きまぐれ ぶらっどろーど   作:外道男

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お待たせしました

一応の区切りが付いたので、
今後の更新は気分次第となります


うごけないかれ と うごくかのじょ こうへん

 

レイズ市。

 

人口10万と少し。

寂れた石造りの街並みではあるが、人類の科学の発達による影響はこの地方都市においても少なからず有り、昔と比べて怪奇(・・)の潜伏率は下がっているそうだ。

 

そのレイズ市の中で、長く語り継がれる別格の都市伝説(怪談)がある。

 

 

ーーー『百鬼夜行』ムルナウ屋敷。

 

 

レイズ市の郊外に、廃屋がある。

既に亡くなった所有者の名が付けられたその屋敷は、所有者の怨念により亡霊が飛び交い、屋敷の周辺には科学の通用しない怪物が彷徨っていると言う。

噂を聴き付けて肝試しをする若者も大勢居るが、その度に行方不明者が増えるそうだ。

 

 

 

 

「おーおー、3月でもまだ冷えるねえ」

 

ムルナウ屋敷に続く林道の中を歩く男が居た。

無精ひげで茶髪をオールバックに纏めた大柄な男は、外気が肌寒く感じて両手をライトブラウンのコートの中に突っ込んだ。

陽の光があまり届かないこの林道の中は、春になろうと言うのにまだ冬を残していた。

 

男の名はダグ。

 

調達屋を営む彼に仕事の話が舞い込んで来たのは、ちょうど朝食も食べ終わって散歩にでも繰り出そうと考えていた時だった。

頭に声が流れ込んで来た。

魔法を用いた連絡だ。

 

唐突に連絡を寄こしてきたのは魔女リリス。

ダグの知り合いの中でも危険度トップクラスのロリババアであった。

 

話を聞くとあの【不死身】が貧血状態(・・・・)で寝込んでいるらしいではないか。

 

ダグは【不死身】の数少ない友人である。

どうにも迂闊な所のある友人の、吸血鬼らしからぬ失態を聴いてダグは笑いながら旧友への物資運搬を引き受けたのだった。

 

 

「さぁて、もう着くか・・・・うん?」

 

 

もう林道から屋敷が見える位置まで来たダグは、異変を感じて眉を(ひそ)めた。

 

(にお)う。

強烈な臭いが鼻を刺激する。

自身のいる場所から近い林の向こうに、何かが居た。

 

臭いは、僅かに乾いた血の臭いと、腐敗臭だ。

 

「ァァ・・ウアァ」

「おやまぁ」

 

姿を見せたのは一体の人型。

冬に合わせた衣装はボロボロで、右腕が肘から欠損していた。

顔には既に人としての面影は無く、もう人では無い怪物の仲間入りをしている事が分かる。

 

「ゾンビか?・・・いーや、なるほどね」

 

死霊(アンデッド)であるのは確実だが、ゾンビでは無い。

鼻が利くダグには分かる。

死臭に隠れているがもう一つ臭いがある。

これは、吸血鬼の臭いだ。

つまりこの動く死体は、吸血鬼の眷属、グール。

 

同時にもう一つ判ることがある。

漂う吸血鬼の臭いが、【不死身】の物では無いという事だ。

 

 

「【不死身】の旦那は相変わらず甘いねえ」

 

【不死身】の拠点とする敷地内に他の吸血鬼の眷属が居る。

 

これの意味するところは唯一つ、挑発行為だ。

吸血鬼の中には、異端である【不死身】の事を嫌う連中は多い。多くの誇り高き(・・・・)吸血鬼が【不死身】の命を狙った。

 

しかし、その者たちがどんなに力を振るっても、知恵を絞ろうとも【不死身】は死ななかった。

それにより大半の吸血鬼が【彼】を狙う事を諦めたが、プライドを傷付けられた幾人かはこうして眷属を【彼】の生活拠点内に放ち、挑発を繰り返しているのだ。

 

「アンタも、吸血鬼のゴタゴタに巻き込まれて災難だな」

「アァゥ、ヴアア」

 

気さくに話しかけたダグに対し、グールは残っている左腕で掴みかかろうとするが、

 

「ガウッ!!」

 

その首根から食い千切られた。

 

グールの頭を刈り取ったのは1匹の巨狼である。

実はこのオオカミ、数十メートル背後から付いて来ていたダグのペットである。

このオオカミは、ペットがべったりと引っ付いて行動するのを嫌う主人の命令通りに離れて行動していた。

しかし、主人の危機に対して敏感であるオオカミは、数十メートルの距離を詰めてグールに襲いかかったのだ。ダグの飼っている中でも、一際忠誠心の高いオオカミである。

 

「ガウ」

「おお、ありがとよロー。手間かけさせちまったか」

 

「ガウ」

「何ィ?晩飯に期待するって?へいへい分かりました。ステーキだろう?」

 

「ガウッ」

「一生付いていきますって、お前な・・・。調子の良い野郎だよ、まったく」

 

 

忠誠心の高いオオカミである。

 

 

 

 

 

 

 

「おなかすいた」

 

 

マリーは屋敷のリビングで一人(つぶや)いた。

日頃からマリーが発している言葉であるが、意識しての発言ではない、本能的な物だ。根からのゾンビ娘である。

 

いつもならばマリーの言葉に反応する【彼】は、今は寝ている。

 

自分以外誰も居ない、電気も点いてないリビングに座り込んでぼんやりと虚空を見つめていた。

 

 

マリーはゾンビとして生まれた瞬間に【彼】に出会った。

即座にスプラッターな展開に突入して、其れからの日常は【彼】の傍がマリーの居場所であった。

 

だから、本当に一人になるのはこれが初めてである。

マリーは、初めての孤独(・・)を体験していた。

 

おなかすいた。

おいしくなかった。

いまはがまん。

・・・。

 

何もない。

自分には何も出来ない。

食べる事しか知らぬマリーには、今の状況は極めて居心地が悪かった。

 

 

 

少し時間が経って、音が聴こえた。

音の鳴る方へマリーは歩を進めた。

辿り着いたのは、玄関口だ。

 

音は扉の向こう側から鳴っている。

これは確か、「のっかー」の音である。

先日、屋敷の扉に動物の顔がくっ付いているのを見てマリーが首を傾げていると扉を叩く物だと【彼】が教えてくれた。

「ためしに叩いて見るかい?」と【彼】が言ったので「たたいた」のだが、「こわれた」のでマリーは触らない事にしたのだ。

 

 

ドアを押すと、射し込む日光を遮る大柄なコートの男が居た。

 

「うおっと、またグール?・・いや、今度はゾンビか」

 

いきものだ。

おおきなひとだ。

ごはん?

おなかすいた。

たべていい?

 

食べる事を我慢し続けていたマリーだが、限界が来ていた。

目の前に「たべもの」が現れた事で思考がゾンビの(さが)へと一気に傾いたのだ。

思考の中での問いかけが、肯定(・・)に流れていく。

 

遂にマリーは行動を起こした。

自身を観察する「たべごたえのありそうなひと」に手を伸ばした。ゾンビらしく、獲物を捕らえるために。

 

「てぇ事は、嬢ちゃんがリリスのババアが言ってたゾンビか・・おっと、危ねぇな」

 

避けられた。

伸ばして握り込んだ手は何も掴めていない。男は一足分の移動でマリーの手を回避していた。

ではーーもう一度。

 

左手を伸ばす。男にさりげなく軌道をズラされる。

右手で掴む。男は一歩退がる。

両手で突撃する。男は身をひねりマリーと場所を入れ替える。

 

「むぅ・・・」

 

「おいおい俺を食べたいってのか?【不死身】の旦那にブツ渡しに来たんだって。なぁ、ババアから聞いてねえのか」

「おなかすいた」

「見りゃ分かる」

 

掴めない当たらない嚙みつけない。

ムキになったのかマリーは男を追い回す。

 

「あーもう分かった分かった!降参だよ!俺のとっておきのジャーキーくれてやるから落ち着け」

「もぎゅっ」

 

暫く逃げ回ってから男は懐から取り出した物を口に押し込んできた。当然に咀嚼。口の中に物があれば取り敢えずもぐもぐする。ゾンビの鑑であった。

 

食感は乾いていて、匂いは甘い。

少し硬めで噛み応えがあり、噛むほどに味が染み出す。

種類は違えど、これは「にく」だ。間違いない。

 

「もしゃもしゃ」

 

「まったくよ。それ食ったら旦那の所まで案内してくれよ?」

「おかわり」

「ガウ(私にも寄越せ)」

 

まだ足りない。

いつの間にか屋敷に入って来ていた(もふもふ)と一緒に、マリーは男に詰め寄った。

 

「俺のジャーキー・・・旦那ァ早く起きてくれぇ」

 

 

少しして、男の持っていたジャーキーは無くなった。

 

 

 

 

 

 

「おい、起きろ旦那」

 

むにゃむにゃ。

うーん、マリーちゃん、執拗に小指を食べるの止めてー。

 

「何だコイツどんな夢見てやがる」

 

むにゃむにゃ。

あー、リリスちゃんの身長ではそのアトラクション乗れませんね。残念。

 

「・・・おらっ」

 

むごっ・・・・・!?

 

「だれかな?僕の口に十字架を突っ込む人は」

「俺だよ【不死身】の旦那」

 

「おや、ダグ?ダグじゃないか。久しぶりだね。前はいつ会ったっけ?」

 

「3ヶ月前だな。俺ら怪物にとって3ヶ月なんてあっという間だろう?」

「それもそうか」

 

 

「おなかすいた」

「ああマリーちゃん、言い付け通り出来たんだね、ありがとう」

「はやくおいしくなって」

 

あっ、はい。待たせてすいません。

 

「ほれ、輸血袋。取り敢えずは1回分だ。残りはまた今度送ってやるよ」

「ありがとねダグ」

 

 

さてと、じゃあ袋にストローを刺しまして。

頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

「もふもふ」

「ガウッ」

 

 

庭先でマリーちゃんが駆け回っている。ゾンビなのでゆっくりとだが。彼女が追い回しているのはダグのペット、名前は確か、ローレンスだったかな。

気が合うのか直ぐに庭先で遊び始めた2人を眺めつつ、ぼくは紅茶を飲んでいます。

 

「ダグはコーヒーで良かったっけ?」

「ああ」

 

「あの子達が仲良くなれそうで良かったよ。まだマリーちゃんには友達がいなくてね」

「それは良いんだが、あの嬢ちゃんが片手で振り回してんのは・・」

 

見ると、マリーちゃんが手に持った大きめの骨を投げてローレンス(オオカミ)が回収している。

あれはーー

 

「ああ、さっきマリーちゃんに上げた右腕(ごはん)だね。今日は骨を食べなかったのか」

「はは、見かけない間に頭のネジが緩んじまったんだなぁ旦那」

「失礼な。ぼくは健全な朝型吸血鬼だよ」

吸血鬼(夜の王)なんだよなお前さん」

 

吸血鬼にだって朝型の方はいるよ。

ぼくはぼっちだから他の人を知らないけど。

 

 

「それと、グールがまた放されてたぜ」

「そうなの?ごめんね迷惑かけて」

「良いって事よ。もちろん、手数料上乗せで」

「しっかりしてるなぁ」

 

調達屋として頑張るダグは金に関しては少しうるさい。

迷惑料をしっかり勘定に入れてくるのはぼくとしては好印象だけど。

 

 

「そんじゃ、用も済んだし帰るか。おーい、ロー!帰るぞー」

「ガウッ(ステーキか?)」

「気が早えよバカタレ」

 

仲良いですねー、彼らは。

ダグの種族、オオカミ男は非常に仲間意識の強い怪物ですから。ペットと言えど横の関係なんですよね。

 

「いつでも遊びに来て良いからねー」

「おう!今度はジャーキーはやらねえぞー!」

 

ジャーキー?何の事かな。

 

 

 

 

 

 

「さて、マリーちゃん。改めて礼を言うよ、ありがとう」

「おなかすいた」

 

うんうん。それでこそマリーちゃんだ。

 

「今日頑張ってくれたお詫びに何でも言うことを聞いてあげるよ。何か欲しいものとか無い?服とか、オモチャとか、もちろん食べ物でも良い」

「・・・」

 

返事が無い。マリーちゃんは黙り込んでしまった。

あれ、割と適当に提案したのだけれど、この子には本当に欲しい物があったのだろうか。

 

「あのね」

「はいはい、何でしょう?」

「わたし、おなかすいた」

 

おっと、マリーちゃんの顔が急接近。

やっぱり食べる事が一番ですよね。

 

頬肉ですか、良いでしょう。

ひと思いにヤッちゃってください。

 

「だからーー」

「え?」

 

まだ言葉が続いた事に驚くぼく。

両手でぼくの頭を捕らえ、一言、前置きをしてマリーちゃんは、

 

「これからも、おいしく、たべられてください」

 

 

穏やかに微笑んだ。

 

 

やはりマリーちゃんは、綺麗だ。

 

 

「どうぞ、召し上がれ。君のごはんは逃げないし減らないさ」

 

「がぶり」

 

 

fin.

 

 

 

 






人物補足

調達屋の人狼 《ダグ》
背が高い。茶髪
渋めのおじさん
《ぼく》とは親友と呼べる仲

もふもふオオカミ 《ローレンス》
大きい。銀の毛並み
意外とふざけるタイプ
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