Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第32話「黒色の悪夢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を下りていく。

 

 どこまでも続く地下への階段。

 

 複数の足音が奏でる乾いた足音が、壁に反響して不気味に響き渡る。

 

 ここはまさに地獄にまで通じる竪穴。

 

 落ちたら最後。二度とは出られぬ闇の牢獄。

 

 その深く暗き穴を、

 

 一同は粛々と下りていく。

 

「何か暗くて殺風景で・・・・・・エクストラステージにしては華の無い舞台ねー」

「ちょっとクロ。もう少し緊張感持って」

 

 先を行くクロを、イリヤが窘める。

 

 8枚目のカード回収当日。

 

 一同はエーデルフェルト家の財力を駆使して掘った縦穴を、地下目指して下りていく。

 

 作戦通り、地下最奥部まで行った後、鏡面界にジャンプする事になる。

 

「結構。本番こそリラックスして臨むべきです。ただし、集中するのも忘れないように」

「はーい」

 

 更に階下へと降りていく一同。

 

 既に戦闘準備は整っている。

 

 イリヤと美遊は、それぞれ魔法少女に、響は暗殺者(アサシン)に、クロは弓兵(アーチャー)に、それぞれ変身していた。

 

 やがて、底が見えてくる。

 

 ライトアップされたその場所は、サッカー場並みに広い。派手に魔術戦を仕掛けるには十分な広さだった。

 

 時刻は間もなく深夜0時。作戦開始時刻は、刻一刻と迫っているのだが。

 

「バゼット、来ない・・・・・・・・・・・・」

 

 響は階段の上を見つめながら呟いた。

 

 間もなく時間だと言うのに、バゼットが姿を現す気配はない。

 

 あの階段。下りるだけでも5分以上の時間はかかる。今から姿を現しても遅刻は確定なのだが。

 

「遅刻者は放っておいて、先にやっちゃおうよー」

「うーん、それもやむなしかしらね・・・・・・」

 

 クロの言葉に、凛も同調する。

 

 そもそも自分たちとバゼットは「同行者」であって「共闘者」ではない。約束の時間も守れないような相手を、こっちが待つ義理は無いのだ。

 

 ルヴィアが懐中時計を開く。

 

「時間まで、あと5秒・・・・・・」

 

 カウントダウンが始まる。

 

「3・・・・・・」

 

 その時、

 

 階上において、金属を蹴る音がした。

 

「2・・・・・・」

 

 一同が振り仰ぐ中、

 

 階段の手すりを足場にして、何かが垂直に落下してくるのが見えた。

 

「1・・・・・・」

 

 そして、

 

「0」

 

 カウントダウンの終わりと同時。

 

 衝撃と共に、地面に着地したバゼットの姿があった。

 

 その凄みのある存在感。

 

 抜き身の刃を思わせる眼光は数日前、エーデルフェルト邸で激突した時と寸分違わない。

 

 文字通りのジャスト。

 

 封印指定執行者としての姿が、そこにはあった。

 

「・・・・・・・・・・・・始めましょうか」

 

 やや複雑な思いを抱いて、ルヴィアは告げる。

 

 呉越同舟と言うべきか、かつての敵と轡を並べる事への抵抗感は否めない。

 

 しかしこの際、彼女もまた戦力の一つと数える事が求められていた。

 

「配置について!! ジャンプと同時に攻撃を開始するわよ!!」

 

 ともかく役者はそろった。

 

 凛の指示に従い、一同は動き出す。

 

「とにかく、最大の攻撃を放つだけの作戦だけど、もし敵からの反撃を受けたら、守りのかなめはイリヤの物理保護よ。でも、それとは別にしても、イリヤはダメージを受けないように」

「え、何で?」

 

 凛の出した指示の意味が分かりかね、キョトンとするイリヤ。

 

 その傍らで、クロが嘆息した。

 

「痛覚共有の呪い。忘れたの?」

「あ、そうかッ 私が怪我したらクロやバゼットさんまで怪我しちゃうんだ」

 

 エーデルフェルト邸の戦いでは、そのせいで苦戦を強いられたのだ。今回は、その点も考慮しなくてはならない。

 

 しかし、

 

「そんな呪い(もの)、とうに解除済みです。腕は良いが、性格の悪いシスターに払ってもらいました。それ程難解な呪いでもありませんでしたし」

 

 驚く一同に対し、バゼットは事も無げに言い放った。

 

「んー・・・・・・」

 

 響は首をかしげなら凛を見た。

 

「割とイージーモード?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 問いかける響に対し、ばつが悪そうにそっぽを向く凛。

 

 クロに呪いを掛けた時の大仰さから言って、かなり難しい呪いだと思っていたのだが、どうやら半分以上は凛のハッタリだったらしい。

 

 しかし、それなら一つ、大きな疑問が浮かぶ。

 

 それは、

 

 響は視線を、クロのお腹に向ける。

 

 そこに描かれた文様は、未だに健在である。

 

 なぜクロが、呪いをそのままにしているのか、と言う事だった。

 

 だが、考え事もそこまでだった。

 

 床に描かれた魔法陣が輝きを増し、鏡界回廊の扉が開かれる。

 

「呪いがあろうとなかろうと、もはや関係無いわ。この戦いは、先にカードを手にした者が所有権を得る。ただ、それだけの勝負よ」

 

 凛の言葉と共に、

 

 魔法陣の輝きは最大となる。

 

「行きます!!」

 

 鋭く響く美遊の声。

 

 同時に、

 

 視界は大きく反転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歪む視界。

 

 平衡感覚を失い、崩れる足元。

 

 酩酊感にも似たその感覚に酔いそうになる。

 

 現実世界から鏡面界へのジャンプ。

 

 ひどく長いと感じたその酩酊感が収まった瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界を埋め尽くすほどの地獄が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定通り、鏡面界にも現実世界同様の地下空間が広がっていた。

 

 しかし、

 

 その空間全てを覆いつくすほどの、黒い魔力の霧が充満している。

 

 かつて剣士(セイバー)と戦った時と同様、

 

 否、

 

 それをはるかに上回る、莫大で濃厚な霧がとぐろを巻くようにして広がっている。

 

 その中心。

 

 僅かに霧が晴れる一瞬、視界の先に黒々とした人影が見えた。

 

 あれが恐らく、カードの持ち主たる英霊なのだろう。

 

 予想以上の状況に、一同は息を呑む。

 

「惑わされないで!!」

 

 鋭い声を発したのはルヴィアだった。

 

「敵がどんな姿だろうと、すべきことは同じですわ!!」

 

 言い放つと同時に、宝石を手に前へと出る。

 

 途端に、敵の攻撃が始まった。

 

 魔力の霧が形を変えて、ルヴィアへと襲い掛かってくる。

 

 対剣士(セイバー)戦の時に判っていたが、あの霧は攻撃にも防御にもなる。

 

 その一撃一撃が、次々とルヴィアへと飛来する。

 

 だが、ルヴィアは止まらない。

 

 今回、凛が立案した作戦は3段構えとなっている。

 

 作戦の第一撃を加えるためには、もう少し距離を詰める必要がある。

 

 ルヴィアに向けて、触手のように伸びてくる膨大な霧。

 

 視界全てを黒く染める霧を前にして、

 

「想定済みですわ!!」

 

 ルヴィアは不敵に笑う。

 

 そんな彼女を守るように、

 

 浅葱色の影が躍った。

 

「んッ!!」

 

 鋭く抜刀する響。

 

 銀の閃光が縦横に奔り、ルヴィアに殺到しようとしていた霧を切り払う。

 

「ご苦労様、響」

 

 ねぎらいの言葉と共に、ルヴィアは宝石を霧の中心目がけて投擲する。

 

 発動する宝石魔術。

 

 魔法陣が、霧の中心に立っていた黒化英霊を拘束する。

 

世界蛇の口(ヨルムンガンド)!!」

 

 北欧神話に出てくる毒蛇の怪物の名を関したその魔術は、黒化英霊を真っ向から拘束する。

 

 雄たけびを上げる黒化英霊。

 

 作戦第一段階成功。

 

 その隙を、軍師たる凛は見逃さない。

 

「まずは捕縛成功!! イリヤ、美遊、チャージ開始!! 20秒よ!!」

 

 凛の指示に従い、魔力チャージを開始するイリヤと美遊。

 

 その様子を傍らで見て、バゼットは頷いた。

 

「成程。吸引圧縮型の捕縛陣で敵を一か所に集めつつ、魔力チャージの如何を稼ぐ。そして・・・・・・砲台か」

 

 増幅された魔力が、極大の魔法陣を空中に描く。

 

Eine Folgeschaltung(直 列 起 動)

 

 その様子を見ながら、凛は不敵な笑みを浮かべると、手にした剣に複数の宝石をかざす。

 

「魔力の高速回転増幅路・・・・・・お互い妨害とかはしない約束だけど、一応忠告しておくわ。わたし達の前には、出ない方が良い」

 

 次の瞬間、

 

 ため込んだ魔力が、イリヤと美遊の描く魔法陣によって加速し、解き放たれる。

 

打ち砕く雷神の指(トールハンマー)!!」

 

 強烈な雷撃が迸る。

 

 指向性を持つその一撃は、鏡面界そのものを吹き飛ばす勢いで、全てを薙ぎ払っていく。

 

 その先には、拘束されて身動きできずにいる黒化英霊。

 

 避ける事は、不可能。

 

 見事に、直撃を見舞った。

 

 雄たけびを上げる黒化英霊。

 

「やったッ 完全に決まった!!」

「まだよ!!」

 

 喝采を上げるイリヤに、警告を送る凛。

 

 ここまでは作戦の第2段階。

 

 もう1手、残されている。

 

 踏み出したのは、クロ。

 

 その視界の先では、揺らぎを見せながらも立ち上がる黒化英霊の姿がある。

 

 その姿を真っ向から見据えて、弓を構える。

 

投影(トレース)・・・・・・開始(オン)

 

 囁かれる言葉。

 

 同時に、莫大な魔力が少女の手の中に現れる。

 

 収束される光が、1本の剣の形を取る。

 

《凄まじい魔力圧縮です!!》

「あの矢、これまでの物とは格が違う!!」

 

 見ていたサファイアと美遊が、驚愕の声を上げる中、クロは更に魔力を充填していく。

 

 限界ギリギリまで、圧縮された魔力は矢となる剣の中へと注ぎ込まれる。

 

 以前、クロは響に言った。

 

 無から剣を投影し、矢として打ち出す弓兵(アーチャー)の技。

 

 その剣が持つ概念その物を、爆弾として打ち出す絶技。

 

 クロはこれを壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)と呼ぶ。

 

「仕上げよ、クロ!! 最悪、カードごと破壊してしまっても構わない!! 敵が再生する前に撃って!!」

 

 凛の言葉と共に、

 

 クロは解き放つ。

 

 一閃となって飛翔する矢。

 

 今回、クロが矢として使用したのは、聖剣約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 アーサー王伝説に伝わる最強の聖剣であり、振るえば万軍をも打ち滅ぼす絶対の輝き。

 

 クロが放つ事の出来る、最大最強の一手である。

 

 故にこそ、凛はクロに最後の一手(チェックメイト)を任せたのだ。

 

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 だからこそ、

 

 

 

 

 

 

 クロだけは判った。

 

 

 

 

 

 判ってしまった。

 

 

 

 

 

 視界の先に、突如出現した盾。

 

「ッ・・・・・・・・・・・・」

 

 いかな最強の聖剣であっても、

 

 否、

 

 自分たちの「全て」をぶつけたとしても、あの盾は破れないであろうことを。

 

 着弾。

 

 同時に巻き起こる爆発。

 

 しかし、盾には傷一つ付かず、優美な外見を保っていた

 

 いったいなぜ!?

 

 どこから!?

 

 尽きぬ疑問が沸いてくる。

 

 しかし、事実は残酷にもただ一つのみ。

 

 最強の一撃は防がれ、作戦は失敗した。

 

 かくなる上は、残された作戦はただ一つのみだった。

 

「退却ですわ。戻って立て直しますわよ!!」

 

 ルヴィアの言葉に意義は無い。

 

 元々、今回の作戦は、最大火力を持って、相手にターンを渡さず、一撃で決する事を旨としていたのだ。

 

 その前提条件が脆くも崩れ去った以上、ここに留まる事は愚策以外に無かった。

 

 だが、

 

「では・・・・・・」

 

 一人諦めず、ザッ と言う足音と共に前に出る影。

 

「次は、私の番ですね」

 

 言い放つと同時に、バゼットは矢の如く駆けた。

 

 目を見張る一同。

 

 バゼットは、あの黒化英霊に単騎で挑むつもりなのだ。

 

 そんなの、放っておけるはずが無かった。

 

 その間にもバゼットは距離を詰め、巨大な盾を一足に駆け上がる。

 

「ミユはみんなを連れて脱出して!! 私はバゼットさんを!!」

 

 そう言って前に出ようとするイリヤ。

 

 だが、

 

「無駄よ!!」

 

 少女の腕を引き、強い調子で引き留めたのはクロだった。

 

「もう、間に合わない」

 

 それは、直接攻撃したクロだからわかる事。

 

 敵の持つ、圧倒的な力量差。

 

 それは、人間が叶う物ではない。

 

「あの女は・・・・・・・・・・・・」

 

 次の瞬間、

 

 盾を飛び越えたバゼットに、

 

「死ぬわ」

 

 無数の刃が殺到する。

 

 その全てが、女の体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜ?

 

 どこから?

 

 どうして?

 

 どうやって?

 

 死を直前にして、尽きない疑問がバゼットの中で駆け巡る。

 

 突如、出現して自身を貫いた無数の刃。

 

 それは硬化のルーンによって、タングステンをも上回る硬度を誇るグローブすら、真っ向から刺し貫いていた。

 

 やがて、視界を塞いでいた巨大な盾が消え、響達にも状況が把握できるようになる。

 

 その視界の中に浮かぶ、無数の刃。

 

 剣、槍、斧、槌

 

 それらは、黒化英霊の足元にある泥の中から湧き出していた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 雄叫びを上げる、黒化英霊。

 

 その衝撃が、地下全体を容赦なく振るわせる。

 

「何・・・・・・あれ?」

 

 響が愕然として呟く。

 

 こんな光景、今まで見た事が無かった。

 

 その視界の中で、

 

 尚も起き上がろうともがく、バゼットの姿があった。

 

「刺創・・・・・・8か所・・・・・・うち、致命傷は腹部の2か所・・・・・・」

 

 その時、

 

 トドメとも言うべき一撃が飛来する。

 

 放たれた剣は、

 

 バゼットの胸を真っ向から刺し貫いた。

 

 心臓を貫いた一撃。

 

 間違いなく、致命傷である。

 

 あれではもう、助からない。

 

 誰もが思った。

 

 次の瞬間。

 

「・・・・・条件、完了」

 

 呟かれるバゼットの言葉。

 

 同時に、電撃の如き光が走り、全ての傷が一瞬にして修復される。

 

 再び突撃を開始するバゼット。

 

 その拳が、

 

 ついに黒化英霊を捉えた。

 

 繰り出される、強烈な拳。

 

 吹き飛ばされる黒化英霊。

 

 その一撃で、地下室の壁が陥没するほどの衝撃が見舞われる。

 

 並の人間なら、即死してもおかしくは無い。

 

「そんな、心臓を貫かれたのに、何で!?」

 

 黒化英霊の攻撃は、確かにバゼットの心臓を貫いたはず。

 

 しかし、その一瞬後には、バゼットは何事も無かったように動き出した。

 

 これはいったい、どういう事なのか?

 

「蘇生・・・・・・・・・・・・」

「へ?」

 

 まるで信じられない物を見た、と言いたげに凛が呟いた。

 

「蘇生のルーン・・・・・・恐らく心停止した瞬間発動したんだわ。それこそ、宝具クラスの魔術を・・・・・・・・・・・・」

 

 つまりバゼットは、初めから敵が強大である事を見越し、「自分が死ぬ可能性」も考慮に入れてここに来たのだ。

 

 仮に致命傷を受けても、すぐに蘇生して戦闘続行できるように。

 

「それじゃあ、正真正銘、バーサーカー女って事ね・・・・・・」

 

 クロが呆れ気味に呟いた。

 

 その間にも、バゼットは黒化英霊を攻め立てる。

 

 壁に叩きつけられ、身動きできない敵に連続して拳撃を叩きつけるバゼット。

 

 一撃一撃が必殺。事実、拳を叩きつけるたびに、黒化英霊の体は欠損していく。

 

 しかし、

 

 終始、攻めに回っているバゼットは、それでも己の不利を感じざるを得なかった。

 

 いかに打撃によって相手にダメージを負わせようとも、相手はすぐさま魔力の霧で自身の体を修復してしまう。

 

 加えて、足元の泥からは、次々と剣や槍が射出され、バゼットを襲ってくる。

 

 しかも・・・・・・・・・・・・

 

 バゼットは、

 

 そしてクロも、

 

 気づいていた。

 

 視界全てを埋め尽くすほどの刀剣。

 

 死の雨としか形容のしようが無いほど、壮絶な光景。

 

 判ってしまう。

 

 それら全てが、一線級の「宝具」であると。

 

 通常、宝具は1人の英霊に1つ。多い者でも3つ。ランクの低い宝具ならば5つ、6つと持っている英霊もいるが、それくらいともなれば「破格」と言って良いだろう。

 

 だがどうだろう?

 

 視界を埋めて降り注ぐ刃。

 

 その全ての宝具であり、その全てを所有する英霊など、果たして存在しうるのか?

 

 だが、

 

 考えている暇は無かった。

 

 一斉に降り注ぐ、宝具の嵐。

 

「来ますわッ!!」

「る、ルビー!! 物理保護!!」

 

 とっさに防御に回ろうとするイリヤ。

 

 だが、天井一面を覆いつくすほどの宝具の嵐を、物理保護程度の障壁で防げるものではない。

 

「宝具相手には宝具よ!!」

 

 前に出たのはクロだ。

 

 掌に集まる魔力が、深紅の花弁を形成する。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

 クロの作り出した盾が、降り注ぐ宝具の群れを辛うじて迎え撃つ。

 

 だが、それもいくらも保つものではない。

 

 その間にも、突撃を続けるバゼット。

 

 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)は、徐々に削られ、花弁を散らしていく。

 

「グッ・・・・・・・・・・・・」

 

 軋む盾に、うめき声を漏らすクロ。

 

「ダメッ 盾がもたないッ ミユ、今のうちに脱出してッ 早く!!」

 

 クロの判断は正しい。

 

 ここで戦っても一片の勝ちも見えない。

 

 ならば後日、態勢を整えたうえで再戦を挑んだ方が得策だろう。

 

 即座に同意し、次元反射路を形成する美遊。

 

 一同が離界(ジャンプ)する音を背中に聞きながら、バゼットは尚も突撃を続けていた。

 

 自分を置いて撤退した彼女たちを責めるつもりは毛頭ない。的確な判断だと思うし、立場が変われば自分もそうするだろう。

 

 それに、

 

「これで私には、あの怪物を倒す以外に選択肢は無くなった」

 

 駆ける足を止めず、駆け抜けるバゼット。

 

 もはや、目の前から迫ってくる宝具の群れは、万を超えていると言って良い。

 

 殆ど、敵の軍勢を1人で相手にしているようなものである。

 

 神話の英雄ですら、これほどの戦いを経験した者は少ないだろう。

 

 自身の敵を真っ向から見据え、

 

 バゼットは最大の切り札を切る。

 

 発動する「斬り抉る戦神の剣(フラガラック)」。

 

 敵の切り札に呼応し、その発動前まで遡って先制攻撃を仕掛ける逆光剣。

 

 それが3発。

 

 一斉に放たれる。

 

 しかし、

 

 いかに現代に伝わる宝具だろうが、

 

 最強の切り札だろうが、

 

 万を超す宝具を前にしては、塵以下でしかなかった。

 

 たちまち、吹き散らされる斬り抉る戦神の剣(フラガラック)

 

 だが、

 

 元より斬り抉る戦神の剣(フラガラック)で仕留められるとは、バゼットも思っていない。

 

 斬り抉る戦神の剣(フラガラック)が作り出した一瞬の隙を突き、バゼット本人は黒化英霊の懐へと飛び込んだ。

 

 これが最後のチャンス。

 

 最大の一撃を叩き込むべく、手刀を振り上げるバゼット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その鼻先に、槍の穂先が突き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 距離はゼロ。

 

 もはやかわしようがない。

 

 戦って、

 

 戦って、

 

 あと一手、届かなかった。

 

 突き込まれる刃。

 

 次の瞬間、

 

 バゼットの姿は、黒化英霊から遥かに離れた場所に出現した。

 

「なッ・・・・・・・・・・・・」

 

 余りの事に、驚くバゼット。

 

 先程の敵の攻撃。

 

 あれはぜったいにかわしようが無かったはず。

 

 いったい、何が起こったのか?

 

 困惑するバゼットの傍らで、

 

 雄々しくはためく誠の旗。

 

「ん、何とか間に合った」

 

 響は視線の先に立つ、黒化英霊を見据えながら呟いた。

 

 

 

 

 

第32話「黒色の悪夢」      終わり

 

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