Fate/Grand Order 特異点α 天神煩殺聖都立川 作:十三番目の弟子(帰ってきた)
2月4月、草木も眠る丑三つ時。カルデア最後のマスターである少女、ぐだ子は口から白い息を吐き出しながらシーフードのインスタントラーメンを啜る。
「ねぇ、ジャンヌ」
マスターの呼び掛けにルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクが顔をあげる。そんな彼女の手には何時もの旗はなく、フォークとカレーのインスタントラーメンを持っていた。
「何ですか、マスター」
ぐだ子はジャンヌに向けていた顔を正面に戻して、ため息を一つ吐いた。その視線の先には、異様な熱気に包まれた団体が。
「やっちまってください!茨木の姉御!」
「させません!シールダーの本領、見せてやります!」
マシュに迫る丸い物体。それをマシュは両手で受け止める。その正体は、ボールであった。
「お前ら出ろ出ろ出ろ!点数取るぞ!」
先程、細い鬼に上着を渡したために上裸になった翼の生えた男が、鬼たちに指示を出す。
彼らは、フットサルをしていた。
「私たち、アメリカにレイシフトしようとしてたはずだよね…」
「そのはずですね…」
それが何故か、日本の何処かに飛ばされ節分が終わった地獄の鬼たちと共にフットサルをすることに。
「アルジュナさん!フランさん!いきますよ!」
「磔刑の雷樹」
「ゴッド・ハンド!」
「破壊神の手翳」
「明けの明星」
途中で宝具を撃ち合ったりして超次元フットサルになったが、試合は無事に終わった。結果は引き分けあったが、鬼たちは楽しかったと言いながら地獄へと帰っていた。
上着を借りていた鬼を残して。
「た、大変だった……というかルシファーなにやってるんだろ?」
鬼の面が落ち、下から人の顔が出てくる。
その顔を見たジャンヌは、思わず跪いて拝んでいた。
「ちょっ…ジャンヌちゃん!立ってくださいよ、私はバカンスで下界に遊びに来ているだけなので」
アルジュナは顔を見て相手が誰であるかわかっているために、驚愕を露にした。しかし、それ以外の面子には彼らの行動理由がわからず頭に疑問符を浮かべていた。
「えっと…ジャンヌ、知り合い?」
代表してぐだ子が尋ねると、ジャンヌは上気した顔で答えた。
「この方は…私が崇める偉大なる父の子、イエス様、イエス・キリスト様です」
カルデア一行は、思わず吹き出した。いや、まさかイエスが地上に降臨して鬼たちとフットサルをしているなんて思わないだろう。というか思ったら凄い。
「バッチカン!…寒いし、一旦家来る?」
「イエスさんって凄いくしゃみするのね」
そして一同は、イエスを先頭に歩き出した。聖人がもう一人住む松田ハイツに向けて。
「イエスさん、どうして下界に?」
「私の友人と一緒に休暇をとってね。世紀末を乗り越えて2000年分の有休が貯まっていたからそれを消費しようと、私の友人と一緒に休暇をとってね」
イエスの横を歩くぐだ子は、イエスと楽しそうに会話をしながら歩く。ぐだ子の中でイエスは親しみやすいおじさんというポジションに落ち着きそうになっていた。
まあ、仕事モードになっていないイエスはゆるふわであるから仕方がないが。
そして松田ハイツに辿り着いた一行。ドアチャイムを鳴らして扉を開けてもらう。
「イエスおかえ「お久し振りですブッダ様!!」アルジュナ君!?立って!こんなところ松田さんに見られたらまた変な職に就いてるんじゃないかって聞かれるから!」
次の瞬間、過程が消え去りアルジュナが五体投地していた。イエスは天恵を受けて反射的に飛び退いていたため被害を受けなかったが、一部サーヴァントが吹っ飛んだ。茨木は口から酒を吹き出しながら放射線を描いていた。
「ブッダ様どうかしたんスか?」
ブッダの後ろからひょっこり顔を覗かせたのは、目の細い茶髪の男にしてイエスの弟子、ぺトロであった。
ぺトロはジャックを視界に入れた瞬間に目を見開いて固まった。
「兄さん、どうした……って、ジャンヌちゃん」
さらにぺトロの弟、アンデレも出てきた。ジャンヌがいろんな意味で凄い顔をしている。
「えっと…とりあえず上がって?」
イエスが白目を剥きながら、光溢れるアパートの扉を指差した。
──────
「……という訳で私たちはアメリカに転移しようとしていたら何故か此処に転移してしまったんです」
「うーん……カルデアに人理焼却かぁ。この世界ではそんなことおこりそうに無いなぁ」
ブッダはわりと頻繁に降臨してくる神や大天使達、神仏を思い浮かべながら、世界が滅びそうになったらどうなるか考える。
『イエス様とブッダ様の休暇を邪魔する不届き者め!死ね!』
『おや?その程度でいいのかい?』
ブッダは痛み出した頭を抱えた。彼等なら確実に殺るからだ。
「あっ、ブッダ!見つけたよ」
イエスが本を開き指差しながら言う。その本の名は、ラジエルの書と言った。イエスがデモハンをするときによく使う本である。
「えっと、何々…人類史において重要なターニングポイントを破壊することで今の人理を焼却する…え?ソロモンさんがやらかしてるの?!」
「うん、そうなってるんだよ…この世界のソロモンさんはしないと思うけどねぇ。オタク文化にドップリだし」
ちなみにソロモン王、最近はプロデューサーをやっているらしい。『我はソロモン王に在らず。我はソロモンPである!』とか叫んでいる所を目撃したとぺトロンを筆頭にツイ○ターにて多数報告されている。
「この世界が滅ぶとしたら、それこそイエスに何かあるかミカエル君がうっかり終末のラッパを吹いてしまうか……スターウォーズを見たときに止める人が居なかった場合だね」
ぐだ子は、思った。
この世界超危ない、と。
人理焼却が無いなんていいなー憧れちゃうなー、とか思ってた自分が居たけど一瞬で消え去った。うっかりで世界が滅ぶとかどんだけだよ、とか思ったが、ジャンヌやアルジュナが苦笑いしている所を見るとガチっぽい。
「えっと…世界ってそんなに簡単に滅ぶものなんですか?」
マシュが恐る恐るといった感じで手を挙げ疑問の声を発する。イエスとブッダは顔を見合わせた。
「最近だったら伊豆旅行でミカエルがSAY YESを歌って〆で終末のラッパを吹こうとしてたね」
「ウリエル君がワサビ根絶やしにしようともしてたねぇ」
和やかに笑いながら語る二人に、カルデア一同は顔を青くする。
「アルテラがよく召喚陣を破壊しようとするけど…この二人の会話を聞いていると可愛く思えてきた」
「先輩、しっかりしてください。それは毒されているだけです」
アルテラが何処からか電波を受けるのか、『ガチャは悪い文明』と言って軍神の剣を放とうとするのだ。毎回それを止めるぐだ子とマシュも大変である。
その横で突如イエスが吹き出して笑い出した。近くに置いてあった2Lの水が葡萄酒に変わった。
「イエス…水が」
「ご、ごめんよブッダ。カルデアの沖田さんと織田信長の兼ね合いが面白くって…そうだ!今度パンチとロン毛でこれやろう!」
さて、葡萄酒。それは酒である。イエス・キリストが奇跡を用いて水から変換して造られた神の子の血である。そして、『酒っ!飲まずにはいられないっ!』といって神便鬼毒酒を煽った酒であれば飲む鬼がここにはいた。
「ブッダよ、その酒を貰っても構わんか?」
「あ、茨木さんは鬼でしたね。どうぞ」
そして、茨木童子は葡萄酒を一気に煽った。
さて、サーヴァントは神の子の血を受けた杯程度で、限界を突破して強くなる。ならば、神の子の血を直接飲めばどうなるのだろうか?
茨木童子が、眩い光を放つ。
「うわっ!」
「ばらきっ!?」
「先輩!下がってください!」
光が収まった場所には、右手には明王の象徴たる迷いや障害を焼き付くす金色の炎を、左手には焦熱地獄にて獄卒の罪を焼く紅蓮の炎を宿した、聖であり邪である荘厳克つ厳格な雰囲気を纏いし夜叉が立っていた。
「えっと…ばらきー?」
「ク…ククク……クハハハハハ!凄まじい!この身にたぎる力!今なら乳袋も片手で潰せる!」
牙を剥き、壮絶な笑みを浮かべる茨木童子。その気の高まりに呼応するかのように、炎も燃え上がる。
『何者かが我等の世界に干渉してきた故、何事かと思えば……貴様か、茨木』
茨木童子が、恐る恐る背後を向く。すると、そこにはスタ○ドのごとき効果音を纏った身の丈八尺近い巨漢がいた。
「あれ?不動明王さん?お久し振りですね」
『お久し振りです、ブッダ殿。来たばかりですみませぬが、我はコレを仕付けねば成らぬ故、帰らせて頂きます』
不動明王は、茨木童子を猫のように掴み上げると彼等の世界に帰っていった。
哀れ、茨木童子。まさかの出落ちであった。