Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第17話「女狂戦士」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進み出る優離。

 

 対して、

 

 因縁深い響は、身構えるように刀を構える。

 

「・・・・・・魔術協会と、手を組んだの?」

「そんなところだな」

 

 響に答えながら、優離はチラッと視線をバゼットに向ける。

 

「取りあえず、半分は引き受ける方向で良いか?」

「ええ、お願いします。こっちはこっちでやりますので」

 

 頷きあうバゼットと優離。

 

 対抗するように、響達の間にも緊張が走る。

 

 状況は、控えめに言って「最悪」に近い。

 

 バゼット1人だけでも厄介極まると言うのに、そこへ来て最強の英霊を身に宿す優離まで加わるとは。

 

 勝機は無きに等しい。

 

 だが、迷っている暇は無かった。

 

 胸の前に手をかざす優離。

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 詠唱と同時に、衝撃が優離の姿を包み込む。

 

 同時に異国風の衣装と銀の甲冑が、身を包んでいく。

 

 出現した槍を掴む優離。

 

 ギリシャに名高き最強の英雄、アキレウスをその身に宿した姿がそこにあった。

 

 対して、

 

 響もまた、刀を構えた。

 

「あいつは押さえる。みんなはバゼットを」

「そんなッ ヒビキ1人で何てッ」

 

 声を上げるイリヤ。

 

 優離の実力は、以前の激突で分かっている。響1人では荷が重い事は間違いない。

 

 本来なら、この場にいる全員で掛かるべき相手である。

 

 だが、同時にそれ以上の策は考えられないのも事実である。

 

 単純に2対2に分けたのでは、却って戦力分散につながって危険である。

 

 いたずらに戦力を分断するよりも、ここは最小限の戦力で片方を押さえ、残る全員でもう片方を潰すしかない。

 

「迷っている暇無い。行くッ!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 響は優離目がけて斬りかかった。

 

 姿が霞むほどの速度で接近。同時に横なぎの一閃を繰り出す。

 

 対して、

 

 優離は槍を振るい、響の攻撃をあっさりと弾く。

 

「クッ」

「ふんッ」

 

 奇襲を狙った一撃を防がれ、歯噛みする響。

 

 対して、優離は面白くなさそうに鼻を鳴らす。この程度の事は造作もない、と言った感じである。

 

「どうした、それで終わりじゃないだろ。もっと力を見せてみろ」

「言われなくてもッ」

 

 挑発に乗るように、響は再び優離に斬りかかった。

 

 

 

 

 

 一方、イリヤ、クロ、美遊もまた、バゼット相手に戦闘を開始していた。

 

 急ぐ必要がある。

 

 響が優離を押さえてくれている内に、どうにかバゼットを倒すのだ。

 

 仕掛けたのは美遊である。

 

 上空に跳び上がると同時に、魔力を込めたサファイアを構える。

 

砲射(シュート)!!」

 

 放たれる魔力砲。

 

 その一撃に対し、

 

 バゼットは真っ向から向かっていく。

 

 両手を眼前で交差させ、渾身の力で振り抜く。

 

 その一撃が、美遊の放った魔力砲を弾き飛ばした。

 

「なッ!?」

 

 驚愕に目を見開く美遊。

 

 全力で放ったわけではないが、それをこうもあっさりと弾くとは思っても見なかったのだ。

 

 そこへ、美遊を追い越すように上空に影が躍るのが見えた。

 

 イリヤだ。

 

 元より、美遊1人を戦わせる気は無い。

 

散弾(ショット)!!」

 

 放たれる無数の魔力弾。

 

 その一撃一撃は大したことないが、相手の視界を塞ぐには十分な効果がある。

 

 対して、バゼットは防御の姿勢を取りつつ魔力の雨に耐える。

 

「貰ったッ」

 

 動きを止めたバゼット。

 

 そこへ、干将、莫邪を構えたクロが斬り込んだ。

 

 一気に距離を詰めるクロ。

 

 対して、バゼットはイリヤの攻撃で身動きが取れずにいる。

 

「これで!!」

 

 黒白の剣閃を繰り出すクロ。

 

 だが、

 

 ガシッ

 

「なッ!?」

 

 クロが袈裟懸けに繰り出した莫邪の刃を、バゼットは真っ向から受け止めて見せたのだ。

 

「まずは、あなたからだ」

 

 言い放つと同時に、手刀を作るバゼット。

 

 そのままクロの心臓に突き入れ、カードを抉り出すつもりなのだ。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちするクロ。

 

 そのまま後退しようとした。

 

 その時、

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

 鋭く研ぎ澄まされた魔力斬撃が走る。

 

 とっさにクロを放し、迎撃の為に腕を横なぎにするバゼット。

 

 その一撃によって、魔力斬撃は吹き飛ばされる。

 

「ちょっと、常識外れすぎないかな?」

 

 対して、斬撃を防がれたイリヤは、呆れ気味に呟く。

 

 クロを助ける目的で放った斬撃なので一応、その目的は達している。

 

 しかし、

 

 イリヤの得意技とも言うべき斬撃が、こうもあっさりと防がれるとは思っていなかった。

 

「イリヤ、クロ」

 

 2人の傍らに降り立った美遊が、警戒を解かないまま語り掛けてきた。

 

「多分、長期戦は不利。一気に勝負をかけた方が良い」

「同感ね。あれ相手に時間を掛ければ、間違いなくこっちが負けるわ」

 

 クロも頷きを返す。

 

 恐らくバゼットは、3人で同時に掛かっても、勝つ事は難しいだろう。

 

 ならば、最大火力で一気に勝負を決するべきだった。

 

「作戦会議は終わりましたか? では、そろそろこちらから行かせてもらいます」

 

 不吉を告げる言葉。

 

 次の瞬間、

 

 バゼットは地面を蹴って襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 せき込むと同時に、喉の奥に溜まっていた血塊を吐き出す。

 

 呼吸が通り、意識が覚醒するのが分かった。

 

「ルヴィアッ」

「お嬢様ッ」

 

 必死に叫ぶ声にようやく目を開くと、そこには遠坂凛と、執事のオーギュストが心配そうに自分を見下ろしているのが見えた。

 

「ここ、は?」

 

 意識が戻ってきたルヴィアは、現状を確認すべく尋ねる。

 

 突如、襲撃してきた魔術協会の封印指定執行者バゼット・フラガ・マクレミッツ。

 

 対してオーギュストと共に迎撃に出たルヴィアだったが、その圧倒的な戦闘力の差は覆しようもなく、一方的に窮地に追い込まれたのだった。

 

「地下の緊急避難路です。屋敷の倒壊直前に、何とか逃げ込みました」

 

 答えたオーギュストもボロボロである。

 

 ルヴィア自身、全身の痛みで殆ど体を動かす事ができない。

 

 それだけ、バゼットの攻撃のすさまじさを物語っていた。

 

「まったく、無茶しすぎよ。屋敷だって、殆どあんたの攻撃のせいで壊れたような物よ」

 

 呆れ気味に言う凛。

 

 異変を感じて急いで屋敷に戻った彼女だったが、そこでは既に戦端が開かれた後だった。

 

 そんな凛に対し、ルヴィアは苦しい中にも不敵に笑って見せる。

 

「良い目晦ましになったでしょう?」

「・・・・・・やっぱり、わたしがいる事を知っててやったのね」

 

 ルヴィアの言葉に、凛は苦笑する。

 

 バゼットとの戦闘の際、ルヴィアと凛は水面下で密かに共闘していたのだ。

 

 普段はいがみ合って殺し合いまがいのドツキ合いをしている2人だが、いざという時には阿吽と称しても良いほどの連携力を発揮する。

 

 おかげで凛は、反撃の為の布石を打つ事に成功していた。

 

 もっとも、それだけでは、あの怪物女を倒す事は出来ない。状況を逆転するには、もう一手必要だった。

 

「クッ・・・・・・」

「お嬢様。動いてはいけません」

 

 立ち上がろうとするルヴィアを支えるオーギュスト。

 

 だが、ルヴィアは構わず立ち上がろうとする。

 

「寝ている場合ではありませんわ。あの女の目的はカード。なら次に狙われるのは・・・・・・」

 

 ルヴィアの言葉に、凛もハッとする。

 

 その脳裏に浮かぶのは、イリヤ、美遊、クロ、そして響の姿。

 

 カードを狙っている以上、バゼットが彼らの事を見逃すとは思えなかった。

 

「行きますわよ」

 

 傷ついた体を引きずって歩き出すルヴィア。

 

 子供たちの無事を祈る。

 

 今はそれくらいしかする事が無い自分たちに、歯噛みせずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 鋭く繰り出される槍の一閃。

 

 その一撃を回避しつつ、響は相手の懐へと斬り込む。

 

 接近する両者。

 

 響は脇に構えた刀を、逆袈裟に鋭く切り上げる。

 

 駆け抜ける銀の閃光は、しかし優離に命中した瞬間、異音と共に弾かれる。

 

「ッ!?」

「無駄な事をする。貴様にも判っているはずだがな」

 

 息を呑む響に対し、余裕の態度の優離。

 

 同時に繰り出される回し蹴り。

 

 対して、響はとっさに後退して回避した。

 

 刀を構えなおす響。

 

 考えるまでも無いが、優離は強い。

 

 最強の英霊をその身に宿している事もあるが、その英霊をほぼ完ぺきに使いこなしている事こそが、優離が最強である事の証左であると言えよう。

 

 響はチラッと、視線をイリヤ達の方へと向ける。

 

 どうやら、向こうも苦戦中らしい。

 

 イリヤや美遊に加え、クロまで加わって尚、足止めが精いっぱいとは。

 

 何とか、優離を手早く撃破して、向こうの応援に行かないと。

 

 そう思った時だった。

 

「よそ見をするとは、ずいぶんと余裕だな」

 

 低く囁かれる言葉。

 

 それと同時に、優離が神速の連撃を繰り出してくる。

 

 流星の如く襲い来る槍の穂先を、響はどうにか刀を振るって裁く。

 

 拮抗する両者。

 

 攻める優離に、防ぐ響。

 

 だが、それも長くは続かない。

 

「クッ!?」

 

 徐々に押され始める響。

 

 優離の動きについていけず、小さな体がよろめく。

 

「もらった」

 

 低い呟きと共に、槍を繰り出す優離。

 

 その穂先が、響の体を貫いた。

 

 次の瞬間、

 

 槍に突かれた響の姿は消失し、僅かに下がって位置に出現する。

 

「残像・・・・・・いや、僅かに捉え損ねた、か」

 

 暗殺者(アサシン)の特性故か、響の気配は対峙していても捕捉が難しい。それ故、優離は攻撃の間合いを見誤ったのだ。

 

 とは言え、

 

 槍を構えなおす優離。

 

 今のは殆ど「まぐれ」に近い。そうそう同じミスを繰り返す優離ではない。次は、確実に当ててくるだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言のまま対峙する響。

 

 最強の騎兵(ライダー)を相手に、暗殺者(アサシン)で対抗するのは難しい。

 

 そもそも暗殺者(アサシン)の専門は奇襲攻撃。こうして姿を晒して正面から戦いを挑むこと自体、本来の形ではない。

 

「・・・・・・・・・・・・なら」

 

 残る手段は、一つしかない。

 

 スッと、目を閉じる響。

 

 己の中に眠る魔術回路を起動し、そこへ魔力を流し込む。

 

 同時に、自らが身に纏う英霊へと呼びかける。

 

 舞い上がる風。

 

 漆黒の衣装の上から、羽織が纏われる。

 

 浅葱色に、白の段だらが染め抜かれた、目にも鮮やかな羽織。

 

 新撰組隊士のみが着る事を許された「誓いの羽織」。

 

 響は己の全てを掛けて、優離に挑むと決めていた。

 

「それが、お前の本気、と言う訳か」

 

 新たな力でもって挑まんとする響に対し、優離もまた緊張の眼差しで対峙する。

 

 今までの響とは違うと言う事を、優離は感じ取っているのだ。

 

 次の瞬間、

 

 響が仕掛けた。

 

 一瞬で、優離との間合いをゼロにまで持っていく。

 

「ッ!?」

 

 その様に、一瞬目を剥く優離。

 

 響の動きは、優離の予測を完全に上回っていたのだ。

 

 横なぎに振るわれる斬撃。

 

 その一閃を、

 

 優離は辛うじて、槍の柄で防ぐ。

 

 しかし、

 

「これは・・・・・・・・・・・・」

 

 呻き声を上げる優離。

 

 手に感じる重みと衝撃。

 

 何より、それまでは簡単に押し返す事が出来た響を、今は押し返す事ができない。

 

 両者は、完全に拮抗していた。

 

 睨み合う響と優離。

 

「・・・・・・・・・・・・それがお前の奥の手か。さしずめ対人宝具、能力強化と言ったところか」

 

 低く呟く優離。

 

 ようやく、本気で戦える相手を見つけた。

 

 そんな感情が見て取れる。

 

「面白いッ!!」

 

 次の瞬間、

 

 両者は弾かれるように同時に動いた。

 

 

 

 

 

 怒涛の攻勢を仕掛けるイリヤ。

 

 己の魔力をルビーに込め、全力で振るう。

 

砲射(フォイア)!!」

 

 放たれる魔力弾。

 

 その一撃を、バゼットは拳の一線で弾き飛ばし、更に少女に接近を図る。

 

 対して、イリヤも手を停めない。

 

散弾(ショット)!!」

 

 無数の分裂した魔力弾が、バゼットへと殺到する。

 

 しかし、もともと、威力よりも手数に重点を置いた攻撃は、しかしバゼットに対し足止めにすらなっていない。

 

 これならどうだ、とばかりにイリヤは三度目の攻撃に入る。

 

 魔力の込めたルビーを、鋭く振り抜く。

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

 放たれる一閃。

 

 これにはさすがに敵わないと思ったのか、バゼットも足を止める。

 

 そして、思いっきり振り抜いた腕が、魔力斬撃を消し飛ばした。

 

「強いッ」

 

 舌打ちしながらイリヤは呟く。

 

 改めて考えるまでもなく、バゼットの強さは常軌を逸している。

 

 イリヤが全力で攻撃しても、足止めにすらなっていなかった。

 

「て言うか・・・・・・・・・・・・」

 

 イリヤは改めて確認できた事実を、やけくそ気味に言い放つ。

 

「わたしが弱いんだよねッ 判ってたけど!!」

《いやー まったくもって出力が足りていません。原作主人公にあるまじき弱さです》

 

 涙目のイリヤに、ルビーが能天気に告げる。

 

 クロの分離によって出力が落ちたイリヤの魔力では、バゼットの相手は不可能に近い。

 

 小学生の創意工夫程度でどうにかできるほど、魔術協会の封印指定執行者は甘くなかった。

 

《ですが、今回はそれが却って好都合です。彼女に対して、「決め技」や「切り札」の類は使用してはいけません》

「そ、それってどういう事!?」

 

 意味深なルビーの言葉に、問いかけるイリヤ。

 

 だが、ルビーが答える前に、今度はクロがバゼットに仕掛けた。

 

「これなら、どうよ!!」

 

 言い放つと同時に、少女の周囲に複数の剣が出現する。

 

 投影魔術で、剣を作り出したのだ。

 

 その切っ先が、一斉にバゼットを志向する。

 

「行けッ」

 

 放たれる剣の群れ。

 

 対して、自分に向かってくる剣を見据え、泰然と佇むバゼット。

 

 次の瞬間、

 

 その両の拳が、迎え撃つ。

 

 高速で振るわれる拳。

 

 腕が霞むほどの高速連撃。

 

 撃ち放たれた剣は、その全てがバゼットを捉える事無く打ち砕かれる。

 

 きらめく銀の光。

 

 陽光に反射するきらめきを前に、

 

 クロはバゼットの背後へと回り込んだ。

 

 転移魔術である。剣による攻撃は最初から囮。そちらを目晦ましにして背後に回り込むことがクロの作戦だったのだ。

 

「貰った!!」

 

 干将、莫邪を振り翳すクロ。

 

 両の刃がバゼットに迫った。

 

 次の瞬間、

 

 衝撃と共に、クロは背後へと吹き飛ばされた。

 

「なッ!?」

 

 腹部への衝撃と共に黒が見たものは、足を大きく振り抜いているバゼットの姿。

 

 完璧な奇襲を掛けたクロ。

 

 だが、攻撃を食らったのは、当のクロ自身の方だった。

 

 並の相手だったら、勝負はそこで決まっていたかもしれないが、バゼット相手にはそれでも足りなかったのだ。

 

「クロッ!!」

 

 叫ぶイリヤ。

 

 だが、その声に反応するようにバゼットが動いた。

 

「次は、あなただ」

 

 距離を詰めに掛かるバゼット。

 

 だが、その前に今度は美遊が立ちはだかった。

 

「やらせないッ」

 

 魔力を込めて、サファイアを振りぬく美遊。

 

 奔流と化した魔力が、バゼットへ一気に襲い掛かる。

 

 だが、

 

 腕を交差させて防御の姿勢を取りなあらも、バゼットは動きを止める事無く突っ込んで来た。

 

 振るわれる拳。

 

 対して、

 

「速いッ でもッ!!」

 

 言い放つと同時に、空中に足場を作って跳び上がる美遊。

 

 そこへ、

 

「ミユッ 合わせて!!」

「イリヤ!!」

 

 2人の魔法少女は頷きあい、同時にステッキを振り被る。

 

砲射(フォイア)!!」

砲射(シュート)!!」

 

 放たれる魔力の十字砲火。

 

 逃れる術はない。

 

 筈だった。

 

 だが次の瞬間、自分のすぐ脇に人の気配が躍り、美遊はとっさに振り返る。

 

 その視線の先には、既に攻撃態勢に入っているバゼットの姿がある。

 

 防御は、間に合わない。

 

 次の瞬間、バゼットの放った拳が、美遊を真っ向から直撃した。

 

「ああッ!?」

 

 文字通り「撃墜」される美遊。

 

 その小さな体は、容赦なく地面に叩きつけられた。

 

「ミユッ そんな!!」

 

 愕然とするイリヤ。

 

 クロに続いて、美遊までやられてしまうとは、思っても見なかったのだ。

 

 そこへ、バゼットが襲い掛かってくる。

 

「遅い」

 

 囁かれる、死神の声。

 

 対抗するように、イリヤもルビーを振り翳す。

 

 動きは、バゼットの方が早い。

 

 対してイリヤは、自身の攻撃力ではバゼットに敵わない事は、既に自覚している。

 

 それ故に、全魔力を防御に回す。

 

 展開される星形の防御障壁。

 

 しかし、それもみるみる内に亀裂が入り劣化していく。

 

 魔力の壁が、バゼットの拳撃に耐えきれずに悲鳴を上げているのが分かった。

 

「クッ これじゃあッ!?」

 

 更に魔術回路に魔力を注ぎ込み、障壁の強化を図るイリヤ。

 

 障壁は辛うじて攻撃に耐えているが、それも時間の問題だった。

 

 障壁が破られれば、無慈悲な拳がイリヤを襲う事になる。

 

《イリヤさん、このままじゃ保ちません!!》

「クッ!?」

 

 ルビーまでが悲鳴を上げる。

 

 全魔力を防御に回して尚、バゼットの攻撃を押しとどめる事は出来ない。

 

 こうしている間にも、障壁は容赦なく削られていく。

 

「まるで亀だ・・・・・・ならば!!」

 

 呟くと同時に、バゼットは手刀を作る。

 

 その手にはめられたグローブに浮かび上がるルーン文字。

 

 それは鋼鉄をも素手で打ち砕く無慈悲な一撃。

 

 放たれる手刀。

 

 それは、辛うじて保っていたイリヤの障壁を、一撃のもとに打ち砕く。

 

《破られましたッ イリヤさん!!》

 

 ルビーが悲鳴を上げる中、バゼットはトドメを刺すべく、手刀を振り上げる。

 

 その攻撃が、イリヤに向かって放たれた。

 

 その手刀が、イリヤを貫かんとした。

 

 次の瞬間、

 

 星形の障壁が、イリヤとバゼットの間に次々と出現する。

 

 その全てを打ち砕くバゼット。

 

 だが、

 

 あと一枚と言うところで、手刀は勢いを止められた。

 

 それはまさに、イリヤの鼻先。

 

 イリヤは障壁を多重展開する事で、強烈極まるバゼットの手刀を防いだのだ。

 

《何とまあ・・・・・・》

「悪あがきを!!」

 

 ルビーの感嘆と、バゼットの舌打ちが重なる。

 

 まさかこのような手段で対抗してくるとは、2人とも予想外だったようだ。

 

 だが、

 

 当のイリヤ自身はと言えば、まだ満足してるとはいいがたかった。

 

 バゼットの攻撃は防ぎとめたが、守ってばかりいては勝てない。

 

 せめて時間を稼ぐには、バゼットの動きを封じるしかない。

 

 更に攻撃態勢に入るべく、腕を振り上げるバゼット。

 

 その瞬間を、

 

 イリヤは見逃さなかった。

 

「ここだッ」

 

 狙うは一点。

 

 バゼットが振り上げた腕の、肘の部分。

 

 そこに、

 

 障壁を作り出す。

 

「何ッ!?」

 

 思わず、驚愕の声を上げるバゼット。

 

 障壁に縫い止められた腕は、ピクリとも動かない。

 

 更に、イリヤは隙を見せずに動く。

 

 障壁をもう一枚展開。バゼットのもう一方の腕も拘束する。

 

 これでバゼットは、完全に身動きが取れなくなった。

 

《障壁の任意座標への展開ッ!? ここまで精密にするなんて!?》

 

 ルビーも感嘆したように叫ぶ。

 

 本来なら防御に使うべき障壁を攻撃に使うなど、誰が思いつくだろうか?

 

 まさに、イリヤの想像力があればこそ、成せる絶技だった。

 

「弱くたって、出力が足りなくたって、戦いようはある!!」

 

 トドメを刺すべく、ルビーを振り翳すイリヤ。

 

収束砲射(フォイア)!!」

 

 必殺の気合を込めて、威力を高めた魔力砲がバゼットに放たれる。

 

 矢の如く突き進む魔力砲撃。

 

 対して、身動きが取れずに立ち尽くしているバゼット。

 

 今度こそ決まった。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 強烈な破砕音と共に、バゼットの腕を拘束していた障壁が粉砕された。

 

 目を見開くイリヤ。

 

 何とバゼットは、魔力の障壁を力技で粉砕。拘束から脱出してしまったのだ。

 

 同時に、体を捻ってイリヤの魔力砲を回避するバゼット。

 

 必殺の魔力砲は、僅かに彼女のジャケットをかすめていくにとどまった。

 

「避けたッ!? あの状態から!?」

「拘束が二重だったら、貴女の勝ちでした」

 

 驚愕するイリヤに対し、冷静に返しながら再び接近を図るバゼット。

 

 対して、イリヤも慌てて体勢を立て直そうとする。

 

「なら、もう一回拘束して!!」

 

 バゼットの間合いには、まだ少しある。その前にもう一度拘束すれば、イリヤの優離は動かないはず。

 

 だが、

 

 バゼットは、自分の足元の芝生に指を突き入れる。

 

 次の瞬間、

 

 地面そのものを、抉るように持ち上げてしまった。

 

 ちょうど、畳返しを地面を相手にやったような感じである。

 

「ちょッ!?」

 

 これには驚くな、と言う方が無理である。どこの世界に、地面を持ち上げる人間がいると言うのか?

 

 次の瞬間、

 

 バゼットは持ち上げた地面を貫くようにして、イリヤの胴へと拳を叩き込んだ。

 

 悲鳴を上げる事も出来ずに吹き飛ぶイリヤ。

 

 そのまま魔法少女(カレイドルビー)は、背中から地面に叩きつけられるのだった。

 

《イリヤさん!!》

 

 ルビーが悲鳴を上げる中、イリヤは激痛の為に身を起こす事も出来ないでいた。

 

 バゼットの渾身の一撃をもろに食らった形である。障害物越しだったとは言え、耐えられるものではなかった。

 

 そこへ、ゆっくりと歩み寄るバゼット。

 

 その手がイリヤの太ももに伸び、そこに装着されていたカードホルダーを掴み取った。

 

「あッ!?」

 

 そのまま持ち上げられるイリヤ。

 

「やはり、貴女もカードを持っていたようですね」

 

 そのまま「槍兵(ランサー)」のカードを奪い取るバゼット。

 

「これで、5枚」

 

 呟いた。

 

 次の瞬間だった。

 

 バゼットの背後に踊る、小さな影。

 

 手にしたステッキを、躊躇う事無く振るう。

 

「クッ またか!?」

 

 とっさに防御の姿勢を取るバゼット。

 

 その視線の先には、

 

 荒い息のまま立つ、美遊の姿があった。

 

 バゼットの一撃を受けて気を失っていた美遊だが、イリヤの危機に目を覚まして再び立ち上がったのだ。

 

「これ以上は・・・・・・やらせない」

 

 言い放つと同時に、美遊はカードホルダーから「騎兵(ライダー)」のカードを取り出す。

 

《美遊様、それはッ》

 

 事態を察したサファイアが声を上げる。

 

 しかし、それを無視して、美遊は魔術回路に魔力を通した。

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 叫ぶ美遊。

 

 とっさに防御の姿勢を取るバゼット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な衝撃が周囲一帯を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バゼットが、

 

 イリヤが、

 

 振り仰ぐ先、

 

 そこには果たして、

 

 白き翼を雄々しく広げた、勇壮な白馬の姿がある。

 

 そして、その手綱を引きし少女は、露出の高い衣装に、双眸を眼帯で覆っている。

 

 かつて、響とイリヤが最初に戦った敵と同様の恰好をした少女がそこにいた。

 

「クラスカード『騎兵《ライダー》。夢幻召喚(インストール)完了』

 

 低い声で告げる美遊。

 

 「騎兵(ライダー)」メデューサ。

 

 かつてギリシャ神話に謳われしゴルゴン三姉妹の末妹にして、目にしたもの全てを石に変える恐ろしい怪物。

 

 正確に言えば英雄ではなく、反英雄に相当する。

 

 反英雄とは、その存在は悪と認定されながらも、結果的に多くの人間を救った存在に贈られる称号である。

 

 聖杯は、クラスに合致すれば反英雄であっても召喚の対象とするのだ。

 

 美遊の眼帯越しに、バゼットを睨みつける。

 

「これ以上はやらせない・・・・・・みんなは、わたしが守る!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 美遊は突撃を開始した。

 

 

 

 

 

第17話「女狂戦士」      終わり

 

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