きまぐれ ぶらっどろーど   作:外道男

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わーきんぐ もんすたー さいどえる

レイズ市は世界で有数の怪奇都市である。

 

町に潜む怪奇は戸籍を持たない者が多く、人が住まなくなった廃墟を怪奇が占領する、と言った例は珍しい事では無い。

 

特に怪奇の数が多いレイズ市は世帯数と比較しても見かけ(・・・)の廃墟が大量にある。

 

歴史的な石造りの街並みを受け継いでいる市中の廃墟ともなると、古めかしきゴシックホラーさながらの雰囲気が漂う。

レイズ市の、ある意味で観光名所でもある。

 

名所とは言え、必ずしも立ち入って良い場所を示す訳では無い。廃墟マニアの人間が町を訪れては見かけ(・・・)の廃墟で消息を絶つ事態はざらにあるのだ。

 

刑事部0課や死神という存在に勘違いをする者も多いが、彼らは怪奇を取り締まるのであって、人間を守る仕事では無い。

只の好奇心で虎穴に入らんとする者を守る程、現実は甘くないのである。

 

 

また町の幾つかの場所には、どれだけ探しても辿り着けない場所がある。

ホラー映画で見たことが無いだろうか、“何時の間にか道に迷っている” “来た道を帰っている筈なのに構造が変化している” と言う場面だ。

 

怪奇達は時として地形さえも意のままに操る。ある時は“人間を捕らえる罠”、ある時は“外敵を追い返す防衛装置”。

 

自分達の棲みやすい空間へと改造していくのは、人間の専売特許では無いと言う事だ。

 

 

とある裏路地にも、通常では辿り着くことが出来ない不思議な店があった。

 

 

 

 

 

 

 

その店は、決して見つかる事は無い。

 

探しても見つからぬ。

名前が知られていようと、何処にも無い。

そんな摩訶不思議な店。

 

何故に探しても見つからぬのか。

 

その店に辿り着けるのは決まって、悩みを抱えている者のみ。

悩みし者が漂う内に、この店の扉を叩くのだ。

 

そう。

探しても見つからぬ筈だ。

この店が(・・・・)客を誘い込むのだから。

 

店主の掛けた(まじな)いによって姿を隠し続けるその店は、今日も悩める者の訪れを待っている。

 

その店の名は。

魔法店アダム・シーカー。

 

 

 

 

 

魔女リリスの朝は早い。

 

5時起床。

肌寒さに身体を縮ませながらも洗面所に向かい顔を洗う。その後は自室に戻り、瞼にこびりつく眠気をぐしぐしと手で追いやりつつパジャマから普段着に着替える。

 

朝食は自分で作る。

リリス程の魔法使いであれば魔法で食事を作る事だって可能であるが本人はそれを望まない。

食材は週一回買い込みを行い足りないものを補充している。一週間で食べ切れる量を保つのが大事だ。

 

食事には必ず牛乳が付く。

いつ頃から始めたのか忘れたが、自身の身長を伸ばす為に行われている無駄な努力(自覚あり)である。

 

 

食事を食べ終えて食器を片付けるとリリスは店内に移動する。

 

リクライニングチェアに座り、膝に毛布を掛けると、後は日がな一日 客が訪れるまで本を読みふけるのだ。

 

そう言えば昔、この生活スタイルを【不死身】が見て、「まるで楽隠居した御老体だね」なんて抜かした事があった。

 

あの時は、そう、ブチ切れた魔法使いから〝口にした物が全て砂になる魔法〟を掛けられた【彼】が、翌日にはわんわん泣きながら店の床に平伏(へいふく)したのだったか。あれは痛快だった(少し罪悪感も湧いた)。

当時は19世紀初頭だったが、未だ接点のない極東日本に伝わる文化的謝罪方法(DOGEZA)を偶然にも実践していたと知るのは後の事である。

 

あまり懐古が過ぎると年寄り臭いなと思考しーー実際年食ってるとは言ってはいけないーーリリスは顔を上げた。

ちょうど良いタイミングで来客の予感がしたからだ。

 

また1人、悩みし者を店が引き寄せているのだ。

 

 

カラン、と魔法店の扉が開かれた。

 

客は、短めの茶髪の女性だった。

厚手のコートは早朝の路地裏の冷気から身を守るには十分だが、空気調節の行き届いた店内では少し暑かったようで直ぐに腕に掛けられた。

 

女性としては背が高く、椅子に座っているリリスからはその顔がはっきりと見えた。

本来なら活発な印象を受けるだろう麗人は、一目で悩みがあると分かる陰があった。

 

観察は程々に。

客人に対しての挨拶は店主の務めである。

 

「いらっしゃい。ようこそ魔法店アダム・シーカーへ」

 

 

 

 

 

 

「アタシはこの店の主リリスよ」

「シノ、と言います」

 

「ここは悩みを抱えた者が最後に訪れる場所。貴方の悩みは此処へ導かれる程の物のようね」

「そう、なんでしょうね」

 

魔法店の呼び込む客の悩みはその者の人生に直結する場合が大半だ。進退(きわ)まって店に来ているのだからそれも当たり前かも知れないが。

 

「そうね。復讐、いや、殺し、かしら?」

 

図星だったのだろう。

質問に対して客人は表情を強張らせた。

 

「分かるんですね」

「まあね。顔と雰囲気で何となく分かるくらいだけど。後は、アンタが人じゃ無い事とか」

 

女性からは人ならざる者の気配がした。

客人は更に身を固くした。恐らく、そこが今回の話の要なのだろう。

 

「話してご覧なさい。何故人外の貴女が、この店に来るに至ったのかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

…貴女の仰る通り。私は怪物です。

人狼と言えば分かるでしょうか。

 

人と怪物の熾烈な戦争が終わり、人狼の多くが都市で暮らしているのは有名な事です。

 

ーー我々は人と争う必要は無い。

戦争後の長老代行の方針は間違いなく正しい物でした。

私、憧れていたんです、人の社会で暮らす事に。

 

 

レイズ市で生活をする中で、私は人間の男性と恋に落ちました。彼は、私が怪物でも構わないと、君を愛していると言ってくれました。そんな彼だからこそ、結婚したいと思ったのです。

 

結婚から暫く経ち、子供が出来ました。男の子です。夫に良く似て、笑顔が眩しい子で。

 

人狼の性質が受け継がれていなかったのはあの子に取って幸運でした。怪奇の子供はあまり良い待遇を受けていないと聞いた事がありますから。

 

すいません。

此処までだと唯の惚気に聞こえますよね。

 

問題が起こったのは最近の事です。

私が怪物である事を、職場の男性に知られてしまったのです。

 

あの男は私の事を、私の息子の事を、言い触らす気でいました。

怪物である事が明るみになれば私たちは街で暮らすことが出来なくなります。だから必死に頭を下げました。どうか秘密にしていて欲しいと。

 

 

あの男は、秘密を守る代わりに金銭を要求して来ました。

2週間で、200,000ドルを用意しろ、と。

用意出来なければ秘密は守られないと。

 

それから只管にお金を工面しました。

方々に訴えかけ、夫にも迷惑を掛けました。

そして、なんとか2週間以内に200,000ドルを揃えることが出来ました。

昨日の夜の事です。

 

あの男に金を渡してこれで安心だと思っていた私は、きっと世間知らずの大馬鹿だったのでしょう。

 

 

 

最初から約束を守る気なんて無かったのです。

 

『お前ら怪物と約束なんてする訳無いだろ』

 

『どうしても黙ってて欲しいなら金をこの倍は用意しないとな』

 

あの男はそう言って嗤いました。

 

 

200,000でさえ無理をしたのにその倍なんて不可能でした。

もう…どうしたら良いのか。

そう思っていた時に、風の便りに聞いたこの店を見つけたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

リリスは片手間に読んでいたゴシップ誌を閉じた。

 

 

「まあ、話は理解したわ。その男を殺したい理由もね。アンタは家族の為にその男の口を封じないといけない」

 

こくりと、シノが頷く。

 

「それじゃあ、ここからは仕事の話。その依頼は受けても良いわ。その下衆男は気に食わないし」

 

自分勝手な行動で迷惑を掛ける男はリリスの抹殺対象である。特にアダムのクソ野郎(元カレ)。アレは絶対に赦さない。

 

そんな訳で正直今回の依頼は無料で引き受けても良いのだが、魔法店の店主として通すべき仕事の流儀がある。

 

「ウチの店の噂を聞いた事があるなら知ってると思うけど。依頼の対価が必要よ。もちろん、人殺しの代償は金なんかじゃ贖えないわよ」

 

魔法に、人外の奇跡に縋るのなら、対価が必要だ。

元来魔法とは神の奇跡の模倣である。

即ち、人の手では決して届かない領域の実現。其れを行うには何かしらの代償が必要とされた。魔法を行使する為の“尊い(価値ある)犠牲”である。

魔法に犠牲は付き物なのだ。

魔法を夢見る少女は実態を知れば幻滅間違い無しだろう。

 

リリスは、依頼者から必ず対価を払ってもらう事を、魔法店を経営する上での決まりにしていた。

 

 

「…分かっています。ですから私の命に代えてでもあの男を」

「へー、自分の命を懸けるわけ?」

「ええ」

 

シノは随分と覚悟を決めているようだが、リリスとしてはその返答は非常に不愉快だった。

 

「ふざけんじゃないわよ」

「…え?」

 

「死んで楽になりたいのかしら?殺しの贖罪が自分の命を差し出して済むとでも思っているの?アンタがその気なら依頼の対価を旦那さんや息子さんに請求しても良いのよ」

 

「そんな!?家族には何の罪も無いでしょう!私だけが罰を受ければ…!」

 

この女は、何も分かっていない。

そんな“身勝手”は許されない。

 

ああ、腹が立つ。

あのクソったれの事を思い出してしまう。

思わず漏れ出した怒りが手元のゴシップ誌を黒炭へと変えた。

 

「何の罪も無い家族を置いて逃げるのね」

「違っ」

「違わない、何も違わないの。アンタのソレは逃げてるだけ。考える事を放棄してるだけ。自分が居なくなって、残された家族がニコニコ笑って生活出来ると本当にそう思うの?」

「…っ!」

 

そう、彼女はまだ罪を犯す気でいる。

愛する者を悲しませるという大罪を。

 

「自分の命が惜しくないなら家族の為に尽力するくらい言えないのかしら。そうね…。アンタは自分の命を差し出しても良いって言ったわね?」

「は、はい」

 

 

ーーなら、本当に死んでもらうとしましょうか。

 

魔法店の主人は艶然とした笑みで依頼人を見据えた。

 

 

 

 

 

 

“対価”の準備の為に調達屋ダグと交渉をしたリリスは、翌日の朝には報酬の肉が届くよう手配して店の椅子に腰掛けた。

 

 

「あの坊や本当に肉好きね。身体壊さないのかしら」

 

ずぼらな食生活に思う所はあるが、怪奇と普通の生物ではやはり大きく違うのだろうと思考を投げた。

 

 

「さて」

 

事前の準備は全て終えた。

後は、依頼を完遂させるだけだ。

 

 

最高・最悪・最強。

軽く考えてもこれだけの枕詞が並ぶくらいにはリリスという魔女は有名だ。

有名とは言え魔法店に訪れる者が少ないので、噂ばかりが蔓延するのだが。

 

噂とは尾びれ背びれが付くものだが、この魔女の噂に関してはたとえ胸びれが付こうとも噓偽りは殆ど無い。

 

曰く、

今まで受けた依頼は100%成功。

曰く、

依頼は受けたその日に完遂する。

曰く、

狙われたら死ぬ。

 

全て、全て事実である。

 

 

「下衆男の名前なんだったかしら」

 

メモ書きに男の名を書いてあったのを思い出して確認すると直ぐに燃やした。

リリスが片手を上げると部屋全体が発光し、宙に呪文が走り始める。

 

「魔法とは即ち(まじな)い。人を呪うのも魔法の1つよね」

 

人を呪わば穴二つなんて言葉がある。

呪いに手を出した代償は必ず自分に返ってくる。やはり魔法には犠牲が付き物と言うことか。

 

東洋には因果応報と言う言葉があるが正にその通り。

 

「アンタに降りかかるのは呪いかしら。いいえ、言い換えるべきでしょうね」

 

魔法が完成し、部屋が一際大きな光を放った。

 

「これは報い(天罰)よ」

 

その悪徳に報いを。

 

“天罰覿面(てきめん)魔法”、発動。

 

きっと、金の亡者に相応しい裁きが下るだろう。これはそう言う魔法である。

 

 

 

 

翌日 魔法店アダム・シーカーにて。

 

 

 

「さて、シノ。依頼は完遂したわ。知ってるわね?」

「は、はい。あの男が失踪した、と。何とお礼を言ったら良いか」

 

「お礼なんて要らないわよ。それに、まだ対価も受け取ってないわ」

「…っ。はい」

 

「そう緊張しなくても良いわ、直ぐに終わるから」

 

リリスはそう言うと机にガラスのコップを置いた。コップには透明の液体が揺れている。

 

「それは…」

「貴女にはこれを飲んでもらう。特殊な薬よ。安心して、味はしないから」

 

調達屋に取ってこらせたマンドラゴラを煎じて作った薬である。

 

「これを飲んだ瞬間貴女の全身を激痛が襲うわ」

 

コップに触れようとしたシノの指がびくりと震えた。

 

「酷い痛みよ。一生分の責め苦を受けて、激痛に悶え苦しんだその後で、アンタは命を喪う。それでも飲むかしら?」

 

飲み下せば確実に命を落とすだろう。

正しくそれは飲む者にとっての劇薬に他ならない。

しかし、これは運命だ。

彼女が導かれて魔法店の扉を開けたその時に、こうなる事は決まっていた。

 

彼女はここで、死ぬべきなのだ。

 

シノは説明を聞いて尚意志の強い瞳でリリスを見つめ返し、コップを握った。

 

「家族への代償では無いんですね?」

「ええ、約束するわ」

 

「分かりました。最初から覚悟はしていましたから。本当にありがとうございました」

「ん」

 

「また、いつか会えると良いですね」

「そんな日は来ない方が幸せよ」

「ふふ、そうですね」

 

 

「じゃ––––死になさい」

 

 

シノは、一気に液体を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっ、お母さん!

 

うわ。もう、慌てないの。学校はどうだった?

 

うん!あのねーー

 

 

 

 

 

 

「ふーん?“金塊男(ゴールドマン)現る!?”ねえ…。妥当な結末かしらね」

 

「よお、ババア」

 

小学校の向かいのカフェでゴシップ誌を読んでいたリリスは声を掛けられて顔を上げた。

 

長身の男、調達屋のダグは向かいの席に座る。

 

 

「今回の件は助かった。礼を言うぜ」

 

ババア呼びは礼を欠いていると思わないのかこの駄犬は。

 

「肉は坊やが正当な報酬として要求したんでしょ。礼なんて要らないわね」

「違うわい。そりゃ肉の礼はあるが、あっちの礼だよ」

 

ダグが顎で示した先、小学校の正門では仲睦まじい人間の(・・・)母子が並んで歩いているのが見える。

 

「本来なら、今回の件は長老(リーダー)代行の俺が真っ先に気付くべきだった。アンタには世話を掛けた」

 

「それも気にしてないわ。寧ろ、小言の1つでも言われると思ってたけど」

 

「確かに、種族を人間に変えちまうなんざ非常識だ。立場上は何か抗議でもするべきなんだろうが…」

 

窓ガラス越しにもはっきり見える、あの笑顔と絆は、彼女の掴み取った物だ。

 

「幸せになろうとしてる奴に、祝いの言葉以外は要らねえよな」

「アンタも偶には良いこと言うじゃない」

「うるせー」

 

 

「それはそうと」

「まだ何かあるの?」

 

「あの薬、本当に必要だったのか?」

「どういう意味よ」

 

「しらばっくれるなよ。アンタ程の魔法使いなら副作用の無え薬だって作れた筈だぜ」

「作れるわよ」

「おいおい!」

 

「魔法は万能よ。何でも出来るわ。でも、何でも出来るからって何をしても許されるかしら」

「それは、まあ分かるが」

 

「痛みを知らずに成功に至った所でその先は破滅よ。痛みは生物の生まれつき持ち合わせる理性の象徴。それを欠いて真っ当な人生が歩めると思う?」

「ふむ、確かに」

 

「今回の事は彼女に取っても良い機会だったのよ。人を殺すのだから、自分も死ぬ程の痛みを受けないといけない」

 

 

だから、

 

「だから怪奇として彼女は死ぬべきだった」

「そして、人間として再出発(・・・・・・・・)、か?」

「そう言うこと」

 

話に区切りが付いてダグは立ち上がった。

 

「冷酷に見えて、良い奴だよなアンタ」

「うるさいわね」

 

「いつも面倒だーとか言ってる割には、面倒臭い事ばっかしてんじゃねえか」

 

 

「はん、趣味で始めた仕事よ。やりたいようにやるのがアタシの流儀なの」

 

 

〈fin〉




これにてお仕事訪問篇は終了。

プロフェッショナル出演待ったなし。

金に目の眩んだ下衆男は、手足の先端から徐々に金になり、助けを求めた末に釘バットで粉砕され、砕け散った後は回収され市警の資金源になりました。

使われた魔法は天罰覿面魔法
対象の不徳や罪業を"報い"として与える魔法
発動した時点からリリスの手を離れ、対象に相応しい報いが与えられるまで機能する。言い換えると「運命を誘導する魔法」であり、もし今回の対象が魔法の発動中に己の行いを悔いて更生する余地があったならば、死の運命を回避できる可能性はあった。実際はそうならなかったので、運命は対象をマイヤーズの所まで誘導した

凄い(小並感)
強い(事実)
優しい()
ババア(誹謗中傷)


それではまたお会いしましょう
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