Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第7話「アナザー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響とシェルド。

 

 睨み合う両者は、互いの刃を掲げる。

 

 視線がぶつかり合い、大気は容赦なく張り詰める。

 

 静寂の一瞬。

 

 次の瞬間、

 

 両者、ほぼ同時に地を蹴った。

 

 疾風の如く駆ける2人。

 

 高速で背後へと流れる周囲の風景。

 

 衝撃が、周囲に容赦なく撒き散らされる。

 

 そして、

 

 加速する体の疾走感を味わう余裕も無く、互いの間合いはゼロとなった。

 

「んッ!!」

 

 先に仕掛けたのは響だった。

 

 手にした刀を横なぎに一閃する響。

 

 銀の刃が、月牙の軌跡を描く。

 

 対して、

 

 シェルドもまた、背負った大剣を抜き放ち迎え撃つ。

 

 長い。

 

 その大剣に、思わず響は目を見張る。

 

 刀身だけで、響の身長よりも長いだろう。装飾の少ない銀の刀身は、逆に凄みを感じさせる。

 

 響とシェルド。

 

 互いに鋭く奔る互いの刃が、豪華な庭園を舞台に激突した。

 

 金属的な異音と共に飛び散る火花。

 

 そのまま鍔競り合いに入る。

 

 互いに英霊を纏った両雄は、刃を交えて睨み合う。

 

「美遊様を渡せ」

「断る」

 

 シェルドの言葉に、響は即答で答える。

 

 美遊は守る。

 

 そしてイリヤは返してもらう。

 

 己の全存在を掛けてでも、響にとってそこは退けない一線だった。

 

 対して、シェルドはそんな響を静かな瞳で見据える。

 

 長身のシェルドからすれば、小柄な響とは頭二つ分くらい身長に違いがある。

 

 自然、響はシェルドを見上げる形になっているのだが、

 

 しかし響は、己よりも遥かに大きな男を前に、一歩も引く事無く対峙していた。

 

 次の瞬間、両者は同時に動いた。

 

 響を押しつぶさんと、両手で構えた大剣にさらに力を籠めるシェルド。

 

 そのまま押しつぶすか?

 

 そう思った次の瞬間、

 

 響は殆どすり抜けるような形でシェルドの刃を回避。同時に、手にした刀を鋭く斬り上げる。

 

 縦に奔る銀の一閃。

 

 しかし、

 

「遅い」

 

 低い呟きと共に、シェルドは斬り上げた響の剣閃を、のけぞるように回避した。

 

 僅かに及ばず、響の剣閃はシェルドの鼻先を掠めるにとどまる。

 

 舌打ちする響。

 

 そのまま後方宙返りを切りながら、シェルドから距離を取る。

 

 着地と同時に刀を構えながら、響は改めてシェルドを見やった。

 

 数合撃ち合っただけだが、シェルドの強さは滲むように響に伝わってきていた。

 

 剣を使っている事から考えても、シェルドの英霊は間違いなく「剣士(セイバー)」だろう。

 

 何の英霊を夢幻召喚(インストール)したのかは知らないが、「暗殺者(アサシン)」で正面戦闘を挑むのは危険すぎる相手だ。

 

 本来なら暗殺者(アサシン)らしく、死角から奇襲をかけるべき所である。

 

 しかし、既にヒビキの姿はシェルドに認識されてしまっている。こうなると気配遮断の効果は期待できない。

 

 いわば響は暗殺者(アサシン)たる最大の武器を、初めから奪われているに等しかった。

 

 だが、考えている時間は無かった。

 

「ハァッ!!」

 

 接近と同時に、手にした大剣を袈裟懸けに一閃させるシェルド。

 

 銀の轟風が、空間を断絶する勢いで響に迫る。

 

 巨大な刃が、少年の体を斬り裂く。

 

 そう思った次の瞬間、

 

 響は空中で大きく宙返りしながら跳躍。着地と同時に、シェルドの背後へと回り込んだ。

 

「むッ!?」

 

 虚を突かれ、とっさに振り返るシェルド。

 

 その時には、既に響は攻撃態勢を整えていた。

 

「貰ったッ!!」

 

 横なぎに刀を繰り出す響。

 

 自身の機動性をフルに活かした攻撃。

 

 対して、シェルドの対応は全く追いつかない。

 

 そのまま、響の刃は真っ直ぐに迸った。

 

 

 

 

 

 響とギル。

 

 少年たちが命がけで時間を稼いでいる中、身隠しの布で姿を隠した美遊と田中は、そのまま城内へと目指して走っていた。

 

 焦燥は、否が応でも美遊の中で募っていく。

 

 ともかく急がなくては。

 

 以前、この城に囚われていた美遊だが、実のところ、エインズワース側の戦力を正確に把握しているわけではない。

 

 どれくらいの戦力があって、どんな英霊を使えるのか、そう言った情報は一切手元にない。

 

 敵が総力を挙げて迎撃してきたら、響やギルの手に余る可能性もある。

 

 ともかく、2人が時間を稼いでいる隙に、美遊と田中がイリヤを助け出す。その後、戦っている2人と合流して撤退する。

 

 美遊達にできる作戦は、それのみだった。

 

 勿論、美遊にとって囚われている兄の事は、盛大に後ろ髪を引かれている。

 

 しかし今、兄の事まで手を回している余裕はない。

 

 厳重に監禁された兄を助けようとすれば、この場にいる全員の死は免れないだろう。

 

 今はまだ、助ける事は出来ない。悔しいが、それが現実である。

 

 美遊が健在である限り、兄は大丈夫。

 

 そう信じて、今は退くしかなかった。

 

「でも、どうやって、あそこまで行くです?」

 

 田中が遥か彼方の塔を見上げながら、至極当然の質問をしてきた。

 

 確かに、普通に城内を歩いて行ったのでは時間がかかりすぎるし、敵に見つかるリスクも大きいだろう。

 

 どうにかして、最短のルートを見つけるしかない。

 

「サファイアがいれば、あそこまで一気に跳ぶこともできるんだけど・・・・・・」

 

 悔しそうに、美遊は呟く。

 

 今は手元にないサファイアの存在が惜しまれる。彼女がいてくれたら、美遊も戦う事ができるのに。

 

 と、

 

「プップー 人間は空を飛ぶなんてできませんよー。そんな事も知らないなんて、美遊さんはお子ちゃまですねー」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 わざとらしく馬鹿にした笑いを向けてくる田中に対し、美遊は沈黙を返す。

 

 たぶん今、美遊は怒って良い。

 

 よりによって「リアルお子ちゃま脳」の田中に「お子ちゃま」呼ばわりされるとは。

 

 しかし、美遊は鉄の精神で耐える。

 

 今はそんなくだらない事に労力を使っている時ではなかった。

 

「・・・・・・ともかく、急ごう」

「ハイですー」

 

 頷きあって駆けだす美遊と田中。

 

「ところで、どうやって空を飛ぶですか? 田中にも教えてくださいですー」

「・・・・・・・・・・・・蒸し返さないで、お願いだから」

 

 ここぞとばかりに、美遊を弄りまくる田中。

 

 冷静な美遊も、そろそろ我慢の限界である。

 

 そんな事をしている内に、城門が見えてくる。

 

 ここをくぐって場内に突入。イリヤがいるであろう塔を目指す。

 

 いかに素早く、塔へ続く階段を見つけられるかがカギである。

 

 そう考えて城門を潜った。

 

 次の瞬間、

 

 2人の視界は一変した。

 

 2人が踏み込んだ先。

 

 その足元が、急に消失したのだ。

 

「え?」

「はい?」

 

 何が起きたのか認識する暇もなく、いきなり落下を始める美遊と田中。

 

 何と言うか、普通に歩いていたら、突然、足元の地面が無くなったような感じである。

 

 そのまま重力の法則に従い落下していく。

 

 同時に身隠しの布も手元から離れ、姿を現した2人は、積み上げられた瓦礫の山を転がり落ちる羽目になった。

 

「クッ!?」

 

 美遊はどうにかバランスを取り戻し、瓦礫を足場代わりにして床へと着地した。

 

 しかし田中はそうは行かず、そのまま転がり落ちて、顔面から地面に突っ込む羽目になった。

 

 やがて、地面に足を着ける2人。

 

 着地に成功した美遊とは裏腹に、田中は顔面から床に突っ込んでいた。

 

「田中さん、大丈夫?」

「ふい~ お鼻が痛いです~」

 

 思いっきり顔面を赤くしながら涙を浮かべる田中。

 

 どうやら、声を出せる程度の怪我であるらしい。取りあえず軽傷なようで何よりである。

 

 しかし、

 

 警戒しながら周囲を見回す美遊。

 

 そこは城門の中などではなく、城の地下と思われる場所だった。

 

 無数のがらくたが山のように積み上げられ、ごみ置き場のような様相となっていた。

 

「ここはどこです? お城の中ですか?」

 

 周囲をキョロキョロと見回しながら、田中は首をかしげる。

 

 城の門を抜けたら風景が一変していたのだ。これで驚くなと言う方が無理がある。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・しまった。そういう事か」

 

 一方、美遊は臍を噛む思いで呟く。

 

 今目の前にある光景。

 

 それがもたらされた意味を、今更ながら思い出していたのだ。自分が犯してしまった致命的なミスと共に。

 

 そして、

 

 美遊の危惧を代弁するような声が、背後から聞こえてきた。

 

「は~い、2名様ごあんな~い。いいところに飛び込んできてくれたじゃんか。飛んで火に入るって奴?」

 

 嘲笑を含んだ声に、振り返る美遊と田中。

 

 その視線の先には、

 

 手に傘を持ち派手な格好をした少女が、凶悪な相貌で美遊達を見据えて立っていた。

 

 ベアトリスだ。

 

 まるで、美遊達がこの場所に現れるのを知って待ち構えていたかのように現れたベアトリス。

 

 そのからくりを理解した美遊が唇を噛み占める。

 

「・・・・・・置換魔術(フラッシュ・エア)

「ご名答。正面突破とか、うちらを甘く見過ぎだっての」

 

 言いながらベアトリスは、手にした傘の先を向けてくる。

 

 置換魔術(フラッシュ・エア)とは、その名の通り「何かと何かを入れ替える魔術」である。本来なら劣化交換しかできない下位魔術に過ぎないが、エインズワース一族は、この置換魔術に特化している。

 

 当然、この魔術を使って工房内を徹底的に改造してある。

 

 美遊は不覚にも、その事を完全に失念していたのだ。

 

「あれ~ 面白そうな事やってんじゃん」

 

 軽めの口調が、地下室に響き渡る。

 

 振り返る美遊と田中。

 

 そこには、

 

「僕も混ぜてよ、ベアトリス」

 

 深山町で襲撃を掛けてきた少年が、へらへらとした笑みを浮かべて立っていた。

 

 その様に、舌打ちするベアトリス。

 

「鬱陶しいな、テメェはすっこんでろよヴェイク」

「手柄1人締めしようっての? それは無いんじゃない?」

 

 肩を竦めながら告げるヴェイク。

 

 その様子を、ベアトリスは舌打ちしながら横目で見ている。

 

 美遊達にとっては、最悪の状況だ。

 

 まさか、丸腰で2人も敵を相手にしなくてはならないとは。

 

 どうする? どうすれば、この状況を切り抜けられる?

 

 必死に考える美遊。

 

 だが、その考えている余裕すら、今の美遊には与えられなかった。

 

「そんじゃ、早速で悪いけど」

 

 言った瞬間、

 

 ベアトリスの傘の先端が、田中の腹に突き刺さった。

 

「サクッと死んでね」

 

 さく裂する魔力の閃光。

 

「田中さん!!」

 

 美遊が悲鳴を上げる中、田中は大きく吹き飛ばされる。

 

 そのまま床に転がる田中。

 

「ワーオッ いきなり派手に逝っちゃったねー 死んだ? ねえ死んだ?」

 

 下品な喝采を上げるヴェイク。

 

 どう考えても、無傷であるはずが無い。

 

 美遊は慌てて駆け寄る。

 

「田中さん、しっかりして!!」

 

 慌てて抱き起す。

 

 だが、

 

 思わず、美遊は目を見張った。

 

 見れば、田中は腹に大きなダメージを負っているようだが、取りあえず外傷らしきものは見当たらない。

 

 ホッとする美遊。

 

 何とも呆れる頑丈さである。

 

 そんな田中の様子に訝ったのは、むしろベアトリスの方だった。

 

「っかしーな・・・・・・胴体吹き飛ばすつもりでぶっ飛ばしたんだけど、何でまだ生きてるわけ?」

 

 自分の思い通りに事が運ばなかったことで、苛立ちを込めて呟くベアトリス。

 

 彼女の思惑では、今の一撃で田中を完全に仕留められるはずだったのだ。

 

「ハハハ、バーカバーカ、失敗してやんの」

「ウルセェ テメェから殺されてェのか?」

 

 挑発するヴェイクに対し、本気の殺気をぶつけるベアトリス。下手をすると、本当にそのまま殺してしまいそうな勢いである。

 

 そんな2人の様子を、美遊は冷静に観察する。

 

 ベアトリスとヴェイクが、仲が悪いのは見ていて間違いないだろう。

 

 現状、唯一とも言える勝機はそこだけだが、しかし実戦力が皆無の状況では、せっかくの勝機も活かし難い。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 倒れている田中を見やる美遊。

 

 今の自分には力は無い。

 

 戦うどころか、ここから逃げる事すら難しい。

 

 だが、

 

 たとえ戦う力は無くても、諦める事は出来ない。

 

 そう、

 

 あの時の響のように。

 

 「向こう側の世界」における最後の戦いになった、ギルとの決戦。

 

 あの時響は、力尽きても尚、美遊を助けるために戦ってくれた。

 

 今の美遊に求められているのは、あの時の響が見せた勇気だった。

 

 立ち上がる美遊。

 

 田中を背に庇うように立ちながら、ベアトリス達と対峙する。

 

 そんな美遊の様子に気付いた、ベアトリスとヴェイクは口論をやめると、冷ややかな目で睨みつけてきた。

 

「は? 何それ? かかしのつもり? ウケるんですけど」

「・・・・・・・・・・・・」

「そんなんで、あたしを防げると本気で思っている訳?」

 

 嘲笑交じりのベアトリスの言葉に対し、美遊は無言のまま立ち続ける。

 

 美遊とて、こんな事でベアトリスを止められるとは思っていない。

 

 しかし、傷を負った田中を放っておくことも、美遊にはできなかった。

 

「どうすんのベアトリス? お姫様を下手に傷付けたら、絶対アンジェリカにどやされるよ」

「・・・・・・・・・・・・ああ、面倒くせェ」

 

 肩を竦めるヴェイクの言葉に対し、頭をガリガリと掻きながら、ベアトリスはため息をつく。

 

 エインズワースの人間である彼女達としては、美遊を無傷で手に入れなくてはならない。それでなくても、美遊に少しでも傷付けようものなら、堅物のアンジェリカ辺りがうるさく騒ぎ立てるに決まっている。

 

 それを考えれば、美遊の行動はベアトリスやヴェイクにとって、鬱陶しいことこの上なかった。

 

「しょーがねえ、やるか」

「だねー」

 

 言いながらベアトリスが、ポケットから取り出した物。

 

 それを見て、美遊は思わず目を見開いた。

 

 ベアトリスの手には、獰猛な獣人が描かれたカード。

 

 同時にヴェイクは、右手を胸の前に掲げる。

 

 ベアトリスが持っているのは間違いなく、「狂戦士(バーサーカー)」のクラスカードだ。

 

 それにヴェイクの仕草は、響がカードを使用する時のポーズに似ている。

 

 次の瞬間

 

「「限定展開(インクルード)!!」」

 

 同時に叫ぶ、ベアトリスとヴェイク。

 

 同時に、

 

 ベアトリスの右腕が肥大化する。

 

 同じく、ヴェイクの手には、あのおぞましい装丁の本が出現し、更に彼の背後には異界の門が開くのが見えた。

 

 身構える美遊。

 

 状況は加速度的に悪くなっている。

 

 そんな美遊から考える間を奪うように、ベアトリスは動いた。

 

「ちょっと痛いけど我慢してね。まあ、死んじゃったら、その時はごめんねー!!」

 

 言い放つと同時に、ベアトリスは美遊に殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この結果は、ある意味必然であったと言えよう。

 

 目の前にある光景を、アンジェリカは冷ややかな眼差しで睨みつけていた。

 

 勝負開始から僅か数分。

 

 四方八方から伸びた鎖によって雁字搦めにされたギルは、宙に釣り上げられて拘束されていた。

 

「身の程を知るのだな」

 

 アンジェリカは吐き捨てるように告げる。

 

「財の殆どはこちらが有しているのだ。貴様に勝機などあるはずが無かろう」

 

 やはりと言うべきか、戦力差は圧倒的過ぎた。

 

 いかにギルが最高クラスの英霊でも、戦力の大半を奪われた状態では如何ともしがたかった。

 

「逃げた2人も、どうやら捕まえたらしい。残る1人も間もなくだろう。呆気ない物だな」

 

 これでエインズワースの勝利は確定。残る雑魚は放っておいても支障はない。

 

 アンジェリカの頭の中では、既に戦いは終わった物として扱われ始めていた。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・ハハ」

 

 宙に釣り上げられ、拘束されたギルの口から乾いた笑いが漏れ出てきた。

 

 その様子に、目を細めるアンジェリカ。

 

「・・・・・・何を笑う?」

 

 問いかけるアンジェリカ。

 

 対して、ギルも顔を顔を上げる。

 

 泣いているような、しかしどこか座った眼でアンジェリカを見るギル。

 

「そりゃ笑うよ。こんな面白い事の只中にいるんだからね。そんなとき人は、笑うし、怒るし、泣くさ。それこそが人間だろう?」

 

 言いながらギルは、力ない瞳でアンジェリカを見る。

 

「なんて言っても君には判らないか。所詮は人形だしね」

「・・・・・・・・・・・・成程、侮辱されたのだな、私は」

 

 ギルの物言いに対し、静かに頷いて見せるアンジェリカ。

 

 同時に彼女の背後に空間の門が開き、宝具の切っ先が姿を現す。

 

「ならば、その侮辱に応えるとしよう!!」

 

 言い放つと同時に、宝具が一斉に射出された。

 

 

 

 

 

 シェルドの背後を取ると同時に、横なぎに繰り出される響の刃。

 

 鋭い銀の閃光が、シェルドに迫る。

 

 絶対にかわせるタイミングではない。

 

 貰った。

 

 響はそう思った。

 

 次の瞬間、

 

 ガキッ

 

 鈍い音と共に、響が繰り出した刃はシェルドによって防ぎ留められてしまった。

 

「なッ!?」

 

 驚いて目を見開く響。

 

 響の刃を受け止めているもの。

 

 それは剣でも防具でもなく、シェルドの腕だった。

 

 反身を振り返らせながら、シェルドは響が繰り出した刃を手の甲で受け止めている。

 

 刃は、1ミリたりともシェルドを斬ってはいなかった。

 

「無駄だ」

 

 低く呟くシェルド。

 

 次の瞬間、

 

 強烈な回し蹴りが、響に襲い掛かって来た。

 

「ッ!?」

 

 脇腹に膝を叩き込まれ、大きく吹き飛ばされる響。

 

 そのまま地面に転がり倒れ込む。

 

 痛むわき腹を押さえ、どうにか顔を上げる。

 

 どうやらシェルド自身、響の速さを前に有効な攻撃ができなかったと見える。

 

 霞む視界の中で、響は痛みをこらえながら考える。

 

 先程の響の攻撃は、完全に決まったと思った。

 

 だが、結果的にシェルドは、素手で受け止めてしまっている。

 

 間違いない。シェルドは何らかの無敵系のスキルを持っている。それが夢幻召喚(インストール)した英霊の能力である事は間違いないだろう。

 

 ならば、その秘密を解明しないと、シェルドを倒す事は出来ない。

 

「クッ・・・・・・・・・・・・」

 

 どうにか痛みをこらえて立ち上がろうとする響。

 

 だが、その前にシェルドは、手にした大剣を振り被る。

 

 その姿を、響は歯を噛み占めながら睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・み・・・・・・・・・・・・だ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・みゆさ・・・・・・おき・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに呼ばれたような気がして目を覚ます美遊。

 

 途端に、忘れていた痛みが襲ってくるのが分かった。

 

「クッ・・・・・・・・・・・・」

 

 痛む頭を押さえて、起き上がる美遊。

 

 頭を振って意識を吐き利させると、前後の記憶を思い起こす。

 

 確か自分と田中は、エインズワース城の城門をくぐったら、そこは地下の瓦礫置き場で、

 

 待ち伏せしていたベアトリスとヴェイクに襲撃されて、そして・・・・・・・・・・・・

 

「あ、起きた? ちょうど今、面白いところだよー」

 

 楽しげに聞こえるヴェイクの声に、顔を上げる美遊。

 

 そこで初めて、自分が捕まってしまっている事に気が付いた。

 

「これはッ・・・・・・・・・・・・」

 

 絶句する美遊。

 

 美遊の体は、ヴェイクの触手によって雁字搦めにされ、身動きが取れなくなっている。

 

 予想はしていた事だったが、やはり生身で英霊に立ち向かう事は出来なかった。

 

 田中はベアトリスに滅多打ちにされ、美遊はヴェイクが出した触手によって取り押さえられ、そのまま気を失ってしまったのだ。

 

「そうだッ 田中さんッ」

 

 一緒にここに突入してきたブルマー少女の身を案じ、立ち上がろうとする美遊。

 

 その時、

 

「何だこれッ 超ウケるんですけどー!!」

 

 品の無い笑い声が、地下室に木霊する。

 

 振り返る美遊。

 

 そこで目にした光景に、思わず絶句する。

 

 狂笑するベアトリス。

 

 その目の前では、柱に磔にされた田中の姿があった。

 

 ブルマー少女は体に無数の刃を突き立てられ、力なく項垂れている。

 

「体のどこにブッ指しても、指一本千切れねえッ!! こんな面白い玩具初めてなんですけど!! もしかして、一生遊べるんじゃねえの!!」

 

 歪んだ歓喜を爆発させるベアトリス。

 

 そんなベアトリスの様子を見ながら、ヴェイクもへらへらと笑みを浮かべている。

 

「おーおー、絶好調だねー 後で僕にも変わってよー」

 

 陰惨その物の光景。

 

 対して、囚われた美遊は何もできない。

 

「やめてェ!!」

 

 悲痛な美遊の叫びにも、ベアトリスとヴェイクは薄笑いを浮かべている。

 

 獲物を捕らえたサディストほど残忍な存在はいない。

 

 今や美遊達は、2人の捕食者が織りなす狂った饗宴における、哀れな獲物に過ぎなかった。

 

「やめてッ お願いだから!!」

 

 それでも美遊は叫ぶ。

 

 たとえ、それが無駄だと判っていても。

 

 そんな美遊の姿を見ながら、頭を掻きながらベアトリスは睨む。

 

「ああ、もうッ 鬱陶しいから寝てろよ。あんたを傷つけると、色々とうるさい奴が多いんだからさ、うちにはさ」

 

 言いながらベアトリスは、磔にされた田中を見上げる。

 

「こいつでもう少し遊んだら、あんたの事はちゃんと連れてってやるさからさー!!」

 

 言いながら、ベアトリスは肥大化した拳で、田中の体を殴りつける。

 

「田中さんッ!!」

 

 悲痛な声を上げる美遊。

 

 先程のベアトリスの攻撃から耐えきった田中だが、こうなってしまっては最早、生きているかどうかも分からない。

 

「て言うか、そろそろ僕と代わってよベアトリス。おもちゃの独り占めはずるいよ」

「ダメだ。こいつはぶっ壊れるまであたしが遊ぶって決めたんだ。お前はそこで、指でも咥えてろよ」

 

 狂気に満ちた2人のかいわを聞きながら、改めて自分の無力さを噛み占める美遊。

 

 覚悟を決めたのに、

 

 戦うと決めたのに、

 

 今の自分には何の力もない。

 

 戦う事も、

 

 響達を援護する事も、

 

 田中を助ける事すらできない。

 

 悔しさで、涙がにじむ。

 

 ただ守られるだけの今の自分の、何と情けない事か。

 

「私にも・・・・・・・・・・・・」

 

 戦う力があれば。

 

 強く、そう思う。

 

 敵は強大だ。美遊1人が戦線に加わったとしても、劇的に変化するとは思えない。

 

 だがしかし、

 

 それでも、

 

 この時ほど、美遊は戦う力を欲した事は無かった。

 

 その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・みゆさ・・・・・・わ・・・しの、こえ・・・・・・か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程聞こえた声が、再び響いてくる。

 

 聞き覚えのある、その声。

 

 促されるまま、美遊は手を伸ばす。

 

 次の瞬間、

 

 少女の姿は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェリカは、自分が決定的な失敗をしている事に、まだ気づいていなかった。

 

 射出した宝具。

 

 その動きが、一斉に止まる。

 

 空中で刃に絡みつく、無数の鎖。

 

 それは、数瞬前までギルを拘束していた物だった。

 

「何だ、鎖が、勝手に!?」

 

 それまでアンジェリカの制御下にあった鎖が完全にコントロール不能になり、次々と勝手に動き始めていた。

 

 拘束されていたギルも、解放されて床に足を付く。

 

「僕だってさ、笑うし、怒るんだよ」

 

 静かに告げる少年。

 

 英霊ギル

 

 その真名は「ギルガメッシュ」。

 

 古代メソポタミア、シュメールの都市ウルクを収めた人類最古の英雄。

 

 数多の英雄達の頂点に立つ「英雄王」。

 

 その彼が持つ代表的な宝具は3つ。

 

 世界中のあらゆる財宝を収め、自在に取り出す事ができる「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」。

 

 かつて天地を斬り裂いた剣、乖離剣エアから放たれる、世界をも斬り裂く魔剣「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」。

 

 そして、

 

 その2つに比べれば聊か見劣りはする。

 

 しかし、これこそが、英雄王が最も頼みとする宝具。

 

 かつて天の牡牛を繋ぎ留め、神をも捕縛する力を与えられた鎖。

 

 「天の鎖(エルキドゥ)

 

 遥か神話の時代、英雄王がその生涯において唯一、絶対の友と認めた者の名を冠した宝具である。

 

 英雄王が友その物として愛用する宝具を、不用意に触れれば如何なる事になるか、アンジェリカは全くと言って良いほど理解していなかった。

 

 手元に戻って来た鎖を、いたわるように握りしめるギル。

 

 その瞳は獰猛に吊り上がり、先程まで見せていたあどけない表情は完全に消えている。

 

 深紅の瞳が、殺気を伴ってアンジェリカを睨みつけた。

 

「いい加減、僕の(とも)を勝手に使うなよな。雑種」

 

 

 

 

 

 シェルドが振り下ろした大剣の刃が、少年へと迫る。

 

 圧倒的な重量感を伴って振り下ろされる刃。

 

 その一撃が、全てを粉砕した。

 

 次の瞬間、

 

「・・・・・・・・・・・・何?」

 

 目を見開くシェルド。

 

 振り下ろした大剣。

 

 その手に、人を斬った感触が無い。

 

 あまりにも軽い感触。

 

 次の瞬間、

 

「遅い」

 

 低く呟く、少年の声。

 

 見れば、いつの間にか背後に回った響が、刀を繰り出す態勢を取っていた。

 

「クッ!?」

 

 突き込まれる、響の刃。

 

 その攻撃を、とっさに飛びのく事で回避する。

 

「貴様・・・・・・・・・・・・」

「悪いけど、無敵キャラの相手なら慣れてる」

 

 そう告げると、響は刀の切っ先をシェルドへと向ける。

 

 身に纏いしは、浅葱色に白の段だら模様の入った羽織。

 

 かつて名実ともに幕末最強を謳われた剣客集団「新撰組」の隊士のみが着用を許された「誓いの羽織」。

 

 この羽織を身に纏う時、それは絶対に負けられない戦いである事を意味する。

 

「今度は、こっちのターン」

 

 響は刀の切っ先を真っすぐにシェルドに向けながら告げた。

 

 

 

 

 

 晴れる光。

 

 その中で、少女の姿は一変していた。

 

 ピンクのレオタードを身に纏い、腰回りを覆う白いミニスカートは前が大胆に開き、左右から腰を覆う形になっている。

 

 指先から肘まで手袋が覆い、足には羽をあしらった白いブーツ。

 

 髪は左右のツインテールに分かれ、それぞれ白い羽の髪留めで止められている。

 

 そして、

 

 手には「五芒星に羽根の付いたステッキ」が握られている。

 

「まさかこんな事になるとは」

《同感です。まあ、これも何かの縁です。仲良くしましょう美遊さん》

 

 やれやれとばかりに嘆息する美遊。

 

 対して、ルビーは普段通りの軽い調子で告げる。

 

 カレイドルビー・アナザーフォーム

 

 まさに、異色としか言いようがない即席コンビが、ここに誕生した。

 

 

 

 

 

第7話「アナザー」      終わり

 

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