「護衛の敵ACはアリーナランクB-9の『プロメテウス』」
オペレータールームで業務遂行中の「シャロン・カレル」は、N-511基地を防衛しているACの詳細をレイヴン――プルガトリオに報告した。
レイヴンネーム:プルガトリオ。
レイヴンランクS。
アリーナランクA-3。
「破竹の勢いでトップランカーのベスト3に君臨したレイヴン。活動から僅か五年でトップランカーと肩を並べる実力に、ランカートップの座もすぐそこへ迫っていると評価されている」
「相手はクリストファーか。手強いですね」
至って好青年の独り言が、ヘッドセットから聞こえてくる。敵対しているランカーレイヴンのことを知っているかのような、口素振り。
彼――プルガトリオはレイヴンになってから五年で、トップランカーという箔が付いた。数年後には、アリーナランク一位にはなるだろうと言われている。
ウェイスSV(スーパーバイザー)に目をつけられているせいで、トップランカーの担当に付けたのはある意味、出世コース間違いなし。しかし、プレッシャーが桁違いだった。
「バラ・レイ、このまま前進」
プルガトリオの報告と同時に、シャロンはサブモニター上で表示されている、UAVの俯瞰視点を確認した。
暗視装置が作動しており、緑色の基調とする映像には熱帯雨林がどこまでも広がっていた。カメラはその熱帯雨林を移動し続けているプルガトリオのACを赤い枠で囲みながら、注視している。
ACネーム:バラ・レイ
「どれだけの重装甲を施しても、バラ・レイの前には無力である。それを証明するかのような、弾幕を貼り続ける超高火力AC。両手に装備されたガトリングガンと、総火力を底上げするために追加弾倉を搭載。絶えず砲弾の嵐を叩きこみつつ、高出力ブースターによって、縦横無尽に移動する」
重武装を施した中量二脚AC「バラ・レイ」は、作戦目標であるN-511基地に向けて前進。
クライアント――ウィルアイ社が事前に配置した偵察部隊の情報から、N-511基地を護衛している敵ACの情報は共有済み。
「敵防衛砲台の射程距離まで、残り百二十秒」
時速三八〇十キロで前進するバラ・レイの機影を追いながら、シャロンはN-511基地の防衛圏内へ近づいてることをプルガトリオへ報告。
同時に、シャロンが操作するUAVが敵のUAVとドローンを感知した。
(ドローンは敵基地、UAVは敵ACのオペレーターか。Bランクってことは、それなりのオペレーションは可能――UAVは破壊したいけれども)
しかし、シャロンが操作するUAVには殺傷及び電子戦も含む非殺傷兵装は搭載されていなかった。
人道的観点から、傭兵斡旋企業に務めているオペレーターのUAVにはそれらの使用は禁止されている。
軍事企業のオペレーターという経歴を持つシャロンにとって、より深くレイヴンのサポートをしたかったが――その分、気が楽だった。
電子戦によって、情報共有が無力化された敵部隊を奇襲。
空対地ミサイルで起動前の敵MTを破壊し、作戦をサポート。
UAVを通じて、シャロンは間接的に人を殺してきた。
しかし、傭兵斡旋企業のオペレーターもUAVとレイヴンを通じて、人を殺している。
そこに何の違いは無い。だからこそ、例え人道的観点でオペレーターがUAVによる兵装支援を――。
(今は業務中。雑念は禁物)
そこで我に返ったシャロンは、気を取り直す。
同時に、UAVが敵基地からの熱源反応を感知。レーダーはそれをミサイルと確定し、紫色のマーカーがバラ・レイと向かって行く。マーカーの横には熱源の高度が表示されており、三〇〇となっていた。
「敵基地より、VLM(垂直落下ミサイル)が五基発射されました。着弾まで約十五秒」
UAVのレーダーとオペレーティングシステムの相互計算によって得られた情報を、シャロンはプルガトリオに伝える。
「了解」
プルガトリオは短い返事をすると、バラ・レイは時速三〇〇キロを維持しながら、左右への回避行動を混ぜながら前進。
下手にぶつかってしまえば転倒も免れない数メートルの木々が、有象無象に立ち塞がっている。
バラ・レイは木々を破壊するために武器を使用一切せず、その「隙間」を掻い潜るように動いていた。
シャロンはそれを、バラ・レイの主観視点で見ていた。
事前に作戦エリアの地形は共有していたとはいえ、数十分程度で確認出来る芸当ではない。
状況把握、瞬時の判断、的確な操縦――そして、適応力。
それら全てをプルガトリオが持っているからこそ、出来ることだった。
「ミサイル、着弾まで3、2、1、0――」
無論、上空から振り落とされるミサイルも、天性の才能を持ったプルガトリオの前には無力であることをシャロンには分かっていた。
回避行動のおかげで、バラ・レイの僅か後方をミサイルが立て続けに着弾。
無傷のまま、バラ・レイはN-511基地へ肉薄した。
「敵基地の防衛砲台を最優先で破壊します。オペレーターは敵ACと砲台の動向を報告。まずは、正面右の防衛砲台を破壊します」
依頼主:ウィルアイ社。
作戦目標:N-511基地の防衛設備の破壊及び敵防衛部隊への直接攻撃。
追記事項:防衛部隊にレイヴンが雇用されている場合、撃破時に追加支給有り。
事前のブリーフィングを再確認するプルガトリオにシャロンも再度、N-511基地周辺に設置された防衛砲台の位置をUAVによる俯瞰視点で確認する。
N-511基地周辺の熱帯雨林は伐採されており、UAVによる視察が可能だった。正方形の軍事基地を取り囲むように、灰色の防衛砲台が設置されているのが容易に分かる。
「プロメテウス、バラ・レイの側面及び背面の位置。攻撃が予想されます」
基地の正面ゲート付近には、プロメテウスを示す反応が点滅。バラ・レイの背後を見据えており、対AC戦術におけるポジショニングにおいて、優位に立っていた。
「構いません。ホバータンクといえども、機動力ではこちらが上。レーザーキャノンも、射線上に防衛砲台が有ります。誤射すれば、自分の首を絞めます」
「了解。敵ACとの距離、五〇〇〇。搭載されているレーザーキャノンの有効射程距離内に居るため、留意してください」
中遠距離の兵装として、レーザーキャノンとVLMを搭載するプロメテウス。バラ・レイがもっとも苦手とする交戦距離に対して、優位を立てることができる。
プルガトリオはそれを踏まえた上で、迂闊に砲撃できないポジショニングを作っていた。
「右側面の防衛砲台に、動き有り」
バラ・レイ、N-511基地の右側面に設置された防衛砲台を破壊するため、右へ迂回するように前進。
プロメテウス、正面から大きく迂回するバラ・レイに対し、断続的に位置を変える小移動を繰り返す。接近はせず、基地正面を防衛。
N-511基地の、右側面に展開している防衛砲台――三基の155mmカノン砲と二基のVLM砲台。
シャロンはサブウィンドウで、防衛砲台を高倍率で注視していた。
「射線、共有」
彼女はすぐさま、ウィンドウ上のカノン砲が向いているであろう方向をマウスで線を引くように動かす。
そうすることによって、バラ・レイのモニター上にシャロンが引いた線が表示され、プルガトリオはそれが砲台の「射線上」だと気づいた。
直後、砲声と同時にカノン砲から閃光が。VLM砲台からは再度、六基のミサイルが射出。
バラ・レイは左方向へブースターを噴射し、直線軌道で発射された155mmカノン砲弾を寸前で回避。
「VLM、距離二〇〇〇」
更に上空で打ち出され、バラ・レイに向かって正面から大きく弧を描くように落下していくミサイル。
それに対し、バラ・レイは両手のガトリングガン――「CWG-MG-300」を構えた。
子どもが、テレビやゲームで見聞きした音を真似るかのような砲声がヘッドセットから聞こえてくる。そして、高高度で旋回するUAVの俯瞰視点からでも、はっきりと分かる「弾幕」だった。
CWG-MG-300から発射された、文字通りの対空砲火となる25mm焼夷徹甲弾。それは瞬く間に、ミサイル弾頭を全て撃ち落とした。
上空で爆散するミサイル弾頭は、まるで照明弾の代わりを努めるかのように周囲を明るくする。
「ミサイル、全て撃墜。カノン砲の射線、共有します」
撃墜されたミサイル弾頭の残滓は、移動するバラ・レイに照準を合わせようと砲塔を回頭させるカノン砲の動きを照らしていた。
そのおかげでシャロンは、正確にカノン砲の射線を共有する。
彼女の報告の直後、三基の砲台から断続的な砲撃が開始。
シャロンの情報によって、バラ・レイはレーダー上では直撃といって過言ではない位置で砲弾を回避していた。
必要最小限の動きで回避することにより、効率良く敵基地へ接近できる――それが、プルガトリオの持論であるのをシャロンは聞かされている。
「カノン砲台、次弾装填まで約十秒。敵AC、バラ・レイに接近。時速二二〇キロ」
兵器データーベースから割り出されたカタログスペックを参照に、カノン砲の再装填時間を割り出し、報告。さらには接近するプロメテウスも見逃さなかった。
一方、バラ・レイはガトリングガンの有効射程距離に敵の防衛砲台――155mmカノン砲を捉えた。
その瞬間、はっきりと分かる「火線」が三基のカノン砲を一瞬で破壊する。
「防衛砲台、残り二十一基――十九基。右方面の砲台、全て破壊しました」
シャロンが報告している途中、バラ・レイがVLM砲台を破壊。基地右側面の防衛砲台は、あっという間に壊滅した。
「敵ACから、レーザー照射によるロックオンを確認」
プロメテウスにロックオンされていることを、シャロンは報告する。だが、バラ・レイのレーダーから得られた情報を、AIがプルガトリオに伝えてるかもしれない。
トップランカーといえども、情報の取捨選択は手間取ってしまう。だからこそ、俯瞰視線で物事を整理し、発信できるオペレーターによる再確認と伝達が必須だった。
――交戦状態のパイロットは、アドレナリンや操縦等の操作によって、IQに著しい低下が見られる。
――そのため、オペレーターによる情報整理や発信は必要不可欠である。
――オペレーターの同伴、非同伴によるパイロットの生存率は実に30パーセントの差があると傭兵斡旋企業から得られたデータがある。
「どうやら、向こうはやる気みたいですね」
トップランカーによる、護衛対象の迅速な破壊という「デモンストレーション」に臆することなく、ロックオン照射という「敵対行為」を続けるプロメテウス。
過去、プルガトリオと敵対したレイヴンはその大半が彼と交戦することなく「撤退」している。
「敵ACより、VLM四基が発射。着弾まで十五秒」
自身が生き残るための、意味がある撤退。プルガトリオやシャロンは、それが当然の選択であると思っている。
しかし「自暴自棄」になって、プルガトリオと交戦する者もいる。その場合、無残な屍を晒すのだが――。
「クリストファー、貴方はいったい『どっち側』でしょうか」
シャロンが思っている心境と全く同じなのか、プルガトリオはクリストファーに問いかけていた。
自暴自棄になって戦っている側のか、それとも「勝算があって」戦っている側なのか――それは、今この瞬間に分かることだった。
「基地後方の防衛砲台、レーザーキャノン砲台2、30mm機関砲3。距離五〇〇〇」
バラ・レイは尚も前進し、N-511基地後方の防衛砲台を破壊しようとしていた。その意図を汲み、シャロンは防衛砲台の詳細と数を報告。それぞれの砲台の位置にビーコンを設置した。
既にレーザーキャノンの射程距離圏内へ入ったのか、緑色の熱量弾がバラ・レイに襲い掛かる。
バラ・レイはそれを難なく回避するが、背後から頭上に落下しようとしているVLMが追っていた。
既にVLMはバラ・レイを捕捉。後は、バラ・レイの頭上に弾頭を垂直落下させる軌道に入っていた。
「VLM、着弾まで残り5秒、4、3――」
シャロンは随時報告をしながら、バラ・レイを追っていたUAVのカメラをズームアウトし、N-511基地全体が見れるように調整した。
その意図は――プルガトリオのある行動に備えたものだった。
バラ・レイの、ブースターの噴射炎が僅かに見える俯瞰視点の中、急激にそれがはっきりと分かるぐらいに光った。
その瞬間、バラ・レイは時速六〇〇キロという速度で突貫。
コア内蔵のオーバード・ブースト(OB)による緊急回避と、防衛砲台への肉薄。
それが、プルガトリオの目的だった。
「30mm機関砲、射程圏内。レーザーキャノンは砲塔を回頭中」
カメラをズームアウトしたおかげで、なんとかバラ・レイの進行方向をシャロンは確認する。
バラ・レイは現在、防衛砲台の右側面に向かって、大きく迂回しながら一〇〇〇メートル先まで接近。既にレーザーキャノンはバラ・レイを捕捉できず、砲塔を回頭中。
「VLM、全基着弾。プロメテウス、バラ・レイに接近中。距離八〇〇〇」
VLMは巡航機動中のバラ・レイを捕捉できず、立て続けに通過した地点へ着弾。
一方、プロメテウスは一気に距離を離されたのが、バラ・レイに接近を続けていた。レーザーキャノンの射程距離内だったが、レーザー照射は感知されていない。
恐らく、FCS(火器管制システム)のロックオン範囲外か、あるいはバラ・レイが砲台に接近しているため、誤射を避けているかのどっちかだった。
だがそれは余りにも致命的で――だが、バラ・レイが居る以上は仕方がないことだった。
バラ・レイは、両手に装備されたガトリングガンのトリガーを引いた。
「防衛砲台、残り十四基。N-511基地の防衛砲台、半数を破壊しました」
またしても文字通り、バラ・レイは一瞬で防衛砲台を五基破壊した。
炎上する防衛砲台によって照らされながら、一旦立ち止まっているバラ・レイの機影がはっきりと見えた。
対実弾装甲を中心とした、フレームパーツでアセンブルされた中量二脚型。背部兵装には青色に塗装された、追加弾倉を搭載。左右に別れたそれから給弾ベルトが伸びており、両手で握られているガトリングガンの弾薬ポッドと直結していた。
立ち止まることなく、敵の砲火を掻い潜り、圧倒的弾幕で撃破する。
それがバラ・レイ(弾丸の王)と言われる由縁だった。
「N-511基地から動体反応多数。保有しているMT部隊に、出撃の動き有り」
「増援ですが。だが、もう遅いですね」
シャロンの報告に、プルガトリオは後手に回った基地の対応を嘲笑した。
既にN-511基地は、その防衛機能をほぼ失っている。バラ・レイの機動力にとって、残りの砲台を破壊するのはたやすいことだった。
「バラ・レイ、このまま敵ACを迎撃します。交戦時間は百二十秒に設定。時間を超過すれば、防衛砲台破壊に向かいます」
「了解。左方面の防衛砲台、N-511基地を隔てているため、射程距離外」
後顧の憂い――防衛目標の大半を損失したのに関わらず、未だにバラ・レイに向かっている「プロメテウス」
プルガトリオはそれを脅威と感じていた。しかし、あくまで脅威であり、目標ではない。
「了解。バラ・レイ、前進します。オペレーター、敵MT部隊の動向もお願いします」
いずれにせよ、プルガトリオは必ず依頼を達成する。追加収支の項目に、プロメテウスの撃破が有るか無いかだけ。
シャロンはそう思いながら、マウスを動かした。