Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第17話「サプライズ・リターン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その現象を見た人間は、奇妙な感覚にとらわれる事だろう。

 

 次いで、えも言わぬ不気味さに身を震わせるかもしれない。

 

 路上にうっすらと積もった雪。

 

 昨日からさらに降ったのか、少し積雪が増した感がある。

 

 その雪の上に、

 

 足跡が刻まれていた。

 

 数にして数人分の足跡。

 

 それだけなら、ただの足跡にしか見えないだろう。

 

 だが、

 

 あるはずの物、絶対なくてはならない物が、そこにはない。

 

 足跡の主。

 

 その姿は、どこを見回しても存在しなかった。

 

 足跡はどこまでも続く。

 

 その行く先には、小学校があった。

 

 無人の街と化した深山町には、学校に通う小学生はおらず、ここも既に廃校になって久しい。

 

 僅かに残った子供たちは、川向こうの新都にある小学校に通っている。

 

 だが、足跡は確かに、小学校の校門まで続いていた。

 

 あるいは、怨霊の為せる業なのだろうか?

 

 見た者は、ただ身を震わせるのみだった。

 

「ここかね?」

「はい」

 

 何もない場所から、突然聞こえてくる声。

 

 周囲を見回しても、人の姿は見当たらない。

 

 だが、彼らは確かにそこに存在していた。

 

「ふむ、このような場所に隠れていたとは、意外に盲点だったね」

「御意。全て、我らの不徳の致すところ。ただ恥じ入るばかり」

「なに、構わんよ。どうせ彼女たちは逃げる事は出来なかったんだ。遅かれ早かれ、こうなる事は判っていた筈だ」

 

 フッと、笑みを浮かべる気配。

 

 つい先日、自分たちは彼らの奇襲を受けた。

 

 戦いは自分たちの勝利で終わったものの、城に攻め込まれて混乱を喫した事への屈辱は消える物ではない。

 

 その相手に、今度は全く同じやり方で自分たちが奇襲を仕掛けるのだと思うと溜飲も下がると言う物だった。

 

「さあ、行こうか。我々の聖杯を取り戻しに、ね」

 

 そう言うと、雪原に再び足跡が刻まれた。

 

 

 

 

 

 水準以上の美少女に迫られれば、男なら誰でも平静ではいられない事だろう。

 

 それがたとえ、姉であったとしても、だ。

 

 いや、姉弟であれば猶更、その背徳性に燃え上がる事もある。

 

 そっと、頬に手を当てられ、響は己の中で体温が上昇するのを感じた。

 

「さあ、響。力を抜いて楽にしなさい。全てを私に任せて、ね」

「ん、クロ・・・・・・・・・・・・」

 

 トロンとした目でクロを見つめる響。

 

 対してクロは、蠱惑的な口元に笑みを浮かべて弟に迫る。

 

 褐色の肌はほんのり桜色が混じり、目は怪しく潤む。

 

 微熱を伴った吐息は、麻薬めいた酩酊感を齎し、近くにあるだけで意識が遠のきそうになる。。

 

 小学生にして、既にこれほどの色香さを発揮するとは、末恐ろしい少女である。

 

「あの、クロ・・・・・・」

「な~に?」

 

 既に、2人の顔は、触れ合うほどに近づいている。

 

 魅惑的に迫る姉の姿。

 

 響は得も言えぬ緊張で、胸が張り裂けそうな感覚に襲われていた。

 

「その・・・・・・・・・・・・初めて、だから」

 

 その言葉に、クロはクスッと笑う。

 

 初心で可愛い弟。

 

 その弟が今、自分の手の中にいる。

 

 自らの心を満たす征服感に、クロは己の胸が高鳴るのを感じていた。

 

「大丈夫、ちゃーんと、お姉ちゃんがリードしてあげる。だから、全部任せて、ね?」

「・・・・・・ん」

 

 姉の優しい言葉に、素直にうなずく響。

 

 やがて、

 

 2人の顔がさらに近付く。

 

 互いの行為を受け入れる禁断の姉弟。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガブッ チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロは響の「腕」に齧り付き、予め付けておいた傷口から、少年の血を吸い始めた。

 

 その間、響はギュッと目を閉じて、姉にされるがままになっている。

 

 動かない響。

 

 それを良い事に、クロは満足するまで響の血を吸い続ける。

 

 ややあって、クロは響の腕から口を放した。

 

「ふう、ご馳走様。ま、そこそこ悪くなかったわ」

「うう~ クロのバカァ~ アホォ~ 吸血鬼ィ~」

「人聞きの悪い事言わない」

 

 ご満悦なクロに対し、響は涙目で自分の腕を押さえている。

 

 響の血を吸ったクロ。

 

 その理由は、彼女がついに、吸血鬼として覚醒したから、

 

 ではないので、お間違え無きように。

 

 答えは、魔力の補給だった。

 

 クロは戦闘のみならず、ただその場で存在しているだけでもわずかずつ魔力を消耗している。

 

 もし、魔力補充せずに放置したら最悪、消滅の危険性もあるのだから、事態は思っている以上に深刻である。。

 

 今まではイリヤがクロにキスする事で魔力補充を行っていた。

 

 やはり「同一存在」な為か、クロにとってはイリヤから供給される魔力効率は、他の人間の10倍以上に達する。つまり、他の人間10人から魔力を供給してもらうよりも、イリヤ1人から魔力をもらった方が効果的なのである。

 

 加えてイリヤ自身はルビーから魔力供給を受ける事ができる為、(イリヤの精神的ダメージはとりあえず無視するとして)実質的なプラスマイナスはゼロ。

 

 要するに、言い方は悪いが、クロにとってイリヤは理想的な魔力タンク的な意味合いもあったのだ。

 

 だが、そのイリヤが敵に捕まり、クロとしては恒常的に魔力供給を受ける手段を失った形である。

 

 このままでは、クロが消えてしまう。これは、早急に解決しなくてはならない問題だった。

 

 そこでまず案として挙がったのが、イリヤの代わりに当面は美遊がクロに魔力供給する事だった。

 

 美遊もイリヤと同じ魔法少女(カレイド・ライナー)だし、今はルビーとも契約している為、再供給にも問題は無い。

 

 効率と言う意味ではイリヤに劣るが、美遊もまた魔力供給の役割は果たせるだろう。魔力タンクのピンチヒッターとしては十分である。

 

 だが、そこで「待った」が掛かった。

 

 言うまでもなく、響である。

 

 響にしてみれば、折角できた可愛い彼女が、他人とキスするなんて我慢できなかったのだ。

 

 そんな事を美遊にさせるくらいなら、自分がクロに魔力を供給する、とまで言った響。

 

 だが、今度は美遊の方から「待った」が掛かる。

 

 理由は寸分違わず全く同じ。大切な彼氏が、友達とは言え(あるいはだからこそ?)他の女とキスするところなど見たくない。

 

 とは言え、あれもダメ、これもダメでは話が進まない。

 

 ほぼ八方ふさがりに近い状況の中、

 

 代替案を出したのはバゼットだった。

 

 ようは魔力が潤沢な体液を、クロに提供できれば良いのだ。

 

 ならば、唾液よりも血液の方が良い。

 

 魔術師の魔力の根源は、その人物の心臓にある。その心臓から供給される血液の魔力吟有量は、唾液の比ではない。魔術師は自らの血を媒体に、魔術行使を行事も合うくらいある。

 

 血液なら少量でも十分な魔力補充が見込めるのだ。

 

 そんな訳で、響がクロに血液を供給する運びになった訳である。

 

 方法としては簡単。クロが投影したナイフで響の腕を少しだけ傷付け、そこから血をすするだけ。

 

 効果は抜群で、殆ど枯渇しかけていたクロの魔力は、ほぼ満タンに近い形で補充されていた。

 

 だが、

 

 そんな2人を、ジトーッとした眼差しで見つめる目が合った。

 

「・・・・・・・・・・・・最初のやり取り、必要あったの?」

 

 面白くなさそうに、美遊は告げる。

 

 どうやら「響の彼女」としての立場からして、初めの紛らわしいやり取りがお気に召さなかったらしい。

 

 対して、クロはシレッとした調子で肩を竦める。

 

「雰囲気づくりって奴? 普通にやったんじゃ面白くないでしょ」

「だとしても、あんな事する必要は無かったと思う。そもそも雰囲気なんて作る必要なかったはず」

 

 そう言って、美遊は口を尖らせる。

 

 そんな美遊の態度に、

 

 クロはピンと来たように、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「ほっほ~」

「・・・・・・何?」

 

 意味ありげなクロの笑いに対し、怪訝な顔つきをする美遊。

 

 対してクロは、納得したように言った。

 

「いや~ さっそく彼女きどりとは、ずいぶんとお熱いですわね~」

 

 おどけた調子で、揶揄するように告げるクロ。

 

 口調としてはからかい半分、祝福半分と言ったところだろうか?

 

 対して、

 

「彼女きどりじゃない」

 

 美遊は断固とした口調で言った。

 

「私は、響の彼女だから」

 

 ストレートな言葉。

 

 まったく予想していなかった美遊の言葉に、流石のクロも、思わず絶句してしまった。

 

 まさか、美遊がここまでストレートな物言いをするとは考えていなかったのだ。

 

「ず、ずい分と大胆なこと言うわね」

「事実だから」

 

 シレッと答える美遊。どうにも互いに両想いになった事で、吹っ切れた印象がある。

 

 つい先日、大喧嘩して険悪なムードだったのがウソのようである。

 

「それに、あまり吸い過ぎれば、今度は響の魔力が足りなくなる」

「別に良いでしょ、そこら辺は」

 

 クロはそう言って肩を竦めて見せる。

 

「どうせ魔力は後で、美遊が響に『チュッチュ』して分けてあげれば良いんだから」

「なッ!?」

 

 クロの言葉に、たちまち顔を赤くする美遊。

 

 対してクロは、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

 

 どうやら、勝負あったらしい。

 

 やはり口喧嘩では、美遊はクロに敵わないようだ。

 

 と、

 

「あの、2人とも、その辺で・・・・・・・・・・・・」

 

 傍らで見ていたバゼットが、呆れ気味に止めに入った。

 

 年長者として、不毛な争いを止めようとした。

 

 訳ではなく、

 

「響が死に掛けていますので」

「「は?」」

 

 振り返る2人。

 

 見れば、床に蹲る感じで、響が悶えている。

 

「も・・・・・・許して・・・・・・」

 

 顔を真っ赤にして呟く響。

 

 どうやら、2人のやり取りは、傍らで見ていた少年にとって恥ずかしすぎる内容だったようだ。

 

「どうしたですか響さん!? 恥ずかしさで死ぬですか!?」

《あー 駄目ですねー これは。響さんのライフはもうゼロです》

 

 傍らで田中が大声で叫びながら垂れている響を揺り動かし、ルビーは羽根で器用に持った棒っきれでツンツンと突いていた。

 

 何と言うか、ナチュラルにトドメを刺していた。

 

 そんな少年の様子に嘆息する美遊とクロ。

 

 何とも、気の抜ける光景である事は確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくもう・・・・・・・・・・・・」

 

 手洗い場で顔を洗いながら、響はぼやくように呟く。

 

 まだ、顔の火照りが消えていない気がした。

 

 美遊と恋人同士になれたことは嬉しい。

 

 だが初心な少年にとって、周囲からの煽りには、まだまだ耐性ができているとは言い難かった。

 

「その・・・・・・ごめんなさい」

 

 傍らでタオルを差し出しながら、美遊が謝って来た。

 

「私も、ちょっと調子に乗りすぎたって言うか・・・・・・」

「ん、別に、美遊のせいじゃない」

 

 美遊からのタオルを受け取りながら、響は首を横に振る。

 

「だいたいクロのせい、だから」

 

 本人が聞いたら呆れ気味に苦笑するしかないセリフだ。

 

 そんな響に対し、美遊は少し顔を赤くして俯きながら言った。

 

「その・・・・・・嬉しかったから、響と恋人になれて・・・・・・だから」

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊の言葉の意味を理解し、響もまた顔を赤くする。

 

 要するに、美遊もまた浮かれていたのだ。響と恋人同士になれたことが嬉しくて。

 

 普段のクール振りからは想像もできないが、美遊もまた女の子なのだ。恋に憧れる事もあれば、好きな男の子と結ばれて浮かれる事もある。

 

 やがて、

 

 響と美遊は、どちらからともなく身を寄せ合う。

 

 互いの体に手を回す。

 

 近付く、2人の顔。

 

 吐息が互いの鼻にかかる。

 

「その・・・・・・さっき、クロに魔力をあげたでしょ。だから、その分の補充を・・・・・・」

「ん・・・・・・それ、だけ?」

 

 言い訳気味に告げる美遊に、尋ねる響。

 

 対して、美遊は恥ずかしそうに白状する。

 

「その、私が・・・・・・したいから」

「美遊」

 

 そして、

 

 2人は互いに唇を重ねた。

 

 無人の校舎。

 

 静寂の中、

 

 幼くも甘美なキス。

 

 互いの温もりが、しっかりと相手に伝わる。

 

 ややあって、唇を放す2人。

 

 熱の籠った眼で、互いを見やる。

 

「どう?」

「ん、もっと」

 

 浮かされたような口調でおねだりすると、今度は響が自分の唇を美遊の唇に押し付ける。

 

 対して美遊も、目を閉じて幼い彼氏を受け入れる。

 

 再び、甘いキスが互いを満たしていく。

 

 やがて唇を放した時、

 

 心地よい熱が、互いを包み込んでいた。

 

「もう・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊が、ちょっと困ったように唇を尖らせる。

 

「甘えん坊、なんだから」

「ん」

 

 幸せに包まれる2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独特の風切り音が響くいた。

 

「んッ!!」

 

 とっさに、美遊を抱えて、その場から響。

 

 ほぼ同時に、

 

 2人が背にしていた壁が、突然、斬り裂かれた。

 

 着地する響。

 

 同時に、鋭い視線を振り返らせる。

 

暗殺者(アサシン)相手に奇襲とか・・・・・・舐めてる?」

 

 睨みつける響の視線の先。

 

 そこには、フードを被った2人の人物が立っている。

 

 舌打ちする響。

 

 今、この学校にはバゼットが張った侵入者警戒用の結界が張られている。そう簡単には侵入できるはずが無い。

 

 にも拘らず、襲撃者は侵入してきた。

 

 文字通り、音も無く。

 

 相手が誰か、など考えるだけ時間の無駄であろう。

 

 今、この世界で自分たちを襲撃してくる存在など、十中の十までエインズワースの刺客以外に考えられなかった。

 

 つまり、問題は相手の正体(そ こ)ではない。

 

 相手がどうやって、結界をすり抜けて、この校舎の中に侵入してきたのか、が重要だった。

 

「いったい・・・・・・どうやって・・・・・・・・・・・・」

 

 愕然とする響。

 

 だが、考えている暇は無かった。

 

 2人の侵入者は同時に動く。

 

 左右から響と美遊を挟み込むようにして迫る敵。

 

 その動きは滑らかで、ほぼ同時に左右から響達を包み込むように迫ってくる。

 

 タイミングは完全に一緒。

 

 響達に逃げ場は無い。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちする響。

 

 明確な戦意を持って迫る敵。

 

 対して、響は迷う事無く行動を起こす。

 

 相手が向かってくるならば、迎え撃つ以外の選択肢は無かった。

 

 響はとっさに美遊を片手で抱き寄せると、空いた右手を前に突き出すように掲げる。

 

限定展開(インクルード)!!」

 

 詠唱する響。

 

 同時に、手には一振りの刀が出現する。

 

 迷う事無く降り抜く響。

 

 その一閃が、侵入者たちの被ったフードを斬り裂く。

 

 動きを止める襲撃者。

 

 その間に響は、美遊を抱えてその場から飛びのき、包囲網を突破する。

 

 敵に囲まれた状態で戦うのは不利。

 

 少しでも有利な条件を整えるのだ。

 

 着地と同時に、美遊を背に庇う響。

 

 ほぼ同時に、襲撃者のフードもはらりと落ちた。

 

 露わになる、敵の素顔。

 

 次の瞬間、

 

「なッ!?」

「そんなッ!?」

 

 思わず、絶句する響と美遊。

 

 なぜなら、

 

 フードの下から現れた顔。

 

 それは2人にとって、知りすぎるくらいに知っている人物だったのだ。

 

「凛・・・・・・・・・・・・」

「ルヴィアさん・・・・・・・・・・・・」

 

 遠坂凛とルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 

 2人にとってかけがえのない友人であり、師であり、肉親とも言うべき2人が、

 

 今まさに、敵となって目の前に立っていた。

 

 

 

 

 

第17話「サプライズ・リターン」      終わり

 

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