Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第3話「不思議系少女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこですが? 私は誰ですか?」

 

 実際にそう尋ねて来た人間がいたとして、果たして如何に答えを返せばいいのか?

 

 Who am I?  Where is this?

 

 果たして彼女は何者なのか? 何を見て何を知るのか? どこから来てどこへ行くのか?

 

 そんな壮大なストーリーが、響と美遊の頭の中を駆け巡った。

 

 ・・・・・・・・・・・・一瞬だけ。

 

「取りあえず、名前はそれなんじゃ?」

 

 そう言って美遊は、少女の胸につけられたゼッケンを指差す。

 

 釣られて、自分の胸元に目をやる少女。

 

「おお、『中田』!!」

「『田中』だと思う」

 

 すかさずツッコミを入れる響。

 

 確かに、「田中」を逆から見れば「中田」になるのだが、この場合は「田中」が正しいだろう。

 

 そんな訳で田中(暫定)の名前が確定したわけだが。

 

「それにしても・・・・・・」

 

 田中は響と美遊を見比べて言った。

 

「お2人はこんな寒いのに薄着なんかして、寒くないのですか? あ、もしかして馬鹿なんですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 断じて「体操服ブルマー女」だけには言われたくない。

 

 響と美遊が同時にそう思ったのは、当然の帰結だった。

 

「ま、まあ、それはともかく・・・・・・」

 

 美遊は深呼吸しつつ、話を進める。

 

 薄着の是非について、ここで言い争っても無駄に時間と体力を消耗するだけである。

 

「田中さん、いくつか聞いても良い?」

「はい、どーんと、何でも聞いてください。田中、何でも答えますよ」

 

 そう言って、堂々と胸を張る田中。

 

 何とも頼もしい答えである。

 

 ともかく田中は、その存在からして謎だらけである。

 

 取りあえず助けてくれたところを見ると、決して敵ではないと思えるのだが。

 

「じゃあ・・・・・・」

 

 意を決して、美遊は口を開いた。

 

「田中さんは、いったい何者なの?」

「さあ、判んないです」

 

「どうして助けてくれたの?」

「田中、何かしました?」

 

「さっきの力は何?」

「力って何ですか?」

 

「どうして体操服を着ているの?」

「体操服って何ですか?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

 

 

 つまり、何にも分からない。

 

「田中、もしかしなくても役立たず?」

「田中、罵倒されたです!?」

「響、そんなはっきり言っちゃダメ!!」

 

 ストレートなツッコミを入れる響。

 

 因みに、美遊のフォローも大概である。

 

 まあ、とりあえずここは、「何も判らないと言う事が分かった」と言うだけで、収穫としておくしかなかった。

 

「どうしよう、美遊?」

 

 途方に暮れた感じで尋ねる響。言うまでも無いが、事態はミジンコの足先程も解決していない。

 

 正直、こうなったら彼女だけが頼りである。

 

 状況から考えて、イリヤやクロ達もこの世界に飛ばされてきている可能性が高い。どうにか探して合流できればいいのだが。

 

「そうだね。ここはやっぱり、予定通り私の家に行って・・・・・・」

 

 美遊が言いかけた時だった、

 

 バタッ

 

 背後で聞こえた音に、振り返る響と美遊。

 

 果たしてそこには、

 

 地面にうつぶせに倒れた田中の姿があった。

 

「た、田中ー!?」

 

 突然の事態に、仰天して駆け寄る響。

 

「ど、どした田中―!? しっかりしろー!! 傷は浅いぞー!!」

「ひ、響、取りあえず落ち着いて」

 

 突然の事態に混乱しまくる響。

 

 さっきまで元気だった人が倒れれば、動揺するのも無理はない。

 

 いったい、田中の身に何かがあったのか?

 

 もしや、知らずのうちに敵の攻撃を受けて致命傷になっていたのか?

 

 そんな不吉な予感がよぎった。

 

 と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・お・・・・・・お腹がせつないです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 要するに、お腹がすいて動けなくなった、と言う事らしい。

 

 正直、

 

 ぶっちゃけ、

 

 いやまじで、

 

 今の今まで、あえて目を背けていた事だが、

 

 事ここに至って、響も、美遊も認識せざるを得なかった。

 

 この人、面倒くさい。

 

「どうする、これ?」

「取りあえず、2人で運ぼう」

 

 一応は命の恩人な訳だし、置いていく訳にもいくまい。

 

 嘆息しつつ、2人が手を伸ばそうとした時だった。

 

「どうした、行き倒れか?」

 

 背後からの声に、2人は振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには闇があった。

 

 と言っても視覚的な「暗闇」と言う訳ではない。

 

 だがある意味、そこにある闇は、他のどの闇よりも深く、それでいてドロリとした不快感でもって、その場に存在していた。

 

 顔を突き合わせているのは3人の人間。

 

 髪をツインテールに結った背の高い女性。

 

 目を吊り上げた小柄な少女。

 

 そして、つい先ほど帰って来たばかりの、小柄な少年だった。

 

 そしてもう1人。

 

 壁に背を持たれさせる形で、背の高い男性が佇んでいた。

 

「説明してもらおうじゃねえか」

 

 少女は、少年を問い詰める形で口を開いた。

 

 その口調には、多分に非難の色が見て取れる。

 

 無理も無い。

 

 彼らにとって至上命題とでも言うべき聖杯(みゆ)の「奪還」。

 

 その千載一遇のチャンスにおいて、少年が抜け駆けし、あまつさえ失敗した事が非難の対象となっていた。

 

「何とか言えよヴェイク」

「何とかって言われてもね」

 

 問い詰められたヴェイクと呼ばれた少年は、薄笑いを浮かべながら肩を竦めて見せる。

 

「捕獲対象を見つけたんだから、動くのは当然の事じゃん。そんな事も分からないの、ベアトリスはさ?」

「テメェ・・・・・・・・・・・・」

 

 挑発めいた少年の言動に、ベアトリスと呼ばれた少女は明らかな殺気を滲ませて少年を睨みつける。

 

 一触即発な雰囲気。

 

 今すぐにでも、この場で激突が開始してもおかしくないほど、場の空気は張り詰める。

 

 と、

 

「よせ」

 

 背の高い女性が、そんな一同を制するように言った。

 

 あの並行世界における最終局面において、美遊を連れ去ろうとした女である。

 

 この場にあっては彼女がリーダー格なのか、睨み合っていたヴェイクとベアトリスは、動きを止めて振り返る。

 

「ここで争う事は許さん。今は美遊様の所在が分かっただけでも十分だろう」

「そうは言うけどね、アンジェリカ」

 

 ヴェイクは肩を竦めながら、アンジェリカを見やる。

 

「今回の件、そもそも君達3人がしくじらなきゃ、もっと簡単に収まったはずでしょ。あの世間知らずのお姫様を君らが取り逃がしたせいでこんな事になっちゃったんだから。ねえ」

 

 言いながらヴェイクは、壁際に立つ男に目をやった。

 

「そこのところどうなのさ、シェルド?」

 

 問いかけに対し、

 

 しかし男は答えない。黙したまま腕組みをして、身じろぎせずにいた。

 

「相変わらず詰まんない野郎だな」

 

 シェルドと呼ばれた青年が無反応だったため、ベアトリスが舌打ちする。

 

「ともかく、だ」

 

 アンジェリカが一同を見回して言った。

 

「我らのやるべきことは変わらん。一刻も早く美遊様を奪還し儀式を再開する。その為に、邪魔者は排除する。それだけの事だ」

 

 言ってからアンジェリカは、付け加えるように言う。

 

「『あのお方』の帰還により、我らの悲願はより完成度の高い形で達成されるめどがついた。しかしそれにしても、美遊様が戻らない事にはどうにもならない」

 

 美遊は「取り戻す」。そして、一刻も早い悲願の達成を行う。

 

 それこそが、彼女らの至上命題に他ならない。

 

「そうそう。それに・・・・・・・・・・・・」

 

 言ってから、ヴェイクは意味深な笑みを浮かべる。

 

「いざとなったら、絶好の『餌』もある事だしね」

 

 いかに逃げようと、運命からは逃れられない。

 

 美遊と言う聖杯を手に入れ、自分たちの悲願を果たす為なら、彼らはいかなる非道をも是とする。

 

 なぜなら彼らこそが、真にこの世界の行く末を憂い、あらゆる苦難から人類を救うために立ち上がった「正義の味方」なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全ては、我らエインズワースが掲げし正義の名の下に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 温かい室温に、すぐ近くで何かを茹でる音。

 

 食欲を刺激する微かな匂い。

 

 本能が揺り動かすままに、意識が覚醒した。

 

「・・・・・・・・・・・・んが?」

 

 目を覚ますと同時に、田中はガバッと身を起こした。

 

「何かいい匂いがするです!!」

「あ、起きた」

 

 傍らで様子を見ていた響が嘆息交じりに言った。

 

 その横では、美遊も苦笑して田中を見ている。

 

 できれば、もう少し大人しくしていて欲しいところだったが、

 

 まあ、いつまでも寝かせておくのもアレだろう。

 

「・・・・・・はりゃ? ここはどこですか」

 

 周囲を見回す田中。

 

 そこは細長い印象のある室内で、カウンターテーブルの前にはいくつか丸椅子が置かれている。響達はそこに座っていた。

 

 翻って反対側の壁面には、いくつかテーブル席もある。

 

 そしてカウンターの向こうでは、調理をしているらしい男性の後姿が見えた。

 

「ん、通りすがったラーメン屋」

「響、その言い方は少しおかしい」

「あと、私は誰ですか?」

「田中さんのそれは持ちネタなの?」

 

 言動がずれた2人に、ツッコミを入れる美遊。

 

 普段、美遊自身、割と天然ボケ気味なところがあるのだが、ツッコミ(イリヤ)不在のこの状況では、彼女がツッコミに回らざるを得なかった。

 

 と、そこでカウンターの奥に立つ、この店の店主らしき男が、湯切り笊を片手に振り返った。

 

「起きたか。直にできるからから座して待て」

 

 目付きの鋭い大柄な男性である。引き締まった体躯をしている所を見ると、何か武道系のスポーツをやっていた節がある。

 

「すみません。田中さんを運んでもらって、それに食事も・・・・・・」

「構わん。倒れるほど空腹なのだろう? ラーメン屋の店主として捨て置けん」

 

 礼を言う美遊に対し、素っ気ない口調で返事をする店主。どうやら、この手の職人にありがちな、硬い性格らしかった。

 

 と、

 

「んまそうな匂いがするです!! 何ですかそれは!?」

 

 匂いに食欲が刺激されたらしい田中が、カウンターに身を乗り出して尋ねる。

 

 対して店主は、怪訝な面持ちで振り返って田中を見た。

 

「君はラーメンを知らんのか?」

「知らないです!! でもまるで、小麦を砕いて粉にして、水で練って固めた物を茹でたような匂いがするです!!」

 

 田中の回答は、確かに間違ていない。が、麺類を製法から語る人間は少ないだろう。

 

 店主は不審な面持ちで、視線を響に向けた。

 

「何なのだ、こいつは?」

「ん、こっちが知りたい」

 

 響もそう言って首をかしげるしかない。

 

 記憶喪失らしい田中だが、いったいどこら辺の記憶まで失っているのか、皆目見当もつかない有様だった。

 

 そうしている内に、できたラーメンがどんぶりによそわれていく。

 

「さあ、できたぞ。存分に味わうがいい」

「ありがとうございます」

「ん」

 

 どんぶりを受け取る。

 

 そこで、

 

「それじゃあ、いただき・・・・・・・・・・・・」

 

 動きを止めた。

 

 何と言うか、

 

 赤い。

 

 とにかく、

 

 赤い。

 

 ひたすらに、

 

 赤い。

 

 まるで親の敵と言わんばかりの赤さが、どんぶり一面に広がっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・ナニコレ?」

 

 尋ねる響。

 

 対して、店主は何を当たり前のことを聞いているのか、と言わんばかりの表情で振り返った。

 

「麻婆豆腐だが、それがどうした?」

「いや、ラーメンだったよねッ さっきまで!!」

 

 作っていたのは間違いなくラーメンだった。いったい、茹でた面はどこに行ったのか? まさかと思うが、この溶岩のように赤い麻婆の中に溶けて、消滅してしまったのだろうか?

 

 対して、店主は事も無げに言い放った。

 

「麺なぞ飾りに過ぎん。麻婆の海の底に申し訳程度に沈んでいる」

「確かに。麺がある事はある・・・・・・けど・・・・・・」

 

 美遊も愕然としながら、割り箸で麻婆の底をさらっている。

 

 ぶっちゃけ、ラーメンのスープすら無かった。

 

 ともかく赤い。

 

 通常の麻婆でも、ここまで赤い物は断じて存在しないはずだ。

 

 ちょっとレンゲで掬って舐めてみたが、それだけで口全体が鬼のような辛味に蹂躙されてしまった。

 

 ぶっちゃけ、人間の食い物とは思えない。

 

 そんな響と美遊の反応に対し、店主は嘆息しながら言った。

 

「文句の多い客たちだな。連れを見習ったらどうだ?」

「は?」

「連れ?」

 

 言われて、振り返る。

 

 そこには、

 

 ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ

 

 どんぶりを両手で持ち、規則正しい一定の音と共に、中身を口の中へと流し込む田中の姿があった。

 

 そして、

 

「ごちそうさまです」

 

 完食した田中は、どんぶりをカウンター席に置く。

 

「た、食べきった? このラー油の塊を?」

「てか、飲んだね」

 

 冷汗をダラダラと流しながら、田中を見守る響と美遊。

 

 対して、

 

 田中の顔は急速に青ざめる。

 

「口の中とおなかが焼け爛れたようにズンガズンガして、汗と震えが止まらないです」

「いや、死ぬから」

 

 もはや料理の感想ではなかった。

 

 食べたら死ぬ。

 

 いやマジで。

 

 だが、

 

「食べ残しは許さぬ。どうしても無理と言うなら、2人そろって首から下を土に埋め、口から麻婆を流し込んでやろう」

 

 まさに、進路に絶望、退路も絶望。

 

 響と美遊は泣く泣く、目の前に鎮座した殺人麻婆を口に運ぶしかなかった。

 

 

 

 

 

「ごちそ、う・・・・・・さ・・・・・・オウェ」

「も、もう、だめ・・・・・・・・・・・・」

 

 2人そろってカウンターに突っ伏す響と美遊。

 

 何とか完食したものの、もはや喉と胃袋は限界を通り越して、暗黒面に落ちていた。

 

 後半は何を食べているのかすら分からず、ただ機械的に箸とレンゲを、どんぶりと口の間で往復させていたようなものだ。

 

 先程の田中の表現を借りるなら、「口とお腹が焼け爛れたようにズンガズンガ」していた。

 

 殺人麻婆は、小学生2人の胃袋には荷が重すぎた。

 

「うむ」

 

 そんな2人の惨状を他所に、店主は空になったどんぶりを満足そうに見て頷く。

 

「喜べ少年少女。君達はこれで一日分のカロリーを摂取できたぞ」

「あ・・・・・・そ・・・・・・」

「何て、残酷な・・・・・・」

 

 息も絶え絶えな小学生2人には、もはやまともにツッコむ気力すら無くなっていた。

 

 それから暫く腹の重さに悶える羽目になった響と美遊。

 

 それでもどうにか落ち着いてきた頃、ふと思いついたように店主の方から声を掛けてきた。

 

「それにしても、君達は随分と奇抜な格好をしているな。君達の住んでる場所では、そう言う恰好が流行っているのか?」

 

 確かに。

 

 薄着とは言え辛うじて普段着を着ている響と美遊はともかく、流石に体操服ブルマー姿の田中は、誰の目から見ても奇抜そのものだった。

 

 もっとも、

 

「田中、最先端です?」

 

 本人にその自覚はゼロだった。

 

 そんな田中の反応に嘆息しつつ、店主は続ける。

 

「何にしても、観光で来たのなら酔狂な事だ。5年前に起きたガス爆発の影響で避難勧告が出された影響で、今この街には、殆ど人がいない」

「ガス爆発?」

 

 響は円蔵山から見た、街中心のクレーターを思い出していた。

 

 あれがガス爆発の影響だとしたら、いったいどれほどの規模の爆発だったのか?

 

「今では僅かな人々が、街のはずれで細々と暮らしているのみ。このマウント深山商店街も、シャッターが随分と増えてしまった。君達も、目的は知らんが、用が済んだら早々に立ち去る事だ」

 

 素っ気なく告げる店主。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・違う」

 

 傍らから、聞こえてきた声に振り返る響。

 

 見れば、美遊は膝の上で拳を作り、俯いたように下を見ていた。

 

「あれは・・・・・・そんなんじゃない」

「美遊?」

 

 絞り出すような少女の声。

 

 その様子を、店主は鋭い眼差しで見つめていた。

 

「あ、そだ」

 

 そこで、響は思い出したように手を叩くと、傍らの田中を指差して店主に尋ねた。

 

「この人知ってる?」

「随分と浮いたような質問だが、知るはずなかろう」

「じゃあ、この体操服はどこの?」

「このあたりに、学校はもうない」

 

 否定的な店主の言葉に、響は嘆息する。

 

 あわよくば田中の素性が分かるかも、と期待したのだが、どうやら無理筋であるらしかった。

 

 ならば、と、切り口を変えてみる。

 

「エインズワースって知ってる?」

 

 その質問をした瞬間、

 

「ッ!?」

 

 店主の顔が、明らかに変化した。

 

 まるで信じられない物を見た、と言わんばかりに大きく目を見開き、殺気すら伴った眼差しで睨みつけてくる。

 

 何か知っている。

 

 確信と共に、身を乗り出す響。

 

 次の瞬間、

 

「・・・・・・・・・・・・知らんな」

「いや、明らかに知ってるよね」

 

 シレッとした顔の店主に、ツッコミを入れる響。

 

 この店主、明らかに何か知っていて隠している。そう響は確信していた。

 

 だが、店主は言う気は無いとばかりにそっぽを向く。

 

「知らんものは知らん」

「ちょと待・・・・・・」

「そんな事より」

 

 更に聞き出そうとする響を制するように、店主は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麻婆ラーメン、3つで4800円だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・有料?」

 

 は? 何言っちゃってんのこの人? 的な目で店主を見る響。

 

 そもそも、あの流れでどうして有料と言う形になるのか?

 

 ていうか、何なんだその出鱈目な価格設定は。海でバゼットがやっていたボッタクリが可愛く思えるレベルである。

 

「高いし」

「当然だろう。私特製の『辛そうで辛くない。むしろ辛かった事を脳が認識してくれないラー油』を湯水のごとく使っているのだからな」

 

 何をしてくれとんのじゃ。

 

 とっさに美遊に目を向けるも、彼女も困惑した顔で首を横に振る。

 

 言うまでも無く、2人そろって文無し状態である。

 

 向こうの世界で戦いに赴き、そのまま、文字通り着の身着のままこっちの世界に飛ばされてきたのだ。持ち合わせなどあろうはずもなかった。

 

「た、田中、お金?」

「ムニャムニャ何ですかそれ? んまいものですか?」

「・・・・・・だよね」

 

 寝ぼけ気味に答える田中。記憶喪失ブルマー少女に期待するだけ無駄だった。

 

 次の瞬間、

 

 重厚な圧力を伴った殺気が、真っ向から襲い掛かって来た。

 

「食い逃げとは舐められたものだな。だが、ちょうど豚骨が切れていたところだ。文字通り体で支払ってもらうとしよう」

「「ヒィ!?」」

 

 店主の放つ強烈な殺気に、思わず響と美遊は尻餅を突いてヒシッと抱き合う。

 

 どう考えてもラーメン屋の親父が放つ殺気ではない。

 

 手にした肉切り包丁が、処刑用のエクセキューターのようにさえ見えるのが、何とも奇妙な一致感だ。

 

「た、田中ーッ 起きろー!! ダシにされる!!」

「ムニャムニャ、もう二度と食べられないです」

「不吉なこと言ってんなー!!」

 

 コントじみたやり取りの間にも、店主はゆっくりと近づいてくる。

 

「心臓よりも肝臓や腎臓の方が高く売れる事を知っているか? まあ、それはさておいても、最後の晩餐が私の麻婆だった事を幸運に思いながら逝くが良い!!」

「「イ、イヤァァァァァァァァァァァァ!?」」

 

 麻婆の何があんたをそこまでさせる?

 

 と、ツッコミたいが、言うまでも無くそれどころではない。

 

 追い詰められる響と美遊。

 

 その運命が旦夕に迫った。

 

 次の瞬間、

 

 ガラガラガラ

 

「こんにちはーッ おじさんやってるー?」

 

 表の扉が開き、少年が入ってくるのが見えた。

 

 振り返る一同。

 

 はたしてそこには、

 

 「見覚え」と言うには、見覚えのありすぎる金髪の少年が、小首をかしげて立ていた。

 

「・・・・・・・・・・・・あら?」

 

 店内の様子を見て、不思議そうな顔をする少年。

 

 その視線が一同を見回す。

 

 そして、

 

「あ、お取込み中みたいだね。じゃあ、僕は出直してくるよ」

「「ちょっと待てェェェェェェ!!」」

 

 溺れる者は(ギル)をも掴む。

 

 響と美遊は弾かれたように飛び出すと、今にも出ていこうとするギルの肩を両側からガシッと掴むのだった。

 

 

 

 

 

第3話「不思議系少女」      終わり

 

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