みかん少女とヨーソローな幼馴染が部屋にいる生活 作:すいーと
気まずさの残るまま夕方になった。リビングから逃げだすように自室に戻った俺は、どうしようもないドキドキと戦っていた。千歌のやわらかく艶っぽい唇の感触。形がわかるぐらい押し付けられた胸。部屋に戻る前に見た、それらとは真逆の印象を抱かせるあどけない寝顔。
俺の中の何かを壊すのには十分な破壊力だった。だが壊れちゃいけないものなのだ。それがなくなるときっと変わってほしくないものが変わるとわかっているから目を背け続けていたのだ。ふとスマホに映る時間が目に入る。
「そろそろ買い出しの時間か」
着替えをして玄関に行くために静かに部屋のドアを開ける。今千歌に会ったらどんな顔をしていいかわからない。酔って記憶がなければそれでいいが俺は覚えているから少し考える時間がほしい。空き巣のように足音を忍ばせてリビングを通ろうとすると後ろから肩を捕まれる。
「ひっ」
「なにこそこそしてるの?」
「なんだ曜か……脅かすなよ」
「もしかして買い出し?」
「そうだが」
「約束」
「外で持ってるよ」
「リビングで待っててよ」
「いや外で」
返事を待たずに玄関を出た。
夕方の少し冷たい風にあたる事数分。オレンジ色のウィックで変装した曜がやって来た。少し不満げな表情でこちらにやって来る。
「じゃあ行くか」
あえて表情に気づかないふりをして俺は歩き出す。三歩ほど後ろを黙って歩く曜は無言のプレッシャーを放ち続けている。それはスーパーの中に入っても変わらず買い物の間もずっとだ。落ち着かない感じで買い物を終え、帰路へとつく。
その途中の公園に差し掛かった時。
「真樹君止まって」
「ん?」
「公園寄っていこ?」
「少しだけな」
嫌予感がしてくる。でも断る理由がない。しかなくその提案に乗り入り口近くにあるブランコに腰かけた。曜はなぜか俺の正面に立つ。それだけなのにとても怖いものに思えた。
口が渇く。心拍数が上がるのがわかる。世界が回るようなそんな感覚に襲われる。緊張って奴だ。
曜は仁王立ちしたままスーッと息を吸い込むと、言い訳できないほどの声量で叫んだ、
「千歌ちゃんの気持ちから……私の気持ちから逃げるなー!!!」
「……」
魂の叫びにも等しいにそれに俺は何も答えることができない。図星だからだ。そのまま固まっていると曜の目から涙が溢れる。それはきっと失望の涙だ。
「真樹君がこんなにかっこ悪いなんて思わなかったよ。サイテーだね。あの時から何も変わってないよ君は」
あの時、中学の卒業式の時に俺は一度二人から逃げている。わざと遠くの高校に逃げるように進学したし、携帯もわざと変えた。世の中鈍感系難聴主人公が流行っているけど俺はそうじゃない。むしろ敏感なほうだ。千歌の気持ちも曜の気持ちもとっくに気づいていた。気づいていて決められなかった。どっちと付き合えばどちらかが悲しむのが嫌でみっともなく逃げ出した。時間を置くことで何かが変わると信じて。でも時間は何も解決してはくれなかった。むしろ3年という時間は事態を悪化させた。魅力的に成長した二人の姿だ。二人は俺が止まっている間にスクールアイドルの頂点になっていた。俺なんかが届かないくらいの遠くに行ってしまっていた。でもこれでよかったとさえ思っていた。それを言い訳にしてこのまま何事もなくなって都合のいいことを考えていた。結果が千歌のキスだ。あれはたぶんわざと曜が止めなかったのが証拠だ。二人がここまでするぐらい俺が追い詰めたのだ。逃げて逃げて逃げて。ごまかして気づかないふりをして。かっこ悪いままでいいのか? いやよくない。ならどうすればいい?
「ああ。俺はかっこ悪い。サイテーな奴だ。軽蔑したか?」
「…………」
曜は答えない。ただ俺がどうすどうするのか黙ってみている。いや俺の後ろの茂みをしている。
「千歌はここに着ているのか?」
「ばれてた?」
当然のように公園の物陰から千歌が出てきた。やっぱりこれは二人が仕組んだ俺への最終審判だったのか。
千歌が曜の横に並ぶ。覚悟を決めよう。
「曜、千歌。今更だけど俺は二人とも大切に思っている。だけど優柔不断だったせいで辛い思いをさせたと思う。ごめん。でも俺さ、やっぱり二人ともに笑って欲しいって思う。俺、欲が深いからさ、……その――」
「あはははっ」
続けるはずの言葉は千歌の笑い声のかき消された。
「何で笑うんだよ」
「真樹君ごめん私も無理っ。ははははっ」
「曜までっ」
「だって~。曜ちゃんとがんばって考えた作戦で出た答えが堂々の二股の宣言だよ? なんかおかしくて。真樹君は結局真樹君なんだもん。はははははっ」
「真樹君さっきも言ったけどサイテーだねっ。でも私は真樹君らしくていいかな」
シリアスな雰囲気はどこえやら。緊張で息を吸うのもつらかった公園には二人の笑い声がこだまする。
「千歌もサイテーだけどいいと思う。サイテーだけど真樹君らしいと思う」
「サイテーだけど最高の答えになるよう頑張るよ俺。んじゃあ帰るか?」
地面に置いてある買い物袋を回収してで出口へ向かう。
「あっ」
背中のほうから声がした。いつの間にか俺の両耳に二人が立っていて、
「「答えだしてくれありがとう」」
とだけささやいて二人で俺の腕を1本取ずつ取る。からませた腕には4つの膨らみ。それに挟まれるようにして帰路につく。
三人並んで家に帰る。三人で夕食の調理をして食べて三人で寝る。さすがに風呂は別々だけどな。
これが入学式の前日の出来事。
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