Fate/cross silent   作:ファルクラム

46 / 116
第30話「シーサイド・バースデイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 澄み切った青空。

 

 吹き渡る涼風。

 

 照り付ける太陽。

 

 遥かに浮かぶ白い雲。

 

 夏。

 

 夏だ。

 

 文句無しの夏である。

 

 ただ、「夏である」。その一言だけで、人の心には浮き立つものが沸いてくる。

 

 体力と気力が溢れて尚あり余る子供ならば、猶更の事だった。

 

 そんな中、

 

 元気一杯、猪突猛進、迷惑千万に駆け抜ける一団があった。

 

「来た来た来たー!! キタよコレー!!」

「ほ、ほんとにやるのッ!?」

「当り前だッ 何の為に何か月にも渡って練習してきたと思っている!?」

「練習したの、これッ!?」

「ん、壮絶な無駄」

「うっさいぞ響!! ここまで来たら止まれるか!!」

「海だーッ!!」

「タ、タツコが決め台詞先走ったよ!!」

「台無しだ!! 台無しだ!!」

「ええい、もう構わんッ!! 予定通りいくぞ!!」

「ちょ、ちょっと待って、そんなにすぐには服脱げな・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『海だッ・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言いかけた瞬間、

 

 走って来た車に、嶽間沢龍子が跳ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

「いやー やれやれだな。危うく今日が、タッツンの命日になる所だったぜ」

「轢かれたのが、受け身だけは天才的なタッツンでよかった」

「いや、シャレになってないからね!!」

 

 やれやれとばかりにため息をつく栗原雀花(くりはら すずか)森山那奈亀(もりやま ななき)両名にツッコミを入れるイリヤ。

 

 本日は夏休みを利用して、かねてから計画していた海水浴にやって来たのである。一同、既に水着に着替えて用意万端の状態だった。

 

 それがなぜに、あのような事態に繋がったのか?

 

 発端は、漫画等で見られる、海に来た時の描写の中で、一番ハイテンションな部類に入る「全員一気に服を脱いで水着に着替え、飛び跳ねる風景を再現する」などと言う、割とどうでも良い計画だった。

 

 だがそもそも、いつものメンツでそんな連携が取れるはずも無く、冒頭の感じでグダグダとなった訳である。

 

 因みに、跳ねられた龍子は、至極当然のように無傷だった。

 

「ねぇねぇ、ちょっと」

 

 そんな中、クロが少し困惑気味に声を掛けてきた。

 

「さっきの運転手、せめてものお詫びにッて、1万円置いていったんだけど」

『何ィィィィィィィィィィィィ!?』

 

 クロの手に握られている1万円札。

 

 予期せぬ儲けに、一同は驚愕の声を発した。

 

「マジかよ・・・・・・世間じゃひと轢き1万が相場なのか?」

 

 断じて、そんな相場は無い。

 

「もしかしてうち等、タッツンでひと稼ぎできるんじゃ・・・・・・」

「それ、人道的にもタツコ的に完全アウトだから!!」

 

 不穏な企みをしている雀花と那奈亀に、イリヤのツッコミは止まらない。

 

 ただ、

 

 これだけは言っておく。

 

 「良い子は真似をしてはいけません」

 

 と、そこへ砂を踏む音が近づいて来た。

 

「まったく、道路に飛び出すなんて、二度とやっちゃだめだぞ」

 

 そう言うと士郎は、肩に担いできたビーチパラソルを地面に突きさす。

 

 今回、小学生だけで海水浴に来るわけにもいかなかったので、彼に引率役をお願いしたのだ。

 

 それと、もう1人。

 

「怪我が無かったのは奇跡だな」

 

 士郎の横で、眼鏡を掛けた青年が、やはり呆れ気味に言った。

 

 年齢は士郎と同じくらい。どこか理知的な雰囲気のある男性だ。

 

「イリヤイリヤ」

 

 興味が引かれたのか、那奈亀がイリヤの肩をチョンチョンと突いて尋ねてきた。

 

「あの短髪の方は、イリヤ&響兄なのは知ってるけど、隣のメガネ男子はどなた?」

「あ、そっか。みんなは初めてだったね」

 

 今回、士郎1人では、流石に彼が退屈するだろうと思い、士郎の高校の友達にも出張ってもらったのだ。

 

 と、眼鏡青年の方も、小学生たちの視線に気づいたのだろう。振り返って挨拶してきた。

 

柳洞一成(りゅうどう いっせい)だ。お初にお目にかかる。本日は衛宮との縁により世話になる事になった。よろしく頼む」

 

 小学生相手にも、丁寧なあいさつだった。

 

 一成は円蔵山にある柳洞寺の息子である。士郎の親友と言う事もあり、これまで何度か衛宮家を訪れた事もあった。その為、響、イリヤ、クロ辺りとは面識があった。

 

「ほほーう・・・・・・ほうほうほう・・・・・・」

 

 そんな2人の関係を聞いていた雀花が、何やら思い至ったように食いついて来た。

 

「それで、お二人はどのような関係で?」

「雀花、その手帳何?」

 

 頬を紅潮させながら尋ねる雀花に、響が質問をする。当然のごとく無視されたが。

 

 一方、付き合いの長い那奈亀は、何かを悟ったように雀花の行動を見守っていた。

 

 そんな雀花の質問に対し、士郎と一成はやや困惑したように顔を見合わせた。

 

「関係って言っても・・・・・・まあ、普通の友人関係だよな?」

「ふむ・・・・・・『普通』の一言で済ませられるのも、いささか寂しいな」

 

 確かに。

 

 親友であるならば「普通」という言葉は、いささか足りないのも通りである。

 

 言葉足らずな士郎に代わって、一成が補足を入れる。

 

「俺は高等部の生徒会長もやっていてな。衛宮にはいつも、生徒会の雑務を手伝ってもらっているんだ。堅実な仕事ぶりにはいつも助けられている。衛宮がいなかったらと思うと、俺はどうして良いのか分からんよ」

「何だよ急に。褒め殺しか? 俺は自分ができる事をやれる範囲でやっているだけだ。それに俺がいなかったところで、生徒会長のお前がいればどうとでも仕切れるだろ」

 

 弟妹やその友人の前で親友にストレートな誉め言葉を言われたせいだろう。士郎は少し照れたようにそっぽを向く。

 

 そんな士郎に対し、一成は更に続ける。

 

「いや、お前がいなくてはだめだ。衛宮手製の弁当が食えなくなると、俺の士気に関わる」

「それかよ・・・・・・まあ、張り合いがあって良いけどさ」

「衛宮の味噌汁なら、毎日飲んでも良いぞ」

「毎日は流石に勘弁だ」

 

 断っておくが、

 

 当人たちに他意はない。ただ単純に友人同士、互いを誉め合っているに過ぎない。

 

 過ぎない、のだが、

 

 聞く者によっては、2人の間に無数のバラの花びらが舞っているようにも見えるのだった。

 

「アッ・・・アッ・・・アッ・・・アリガトウゴザイマシタッッ!!」

 

 最後に、雀花が昇天しそうなほど良い笑顔を浮かべてサムズアップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、まあ、

 

 多少の混乱はあったものの、せっかくの海である。

 

 楽しまなければ損だった。

 

 冒頭の混乱を忘れたかのように、はしゃぎまわる子供たち。

 

 ビーチバレーをしたり、

 

 ビーチフラッグをしたり、

 

 龍子を砂浜に埋めたり、

 

 泳いだり、

 

 素潜りをしたり、

 

 龍子を海に投げ込んだり、

 

 沖のブイまで競走したり、

 

 スイカ割りをしたり、

 

 タツコ割りをしたり、

 

 楽しい時間を、思いっきり満喫したのだった。

 

 

 

 

 

 ひとしきり遊んだあと、

 

 響、イリヤ、美遊、クロの4人は、連れ立って岩場の上までやって来た。

 

 眼下には打ち寄せては引いていく波の様子が、鮮やかに見えている。

 

「え、美遊って、海に来た事が無いの?」

 

 驚いたように、イリヤは尋ねた。

 

 海に来るのが初めてだと言う美遊。

 

 普通、彼女くらいの年齢の子供なら、親と一緒に遊びに来そうなものだが。

 

「正確に言うと2回目。けど、こんな風に遊びに来るのは初めて。だから、どんな風に楽しめば良いのか分からなくて・・・・・・」

 

 美遊は遥か彼方の水平線を見つめて答える。

 

 1度目、というのは以前、響とデートに来た時の事を指している。

 

 因みに、クロとの再戦の時も、戦場は海辺だったのだが、あの時はすぐに戦闘に入った上に、その後でアイリの介入もあって、殆どうやむやにされた形だった。

 

「そんな難しく考えなくても、自由に遊べばいいと思うよ」

 

 相変わらず理屈っぽい美遊に、イリヤはそう言って笑いかける。

 

 深く考えるよりも先に、楽しんだ方が勝ちである。

 

 とは言え、

 

「あれは悪いお手本」

「・・・・・・だねー」

 

 響が指さした方向では、那奈亀が龍子を人間ドッジボールよろしく、雀花に投げつけていた。

 

 流石に、あれはやりすぎだろう。

 

「でも珍しいね。こんな海の近くに住んでるのに、海に来た事が無いなんて」

「少し前まで海外で暮らしていたから。冬木にいたのは小さいころ・・・・・・父と兄と3人で暮らしていた。けど父が病死して、それから海外に引き取られた。こっちに帰って来たのは、つい最近の事」

 

 どこか寂しそうな顔で告げる美遊。

 

 ここまで、彼女が辿って来た道が、決して平坦ではなかったことがうかがえる。

 

「もしかして、そのお兄さんってのが・・・・・・」

「うん、士郎さんによく似た人・・・・・・」

 

 以前、美遊は士郎を兄と勘違いして抱き着いたことがあった。

 

 とは言え、

 

 響は、あの時の事を思い出す。

 

 士郎を兄と呼び、抱き着いた美遊。

 

 あの時の彼女の行動は、どう考えても「勘違い」で済ませられるような物ではないと思うのだが。

 

「      イス   キャン      」

 

 しかし、気になるのも事実である。

 

 美遊は普段、無駄な行動はとる事が少ない。それだけに、あの行動はやはり、謎が多すぎた。

 

「      かーッ すかー!!??     」

 

 加えて、美遊は何か重大な事を隠している節がある。

 

 勿論、悪意を持っての事ではないだろうが。

 

「      アイス      っすかー!?      」

 

 だが、もしかしたら、という思いはある。

 

 もし、美遊の隠している事が、今回の一連の事件のカギだとしたら?

 

「アイス~~~キャンディー~~~」

 

 美遊の事だ。黙っているのには、きっと何か深い意味があると思う。

 

「いかーっすかー!!!???」

 

 誰だって、触れられたくない過去はあるだろう。

 

「アイス~~~キャンディ~~~~~~いかーっすかー!!!???」

 

 やはり、彼女自身の口から告げるのを待つ方が、得策なように思える。

 

「アイス~~~キャンディ~~~~~~いかーっすかー!!!???」

 

 その方が、美遊の為にも・・・・・・・・・・・・ってッ!?

 

「うっさいさっきから!!」

 

 やかましい声に、とうとう我慢しきれずに振り返る響。

 

 次の瞬間、

 

「む?」

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 相手と目が合う。

 

 短く切った髪に、精悍な目付き。

 

 見覚えがありすぎるほどにある人物が、水着にエプロン姿でそこに立っていた。

 

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

「おや、あなた方は」

 

 絶句する、響、イリヤ、クロ、美遊。

 

 そんな小学生組を前に、

 

 アイスキャンディー売りの恰好をした魔術協会所属、封印指定執行者バゼット・フラガ・マクレミッツが立っていた。

 

「バゼット!?」

「ま、また出たわね、バサカ女!!」

「ん、決着、付けるッ」

「へへへ、変身しなくちゃッ ルビー!! ルビー!!」

 

 慌てふためいて戦闘態勢を取ろうとする小学生組。

 

 対してバゼットは、少し落ち込んだように嘆息した。

 

「・・・・・・子供にそういう反応をされると、流石に落ち込みますね・・・・・・ですが安心なさい。ここであなた方とやり合うつもりはありません」

 

 そう告げるバゼットからは確かに、一切の戦機は感じられない。戦う意思は、どうやら本当に無いようだ。

 

「なぜなら、今の私は・・・・・・・・・・・・」

 

 ドン

 

 という異音と共に、バゼットは背後の幟を指し示して見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただの、アイスキャンディー屋さんですから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・

 

 ナニソレ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 困惑する4人。

 

 対してバゼットは、途方に暮れた感じで語り始めた。

 

「実は先日の戦闘行為で発生した修繕費用ですが、なぜか協会を素通りして私に請求が回ってきまして・・・・・・カードは止められ、路銀も尽きました」

 

 バゼットの説明を聞いて、一同は瞬時に悟る。

 

 ルヴィアの差し金だ、と。

 

 恐らく持て余すほどの財力に物を言わせて魔術協会に根回しし、バゼットに全ての負債を押し付けたのだ。

 

 先の敗戦に対する意趣返しとしては完璧に近い。やってる事はいささか以上にせこいが。

 

「ですが、大した問題ではありません」

 

 キリッとした表情で告げるバゼット。

 

「金など日雇いのバイトで稼げばいい。その気になれば、道端の草でも食べられる」

 

 その宣言を聞いて、

 

 小学生4人は同時に思った。

 

 なんかこの人、色々と駄目っぽい。

 

 と、

 

「何か、この前の時と全然キャラ違うくない?」

「状況も言動も、心なしか顔つきまで駄目っぽく見えるよ」

「ん、どうしてこうなった?」

「これが、封印指定執行者・・・・・・」

 

 ヒソヒソと、小声で話し合う一同。

 

 そんな小学生組に構わず、バゼットは商売道具であるアイスボックスを開いた。

 

「そんな訳で・・・・・・・・・・・・」

 

 取り出したのは、4本のアイスキャンディー。

 

「アイスキャンディー、1本300円。4本で1200円になります。お買い上げ、ありがとうございました」

 

 まさかの「約束された観光地価格(ボッタクリ)」。

 

 強制的にアイスキャンディーを買わされた一同は、もはやツッコム気力すら失せていた。

 

 

 

 

 

 ひと泳ぎして上がって来た美々。

 

 濡れた体をタオルで拭きながらパラソルまで戻ってくると、何やら重苦しい雰囲気がある事に気づいて訝った。

 

「あれ?」

 

 見れば何やら、響、イリヤ、クロ、美遊の4人が「ズ~~~ン」と言う擬音が聞こえそうなほど、暗い雰囲気を漂わせて、手にしたアイスキャンディーをシャクシャクと食べている所だった。

 

 明るい海水浴場に、あるまじき重苦しさである。

 

「どうしたの、みんな?」

「何か、駄目っぽい人に押し売りにあっちゃった」

「? ふーん」

 

 結局、よくわからない美々は、首を傾げるしかなかった。

 

 と、

 

 そこで兄、士郎が荷物を抱えて近づいて来た。

 

「よし、みんな、そろそろ会場に移動しようか」

 

 実のところ、今回の海行き、目的は海水浴以外にもう一つあった。

 

 それは偶然から判った事。

 

 実は、イリヤ、クロ、美遊の3人の誕生日が同じだったというのだ。

 

 これはすごい、と言う事で、その日に合わせて海水浴を設定し、同時に海の家でお祝いもしてしまおうと言う流れになったのである。

 

 の、

 

 だが、

 

「すまん、イリヤズ」

「ぶっちゃけ誕生会とか、海に来る名目でしかなかったから、半分忘れてた」

「ちょっとは歯に衣着せてよー!!」

 

 薄情な友達の言葉に、イリヤは半泣きになりながらツッコミを入れる。

 

 何と言うか、色々と台無しだった。

 

「ま、まあまあイリヤ、そう落ち込むなって。店は俺が予約しておいたから」

 

 そう言って、傷心の妹を慰める士郎。

 

 何はともあれ、一同は荷物をまとめて移動する事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海の家「がくまざわ」は、龍子の実家が夏だけ経営している海の家である。

 

 本来は「嶽間沢流」と言う格闘術の道場をしているのだが、夏の間はこちらの方が稼ぎが良い為、道場を閉めて、こちらに力を入れているのだ。

 

 士郎は今回の計画に際し、縁のある「がくまざわ」に予約を入れておいたのだ。

 

 早速、一同席に座ると、盛大な宴がは今った。

 

『イリヤ&クロ&美遊!! お誕生日おめでとうー!!』

 

 クラッカーが一斉にさく裂し、紙吹雪が舞う。

 

 テーブルの上には、既に心づくしのご馳走が並べられている。

 

 特に圧巻なのは、かき氷とアイスクリームで作ったバースデーケーキである。普通のケーキではきついだろうと言う事で、士郎が頼んで特別に作ってもらったのだ。

 

 そんな中、ジュースを飲んでいた美遊は、意を決したように口を開いた。

 

「ねえ、イリヤ」

「ん、何?」

 

 アイスを口にしていたイリヤが振り返る。

 

「誕生会って、何をする物なの?」

「んん?」

 

 何だか、根本的な質問をされ、イリヤは首をかしげる。

 

 美遊がなぜ、そんな質問をしたのか、にわかには測りかねたのだ。

 

「誕生会なんだから、誕生日を祝う物でしょ」

 

 至極当然の回答をするイリヤ。

 

 だが、

 

 美遊の疑問は、イリヤが思っていた以上に根深かった。

 

「誕生日って、祝う物なの?」

 

 美遊の問いかけに、

 

 一同が絶句したのは言うまでも無かった。

 

 誕生日は祝う物。と言うのは、半ば以上常識であり、この場にいる誰もが、疑いを持っていない。

 

 美遊の質問は殆ど、「空はなぜ青いのか?」と聞いているのと同次元の話だった。

 

「ず、ずいぶん根本的な質問するなあ、ミユッチは」

「今まで祝って貰った事無いの?」

 

 場の空気を換えようと、質問する雀花と那奈亀。

 

 だが、

 

「・・・・・・ない」

 

 ボソッと返された美遊の言葉が、更に場の空気を重くする。

 

 どうやら、地雷的な質問だったようだ。

 

 次の瞬間、

 

「っかァァァァァァ!! ファンタうめー!! 世界一うめー!!」

 

 場の空気を全く読まない龍子の笑い声が、重苦しい雰囲気を粉砕する。

 

 KYスキルも、たまには役に立つものだった。

 

「あー そうだな・・・・・・」

 

 そこで口を開いたのは士郎だった。どうやら、年長者らしく、一肌脱ぐ事にしたらしかった。

 

「誕生日ってのは、生まれて来た事を祝福し、生んでくれた事を感謝し、今日まで生きてこられた事を確認する。そんな日じゃないかな」

 

 生んでくれたからこそ、今ここで生きていられる。

 

 生まれて来てくれたからこそ、今ここで、こうして皆と笑っていられる。

 

 その感謝の日でもある。と、士郎は言っているのだ。

 

「祝福と・・・・・・感謝と・・・・・・確認・・・・・・」

 

 噛み締めるように美遊は呟く。

 

 対して士郎は、柔らかく笑いかけた。

 

「でもまあ、そんな堅苦しく考える必要はないぞ。誕生日を祝って貰う側は、美味い物を食べて、適当に騒いでプレゼントを受け取る。やる事なんてそれだけで良いんだよ」

 

 そう言うと士郎は、カバンから小さな箱を3つ取り出し、イリヤ、クロ、美遊にそれぞれ手渡した。

 

「3人とも。お誕生日おめでとう」

 

 期待と共に箱を開ける3人。

 

 すると中からは、それぞれ似た意匠のブレスレットが出てきた。

 

 同じシリーズの物と思われるブレスレットは、紐を手首に巻いて装着する物である。

 

 ただ一点。アクセントがついており、それがイリヤが五芒星、クロがハート、美遊が六芒星と言う違いがあった。

 

「うん、可愛い可愛い!!」

「ありがとう、お兄ちゃん。きっと大切にするね!!」

 

 それぞれ、ブレスレットを巻いた手を握って笑うイリヤとクロ。

 

 そして、

 

「ほら、美遊も」

「あッ・・・・・・・・・・・・」

 

 イリヤに背中を押され、美遊は前に出る。

 

 これまであまり経験の無かった事の連続で戸惑い気味だった美遊。

 

 しかし、一同を見回して口を開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・生まれて来た事・・・・・・・・・・・・今日まで生きてこれた事・・・・・・・・・・・・」

 

 言いながら、美遊は視線を巡らせる。

 

「イリヤに会えた事・・・・・・みんなに会えた事・・・・・・士郎さんに会えた事・・・・・・」

 

 次いで、

 

 視線を少年に向ける。

 

「響に会えた事・・・・・・・・・・・・」

 

 笑顔を浮かべる美遊。

 

「その全てに、感謝します」

 

 そう告げる美遊の笑顔は、

 

 なぜか、ちょっと泣いているようにも見えた。

 

 だが、それはきっと、悲しくて泣いているのではない。

 

 今ここにいれた事。

 

 今こうして、みんなといれる事への、感謝の涙だと思った。

 

 

 

 

 

第30話「シーサイド・バースデイ」      終わり

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。