中身が無いのはいつも通り
ゾンビだから、ゾンビだから
まわり めぐる ぐーるぐる ぜんぺん
レイズ市は世界で有数の怪奇都市である。
怪奇都市。
この通り名は、
決まった定義がある訳では無いが、広く使われる物として、
都市の人口総数を10として、怪物の総数が1を超える場合
つまり、人口の一割以上の怪物が潜んでいる。
この場合に怪奇都市と呼ばれる事が多い。
驚くなかれ。
レイズ市は人口10万と少しに対し怪奇潜伏率が3割を超す。
怪奇、怪物は人間に対し攻撃的ないし差別的な者が多い。(この特徴は歴史的に見て人間の本質でもあるので決して怪奇に限った事でもないが。)
兎も角、
攻撃的である怪物がそんなに居ては都市として機能しないのでは無いか。と言う疑問があるだろう。人間はしばしば、怪物の捕食対象となるのだから。まともに共存が成り立つ事例は少ないと言える。
実際に、過去には怪物が増え過ぎたあまり死都と化した都市もある。
しかし、レイズ市内では、怪物の暴走は比較的抑えられている。
それは何故か。
RPD。レイズ市警の存在だ。
市警は、怪奇に対する暴力装置を確保していた。
その名も刑事部 0課。
怪奇に対して、殺害権を有する唯一の国家権力である。
○
長身の背広の男が「ムルナウ屋敷」の応接間に通されている。
長身で細身の男が礼儀正しく座っているだけであるが、男の雰囲気からか威圧感が漂っている。
男は平素から顔を見られるのを嫌う。
故に、男にしては珍しいベールを用いて顔を隠しているのだが、それが一層本人の第一印象を悪い物にしていた。
「あ、少し待ってねスレンダーさん今お茶を淹れてくるから」
ーーありがとう。
「いえいえ」
屋敷の主人の言葉に、男は返事をしてはいない。
漆黒のスーツに身を包んだ男は寡黙な性分であった。
正確には、相対するものがこちらの意を汲んでくれるのでいつ頃からか喋る事を忘れてしまっているのだ。
男の名はスレンダー。
レイズ市警刑事部 0課のリーダーである。
本日は、屋敷の主人である吸血鬼に確認したい事があり、此処まで足を運んだのだ。
「そう言えば冷蔵庫にケーキがあったねぇ・・・ほわぁっ!マリーちゃーん!どこだーい?」
ーーはて、何事だろうか。
○
やあ諸君。不死身の吸血鬼さんだよ。
今日は珍しい客人がやって来ました。
レイズ市警のスレンダーさんですね。
日々仕事で忙しい中お越しになった彼を持て成そうと準備をしてたんですが、
「ねえマリーちゃん。今日は何を食べたの?」
「うでたべた」
「それだけ?」
「あたまもたべた」
「だろうねえ」
「?」
「お客さんにケーキを出そうとしてね?冷蔵庫を開けたんだ。そしたら僕と目が合ったんだよ、冷蔵庫の中の僕とね」
「うん」
これにはぼくも久方ぶりの悲鳴を上げてしまった。
冷蔵庫を開けて自分を発見するなどホラー映画顔負けじゃないか。
「君がいつから冷蔵庫の事を知っていたかはこの際聞かないけれど、これは聞いておこうか。何で冷やそうと思ったの?」
「ひやしたら、おいしくなる?」
ああ、そうか。
そう言えばそんな会話したなあ。
つい先日マリーちゃんとおやつのゼリーを食べた時に、冷やしたら美味しく食べられるみたいな事を言ったのはぼくだっけ。
「頭はね?冷やしても味は変わらないと思うんだ。ぼくは頭なんて食べた事無いけど。だからコレは今食べちゃおう」
「もぐもぐ」
冷蔵庫にそんな大きな
そんな物が冷蔵庫を占拠すると
○
「いやあ、お待たせしてすみません」
ーー随分と、楽しい家族が居るようだね。
「ははは」
さて無事にお茶とケーキを取ってきたのでお話をしましょう。
「くろいひと」
「おっと、マリーちゃんに紹介がまだだったね。この人はスレンダーさん。スレンダーさん、こちらはマリーちゃん」
ーーよろしく。
「(このひとを)たべていい?」
「駄目ですねえ」
ーーははは。
笑い事じゃないんですスレンダーさん。
この物腰柔らかく、しかし安心出来ない雰囲気を醸し出しているスーツの男性はスレンダーさん。
全く喋らない人ですが何故か言いたい事が分かってしまうんですよね。
「さて、今日はどういったご用件でしょう?」
ーーいや、用件と言う程でもない。大した事ではないさ。
何しろ彼らは怪物の天敵。
その中で最も恐ろしいのがこのお方ですから。
ーー知っているか?市内でグール被害が増えている。
「グール、ですか初耳ですね」
ーーそうか?此処に来るまでの森の中にも何体か居たのだが。
「あはは。お恥ずかしい事に、種族内に敵が多くてですね。そのグールはどうされました?」
ーーしっかりと
「ありがとうございます」
ーー用件と言うのは他でもないその事でね、君が産み出したものでは無いと、確認が取りたかったのさ。
「なるほど、疑われていたんですね」
ーーまさか、君が人を害するなど思ってないさ。だが、捜査を進める上では一番に排除しておきたい可能性でもある。
怖いなあ。
「ぐーる?」
「グールと言うのはねマリーちゃん、そうだなぁ・・まあ君の仲間に近いのだけれど。カブトムシとクワガタくらいの関係かな。違うか」
「たべれる?」
「どうだろう?」
もう。君はそればっかり。
ーーふむ、その少女は・・ゾンビか。
「ええ、家に住まわせてます。だ、大丈夫ですよ?今の所被害者はぼくだけですから」
ーーそれで大丈夫と言えるのは君だけだろうが、市民に被害が出ない内は何も言わないさ。
「おなかすいた」
「おっと待つんだ今はお客さんの前だから、ね?」
ーーふむ、飴を差し上げよう。
「「わあい」」
ありがとうスレンダーおじさん。
ーー今回の事に君は関与していない、と。なら、行動を起こしそうな吸血鬼に心当たりはあるか?
「あはは、お恥ずかしい事に。種族内で仲間外れにされておりまして、はい・・・・ぐすん」
ーーそ、そうか。すまない。
本当に申し訳ない。
異種族の知り合いの方が多いんだもの。
吸血鬼の方は世間話の一つもしてくれないんだもの。
ーーそれでは、私はこれで。
「もうお帰りですか?クッキーを焼いたのでお土産にどうぞ」
ーーありがとう。
「さあマリーちゃん。君もスレンダーさんに挨拶を・・ってあれ?マリーちゃーん?どこかなあ?」
ーーついさっき、部屋を出て行ったようだが。
「居ないねえ。家のどこにも」
マリーちゃんが家出しました。
今回は前編後編を予定。
マリーちゃんはどこにいったのか。
人物設定
市警刑事部0課長 《スレンダー》
アクの強い怪奇対策課を纏める実力者。
全身真っ黒の背広。顔はベールで隠している。
本人は喋らないのに雰囲気と身振りで言いたい事が分かる。