1
例えるなら、風と炎だった。
銀の刃を掲げ、疾風の如く駆け抜ける響。
対抗するように
両者、距離が詰まる。
「フッ!!」
短い呟きと共に、刀を袈裟懸けに振り翳す響。
速度を活かした先制攻撃。
その一閃が、
だが、
「ッ!?」
刀を振り抜いた瞬間、響は思わず目を剥く。
必殺を念じて繰り出した刃は、しかし
舌打ちしつつ、刀を引いて態勢の立て直しを図る響。
同時に内心で舌を打つ。
巨体のわりに良く動く。
次の瞬間、
「グッ!?」
衝撃が、響を貫く。
小さな体が、空中に吹き飛ばされた。
と、
空中で後方宙返りを打ち、そのまま着地する響。
見た目の派手さに比べて、思ったよりもダメージは少ない。
実のところ、
しかし、完全にゼロにできたわけではない。
強烈な痛みが、腹部から湧き上がってくるのが判る。
「クッ・・・・・・・・・・・・」
着地と同時に膝を突く。
痛みを噛み殺しながら、相手に目をやる響。
その視界の中で、再び方天画戟をの穂先を向けてくる
「■■■■■■■■■■■■!!」
咆哮と同時に跳躍、刃を繰り出してくる。
回避、のちの反撃・・・・・・
を、選択しようとした響は、一瞬後にはその考えを打ち捨てる。
英霊、斎藤一がもたらしたスキル「無形の剣技」。そのスキルの大本となる、相手の動きを読む「目」が、
方天画戟はその特性上、突き、引き、薙ぎ払いと、全ての攻撃に対応できる。
仮に「突き」を紙一重で回避したとしても、「引き」によって背後から斬られるのは目に見えている。
「なら・・・・・・・・・・・・」
響は魔力で空中に足場を作り、とっさにその場から飛びのく。
大ぶりな方天画戟は、それだけで空を切った。
その間に響は、数度の跳躍を繰り返し、
無人の民家の屋根に着地する響。
そのまま身軽に屋根から屋根へと飛び越えて駆け出す。
走る少年を、追いかける
「■■■■■■■■■■■■!!」
叫びながら振るわれる方天画戟が、民家ごと響を吹き飛ばさんと襲ってくる。
轟風を纏う横なぎ。
その一撃に対し、響は後方にある民家へ飛び移って回避する。
追う
だが、
どうやら、狭い路地に引き込まれた事で、身動きがとりづらくなっているようだ。
広い場所で戦ってこそ、真価を発揮できる剛腕と巨体、そして凶暴性である。逆にこのような狭い場所では、大幅なスペックダウンを余儀なくされる。
対して、もともと小柄な響は、当然ながら何の制限も受けない。路地から路地へ、流れるように駆けていく。
まさに地形を味方に付けた見事な作戦だった。
すかさず、
しかし、その時には響は、小動物のような素早さで路地の影へと駆けこんでいた。
その小回りを利かせた動きに、心なしか
構わず、響を追って跳躍する
次の瞬間、
「今ッ!!」
上空から襲い掛かってくる
次の瞬間、
一気に地を蹴る響。
衝撃で陥没する地面。
跳び上がるように、少年は空中の
手にした刀の切っ先を真っすぐに
対して、流石の
次の瞬間、
響の繰り出した切っ先は、真っすぐに
「何だよ・・・・・・あれ・・・・・・・・・・・・」
響と
2人が戦っている様子を、ヴェイクは少し離れた場所から眺めていた。
きっかけは数時間前に遡る。
エインズワースは新都や深山町にも網を張り監視している。
その監視網の一つに、マヌケにものこのこと出歩いて来た響を発見したため、ヴェイクは出撃してきたのだ。
敵の一体も倒して見せれば、自分の手柄になる。と言う理由である。
ついでに城の中で暇そうにしていた
どうせ響なんぞ倒しても、大した手柄にはならない。そんな事で自分が労力を使うなど愚の骨頂だ。
それより、響の相手は
どうせ
そう思っていたのだが、
「何やってるんだよ、あのグズ・・・・・・・・・・・・」
苛立ち交じりに呟きを漏らす。
対照的に、響は敏捷性を如何無く発揮して逃げ回り、
だというのに、戦況はどう見ても響が優勢だった。
今も、襲い掛かろうとした
浅葱色の羽織を靡かせて着地する響。
その姿が、ヴェイクをさらに苛立たせる。
「何、格好つけてるんだよ・・・・・・クズの分際で」
許せなかった。
虫けらの分際で、自分を見下すが如き態度を取っているのが。
立場もわきまえず自分の顔に泥を塗り、足蹴にするような行動を取る響が。
さっさと諦めて死ねばいい物を。
「・・・・・・・・・・・・良いだろう」
不遜にも自分に抵抗し続ける響に、ヴェイクは静かに語り掛ける。
同時に、その手には1冊の本が現れた。
「その無知で恥知らずな態度、この僕が正義の名の下に断罪してやるよ!!」
言い放つと同時に、ヴェイクは詠唱に入った。
2
路地に降り立つと同時に、響の正面に
その姿を見定め、
響は一気に仕掛けた。
地を蹴ると同時に間合いを詰めると、流れるような動作で剣を擦り上げる。
対抗するように、方天画戟を振るう
だが、
長い穂先が民家の壁に当たって閊える。
狭い路地は
動きを止める
だが、それも一瞬の事だった。
その膂力を全開にして、民家ごと響を粉砕しにかかる。
舞い散る瓦礫。
その中を、
響は構わず斬りかかる。
動きを止めた
刃は銀の閃光となって斬りかかる。
一閃、
その腕が僅かに斬り裂かれ、鮮血が舞う。
「行ける」
怯む
刃の切っ先を突き込もうと繰り出した。
次の瞬間、
突如、路地を縫うようにして無数の伸びてきた触手の群れが、響に殺到した。
「クッ!?」
自身に向かってくる触手を見て、とっさに屋根の上に跳び上がって回避する響。
同時に刀を縦横に振るい、追いついて来た触手数本斬り捨てる。
「これは・・・・・・・・・・・・」
斬り捨てられて地面に転がる触手を見ながら、響は舌打ちする。
見覚えのある光景。
顔を上げたその視線の先には、開いた本を手にニヤニヤと笑みを浮かべるヴェイクの姿があった。
「気が変わった。ここからは獣狩りの時間だよ」
どうやら、なかなか響を仕留められない
勝手な事を。
と、言いたいところだったが、実際の話それどころではなかった。
ヴェイクの援護によって体勢を立て直した
強烈な突撃と共に振り下ろされる一撃。
対抗するように、響も刀を振るう。
激突する互いの刃。
火花は容赦なく飛び散る。
響と
響の一撃は、辛うじて
だが、
「クッ!?」
掌にしびれるような衝撃。
やはり正面からの戦闘では力負けしてしまう。
今は剛腕で撃ち下す
それを避けるために、狭い住宅街に引きずり込み、地形を駆使して戦う事を選択したのだが、ヴェイクの気まぐれな参戦でそれもふいになってしまった。
「■■■■■■■■■■■■!!」
咆哮と共に、方天画戟を振り翳し、何度も響に打ち下ろしてくる。
対して、響も剣を振るうスピードを緩めず対抗する。
自身の剣速が最大になる瞬間に相手と激突する事で、辛うじて状況を拮抗させている。
だが、こんな戦い方がそもそも長続きするはずもない。
「チッ!?」
舌打ちする響。
足を止めたまま戦ったのでは勝てない。多少無理にでも、動き回らないと。
そう考え、距離を取ろうとした。
だが、
「ほらほら、さっさと逃げないと、背後ががら空きだよ!!」
嘲笑と共に、背後から伸びてくる触手。
無数の蛇がうねりながら迫ってくるようなその光景は、見ただけで生理的嫌悪感を催す。
響はとっさに振り返りながら刀を横なぎに振るい、数本の触手をまとめて斬り捨てる。
と、次の瞬間だった。
一瞬、動きを止めた響に、
「■■■■■■■■■■■■!!」
咆哮と共に打ち下ろされる方天画戟。
その長大な刃を見据え。
「まずッ!?」
響は臍を噛む。
既に回避が可能な距離ではない。
振り下ろされた刃。
その一撃を、
「グッ!?」
響は辛うじて刀を立てて受け止める。
異音と共にぶつかり合う互いの刃。
途端に、響の小さな体にあり得ないほどの荷重がかかった。
今にも押しつぶされそうなほどの重圧に、全身の筋が悲鳴を上げる。
「クッ・・・・・・・・・・・・」
歯を食いしばる響。
「誓いの羽織」によって強化された響のスペックだが、それでも目の前の怪物を相手にするには足りない。
次の瞬間、
響の体は大きく吹き飛ばされ民家の壁に叩きつけられた。
衝撃と共に、全身に奔る激痛。
飛びそうになる意識を、首を振って引き戻す。
しかし、
「何て・・・・・・威力・・・・・・・・・・・・」
一撃で大ダメージを負ってしまった事は否めない。
流石は
今更ながら、かつて単騎で
しかも、
響はチラッと、ヴェイクの方に目をやる。
いやらしい笑みを浮かべたヴェイクは、既に勝負あったとでも言いたげに、腕組みをして、倒れた響を見下ろしていた。
正直、
「ハッハッハッハッハッハ!! 見たかいッ!! これが僕の力さ!!」
そんな響に、容赦ない嘲笑が降り注ぐ。
「クズ虫の分際で、この僕に逆らうからこんな事になるのさ!!」
言いながら、ヴェイクは異界の門を開き、再び無数の触手を出現させる。
その様子を、響は歯噛みしながら見据える。
何とか、反撃の体勢を取らないと。このままではやられる。
だが、予想以上にダメージが大きいのか、体が思うように動かない。
「さあ、僕に逆らった事を後悔しながら死ぬんだね!!」
そんな響に対し、触手を放つヴェイク。
一斉に殺到してくる触手の群れ。
かわせないか!?
そう思った。
次の瞬間、
「クラスカード『
低く、
凛と告げられる声。
次の瞬間、
天空から降って来た巨大な斧剣が、今にも響に襲い掛からんとしていた触手を、全て叩き潰してしまった。
「んなッ!?」
驚き、目を見開くヴェイク。
彼の目の前には今、地面に突き立つ形で巨大な斧剣がそそり立っている。
斧剣、と言ってしまえば確かにそうなのだが、ひたすら巨大なそれは、岩をそのまま切り出してきたような武骨さで存在している。
地面に突き立った斧剣の柄尻に、
トンッ
と言う軽い足音と共に、ツインテールにしたセミロングの髪を靡かせて降り立つ少女。
ピンクのレオタードに、白のミニスカートと手袋をはめた可憐な姿。
鳥の羽のような白いマントは、凛々しく羽ばたきを見せる。
「み、美遊?」
見上げた響が、茫然と呟く。
カレイドルビー・アナザーフォームの姿を取った美遊は、大地に突き立った斧剣の柄の上から、静かな瞳で一同を見据えていた。
第14話「風焔剣舞」 終わり