1
「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
耳障りな笑い声が、夜の街に盛大に響き渡る。
品性の欠片も感じさせないその笑い声は、かつて士郎の後輩だった存在から放たれていた。
士郎にとって、桜同様にかけがえのない部活の後輩。
気の置けない、年下の友人。
その修己が今、
目を背けたくなるような、笑い声を見せていた。
「なァァァァァァんなんだッ!? なァァァァァァん何ですか、あなたはァァァァァァッ!? 何で僕の邪魔するんですかァァァァァァ!?」
喚くように、手にした鎖を振るう修己。
蛇のようなしなりで襲い掛かってくる鎖。
「僕は先輩と遊びたいんですよォォォォォォッ 邪魔しないで下さいよォォォォォォ!!」
放たれた鎖は、
次の瞬間、割って入った少年の持つ、不可視の刃によって弾かれた。
「ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
攻撃を弾かれたにも拘らず、壊れたような笑みを上げ続ける修己。
そんな「後輩」の姿に、士郎は思わず愕然とする。
「そんな、日比谷・・・・・・お前が、何で・・・・・・・・・・・・」
いつも、自分たちのムードメーカーだった修己。
士郎や桜が、どちらかと言えば控えめな性格だった事から、そこに修己がいてくれるだけで場の空気が盛り上がった。
そんな自分たちの日常の中で、必要不可欠な存在だった修己。
その修己が今、見るも醜怪な姿を晒していた。
「どぉぉぉぉぉぉしたんですかセンパイッ!? ボォォォっとしちゃってッ!?」
言いながら、修己は鎖を巻き上げる。
再び攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
「そんなんじゃ、すぐに終わっちゃいますよォォォォォォ!!」
しなりながら、士郎目がけて投擲される鎖。
その先端には、太い杭が鋭く光る。
次の瞬間、
士郎を守るようにして割って入った少年が、再び手にした不可視の剣で杭を打ち払った。
「考えるのは後にしましょう。今はこの状況を切り抜ける事だけを考えてください」
「お前は・・・・・・・・・・・・」
見覚えのない少年の言葉に、戸惑いを隠せない士郎。
対して、少年は自分の中にある魔術回路を起動しながら告げる。
「今はとりあえず、味方だと思っていてください」
言いながら、少年は修己に向き直る。
同時に、眦を上げて叫んだ。
「
吹きすさぶ衝撃。
迸る烈風の中、少年はその姿を変じる。
蒼の装束の上から銀の甲冑を纏った
伝説の騎士王アーサー・ペンドラゴンをその身に纏った姿がそこにあった。
対抗するように、
修己もまた、高々と舞い上がりながら、
その口には、1枚のカードがこれ見よがしに咥えられていた。
「
叫んだ瞬間、
修己の姿は一変する。
全身に青紫のボディスーツが多い、両目は眼帯によって覆われている。
髪は伸びて、まるで蛇のようにうねっている。
神話に出てくる、おぞましい怪物のような姿がそこにあった。
「さあ、殺戮の時間だァァァッ 死ねェェェェェェッ!! すぐ死ねェェェェェェ!! とっとと死ねェェェェェェェェェェェェ!!」
言い放つと同時に、
修己は手にした杭付きの鎖を、
2
士郎と
士郎としては修己の方に後ろ髪を引かれる物が無くは無かったが、しかし今は気にしている場合ではない。
目の前の
前火力を展開して、士郎へ集中砲火を浴びせる
対して、士郎も一歩も引かずに応戦する。
飛んで来る魔力弾を双剣で弾き、士郎は距離を詰めていく。
基本は先ほどと同じ。敵の攻撃を凌ぎながら接近し、斬りかかるのみ。
「哀れじゃないかね、君は!!」
そんな士郎を嘲るように、
嵐の様相で飛んで来る魔力の弾丸を、しかし士郎は一発残らず叩き落しながら前へと進む。
「全てを失い果て、今また親友にすら裏切られた。知っているかね? 君のような存在を、世間では
「そんなのッ・・・・・・・・・・・・」
間合いに入る士郎。
黒白の双剣を振り翳す。
斬撃は一瞬。
迸る剣閃は、
「お前に言われるまでもないさ」
静かに吐き捨てる士郎。
そう、自分が道化である事は、他の誰よりも士郎自身がよく判っている。
だが、それがどうした?
道化だろうが何だろうが、士郎は今、泥を啜ってでも前へと進まなくてはならない。
その歩みを妨げるものであるならば、たとえどんな相手でも斬り捨てる覚悟だった。
一方、士郎の剣で致命傷を受けた
しかし次の瞬間、
士郎が見ている目の前で、
「これは、水銀ッ!?」
驚愕する士郎。
士郎が
では、本物の
そう思った次の瞬間、
目の前の水銀が突如、形状を変えて襲い掛かってくる。
触手のように無数に枝分けれした水銀が、八方から士郎へと殺到してくる。
更に、
「さあ、終わりだ。地獄の窯で懺悔したまえ!!」
背後から迫る、本物の
その手には複雑な形状をした短剣が握られ、士郎目がけて振り翳されている。
前方からは水銀による包囲攻撃が、背後からは
前後を挟まれた士郎。
既に逃げ場は無い。
「死にたまえ!!」
勝利を確信して告げる
完全に
そう思った。
次の瞬間、
背後から飛んできた黒白の双剣が、
「ガ・・・・・・ハッ・・・・・・」
空気が抜けるような呻き声と共に、
同時に、士郎を攻撃しようとしていた水銀も、形状を失い地面に崩れ落ちた。水たまりのように広がり、それ以上動き出す気配が無い。
この水銀は
干将・莫耶は二刀一対にして別ち難い夫婦剣。
それ故に、たとえ引き離しても、お互いを呼び合い、引き寄せる特性がある。
士郎はその特性を利用して、予め遠距離に投擲。投げられた干将・莫耶は、まるで測ったように回転を同調させながら引き戻され、そのまま
「ば、バカな・・・・・・いったい、どうやって・・・・・・・・・・・・」
信じられない、といった顔つきの
対して、
士郎は無言のまま、両手に干将・莫耶を創り出して構える。
「ッ!?」
息を呑む
次の瞬間、
士郎は黒白の双剣を交差するように一閃。
3
屋根から屋根へ、2つの影が高速で移動していく。
「フッ!!」
民家の屋根を駆けながら跳躍。
その姿を、眼帯越しに見据える
同時に杭付きの鎖を
「僕は先輩と遊びたいって言ってるだろォォォォォォ!! 何で邪魔するんだよォォォォォォ!!」
狂ったように叫びながらも、
鎖は蛇のように唸りながら、鎌首を持ち上げて
自身に向かって、真っすぐに飛んで来る杭。
その凶悪な輝きを見据え。
横なぎに振るわれた剣は、真っ向から刺し貫かんとする杭を、一撃のもとに打ち払った。
「貰ったッ」
突撃の勢いを殺さず、剣を振り被る
上段からの一閃。
その一撃を、後方に宙返りしながら回避する
「ばァァァァァァかッ そんなもんに当たんないよォォォォォォ」
嘲るように言いながら、
同時に、巻き戻した鎖を再び投擲する。
民家の屋根を破壊し、瓦礫が舞い上がる。
地上の
その中間に、破壊された瓦礫が盛大に塞がれる。
その瓦礫を縫うように、
次の瞬間、
「グッ!?」
それに対し、瓦礫に視界を奪われていた
剣の間合いに
横なぎに振るわれる剣閃。
対して、空中で身動きが取れない
剣閃は、修己の胴を薙ぎ払い、地面へと叩き落した。
轟音と共に、地に叩きつけられる
それを追って、
「グッ・・・・・・くそ・・・・・・・・・・・・」
どうにか体を起こし、顔を上げる
対して、
「・・・・・・何なんだよ、お前」
そんな
「僕は先輩と遊びたいんだよッ それを・・・・・・それをそれをそれをッ 何で邪魔するんだよォォォォォォ!!」
言い放った瞬間、
目を覆う眼帯を、右手で引きはがす
その怪しい輝きを放つ双眸が
「ッ!?」
「これは・・・・・・魔眼!?」
魔眼の魔力によって、動きを止められてしまったのだ。
恐らく
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
下卑た笑い声と共に、
振り上げられた両手に、鋭い爪が光る。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ィィィィィィねェェェェェェ!!」
身動きとれぬ
次の瞬間、
ザンッ
逆胴気味に振り抜かれた剣が、
「ば、バカな・・・・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・・・・・・」
崩れ落ちる
そして、
かつて
いつからそうだったのか?
あるいは、元からそうだったのか?
日比谷修己という存在はそこにはおらず、エインズワースによって置換された人形が転がっているのみだった。
「らしくない戦い方をするからですよ」
傍らに落ちていた
騎兵なら騎兵らしく、乗り物に乗って戦っていればよかったものを。白兵戦で
「・・・・・・・・・・・・さて」
呟きながら、少年は立ち上がる。
その背後には、
弓兵たる少年が、両手に黒白の双剣を構えて立っていた。
微かに感じる殺気。
無理も無い。
少年は、士郎の友人を殺した。
ならば事情はどうあれ、士郎が少年に恨みを抱くのは当然の事だろう。
「なぜ、殺した?」
干将の切っ先を向けながら、少年の背中に問いかける士郎。
対して、少年も振り返り、士郎に向き直る。
「そうする必要があったからですよ。彼はもう、あなたの知る友人ではなくなっていた。明確な殺意を持った『敵』だった。だから殺した。それだけの事です」
事も無げに告げる少年。
心なしか、双剣を握る士郎の手に力が籠められる。
「成程。合理的だな」
静かに告げる士郎。
次の瞬間、
士郎は両手に構えた双剣を振り翳す。
「ッ!?」
対抗するように、不可視の剣を構える少年。
両者、互いに斬りかからんと、疾走するべく両足に力を込めた。
次の瞬間、
「そこまでだ」
太く、良く通る声が、2人の動きを制して場に響き渡る。
動きを止める両者。
タイミングを合わせるように振り返る。
その視線の先。
闇からにじみ出るように、1人の神父が歩み出てきた。
「言峰さん・・・・・・・・・・・・」
露骨に嫌そうな顔をする少年。
ほぼ全く同じタイミングで、士郎もまた似たような反応を示す。
「何だ、お前ら知り合いか?」
「ええ、非常に不本意ながら」
士郎の問いに応えながら、少年は言峰に向き直った。
「何か用ですか? てか、珍しいですね。あなたが教会やラーメン屋以外にいるなんて」
「私とて、たまには散策くらいするさ。それに、こう見えても聖職者のはしくれでね・・・・・・」
言いながら、言峰は士郎と少年を交互に見やる。
「無意味且つ、無駄な争いが行われようとしているのなら、止めてやるのも私の責務だろう」
「無駄?」
真意を測りかねて問いかける士郎。
対して言峰は、少年を指差しながら答えた。
「そう、無駄な事なのだよ衛宮士郎。なぜなら、そこな少年は、君に討たれる事を望んでいるのだからね」
言われた士郎は、ハッとして少年の方を見やる。
対して少年はと言えば、ばつが悪そうにそっぽを向いていた。
「・・・・・・相変わらず、一言以上多い人ですね、あなたは」
皮肉な言葉を受け流しながら、言峰はフッと笑みを浮かべた。
確かに、
少年としては、ここで士郎が自分を殺すなら、それも仕方のない事だと思っていたのは事実である。
事情はどうあれ、自分は彼の友人を殺した。
ならば、その報いも当然、受けるべきだった。
このうさん臭い神父の登場で、それもご破算となったが。
「さて、お互いに積もる話もあるだろう。ここではなんだから、場所を変えようじゃないか」
そう言うと、言峰は2人の返事を待たずに歩き始める。
対して、
士郎と少年はいぶかる様に首をかしげながら後を続くのだった。
第39話「双閃双撃」 終わり