「防衛砲台を半数破壊された。これ以上の損害は出したくない」
「こちら司令室。第一、第二MT部隊に出撃要請を発令」
「MT部隊副長、アンナ大尉です。ウィルアイ社の攻撃部隊が確認できないため、現状はレイヴンに――」
ヘッドセットから、無数の通信が濁流のように耳元へ押し寄せる。
あっという間の出来事だった。
バラ・レイはN-511基地の防衛砲台を、防衛圏内から侵入して数分のうちに半数を壊滅させた。
プロメテウスの攻撃を一切寄せ付けず、迅速に護衛対象を破壊――このままいけば、5分以内にN-511基地はその防衛機能を失う。
「バラ・レイ、接近しています。距離約八〇〇〇」
しかし、バラ・レイは護衛対象の破壊を継続せず、プロメテウスに攻撃対象を移した。
あくまで基地正面を防衛しつつ、バラ・レイの背後を取ってのVLM攻撃。しかしそれは、全基回避という結果に終わった。
その結果、バラ・レイはプロメテウスを脅威に感じたのか、こちらへ急接近している。
レマは焦燥と恐怖に駆られていた。
トップランカーを撃退できるほどのオペレートを出来るかどうか。
そして、クリストファーを無事に生還出来るかどうか。
(トップランカーに見合うだけの、オペレーターが同伴。いくらなんでも分が悪すぎる)
深呼吸をしても、平静を保つことができない。このままでは――。
「『レマ』、小難しいことは考えるな。プルガトリオは合理主義で有名な若造だ。俺との交戦も、制限時間を設けているに違いない」
「あいつが俺との交戦を断念し、防衛砲台の破壊へ切り替わる瞬間を狙う。バラ・レイのその瞬間を伝えることをできるのは――レマ、お前しか居ない」
クリストファーの無線通信。
レマは彼が発した言葉を把握し、理解した瞬間――焦燥と恐怖が少しだけ和らいだのを悟った。
(―― そして、レイヴンはパートナーだ。お前の決断で、レイヴンは絶望的な戦場でも生き延びることができるし、あっけなく死ぬこともある)
ユリア主任の言葉が、脳裏に過った。
自分は、オペレーター。レイヴンのパートナーであり、彼らの生還が自分に課せられた「ミッション」
「――了解。バラ・レイを注視し、後退のタイミングを知らせます。そのため、UAVによる俯瞰視点でのオペレートに固定。バラ・レイ、距離七〇〇〇」
「それでいい。頼むぞ、レマ」
クリストファーとのやり取りの中で、レマは不思議な高揚感に包まれていた。
レイヴンに認められたという承認欲求と、そのやり取りの中で自分がオペレーターという存在になっているという充実感。
「プロメテウス、これより攻撃を仕掛ける」
クリストファーの報告と同時に、プロメテウスはレーザキャノンによる砲撃を開始した。
緑色の高熱量弾がバラ・レイに突き刺さるようにして、直進。しかし、バラ・レイの機影はそれを寸前のタイミングで回避。
速度を落とすことなく、プロメテウスへの突貫を続けた。
「バラ・レイにターゲットマーカーとガイドビーコンを設置。距離六〇〇〇」
バラ・レイのガトリングガンは最大射程距離三〇〇〇メートル。しかし、ACの装甲――それも、重装甲を施しているプロメテウスに確実なダメージを与えるためには、一五〇〇メートルまで接近する必要がある。
「バラ・レイ、距離五〇〇〇」
プロメテウスのレーザーキャノンを回避し続けながら、接近し続けるバラ・レイ。
クリストファーは徐々にだが、プロメテウスを後退させていた。出来るだけバラ・レイとの交戦時間を鈍らせるのが、目的。
「バラ・レイ、距離四〇〇〇。まもなく射程距離に――」
バラ・レイの射程距離に入ったことを知らせた瞬間だった。
UAVのレーダー機能に、異常を示すアラームがヘッドセットから鳴り響く。同時にレーダーマップ上で感知されているバラ・レイを中心に、三〇〇〇メートルが「ジャミング」で上書きされた。
「ECMを感知。すぐさまに範囲外へ退避を」
ECM――エレクトリック・カウンター・メージャーズ(電波妨害装置)
ACにはインサイド(肩部内蔵兵装)もしくは、エクステンション(肩部補助兵装)用に開発、搭載が可能。
プロメテウスから得られたレーダー情報では、バラ・レイの機体構成はデータベースのまま。武装はガトリングガンと追加弾倉のみ。
だが、インサイドにECMメーカーを搭載していた。盲点だった。
「駄目だ。範囲内に――FCSに障害――通信が――」
クリストファーとの通信にノイズが走り、プロメテウスがECMの有効範囲に居るのためか、ジャミングが走った。
そのまま、プロメテウスとの通信が一時切断。そのことを知らせるエラーアラートが鳴り響く。
「データリンクとカメラは稼働中。オペレートは出来るから――いや、その前に」
プロメテウスとUAVを繋ぐデータリンクは対ECM装置が働いているため、稼働中。カメラ機能も健在で、バラ・レイの機影を確認する。
しかし、通信及びレーダー機能はジャミングされていた。
「レイヴン1より、ドローンチーム。敵AC、ECM設置を確認。ポイント156-724にAGM(空対地ミサイル)要請」
レマはすぐさま、基地周辺を偵察中のドローンチームに対地攻撃を要請した。自前ではECMメーカーを破壊する手段は無いからだ。
バラ・レイ 距離三〇〇〇。
プロメテウス、スプレッド・バズーカとグレネードランチャーによる攻撃を開始。ECMによるFCS阻害効果により、見当違いな場所へ砲弾は向かって行く。
「ドローン3-4。了解。TVスキャンを開始。AGM(空対地ミサイル)、レディ」
バラ・レイ、距離二〇〇〇。
ドローンチームの通信を聞きながら、レマはデータリンクしているプロメテウスにビーコンとマーカーを設置。バラ・レイの位置を大雑把だが、伝えた。
「ドローン3-4。ECMメーカー視認。AGM、発射」
ドローンチームの報告と同時に、四基のAGMがECMメーカーが設置された地点に振り落とされた。
バラ・レイ、距離一五〇〇。
その瞬間、レマは敵の有効射程距離に入ったことをビーコンで報告。同時にバラ・レイから「火線」が見えた。火線の先は無論、プロメテウス。
ある程度は防げるものの、ひとたまりもないことはレマでも分かっていた。
「ドローン3-4、ECMメーカーの破壊を確認。繰り返す、ECMメーカーの破壊を確認」
「――通信回復。助かったぞ、レマ」
ドローンチームからの報告と同時に、ECMの阻害効果が停止。間一髪と言いたげなクリストファーの通信がヘッドセットから聞こえてきた。
一方、プロメテウスは上空へ退避し、砲弾をやり過ごす。
25mm焼夷徹甲弾はプロメテウスが居た空間を引き裂き、その背後で生い茂っていた熱帯雨林を薙ぎ倒していた。
(駄目だ。この感触、以前に――)
それは数時間前に見た、プロメテウスとアドウェルサのアリーナバトルと余りにも状況が似ていた。
「OBで前方に退避」
レマは忠告するかのような、強い口調でクリストファーに指示を出す。
同時に、ジャミングが解除されたUAVのレーダー上にはプロメテウスとバラ・レイの反応が重なろうとしていた。
だがプロメテウスはバラ・レイの反応を突っ切るかのように、前へ突っ切る。先程までプロメテウスが滞空していた位置には、25mm焼夷徹甲弾による「対空砲火」がはっきりと見えていた。
レマはすぐにプロメテウスの主観モニターを表示しているウィンドウを拡大する。そこには、OBによる巡航機動を中断し、バラ・レイに向けて回頭しようとしているプロメテウスがあった。
主観モニターは、ある機影を捉えていた。
虚を突かれ、こちらに向けて回頭しようとしているバラ・レイの機影――それを、高度1000メートルから見下ろしていた。
直後、ノイズキャンセリングが作動するほどの轟音と同時に、レーザーキャノンから緑色の高熱量弾が発射された。向かう先は、バラ・レイの頭上。
レマはそれを、バラ・レイは絶対に回避できないと確信する。
だが主観モニターで映し出されているバラ・レイは――背部兵装に搭載されていた、追加弾倉を爆砕ボルトでパージ(武装解除)した。
搭載兵装解除による、機体自重の軽減。
それに伴う、機体調整の僅かながらの変化。
バラ・レイは、少しだけだが右方へ傾く。
高熱量弾はバラ・レイの頭部を、コアを、そして腰部を貫き、地面に直撃できなかった。
背部兵装ジョイントから外れた追加弾倉の片割れと、バラ・レイの左肩部を一瞬にして融解し、地面に直撃。
融解した追加弾倉には、25mm焼夷徹甲弾が詰め込まれていた。高熱量弾の「煽り」を受け、誘爆を引き起こす。
左腕部を失ったバラ・レイは爆発と衝撃を受けるが、意にも介せず、ブースターを駆動し、後退。
上空から降り注ぐプロメテウスからのスプレッドバズーカとグレネードランチャーの砲撃を回避しながら、N-511基地から退避しようとした。
「バラ・レイ、後退を開始」
「無理な追撃はしない。基地の防衛機能が半壊しているし、第二波の可能性も捨てきれない」
熱帯雨林の中へと後退しようとするバラ・レイに対し、クリストファーは冷静だった。
プロメテウスは滞空を続けながら、VLMを四基発射。弾頭はバラ・レイに向かって、飛翔する。VLMを発射したプロメテウスはそのまま地上へ降下し、レーザーキャノンに武装を切り替えた。
その最中に弾頭が「何処か」に直撃したのか、爆風と火柱が熱帯雨林の隙間から舞い上がる。
「バラ・レイ、健在です」
レマはUAVでバラ・レイの熱源反応を追っており、VLMが回避されたのを報告。
プロメテウスとの距離六〇〇〇――ECMを展開したのか、バラ・レイの熱源反応は唐突に消失した。
「撤退を確認しました」
不意打ちを狙いに行く気配を見せないのを悟ったレマはその報告と同時に、安堵のため息をついた。
同じくして、クリストファーも似たような息を吐く。
トップランカーと真正面から交戦し、一矢報いるどころか大破レベルの損害を与え、撤退させた。
ジャイアントキリング(大物喰らい)とは言わないものの――クリストファーのレイヴンとしての経歴に箔が付いた、といって過言ではない。
「見込んだ通りだな、レマ。君のおかげで、助かったよ」
「今日みたいな日はもうこりごりですよ、クリストファー」
クリストファーの言葉にレマは少しジョークを交える。
その後、二人は緊張の糸が途切れたのか盛大に笑い合った。
レイヴンネーム:クリストファー。
傭兵斡旋企業との雇用契約を解消。現在はディディーアイ社にて、対AC戦技術顧問として活動中。
――三か月後。
クリストファー。お元気でしょうか。
貴方とのオペレートが解消された後、私はあるレイヴンの専属オペレーターを担当しています。
クセのあるレイヴンで、大変勉強になりますが――貴方と一緒に活動できた経験があったからこそ、万全のオペレートが出来ています。
「ターゲットマーク、ビーコンを設置」
「いいですぞぉ、オペレーター。これで敵は我が手中の中、フヒッ」
レイヴンネーム:ダークナイト。
「ACのシミュレーターソフトを用いたゲームソフトで、名の知れた『オタク』だった彼は、あろうことか本当のレイヴンとなった。電子上とはいえ、何百戦と架空のACを撃破した経歴は、実際のACを操縦しても偽りはない。白兵戦のセンスは上位ランカーレイヴンを凌ぐほど。しかし、偏屈な性格が災いして、彼の実力を正当な評価を下す者は非常に少ない」
ACネーム:「キラーマシーン」
「軽量逆関節型AC。パイルバンカーにエネルギーシールドを装備。背部兵装にはロケットランチャーを搭載。エネルギーシールドを展開し、敵の攻撃を防ぎながら、一直線へ肉薄する戦法を得意とする」
少しばかり、貴方と一緒に活動できた日々を思い返す時もあります。
「敵残り2。2機とも、パトリオットR型。八百メートルT字路の先、挟撃しようとしています。ガイドラインを表示、裏回りを」
依頼主:パトリオータ社。
作戦エリア:セクション764(廃棄処理済み)
依頼内容:敵対企業に雇用された非合法武装集団が作戦エリアに集結、弊社管轄の地下セクション襲撃作戦を企てている。ただちにこれを壊滅すること。
「ん~そのオペレートはちと、良いアイディーアとは言いませんなぁ。レマ氏は左方向の敵をウォッチアウト。キラーマシーンは先に右から叩き潰しますので」
UAVによる上空からの偵察。
それによる、限りなくリスクをゼロにした「オペレート」に対し、ダークナイトは茶化した口調で否定。
彼のAC「キラーマシーン」は大胆不敵にも前進し、T字路の先をブースターによる地上移動で飛び出した。
「左方のパトリオット、ロケットを発射」
待ち構えたと言わんばかりに、挟撃を仕掛ける二機の逆関節型MT「パトリオット」はロケットランチャーから砲弾を射出。
合計四基の砲弾を発射した時、キラーマシーンは大きく跳躍した。
鳥の脚を模した逆関節パーツの最大の特徴は、その特殊な構造と油圧ジャッキを応用した跳躍システムに他ならない。
特にキラーマシーンが採用している脚部パーツは、十数メートルまで跳躍が可能だった。
「遅いなぁ遅い遅いよ、キミたち」
地下セクションといえども、構造上の高さは三十メートル。一気にその3分の1の高さまで上昇したキラーマシーンはブースターを駆動し、前へ進みながら落下。
砲弾は同士討ちを避けるため、それぞれのパトリオットの脇を通過、荒廃したビルへ直撃。
一方、キラーマシーンの落下地点は、狙いを定めていた右方のパトリオットの――背後だった。
パトリオットの背後へ着地し、すぐさま右腕部を殴りつけるようにキラーマシーンは動かした。
右手首に装着された、「KWB-SBR01」――爆薬を炸裂させ、その勢いで打ち出された鉄芯を相手に打ち込む、パイルバンカー。
火薬と鉄の塊を組み合わせた、シンプルな故の破壊力にパトリオットのコアブロックは容易く貫通するのは造作もないことだった。
パイルバンカーが打ち込まれ、空洞が穿たれたコアブロック。そこから、パトリオットの部品とオイルが止めどなく噴出する。
「敵機残り1。追撃、来ます」
破壊されたパトリオットに密着していたキラーマシーンに対して、最後の一機から再度、砲火が襲い掛かった。
大破したパトリオットには、まだ弾薬が詰まっている。誘爆を惹き起こせば、AC一機を木っ端微塵にすることが可能。
一方、キラーマシンは左手首に装備されたエネルギーシールドを駆動させた。
青色に輝く障壁が左手首から発生し、それを前へ突き出しながら、後退。同時に、大破したパトリオットに砲弾が突き刺さった。
「さっすがぁ、極東メーカーの最先端パーツ。我がキラーマシーンにキズ一つ付いていない」
「KES-ES/MIRROR」――最高の防御性能を誇る、傑作品――によって、キラーマシーンは爆風や衝撃を未然に防いだ。
即座にキラーマシーンは反撃を開始。背部兵装に搭載されている中型ロケットランチャーから、砲弾を三連射。
FCSを介さない、目視射撃で九百メートル先のパトリオットを撃ち抜いた。
評定射撃をせず、確実に命中させる――ダークナイトの技術力は群を抜いているのだが――。
「目標撃破、周辺に熱源反応無し」
「んん~。やはり私の射撃センスは最高ですなぁ」
いかんせん、「個性的」だった。
「作戦終了です。回収地点をこれより――クライアントからホットラインを確認。お待ちください」
レマがキラーマシーンを回収地点のセクション間カーゴへ誘導しようとした矢先だった。
「ホットライン」(直通回線)を知らせる、短いアラームがヘッドセットから鳴り響いた。レマはすぐにキーボードでホットラインとの通信を許可し、同時にクライアントであるパトリオータ社のリクルーターとのチャット回線を開いた。
「パトリオータ社、リクルーターのトンマーゾだ。依頼達成、感謝する――と言いたいところだが、緊急性を伴う案件が発生した。そのため、弊社の任務遂行中のそちらに追加依頼を受注する」
リクルーターの通信と同時に、彼とのチャット回線から映像中継が送られてきた。
レマはそれをクリックすると、夜間モードに入った地下セクション都市部を上空から見下ろしている映像が中継された。
当たり障りのない、夜景で彩られた都市――ではなかった。都市は今、ビルや電光掲示板から発せられる照明などではなく、「炎」によって赤く照らされている。
「現在、弊社が管轄しているセクション989が所属不明のMT/AC部隊による襲撃を受けた。敵性部隊は統率が取れており、当セクションのインフラネットワークを的確に攻撃している」
セクション989の電気、水道、ガス供給率、20%ダウン。
交通ネットワーク、既に麻痺。複数のエリアで停電が発生。
防災センター、襲撃を受け壊滅。現在はシティガード主体による、避難誘導を開始。
襲撃開始から三時間後にはセクション989の都市機能、復旧不可能ラインに到達。
現状のセクション989の被害状況が表示され、深刻な事態に陥っていた。
レマはそれを見て、不快感が込み上げてきた。だがそれをすぐに飲み込み、私情を消し去る。
「敵部隊は高性能MT、カイノス/EO2小隊とAC一機による部隊編成と断定。作戦目標は敵性部隊の全滅。無理強いはしないが、受諾することを望む。もし依頼を受けるのであれば、35番カーゴをオンラインしている。そこへ向かってほしい。以上だ」
リクルーターとの通信が終了し、レマは一旦、情報を整理する。
その後、ダークナイトとの通信を再開した。
「パトリオット社より、緊急の依頼が入りました。所属不明部隊が、同社管轄の地下セクションを襲撃。襲撃部隊を壊滅して欲しいとのことです」
レマはダークナイトに概要を説明しながら、パトリオータ社が起動させた35番カーゴへのルートを表示。
もし依頼が受諾されないのであれば、回収部隊が待機しているルートも表示させた。
「緊急の事態ですので、この場での依頼受諾を認めます。後は、貴方の判断です。依頼を受ける場合は、35番カーゴへ向かってください。」
レマが指示を送る間に、ダークナイトは何も言わずに35番カーゴへ続くルートに沿って、移動していた。
「許すまじ、テロ集団め。我がダークナイトが漆黒の裁きを下してやるぞぉ~」
この妙に正義感ある彼の性格は、無下には出来ない側面だった。
レマはすぐにリクルーターと再度、ホットライン通信を開く。
「レイヴン1より、リクルーターへ。ダークナイトは依頼を受諾、現在35番カーゴへ向かっております」
「こちらトンマーゾ、依頼受諾を感謝する。セクション989に複数のUAVを展開しているので、ルート権限をオペレーターに一存する。また、以後の通信は同セクション在中の弊社シティガード部隊隊長に繋げる。以上だ」
そこでリクルーターとのホットラインが終了、代わりにセクション989にて活動しているシティガード部隊の隊長――グスターヴォとの通信が開始された。
「こちら、グスターヴォ。コールサインはオニチェだ。リクルーターから話を聞いている。現在、我々は部隊の半数以上を市民の避難誘導に割いている。そのため、敵性部隊の侵攻を食い止めることはできず、時間稼ぎが関の山だ」
グスターヴォとの通信中、UAVのカメラ視点がミニウィンドウで表示される。
そこには、3機のカイノス/EO2と共に、先陣を切って主幹道路を侵攻するタンク型ACの姿が俯瞰視点で映し出されていた。
「敵性部隊はそちらが掃討した武装集団のクライアント、『ディディーアイ社』から派遣されたと思われる。敵ACのデータは既に収集済み、共有させる」
「了解しました。リクルーターから、UAVのルート権限を頂いています。これよりUAVにアクセス開始。また、レイヴン1の到達まで残り十分」
グスターヴォから送られてきた敵ACの情報を、レマはデータベース上で照会を開始。該当するレイヴンが居たのか、すぐに照会が完了。
「こちらオペレーター。敵ACの解析を開始。作戦エリア到達までに判明出来ます」
レマはダークナイトに報告をしながら、UAVにアクセスする。
UAVによる俯瞰視点から、シティガードが展開しているMT部隊を歯牙にも掛けないで前進するタンクACをレマは倍率を上げて、確認した。
敵ACの左肩にエンブレムが描かれており、それは「磔刑にされた屈強な男性が、左手に大鷲を、右手に炎を司っている」というデザインだった。
「照会完了:AC『プロメテウス』と確定――画像認証及びUAVによるレーダースキャン済み。解析率90%」
データベース上で表示されたテキストを見て、レマはあらゆる思考が数秒ほど静止した。
ギリシャ神話で登場する、プロメーテウスを模ったエンブレム。
そして最新鋭のホバータンクにレーザーキャノンとVLMランチャーを搭載し、スプレッドバズーカとグレネードランチャーを装備した、高火力AC。
そして、ディディーアイ社に転籍した――元ランカーレイヴン「クリストファー」だと言うことを――。
レマは「認識」した。
ディディーアイ社の対AC戦技術顧問として、レイヴンとして戦場に出ることは無いと思っていた。
しかし、現に彼はACパイロットとして、こうしてセクション989を蹂躙している。
非情で、凄惨な状況を作り出しているクリストファーに、レマは問いかけることが出来ない。
なぜなら彼は、二重の意味で「敵」だった。レマの敵として、そして許し難い敵として――。
「敵ACのデータ照合を開始――結果、出ました」
「――」
「敵は元ランカーAC「プロメテウス」です。敵は中遠距離に特化したホバータンク。これまでの交戦データから、敵ACは接近した際、上空へ滞空します。そのため、死角となる直上へ――」
その瞬間、レマは「初めて」感情を押し殺した。
任務報告書。
パトリオータ社依頼No23、No24。
特別収支加算、元ランカーAC「プロメテウス」――十万コーム。
記入者:レマ・ラインズ
LAST CALL「OPERATOR」