつも通りの朝の風景である。
兄、士郎は、既に部活の朝練で先に登校している。そしてリズは、まだ朝食を食べている。
見送るのは、セラ1人だった。
因みにアイリは、イリヤを送り出したすぐ後に、とんぼ返りでまた海外へと旅立ったと言う。ヒビキはと言えば、けっきょくアイリと顔を合わせる事も出来なかった。
まったくもって、怒涛のような母である。
いったい何をしに帰って来たのか、と言いたいところではあるが、イリヤの迷いを払い、再び立ち上がらせた。
そんなところは、どれだけ「ぶっ飛んで」いても母親なんだな、と実感させられる。
「行ってらっしゃい。お2人とも、車には気を付けてくださいね」
「「は~い」」
見送るセラにそう言うと、イリヤと響は揃って家を出た。
しかし、
その脳裏には、昨夜の光景が浮かべられていた。
鏡面界を抜け出ると同時に、一同は重たい息をと共に地面に座り込んだ。
絶望的状況を、どうにか潜り抜け、誰もが己の生に対して感謝せずにはいられなかったのだ。
そんな中、
《ちょっとちょっと皆さん。どうしたんですか? せっかく勝ったと言うのに、こんなだらけムードで》
1人元気なルビーがノーテンキにそんな事を言ってくるが、今はそれに答える気力もなかった。
「さて・・・・・・・・・・・・」
凛は一息つくと、最大の問題を解決すべく振り返った。
「そろそろ説明してもらうわよ、響。あんたはいったい何なの?」
鋭い質問に、一同の視線は少年へと集まる。
対して、
ヒビキは苦笑したまま、肩をすくめる。
「まあ、説明するのはやぶさかではないんですけど・・・・・・・・・・・・」
何かを躊躇うように言いながら、ヒビキはチラッと、視線を美遊に向ける。
対して、キョトンとした眼差しを返す美遊。
その時だった。
ヒビキの体が輝きを増し、着込んでいた甲冑や外套が徐々に消滅していく。
「おっと・・・・・・どうやら、もう時間切れみたいだね」
「ハァッ!?」
納得いかない凛が声を上げるが、消滅は止まらない。
対して、ヒビキは申し訳なさそうに苦笑する。
「すみません。これでも無理を重ねているもんで。一応、こうして話していられること自体、ちょっとした奇跡みたいなもんなんですよ」
言ってから、ヒビキは今度は美遊に向き直る。
「美遊」
ヒビキは美遊に優しく語り掛ける。
「忘れないで欲しい。君の命は、決して君1人だけの物じゃない」
「え?」
驚く美遊。
「君を大切に思う人、君を慈しむ人、君の為に戦える人、そして・・・・・・・・・・・・」
ヒビキはやや間を置く。
その脳裏には、果たして何が思い浮かべられているのか。
「・・・・・・誰よりも、君の幸せを願っている人」
「・・・・・・・・・・・・」
「それら全ての想いが、
「響・・・・・・・・・・・・」
自身に向けられる美遊の声。
その言葉を耳にしながら、
ヒビキはゆっくりと瞼を閉じた。
同時に、その胸からセイバーのカードがはじき出された。
そして、
「・・・・・・・・・・・・ん?」
目を開く響。
その表情は、先ほどまでの、どこか落ち着いた感じの物ではなく、いつも通りの茫洋とした少年の物だった。
「・・・・・・どしたの? 敵は?」
その質問に、一同は嘆息するしかなかった。
「まあ、何はともあれ・・・・・・・・・・・・」
訳の分からない事に、これ以上拘泥しても始まらないと思ったのだろう。
凛は気持ちを切り替えるように言った。
「これで、全てのカードを集める事ができたわね」
そして
7枚のカードが、全て揃った事で、凛達の目的は達成されたことになる。
「イリヤ、美遊、それに響」
名前を呼ばれ、子供たちは凛に振り返る。
対して、凛は優しい口調で語り掛けた。
「勝手に巻き込んでおいてなんだけど、あなた達がいてくれて本当に良かった。わたし達だけじゃ、多分勝てなかったと思う。最後まで戦ってくれて、本当にありがとう」
ストレートに言われ、3人は少し照れたように顔を俯かせる。
そんな風に言われると、頑張って戦った甲斐もあったと言う物である。
「さて、それじゃあ、カードは私が責任もってロンドンまで・・・・・・・・・・・・」
言いかけた凛。
その手から突如、カードが奪われた。
「ホーッホッホッホッホッホッホ!!」
そして鳴り響く高笑い!!
見上げれば、いつの間にやって来たのか、ヘリから垂らされた縄梯子に掴まったルヴィアが、勝ち誇るようにカードを掲げていた。
「最後の最後で油断しましたわね!! 御安心なさい!! カードは全て、わたくしが大師父の元へ届けて差し上げますわー!!」
「んなァァァァァァ!? あんた、手柄を独り占めする気かこのー!!」
慌てて追いかける凛と、それを見下ろすルヴィア。
終わったとたん、これである。
そんな年長者たちの醜い争いを、小学生3人は唖然として見上げている。
ややあって、
「・・・・・・・・・・・・帰ろ」
「そうだね」
「もうクタクタだよ」
「取りあえず見なかった事にしよう。だって疲れたし」
それが、3人の共通する見解だった。
尚も鳴り響く破壊音を背に、響達は家路へと着くのだった。
結局、凛とルヴィアは明け方まで追いつ追われつ、最後はいつも通りどつきあった後、大師父から1年間の留学延長を言い渡された。
と言うのを、響達は後で知る事となる。
だが、今は、
別の問題が浮上していた。
「・・・・・・・・・・・・なあ」
怪訝な顔つきで声を掛けてきたのは、友人の1人、栗原雀花である。
その視線の先には、響と美遊、イリヤの姿がある。
ただし、真ん中にいる美遊が、左右の手で響とイリヤの腕を掴んで放そうとしなかった。
「あんた達、特にイリヤと美遊さ、昨日まで喧嘩してなかった?」
「やー・・・・・・気のせいじゃない? きっと全てが」
苦笑しながら応じるイリヤ。
見れば、美遊を挟んで反対側にいる響も、困惑している様子がうかがえた。
いったい、何がどうなっているのか?
朝、登校してきたら、美遊は2人に引っ付いて離れなくなってしまったのだ。
「一夜にして何というデレッぷり・・・・・・」
「響のヤロー、俺たちの知らないところで、イリヤと美遊を同時攻略してやがったな!!」
驚愕する森山那奈亀と嶽間沢龍子。
まあ、龍子の方は、完全無欠に言いがかりなのだが。
とは言え、雨降って地固まる、とでも言うべきか、美遊とイリヤの関係が修復されたのは喜ばしい事だった。
降ったのが雨ではなく、剣と槍と拳だったのは、色々とアレだが。
「まー、良いや!!」
何を思ったのか、龍子は美遊に近づき、彼女の頭をベシベシと叩く。
「ミユキチも丸くなったって事で、今後とも仲良くしていこーぜ!!」
そう言って大爆笑する龍子。
深く考えない事は良い事なのか悪い事なのか、空気を読まない龍子の行動は相変わらずだった。
次の瞬間、
「は? どうしてあなたと仲良くしなくちゃいけないの?」
美遊が放った冷たい一言が、場の空気をいっぺんに氷点下まで下げた。
唖然とする一同を前にして、美遊は冷たい口調で続ける。
「わたしの友達はイリヤと響だけ。あなた達には関係ないでしょう。もう、わたし達には近づかないで」
凍り付く教室。
次の瞬間、
「うおおおアアアァァァーッ!?」
「な、泣かせたぞー!!」
号泣する龍子と、それをなだめる雀花。
そんな中、イリヤが焦ったように美遊を引き離す。
「ちょ、ちょっとちょっとミユー!! 何言ってんのよー!!」
「何を怒っているのイリヤ?」
対して美遊は、本気で意味が分からないと言った感じに、澄んだ瞳でイリヤに言う。
「わたしの友達は、生涯、イリヤと響の2人だけ。本来なら1人いれば良い友達が2人もいるんだもの。これ以上は必要ないし、どうだって良いでしょ」
「何それ重ッ!? て言うか、友達の解釈変じゃない!?」
混乱するイリヤ。
いや、だいぶ前からそうだったが、美遊が何を考えているのか、ときどき分からなくなる。
「オギャアアアアアアァァァァァァ!?」
「いかん! タッツンがマジ泣きだ!!」
「ちょっとイリヤ、響きでも良い、何とかしれー!!」
「美遊、それは間違い。『トモ』と言う字は『強敵』と書く。だから今から校舎裏にイリヤと行って殴り合った後、真の友情が生まれる」
「そうなの?」
「ヒビキ、嘘教えない!! ミユも信じちゃダメッ!! て言うか、これ以上混乱させないでー!!」
絶叫するイリヤ。
何となく、これからも
大切な人たちと共に描いていく楽しい未来図。
その様子を夢見ながら、
イリヤは自らの胸が高鳴るのを感じるのだった。
第14話「蒼銀の夜明け」 終わり。
無印編 完
「ふむ、どうやら、向こうはひと段落着いたようだな。まずは上々と言ったところか」
使い魔からの報告を聞き、男は笑みを浮かべる。
その報告は、冬木市における戦いが終結したことが告げられていた。
「カードは全て魔術協会側が回収した、か。まあ、当然の結果、か」
言いながら、男は周囲を見回した。
そこは、無数の死体が転がる地獄と化していた。
全ては、自分たちを抹殺するために送り込まれた刺客達だった。
もっとも、結果は見ての通りだが。
愚かにも、自分の首を取ろうとやって来た輩たちは、全て、無様に地面に倒れ伏していた。
そんな男の背後に、小さな足音が鳴る。
振り返ると、1人の少女が静かに佇んでいる。
最も、その姿は異様と言えた。
翠緑色した異国風の衣装を着込み、手には大ぶりの弓を携えている。
そして、お尻からは長いしっぽが伸び、頭には獣のような耳が生えていた。
「戦闘終了しました。生き残っている者はいません」
少女の淡々とした報告に、満足げに頷きを返す男。
そこへ、もう1人、近づいて来た。
こちらは若い男だ。まだ10代後半くらいだろう。
やはり異国風の出で立ちで、こちらは甲冑を着込み、手には一振りの槍を携えていた。
「仕事と言うのはこの程度の事か? これくらいなら、あんた1人でもこなせるだろう」
退屈しのぎにもならなかった、と言わんばかりに男をにらみつける。
対して、男はニヤリと笑みを見せた。
「何、こんな物は、主食前の前菜みたいなものだ。君たちに本当の意味で働いてもらうのは、これからさ」
そう言うと、男は踵を返して歩き出す。
「さあ、始めようじゃないか、本当の『聖杯戦争』を」
その脳裏に浮かぶのは、1人の少年の姿。
これから、自分たちが行く道に、確実に立ちふさがるであろう存在。
「せいぜい頑張り給え。
嵐は、
間もなく訪れようとしていた。