Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第5話「再会」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めて近くで見ると、壮絶な光景だった。

 

 深山町のど真ん中にできた巨大クレーター。

 

 直径にして数キロ四方にも達するその穴は、まるでこの世全ての絶望を内包しているかのように、不気味な沈黙を保っていた。

 

「ん、やっぱ、すごい」

 

 クレーターの淵に立ち、中を覗き込みながら響は呟いた。

 

 ギルの案内で、エインズワースの工房を目指す一行は、その工房があるとされるクレーターにやってきていた。

 

 因みに、響と美遊はそれぞれ、新しいコートを着込んでいる。

 

 流石に寒いだろうと言う事で、ここに来る前にギルがお金を都合してくれたのだ。

 

 おかげで、寒さだけはどうにかしのいで行動できるようになっていた。

 

「でも・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊は背後に立つ田中を見やりながら言った。

 

「田中さんも新しい服を買って貰えばよかったんじゃ・・・・・・」

「御心配には及びませんよ美遊さん。田中はこう見えてポカポカですので」

 

 そう言って自慢げに胸を反らす田中。

 

 だが、

 

 美遊が言いたいのは、寒いからどうこう、と言う事ではない。

 

「さあて、打倒エインズワースッ!! やるですよーッ!!」

 

 気合十分な田中。

 

 しかし、

 

 体操服にブルマー。

 

 そして、新たに購入したジャージの上着を肩に引っ掛け、不必要に情熱の籠った視線で、遥か彼方を見据える姿。

 

 どう見ても「これから部活をする女子」にしか見えない。

 

「狙うは全国です!!」

「田中、それ違う」

 

 明らかに違う方向を向いている田中に、ジト目でツッコミを入れる響。

 

 何となく、普段から全方周囲ボケ軍団に包囲されているイリヤの気苦労が察せられる光景だった。

 

 それはそれとして、

 

「行く前に響、一つ聞いておきたいんだけど」

「ん?」

 

 話を振って来たギルに、響は田中から視線を外して振り返る。

 

「現状、僕たちは君を主戦力にして戦わなくちゃいけないんだけど大丈夫かい?」

 

 確かに。

 

 美遊は戦う事が出来ず、田中は未知数。ギルも、どうやら何らかの事情で、戦う力を殆ど失っている状態らしい。

 

 となると当面、前衛担当で期待できるのは響だけと言う事になる。

 

「ん、大丈夫」

 

 響は迷う事無く頷きを返した。

 

「だいぶ、回復している」

 

 魔力も体力も充実している。今なら普通に戦うくらいなら十分可能だろう。

 

 実は、

 

 何とも「微妙」としか言いようが無いのだが、先程のラーメン屋で食べた殺人麻婆が原因だった。

 

 食べる事も、魔力を回復させる一助となる。

 

 あのカロリー過多の麻婆豆腐を食った事で、響の魔力はそこそこ回復していたのだ。

 

 おかげでどうにか、戦力を整える目途も立った感じである。

 

 しかし勿論、今更言うまでも無く、金輪際、二度と、間違っても、「食べたい」などとは、死んでも思わないが。

 

 固有結界を使えるかどうかは微妙なところだが、しかし通常戦闘には支障が無かった。

 

「いざとなったら、これもある」

 

 そう言って、響がポケットから取り出した物。

 

 それは「剣士(セイバー)」のカードだった。先に並列夢幻召喚(パラレル・インストール)した際に、イリヤから響の手に渡り、そのまま響が所持していたのだ。

 

 確かに、アーサー王の魂を宿したカードならば、戦力として申し分ない。

 

 だが、

 

「・・・・・・ちょっと、見せてもらって良いかな?」

 

 そう言ってギルが手を伸ばしたのはカード、

 

 ではなく、響の体の方だった。

 

 ギルは無言のまま、響の体に手を翳していく。

 

 まるで医者の触診のように、何かを見ているギル。

 

 一同が見守る中、ややあってギルは、少し険しい面持ちで顔を上げた。

 

「・・・・・・・・・・・・ああ、やっぱりね」

「何が?」

 

 1人で納得したようにしゃべるギルに対し、先を促す響。

 

 いったい、何が「やっぱり」なのか。

 

「結論から言うと響。君はもう、そのカードは使わない方が良いかもね」

 

 ギルの言葉に、響は思わず目を見張った。

 

 この戦力不足の中、ギルはいったい何を言い出すのか。

 

 対して、ギルは目をすっと細めて響を見た。

 

「ああ、なるほど。君自身は気付いていないのか」

 

 納得したように呟いてから、ギルは改めて響を見た。

 

「多分、この前の戦いの影響だろうね。君の魔術回路には、深刻なダメージが残っている」

「・・・・・・・・・・・・」

「まあ、それに関しては僕にも責任があるんだけど」

 

 そもそも、響がこのカードを使う事になったのは、ギルと戦う為だったのだ。そう言う意味で、今の状況を作り上げた責任の一端は、確かにギルにある。

 

 沈黙する響に対し、ギルは更に告げる。

 

「これは僕の予想なんだけど響、君ってひょっとして、例の『お侍』以外、本当は使えないんじゃないの」

「・・・・・・・・・・・・良く分かったね」

 

 ためらうような調子で、響はギルの言葉に肯定の意を返す。

 

 ギルの言っている事は事実だった。

 

 以前、響はイリヤからカードを借りて、何度か限定展開(インクルード)を試してみた事がある。

 

 しかし、駄目だった。

 

 何度試しても、どのカードを使っても、響には何の反応も示さなかったのだ。

 

 響が使えるのは、自分の中にある暗殺者(アサシン)のカードだけだった。

 

 だが、

 

「今は使える。違う?」

「・・・・・・ん」

 

 これも、ギルの言うとおりだ。

 

 こうしてカードを手に取ると、その内に秘められた魂の存在を、確かに感じ取る事ができる。

 

 今ならカードを使えるという確証が響にはある。

 

 恐らく並列夢幻召喚(パラレル・インストール)によって、あいつ(ヒビキ)と魔術回路を接続した影響だろう。

 

 言わば、今の響は2人分の魔術回路を有しているに等しい。

 

「多分、君自身の魔術回路は、君の中にあるカードにしか反応しないように調整されていたんだと思う。けど、この前の戦いで無理やりカードを使った事で、本来ならありえない形で魔力が走った。結果、君自身の魔術回路を傷つける事になってしまったんだ」

 

 要するに、大水が起こった時に、普段使っていない水路を開放した結果、元あった水路が決壊してしまったような物である。

 

「でも響は、以前にもカードを使っているはず。その時は何ともなかった」

 

 反論したのは美遊である。

 

 確かに、今まで何度かカードを使っている。

 

 一度目は、鏡面界での対狂戦士(バーサーカー)戦。あの時、響は剣士(セイバー)を使用している。

 

 二度目はゼスト達に攫われた美遊を救出に行ったとき。あの時は暗殺者(アサシン)(ハサン・サッバーハ)のカードを使用した。

 

 だが、

 

「あの時は、あいつが・・・・・・・・・・・・」

 

 言いかけて、響は口をつぐむ。

 

 その両方とも、ヒビキが表に出ていた時だった。

 

「あいつって?」

 

 怪訝な面持ちになる美遊。

 

 だが、ヒビキの事をどう説明すれば良いのか判らない響は、沈黙する以外にない。何しろ、奴の正体については、響ですら把握していないのだから。

 

「ともかく僕が言いたいのは、これ以上のカード使用は自殺行為に近いって事。早死にしたいって言うなら止めはしないけど、僕としては主戦力にいきなり脱落されても困るから、せいぜい気を付けてね」

 

 そう言ってギルは締めくくる。

 

 いちいち癪に障る言い方だが、確かに言っている事は正論だ。

 

 ここで響が倒れれば、この場にいる全員の命運にも関わる。

 

 最強戦力をいきなり封じられたようなものだが、こうなった以上仕方がないが、ともかく暗殺者(アサシン)「斎藤一」は問題なく使えるのだから、今はそれで良しとすべきだった。

 

 と、

 

「話は終わったですか? じゃあ、そろそろ行くですよ」

 

 言いながら、鉢巻を締める田中。

 

 すると、

 

「敵陣は目の前!! さあ、後先考えずにぶっ込むですよ!!」

 

 何やら無駄に気合の入った田中。

 

 なぜかは知らんが、鉢巻を巻くと性格が変わるらしい。とことん、面倒くさい性格をしている。

 

 取りあえず美遊が田中から鉢巻を取り上げつつ、改めて突入作戦開始と行きたい所だった。

 

 が、

 

 再びギルから、待ったが掛かった。

 

「不用意にクレーター内に入るのはやめた方が良い。あっという間に感知されるからね」

「どういう事?」

「このクレーターの中は、全てエインズワースの索敵感知圏なんだ。中央までおよそ1キロ。遮蔽物の無いこの荒野は、あらゆる奇襲を許さない、見えない城壁ってわけ」

 

 正直、厄介極まりなかった。

 

 見る限りの壮絶な光景。この全てが、エインズワース()の巨大さを物語っている。

 

 少なくとも、徒歩で攻め込む案はこれで却下である。

 

「そうだ」

 

 何かを思い出したように、響はポンと手を打った。

 

「ギル、アレ出して。ほら、空飛ぶ船」

「空飛ぶ船? ああ、もしかしてヴィマーナの事かな」

 

 ギルが黒化英霊だった時に使った空飛ぶ船。あれなら、クレーターの中にはいる事無く攻め込めるはずである。

 

 だが、

 

「悪いけど無理。今、僕の財宝は事情があって二分されていてね。主だった奴は『向こう』に取られた状態なんだ。当然、ヴィマーナもあっち持ち」

 

 徒歩はNG、空も飛べない。

 

 早速だが、敵陣突入作戦は、のっけから詰み始めていた。

 

「あとは・・・・・・そうだなあ、何か良い物は無いかあ?」

 

 言いながら、ギルは例の「蔵」の入り口に手を突っ込み、あれこれと引っ張り出し始める。

 

 すると出て来るわ出て来るわ。

 

 ちょっと豪華な装飾品に、儀礼用の置物、高級そうな瓶におもちゃのような物。

 

 それらを引っ張り出しては放り投げるギル。

 

 その様子を見ながら、響は某国民的アニメの猫型ロボットを思い出していた。

 

 猫耳を付けたギル。

 

 意外と似合いそうである。

 

 と、

 

「お、なかなか良いのがあった。これで行ってみようか」

 

 言いながらギルは、空間から何かやら長いひも状の物を取り出す。

 

 どうやら、眼鏡に叶うものが見つかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ敵陣に突入である。

 

 これから始まる壮絶な戦い。

 

 そして、囚われたイリヤの救出。

 

 そこに臨む以上、最大限の警戒でもって、事に当たらなければならない。

 

 そんな緊張感が身を引き締める最中、一同は、

 

「何でこーなった?」

 

 電車ゴッコをしていた。

 

 長い紐で作った輪の中に入って縦一列に並び、歩調を合わせて移動する、誠に幼心をくすぐる、あの電車ゴッコである。

 

 因みに先頭の子は車掌役となる為、ちょっとした人気ポジションである。たいていの場合、ジャンケンで交代制となるが、チーム内に我儘な子が1人でもいれば、その子が独占してしまい、トラブルの元になったりもする。

 

「なぜに電車ゴッコ?」

「まあ、たまに童心に返るのもオツなもんでしょ?」

 

 ぼやき気味な響に、ギルは笑顔で返す。

 

 因みに先頭が美遊、次に響、三番目がギル、最後尾が田中と言う並びになっている。

 

「田中は超楽しいですよッ もっと早く走りましょう!!」

「いや、楽しんでどーする?」

「緊張感が無い・・・・・・」

 

 1人だけテンションが高い田中に、項垂れた調子でツッコミを入れる響と美遊。

 

 どう考えても、敵地に乗り込もうと言う感じではなかった。

 

「けど、効果はばっちりだよ。これだけ進んでいるのに、奴らに気付かれた様子はないでしょ?」

 

 ギルの言うとおりだった。

 

 既にクレーター内に踏み込んで、だいぶ中まで入っている。

 

 この空間そのものがエインズワースの領土なら、とっくに見つかって攻撃を受けているはずだが、未だにその兆候はない。

 

 どうやら、見た目はともかくこの紐、効果は十分らしかった。

 

「本来なら頭にかぶって使うんだけど、こうして括って使う事も出来るんだ。こうしておけば、魔術的・視覚的に完全な隠匿状態になる。相手が索敵を魔術に頼っている限り、僕らを感知する事は出来ないよ」

 

 これは典型的な魔術師にありがちな事だが、得てして魔術の万能性に頼り切り、他を軽視する傾向がある。

 

 魔術は大抵の事は何でもできるから、それに頼っていれば大丈夫と言う考えである。

 

 名家と呼ばれる者達ほどこの傾向が強く、中には魔術の万能性を妄信して、文明の利器に頼る事を蔑視する者までいる。

 

 だが実際の話、魔術と言えどそこまで万能な代物ではない。化学ほどには応用は効き辛いし、何より死角も多い。魔術に頼り過ぎた結果、却って不覚を取る場面もある。

 

 どうやらエインズワースも、そう言う意味では典型的な魔術師らしかった。

 

「でもさ、ギル」

 

 「電車ゴッコ」でクレーターの真ん中を目指しながら、響は背後のギルを見やった。

 

「もうすぐクレーターの真ん中だけど、何も見えない」

「見渡す限りの荒野です!!」

 

 最後尾の田中も、周囲を見回しながら響の同調する。

 

 いくら進んでも、クレーターの中には何も見えない。

 

 果たして、本当にここで合っているのだろうか?

 

「・・・・・・・・・・・・そろそろ中央だね」

 

 そんな2人の疑問を受けながら、ギルはふと呟く。

 

 そこには、先程までの軽めの調子は無い。

 

 どこか緊張した様子を見せるギル。

 

「ここからは大きな声は厳禁だよ。この布は、音までは隠せないからね」

 

 ギルの言葉に従い、慎重に歩を進める一同。

 

 そうは言っても、やはり何も見えない。

 

 いったい、この先に何があると言うのか?

 

「大丈夫。そのままゆっくり進んで・・・・・・確かここからなら、ちょうど正面に出る筈」

 

 ギルがそう言った瞬間、

 

 突如、暖かい風が流れ込んで来た。

 

「なッ!?」

 

 驚く響。

 

 見開いた視界の先。

 

 そこには、壮大な西洋風の城が佇んでいたのだ。

 

 見上げるような城壁に豪華な庭園。さらには噴水まである。

 

 空気そのものも違う。つい先ほどまでと打って変わって、温かい空気に包まれていた。

 

「何・・・・・・これ?」

 

 突然の光景の変化に、戸惑いを隠せない響。

 

 まさか、クレーターを普通に歩いてきたら、こんな場所に出るとは

 

「ふいー 何だか秋みたいにポカポカして気持ちいいですー」

「田中さん、それは秋じゃなくて春じゃ・・・・・・」

 

 1人、緊張感のない田中。

 

 しかし、今や響達は敵地のど真ん中にいる。

 

 その事を、いやが負うにも自覚せざるを得なかった。

 

「見えない城壁に見えない本丸。こんな派手派手に居を構えておきながら完璧に隠すんだから、まったく魔術師の人ってひねてるよね」

 

 ギルの言葉を聞きながら、響は目の前の城を見上げる。

 

 これだけの城を街のど真ん中に堂々と建てておいて、それでいて完璧に外部の目から隠している。

 

 つまり、これくらいの事は余裕で可能なのだ。響達の敵は。

 

 エインズワース。

 

 改めて、その恐ろしさが染みてくるようだった。

 

「また、ここに来てしまった」

「美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 先頭を歩いている美遊の言葉に、響は彼女の中にある葛藤のようなものを感じていた。

 

 美遊は以前、この城のどこかに囚われていた。

 

 そして今は、親友であるイリヤが囚われている。

 

 美遊にとってこの城は、負の感情を詰め込んだ集合体と言っても良いだろう。

 

 そのような場所に、再び戻ってきてしまった事について、彼女の中で忸怩たる物があるのだろう。

 

 とにかくここまで来たのだ。こうなったら、行けるところまで行くつもりだった。

 

「とは言え、どうしたものかな」

 

 ギルはぼやくように呟きながら思案する。

 

 流石に正面突入はまずい。何らかの侵入者避けのトラップが設置されている可能性もある。

 

 そう判断した一同は、ともかく城の周りをまわりながら、他に侵入できそうな場所を探す事にした。

 

「入らないのですか?」

「お城の中にイリヤさんがいるとは限らないからね」

 

 ギルの言う事にも一理ある。

 

 仮に本当にイリヤがエインズワースに囚われているのだとしても、この城の中にいるとは限らない。

 

 故に、ここからの行動には、慎重を期す必要があった。

 

「美遊ちゃん、何か心当たりはないかな?」

「残念だけど・・・・・・」

 

 ギルの問いかけに、美遊は力なく首を振る。

 

「ここにいる間、私は殆ど眠らされていたから、自分が監禁されていた部屋なら、何となく判るんだけど・・・・・・・・・・・・」

 

 そうそう、事態は都合よくは進まないらしかった。

 

 と、

 

「ほえ?」

 

 最後尾を進んでいた田中が、何かに気が付いたように足を止めた。

 

 それにつられて、停止する一同。

 

「田中、どした?」

「あそこに入口があるです」

 

 田中が指示した先。

 

 見れば確かに、城壁の一か所に、通用口らしい扉があるのが見える。

 

 見た限り、特に警戒されている様子はない。

 

「ん、行ってみる?」

「そう、だね。他に入れそうな場所も無いし」

 

 何らかの罠がある可能性も否定はできない。

 

 だが、ここは敢えて、虎穴に飛び込む必要がある。

 

「ギルの意見は?」

「入る事には賛成だよ。どのみち、入らない事には始まらないしね」

 

 どうやら、満場一致と言う事で良いようだ。田中については、みんなが行くなら一緒に行くだろうし。

 

 と言う訳で、一同は扉の中へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 扉に入ると、すぐに下へと降りる階段があり、奥には地下水路の光景が広がっていた。

 

 どこかから流れてきた水が、音を立てて地下へ消えていく。

 

 これだけで、ちょっとした地下迷宮を連想させる風景だった。

 

「こんな物、よく作った・・・・・・・・・・・・」

 

 響は周囲を見ながら呟く。

 

 確かに、

 

 これだけの下水整備、そう簡単に作れるものではない。

 

 しかも、これだけの設備を、全て石づくりで行っているのだから猶更だ。

 

 いずれにせよ、一朝一夕でできる代物ではないのは間違いないのだが。

 

「まあ、大方どこかから『持ってきた』んだろうけど・・・・・・しかし、これは失敗だったかな。流石に、こんな場所にイリヤさんがいるようには思えないんだけど・・・・・・・・・・・・」

「ん、確かに」

 

 ギルの言葉に、響は頷きを返す。

 

 確かに、人を監禁するには、いささか不適切なようにも思える。

 

 だが、

 

「誰かいるです?」

「え?」

 

 田中の言葉に、振り返る一同。

 

 見ればそこには確かに、一枚の扉が見える。

 

 しかも、その扉には厳重な錠前が2つも取り付けられている。

 

 いかにも、何か重大な存在を閉じ込めてあるように思える。

 

「まさか・・・・・・イリヤ・・・・・・・・・・・・」

「そんなッ」

 

 殆ど弾かれるように駆け出す、美遊と響。

 

「イリヤッ!!」

「イリヤ、いるなら返事して!!」

 

 扉にとりつき、大声で叫ぶ2人。

 

 果たして、

 

「・・・・・・・・・・・・誰だ?」

 

 返って来た声は、明らかにイリヤの物ではなかった。

 

 しわがれて、ひび割れた男の声。

 

 もう長い間、声を出していなかったような印象がある。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 首をかしげる響。

 

 今聞こえた声。

 

 響にはどうにも、どこかで聞き覚えがあるような気がするのだった。

 

 ありえない話である。そもそも、この世界には響の知り合いなど1人もいないはずなのだから。

 

 しかし、どうにも拭えぬ違和感が、響の脳裏にこびり付いていた。

 

 だが、

 

 そんな響よりも、劇的な反応を示した人物がいた。

 

「そ、そんな・・・・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・・・・」

 

 牢の奥から聞こえてきた声に対し、美遊は愕然とした表情で思わず後ずさる。

 

 対して、牢の奥にいる人物もまた、何かに驚いたような声を上げた。

 

「その声・・・・・・お前、まさか・・・・・・・・・・・・」

 

 2人は、驚愕と共に言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・美遊、なのか?」

「・・・・・・・・・・・・そんな・・・・・・お兄ちゃん?」

 

 

 

 

 

第5話「再会」      終わり

 

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