Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第19話「闇色の手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異質、だった。

 

 否、そんな簡単な言葉では言い表せないほど、その男の異様さは、この場にあって際立っていた。

 

 伸び放題になったぼさぼさの髪。

 

 落ちくぼんだ闇色の双眸。

 

 痩せ気味で、背の高い体躯。

 

 何より、全身からあふれ出る不気味な雰囲気。

 

 目の前の男から発せられる怖気を伴った様子に、その場にいた全員が戦慄せざるを得なかった。

 

 ついに現れた敵の首魁を前に、響は己の中では否応なく、緊張が高まっていた。

 

「ダリウス・・・・・・エインズワース・・・・・・」

 

 絞り出されるように発せられた、響の言葉。

 

 心の奥底から湧き出す恐怖を、強引にねじ伏せる。

 

 負けられない。

 

 自分が負けたら美遊が、

 

 大切な恋人が奪われる。

 

 そう考えれあ、一歩として退く事は許されなかった。

 

 対してダリウスは響の言葉を聞くと、口元を釣り上げ、二ィッと笑みを浮かべた。

 

「光栄だ・・・・・・ああ、実に光栄だね」

 

 言いながら、響を真っすぐに見据える。

 

 不気味な闇色の視線。

 

 その視線を、幼くも鋭い相貌で響は睨み返す。

 

 ぶつかり合う、両者の視線が場の空気を否応なく張り詰める。

 

「衛宮響君。君のような勇者に名前を覚えてもらえるとは、正に望外の幸運と言えるだろう。叶うなら、この場で踊りだしたい気分だよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 おどけたようなダリウスの言葉。

 

 だが、響は警戒を解く事無く、敵の首領を睨みつける。

 

 まるで道化のように振舞うダリウスだが、その裏には底知れない不気味さが隠しきれていない。

 

 油断したら、一瞬にして心臓を抉り取られそうな、そんな予感さえあった。

 

 だが、

 

 同時に響は、この場にある勝機を見逃してはいなかった。

 

 今まで一切姿を見せなかったダリウスが、このように堂々と姿を現したのだ。

 

 まさしく千載一遇の好機。うまくいけば、この一戦で聖杯戦争を終わらせることもできるかもしれない。

 

 その為には、

 

 考えながら、チラッと傍らの美遊に目をやる。

 

 ダリウスの狙いが美遊の奪取(エインズワース側の立場から言えば「奪還」)にあるのは、今更考えるまでもない。

 

 今までは部下に任せてきたが、流石に失敗続きで業を煮やし、今度は自ら出張って来た、と言ったところだろうか?

 

 美遊は守る。

 

 その上で、ダリウスは倒す。

 

「ここで、終わらせる。全部」

 

 刀の切っ先を、ダリウスに向けて構える響。

 

 対して、

 

「ほう」

 

 そんな響の姿に、ダリウスは感心したように笑みを浮かべた。

 

「迷いもなく、それを選択するか。流石だね。また、そうでなくては、ここまで勝ち抜いてくる事は不可能だっただろう」

 

 まるで、響の抵抗など歯牙に掛けるにも値しないと言わんばかりに、余裕を見せる。

 

 全身の筋肉を引き絞り、駆ける一瞬を見定める。

 

 次の瞬間、

 

 疾駆する少年。

 

 その双眸は、倒すべき相手を真っ向から射抜く。

 

 一歩、

 

 響は加速を掛けようとした。

 

 次の瞬間、

 

「やらせん」

 

 横合いから低く発せられる声。

 

 振り返る響の視界に飛び込んで来たのは、大剣を構えたシェルドの姿だった。

 

 長大な銀の光が、少年の体を斬り裂かんと風を巻くのが見える。

 

「クッ!?」

 

 足裏でブレーキを掛けながら、突撃をキャンセルする響。

 

 音速の域に入りかけた突撃を強引に止めるのは、それだけで至難である。

 

 全身の筋肉が悲鳴を上げる中、既に響の眼前へと迫っていた。

 

 大剣を振り翳すシェルド。

 

 対抗するように刀を振るう響。

 

 大剣と日本刀。

 

 激突する互いの刃。

 

 次の瞬間、

 

「クッ!?」

 

 押し負けたのは響だった。

 

 突撃キャンセルから、無理な姿勢で迎撃を行ったため、万全な態勢で放たれたシェルドの攻撃を受けきる事が出来なかったのだ。

 

 地面に転がる響。

 

 そこへ、シェルドがさらに追撃を仕掛けてくる。響が体勢を立て直す前に、仕留めるつもりなのだ。

 

 繰り出される大剣の一撃。

 

 刃が、倒れている響へと迫る。

 

 次の瞬間、

 

「んッ!?」

 

 全身体能力を最大に駆使して、倒れた状態から飛び跳ねるように起き上がる響。

 

 間一髪。シェルドの振り下ろした大剣は、響がいた地面を斬り裂くにとどまる。

 

 その間に、響は起き上がって刀を構えなおす。

 

 対して、シェルドもまた、剣を構えて斬りかかって来た。

 

 怯む事無く、前に出る響。

 

 シェルドが振り下ろした大剣を刀で弾き、同時に空いた胴目がけて斬りかかる。

 

 だが、

 

「ッ!?」

 

 舌打ちする響。

 

 刀はシェルドの肉体に弾かれ、1ミリたりとも傷を負わせた様子はない。

 

 やはり、結果はこれまでの対決と同じた。この無敵性を解除するか、あるいはそれを上回る攻撃をぶつけない限り、シェルドを倒す事は出来ない。

 

 対峙する両者。

 

 その響の奮戦を見ていたクロが、振り返って叫ぶ。

 

「ヒビキを援護するわよ!!」

 

 頷く、美遊とバゼット。

 

 シェルドの能力は未知数な部分が多い。響1人では手に余るのは間違いないだろう。

 

 響を援護すべく、飛び出すクロ達。

 

 だが、

 

「おっと」

 

 次の瞬間、

 

 美遊の肩が、背後から掴まれた。

 

「なッ!?」

 

 驚く美遊。

 

 その視界の先では、

 

 ぞっとするような薄暗い笑みを浮かべた、ダリウスの姿があった。

 

「君は、ちょっと待ってもらおうかな。何、時間は取らせないよ。少し、話をするだけだから」

「クッ!?」

 

 とっさに離れようとする美遊。

 

 クロとバゼットも、異変に気付いて振り返る。

 

 まさか、敵の首魁がいつの間にか自分たちの後ろに回り込んでいるとは、夢にも思わなかった。

 

「ミユッ いつの間に!?」

 

 干将莫邪を手に、引き返そうとするクロ。

 

 その視線が、ダリウスを真っ向から睨む。

 

「その手を放しなさい!!」

 

 双剣を振り翳すクロ。

 

 だが、

 

 クロが間合いに斬り込む前に、ダリウスは動いた。

 

 掲げる手。

 

 その手に握られた、1枚のカード。

 

「それはッ!?」

 

 クロが驚いて目を見開いた次の瞬間、

 

三〇一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティ)

 

 低い声でダリウスが呟いた瞬間、

 

 突如、

 

 地面から湧き出すように、巨大な氷の壁が出現した。

 

 氷は一気に成長し、あっという間に視界全てが覆われていく。

 

 周囲360度。天井に至るまで氷に包まれたドーム。その中には、美遊とダリウスだけが閉じ込められる形となってしまった。

 

「クッ!? この程度の氷など!!」

 

 渾身の力で殴りつけるバゼット。

 

 鋼鉄すら紙のようにぶち抜く彼女の拳は、しかし目の前の氷に対し、傷一つ付けることができないでいる。

 

 更に強力に殴りつけるバゼット。

 

 だが、結果は同じ事だった。

 

「どいて、バゼット!!」

 

 緊迫した声に反応して振り返るバゼット。

 

 果たしてそこには、弓を構えたクロの姿があった。

 

 弓には既に、投影された螺旋剣(カラドボルグ)が装填されている。少々手荒だが、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で吹き飛ばそうという腹積もりらしい。

 

 飛びのくバゼット。

 

 同時にクロは、矢を放つ。

 

 飛翔する矢。

 

 着弾と同時にさく裂する。

 

 飛散する衝撃。

 

 すぐそばに立っていたバゼットが、防御姿勢で後退しなければならない程の圧倒的な火力。

 

 これならどうだ?

 

 固唾を飲んで見守る中、

 

「・・・・・・・・・・・・駄目か」

 

 舌打ち交じりにクロは呟いた。

 

 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)の衝撃が晴れた時、そこには傷一つ付いていない氷壁が出現した。

 

「・・・・・・宝具ね」

 

 クロは確信をもって呟いた。

 

「きわめて高ランクの・・・・・・それも、カラドボルグの幻想をもってしても破壊できない、結界型宝具だわ」

 

 宝具にも色々な形がある。

 

 「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」や「刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)」のように、特定の剣や槍が宝具化したものは最もわかりやすい例だろう。

 

 他にも、その人物の持つ逸話や、あるいは鍛え上げられた技術が昇華され宝具と化すパターンもある。響(と言うより斎藤一)が使う固有結界「翻りし遥かなる誠」はその類である。

 

 クロの壊れた幻想(ブロークンファンタズム)は、そうした宝具の概念そのものを爆弾として使う事で、絶大なる威力を発揮する事ができる。

 

 だが、

 

 その壊れた幻想(ブロークンファンタズム)をもってしても、この結界を破る事は出来なかったのだ。

 

 打つ手は、ほぼ皆無に等しかった。

 

「美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 シェルドの攻撃をかわしながら、響はそっと呟く。

 

 今、自分の彼女は、あの氷型の檻に囚われてしまっている。

 

 何とか助けに行きたいところだが、

 

「よそ見とは、余裕だな」

「クッ!?」

 

 振り下ろされた大剣を回避し、響は距離を取りに掛かる。

 

 シェルドは後退しようとする響の心理を読み取り離れようとしない。

 

 囚われた美遊と、襲い来るシェルド。

 

 その2つの要因に挟まれ、響の中でジレンマは募っていくのだった。

 

 

 

 

 

 外では死闘が繰り広げられている頃、

 

 結界の中では、美遊がダリウスと差し向かいで対峙していた。

 

 険しい眼差しでダリウスを睨みつける美遊。手にしたルビーは、真っすぐに敵の首魁へと向けられている。

 

 既に魔力は充填されている。撃とうと思えばいつでも撃てる。

 

 そんな少女に対して、ダリウスは余裕の笑みを崩さずに向かい合っていた。

 

「やれやれ嫌われた物だな。まあ、君の立場からすれば仕方ない事ではあるが」

「お兄ちゃんとイリヤを返して」

 

 有無を言わさない態度で、美遊は告げる。

 

 そんな事をこの男に言っても無駄だと言う事は、いやと言うほどわかっている。

 

 だがそれでも、言わずにはいられなかった。

 

 対して、

 

 案の定、ダリウスはやれやれとばかりに肩を竦めて見せた。

 

「ただ返せと言われてもね君。私も子供の使いじゃないんだよ。そんな我儘が通ると、まさか本気で思っているのかい?」

「クッ」

 

 おどけた調子のダリウスの言葉に、唇を噛む美遊。

 

 判ってはいる。

 

 以前、この男に監禁されていた美遊からすれば、こんな事を言っても無駄な事くらいは。

 

 どうあっても自分は、この男の手のひらの上からは逃れられない。

 

 その事を自覚せざるを得なかった。

 

 と、

 

「まあ、それも君次第だよ」

「・・・・・・・・・・・・どういう意味?」

 

 いきなり態度を変えてきたダリウス。

 

 それに対し、警戒するように、美遊は慎重に尋ねる。

 

 もっとも、この次に出る言葉は、美遊にも予想できるのだが。

 

 フッと笑うダリウス。

 

「言わずとも分かっているだろう、聡明な君なら」

「・・・・・・・・・・・・」

「そろそろバカンスは終わりにして、戻ってきたらどうだい? もう十分楽しんだだろう」

 

 勝手な事を。

 

 その言葉が、美遊の喉から出かかる。

 

 だが、その前にダリウスは続けた。

 

「君が戻ってくれるなら、そうだね。2人の事は考えてあげてもいいよ。君のお兄さんには、もともと何の興味もないし、あっちのイリヤと言う少女は、少々興味があるが、それでも君と引き換えにできる物ではないからね」

 

 予想はしていた事だ。

 

 エインズワースの狙いは、もともと美遊1人。

 

 美遊が戻れば、大半の事は丸く収まるのだ。

 

 一昨日までの美遊なら、間違いなく戻る道を選んでいた事だろう。

 

 だが、

 

『響・・・・・・・・・・・・』

 

 今も結界の外で戦っているであろう、恋人である少年の事を思う。

 

 響が証明してくれた。

 

 どんなに状況が絶望的であっても、決して諦める必要は無いのだと言う事を。

 

 ならば美遊は、彼の想いに応える為にも戦わねばならなかった。

 

「戻る気は、ない」

 

 ルビーを真っすぐに構える美遊。

 

 その幼くも凛とした瞳は、自らの仇敵を真っ向から捉えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・ほう?」

 

 そんな美遊に対し、スッと目を細める。

 

 どこか感心したような様子のダリウス。

 

 やや考え込むようなそぶりをした後、もう一度顔を上げた。

 

「これは驚いた。君が私にそこまで反抗するとはね。前はあんなに大人しかったのに。いったい、誰の影響を受けたのかな?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 黙り込む美遊。

 

 そこへ、ダリウスは続ける。

 

「素晴らしい、実に素晴らしいじゃないか。並行世界に単身飛ばされ、奇ッ怪な魔術礼装と契約し、自身が招いたカードの災厄を回収する傍ら、初めての友情を知る」

 

 不気味な目が、じろりと美遊を睨む。

 

「そして今、君はそれに上回る物すら得ようとしている。違うかね?」

「・・・・・・・・・・・・それは」

 

 まるで、こちらの心を見透かしたかのようなダリウスの物言いに対し、美遊はグッと唇を噛み占める。

 

 確かに、自分は響と言う恋人を得た。それは美遊にとっても、大きな事であるのは間違いない。

 

「どうやら、図星のようだね」

「あなたには関係ない事ッ」

 

 これ以上、戯言のつき合う気は無い。

 

 その意思を込めて、魔力弾を放とうとした美遊。

 

 だが、

 

「いやいや、関係ないと言う事は無いだろう?」

 

 そう言うと、ダリウスは、芝居がかった大仰な仕草で応じた。

 

「君がした事はまさに、偶然と、必然と、運命が世界線を越えて紡いだ王道の物語(マイソロジー)じゃないか!! それこそが私の、そしてエインズワースの望む最上のストーリーに他ならない!!」

 

 狂気が掛かったダリウスの言葉に、息を呑む美遊。

 

 やはりこの男は危険だ。

 

 何としても、ここで倒さないと。

 

 美遊はそう思って攻撃を開始しようとした。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、強烈な轟音と共に、氷の牢獄が崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 驚く美遊。

 

 彼女が見ている前で、ダリウスの張り巡らせた三〇一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティ)が音を立てて崩れていく。

 

 開ける視界。

 

 外界の光景が、氷の隙間から見えてくる。

 

 その中で、

 

 両手を前に突き出して構えた田中の姿があった。

 

「・・・・・・・・・・・・田中さん?」

 

 茫然と呟く美遊。

 

 美遊は見ていなかったが、これより少し前、どこからともなく現れた田中が、手から謎の閃光を放って、氷の結界を粉砕して見せたのだ

 

 クロの壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)ですら傷一つ付けられなかった代物を、田中はいとも簡単に粉砕した田中。

 

 驚くな、と言う方が難しいだろう。

 

「カウンターフェイター・・・・・・・・・・・・」

 

 虚ろな目で、呟きを漏らす田中。

 

 見れば、ダリウスも動きを止めて佇んでいる。

 

 この敵の首魁ですら、あまりの事態に一時的に思考を停止してしまっている。

 

「・・・・・・ああ、そうだ」

 

 ややあって、ダリウスは何かを納得したように呟いた。

 

「忘れていたよ。君と言う異分子がいたことをね」

 

 その瞬間を逃さず、動く影があった。

 

 クロとバゼット。

 

 2人はほぼ同時に、左右から挟み込むようにダリウスに襲い掛かる。

 

 バゼットは拳を掲げ、クロは投影した干将莫邪を振り翳す。

 

 同時に振るわれる攻撃。

 

 だが次の瞬間、

 

 衝撃と共に、2人の攻撃は弾かれた。

 

「なッ!?」

「弾いた!?」

 

 驚くクロとバゼット。

 

 そこへ、

 

 響が仕掛ける。

 

 刀の切っ先をダリウスに向け、流星の如く斬りかかる響。

 

 その切っ先がダリウスを捉えようとしたした。

 

 次の瞬間、

 

「んッ!?」

 

 思わず目を見開く響。

 

 何と、響の剣の切っ先は、ダリウスが掲げた手のひらによって真っ向から受け止められていたのだ。

 

 いったい、如何なる事をすれば、このようになるのか。ダリウスの手のひらは1ミリたりとも傷付いていない。

 

 唇を噛み占める響。

 

 シェルドのような無敵性とも違う。

 

 まったくもって異質としか言いようがない力で、ダリウスは響の攻撃を受け止めていた。

 

 舌打ちしつつ、その場から飛びのく響。

 

 だが、警戒は解かず、切っ先はダリウスへとむけ続けていた。

 

 そこへクロ、バゼット、美遊も加わり、3方向からダリウスを包囲する。

 

 皆、それぞれの武器を手に、ダリウスを睨みつける。

 

 きっかけさえあれば、すぐにでも斬りかかる態勢だ。

 

 そんな一同の様子を見て、ダリウスは嘆息交じりに肩を竦めた。

 

「やれやれ、これじゃあまともに話もできないじゃないか」

 

 言いながら、

 

 ダリウスの手には、新たに1枚のカードが握られる。

 

「ちょっと、外野には黙ってもらおうかな」

 

 言った瞬間、

 

 カードが放られる。

 

黒玉宮に顔は無し(オーソリテリアン・パーソナリズム)

 

 次の瞬間、

 

 突如、

 

 立っていた響達は、一斉に地面に倒れ込んだ。

 

「なッ!?」

 

 響が、

 

 クロが、

 

 バゼットが、

 

 離れた場所にいた田中まで、

 

 全員が、地に伏していた。

 

 起き上がろうと体に力を入れても、地面にピッタリと張り付いて、身動きが取れない。

 

 金縛りでも、重力操作魔術でもない。

 

 恐らく特定の人間を「地面に伏せさせる」と言う概念を、この場に成立させる宝具なのだ。

 

 その証拠にダリウス、凛とルヴィア、シェルド、そして美遊は、何事も無いかのようにその場に立っていた。

 

「みんなッ!?」

 

 慌てて駆け寄ろうとする美遊。

 

 だが、

 

 その鼻先に、銀色の刃が突きつけられた。

 

「ッ!?」

「どうか、お静かに、美遊様。我が主の言葉をお待ちください」

 

 シェルドはそう告げると、静かに剣を引いた。

 

 唇を噛み締める美遊。

 

 今、ここで動ける味方は彼女のみ。どうあっても、勝ち目はなかった。

 

 対して、ダリウスは勝利を確定した口調で口を開いた。

 

「さて、これでようやく、落ち着いて話ができる訳だ」

 

 言いながら、ダリウスはゆっくりとした足取りで歩き始める。

 

 その向かう先には、

 

 地に倒れ伏した響の姿があった。

 

「察するに、君のお相手は、この少年かな?」

「ッ!?」

 

 息を呑む美遊。

 

 その様子に、ダリウスは薄笑いを浮かべる。

 

「どうやら、図星のようだね」

 

 確信をもって告げると同時に、ダリウスの手には一振りのナイフが出現した。

 

「待っ」

「おっと、動いちゃだめだよ」

 

 ナイフの切っ先が、倒れている響の首筋に突き付けられた。

 

「動くと、この少年の命は無い」

「クッ」

 

 動きを止める美遊。

 

 響を、

 

 大切な恋人を人質に取られている。その事実に、美遊は歯噛みするしかない。

 

「さて、どうしようかな」

 

 対して、既に勝利を確信したダリウスは、手のひらでナイフを弄びながら言った。

 

「君が尚も駄々をこねるようなら、仕方がない。代わりに、この少年の命をもらっていくとしようかな」

「やめてッ」

 

 思わず前に出そうになる美遊。

 

 その時、

 

 顔を上げた響と目が合った。

 

 ダメ・・・・・・美遊・・・・・・

 

 少年の目が必死に訴えかけて来ている。

 

「響・・・・・・・・・・・・」

 

 ここで逆らえば、響の命は無い。

 

 だが、しかし・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 顔を上げる美遊。

 

 その目は、

 

 まっすぐにダリウスを睨みつけた。

 

「判った、エインズワース(あなたたちのもと)に戻る」

 

 そう言うと、美遊は変身を解除する。

 

《み、美遊さん・・・・・・》

 

 慌てたように声を掛けるルビー。

 

 だが、美遊はそっと、彼女を押しのける。

 

 武装解除。

 

 すなわち、降伏の意思に他ならなかった。

 

「良い子だ」

 

 ニヤリと笑うダリウス。

 

 と、

 

「み、美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 ダリウスの足元から、か細い声が聞こえてくる。

 

 何で?

 

 どうして?

 

 響の瞳は、そんな事を訴えかけて来ている。

 

 そんな響に対して、

 

 美遊は、ニッコリと笑って見せた。

 

 自分の身を心配してくれる幼い彼氏を安心させるように、

 

 美遊は優しく笑いかける。

 

 その笑顔に、響は何も言う事ができなくなる。

 

 やがて、美遊を両側から挟むようにした立ったダリウスとシェルドが、踵を返して歩き出す。

 

 それに付き従う、凛とルヴィア。

 

 美遊は一瞬だけ名残を惜しむように響に目を向け、

 

 そして未練を断ち切るように、背を向けるのだった。

 

 

 

 

 

第19話「闇色の手」      終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一連の様子を見ていた存在が、闇の中でほくそ笑む。

 

 悪くない。

 

 状況としては悪くない。

 

 事態は、彼が望んだとおりの流れを示している。

 

「さて・・・・・・果たして勝つのはエインズワースか、それとも彼等か」

 

 闇の中で、くぐもった笑みが響き渡るのだった。

 

 

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