「モニターで見るのとは、ワケが違いますね」
親戚が亡くなったときの出来事だった。レマは初めて見る死人の顔を見るなり、思わず口走ってしまった。
その瞬間、彼女の周囲にざわめきが生じたのは無理もなかった。
休職申請書。
当社規定のメンタル・ヘルス・チェック――E判定。
私生活及び業務遂行に著しい行動障害を確認した為、二週間の休職扱いとする。
対象者承認:レマ・ラインズ
部門長承認:アリシア・ウェイス
本部長承認:ユリア・シューエン
「送信者:ウェイスSV 本文:メンタル・ヘルス・チェックの規定に従い、二週間の休職を命じます。休職中の給与計算ですが、有給扱いとなっております。ゆっくりと療養してください。引継業務ですが、そちらが担当していたダークナイトは『アウト』になっているため、特に必要はないです」
業務連絡用のメッセージツールに受信されていた、ウェイスSVからの通達を何度も頭の中で朗読していた。
休職から一週間――レマ・ラインズは十七時過ぎだというのに、行きつけのイタリアンバーで無為に酒を煽っていた。
カウンター席の端っこ。客はまばら。オーダーはすぐ通る状況。
十八時半に、シャロンとここで飲む予定だった。が、レマは二時間前に来店して先に一杯やっていた。
カウンターに置かれた、水が入ったコップ、マッカランの水割りが入ったグラスと冷めてしまったオイルサーディンの皿。
レマは無為にそれを交互に眺めながら、ため息をつく。
オペレーター業務を勤めて、四ヶ月。新卒はレマ以外、退職。一緒に中途入社した同期も、五割が退職。欠員は随時、補充してくれているが――「とっかえひっかえ」というのが現状だった。
福利厚生はしっかりしている。こうしてメンタル・ヘルス・チェックの場が設けられ、有給扱いの休職。
字面だけで見れば、優良企業に勤めている。給料も申し分ない。
だが、レマはこの四ヶ月で百数人規模の民間人が犠牲になり、担当となったレイヴン二人がアウト。もう一人は――。
そこで考えるのをやめて、レマはグラスを右手で握ると一気にマッカランを飲み干した。
何度もこの行為を繰り返していた。
「彼」の一件で、糸が千切れかけた。そして、ダークナイトが向こう見ずな特攻を仕掛け、アウトになった瞬間、それが千切れた。
その結果、親戚の葬式で失言をして――カウンセリングを受けた。その診断結果を会社に提出。すぐに提携を結んでいる総合病院を紹介され、休職扱いとなった。
「――先月から大規模な軍事衝突が勃発した、ディディーアイ社と企業三社による紛争は――」
カウンターの近くの壁に埋め込まれた大型液晶テレビには、ニュースキャスターのアナウンスと同時にアーマードコアが映っていた。
アーマードコア。
そんな万能の陸戦兵器を操縦するACパイロットやレイヴンをサポートする、オペレーター。
繰り返される非合法活動の数々。良心の呵責を問いかける日々。そのはずだった。
今まで担当してきたレイヴンは――やむを得ない場合を除いて――民間人に被害を与えるようなことをしていない。
良心の呵責も――最初の任務のときから、一切感じていなかった。
人が人を殺すという場面をサポートしているのに、それに対する嫌悪感は一切存在しない。もし、これが生身の兵士だったらどうだろうか。
機甲兵器という手段のおかげで、現実を直視していない。そうだと思う。
そもそも、自分がオペレーターになったのは――。
堂々巡りの自問自答。レマはまた酒を煽る。
アルコールの酔いが頭を駆け巡る。それは、一時の気持ちのいいものではなく、脳が常に一回転し続ける気持ちの悪いものだった。
酔い醒ましに、レマは水が入ったコップを一気に飲み干す。そして、すっかり冷めてしまったオイルサーディンをようやく食べようと、スプーンやフォークが入った容器へ手を伸ばした。
誰かが、レマの隣の席へ座った。恐らく、シャロンだろうとレマは確信し、横を向いた。
しかし、そこに座っていたのは。
「サングリアと、アンチョビキャベツを」
高そうな紺色のレディーススーツを着こなしているが、首周りのボタンを開けている。
しかし、それでも格好がついていると錯覚してしまいそうな雰囲気。
黒髪に、首元にかかる後ろ髪を夜会巻きに束ねた女性――ユリア・シューエン主任だった。
隣に上司が居るこの状況で、レマは一瞬で酔いが醒める。まだ足元にまで行き届いていない。しかし、ふらつきながら、席から腰を外して、お辞儀をしようとした。
「そのままで良い。プライベートの場だ」
そんな彼女の動向はお見通しなのか、制止させた。
「シャロンが遅れる代わりといってはなんだが、駄目かな。あ、どうも」
業務中で見受けられる、威圧感のある声色とは全く違うユリア主任は、カウンター越しにウェイターから注文したワイングラスとアンチョビキャベツが盛られた食器を貰う。
「あの、私もサングリアを」
ユリア主任と乾杯をしようと、レマは注文を頼んだ。その間に、ユリア主任は先にワイングラスに口を付け、赤いサングリアをひと口飲んでいた。
「ちょっと一杯ひっかけて、帰るつもりだ。こんな怖い上司が居れば、気まずい雰囲気になってしまうでしょう」
自嘲気味に言いながら、ユリアは自分のペースでサングリアと食べ物を交互に飲食していく。
呆気にとられるレマをよそに、ウェイターはサングリアが入ったワイングラスを彼女の手元へ置いた。
「は、はい」
気まずい雰囲気が流れていた。
ユリア主任は黙々と料理と酒を飲み食べしている。特にこれといった話を向こうからせず――時折、スマートフォンの通知を確認しながら――二杯目のサングリアと、生ハムを注文していた。
一方のレマはただ真正面を向きながら、サングリアを少しずつ飲んでいる。
無為な時間。そう言うしか表現できない中、ユリア主任が来てから三十分ほど経ったことだった。
「私はかつて、傭兵だった。まぁ、活動歴は一年と三ヶ月だったけどな」
昔を懐かしむ口調で、ユリア主任は話を切り出した。
レマはそのとき、ワイングラスに口を付けようとしていたのだが、思わず手の動きが止まった。そして、反射的にユリア主任へ顔を向ける。
「怪我が原因で、引退した」
そんなレマの視線に応えるかのように、ユリア主任は右手の人差し指を立てて、左肩を縦に切った。
「元々、軍属上がりで色々と勝手は知っていた。担当していたオペレーターのスカウトもあって、傭兵斡旋企業に転職したんだ」
一呼吸を置いたユリア主任と同調するかのように、ウェイターが彼女が注文したサングリアと生ハムを置いた。
「今更ながら、この職業が向いていると思ったよ。もっと早くに気付いていれば、痛い思いなんてしなかったのにな」
自嘲気味に鼻で笑うと、ユリア主任は手付かずだったサングリアへ手を伸ばす。ひと口、飲んだ後、次にフォークを使って、生ハムを食べる。
「主任を引き抜いた人は、今はどちらへ」
咄嗟に言葉が出てしまった。レマの言葉を聞いたユリア主任は少し表情が曇った後、大きく深呼吸をする。
「担当が、自分のミスで死んでしまってな。後追いで自殺したよ。今から十五年前の話だ」
気まずい雰囲気が漂った。レマは迂闊なことを尋ねてしまったと痛感する。ユリア主任は愁いを感じさせる表情を浮かべながら、スーツの内ポケットに手を入れた。
煙草の箱と、隣に座っているレマからでも分かるぐらいに年季――ボロボロになったジッポライターを取り出した。
「彼らは殺しもするし、殺されもする。私たちも一緒さ」
そう言いながら、ユリア主任は手慣れた動作で煙草の箱から一本取り出し、口に咥える。そして、ライターの火を点け、咥えているそれを近づけた。
彼女の周囲を紫煙が漂う。しばらく無為に喫煙を嗜むと、羽織っていたジャケットのポケットから、あるものを取り出した。
「ジュイサンスと、クリストファーからのメッセージだ。高い金を払ってまで、肉親やかつての同僚でもはなく、君だけに宛てたメッセージだ」
ユリア主任はそう言いながら、USBメモリをカウンターへ置き、そのまま横に座っているレマへ渡すように指先で移動させた。
「ウェイスSVはこのメッセージを君に見せるにはまだ早いと判断した。無論、君のメンタルを考慮した上での判断。勘違いはしないでほしい」
そんなユリア主任の言葉は、今のレマには入ってこなかった。
かつて、自分と共に仕事をして、死んでしまった「レイヴン」の、遺言にも似たメッセージ。
それが、このUSBメモリに入っている。複雑な感情が、レマの胸中で渦巻いた。
「私の独断とはいえ、業務内容の持ち出しだ。くれぐれも内密にな。私と君のクビが飛ぶ」
短くなった煙草を灰皿で揉み消しながら、ユリア主任はレマの方を向いて、軽くウインクをした。
そんなユーモアを交えるユリア主任だったが、レマは俯き加減で表情を曇らせる。そして、USBメモリを受け取り、羽織っていたパーカーのポケットへ入れた。
「どうして、私なんかを気にかけてくれるんですか」
半人前で、メンタルを壊してしまい休職した部下。
上司から見れば、不甲斐ない存在。そんな自分を、ユリア主任は気にかけている。その理由を、レマは尋ねた。
そんな彼女の問いかけに、ユリア主任は優し気な笑みを浮かべる。
「一つは私の部下だから。もう一つは、君は私に似ているからだよ」
ユリア主任はそう言いながら、右手の人差し指でレマを指す。その後、自身を指した。
そんな言葉を聞いて、面食らうレマを見ながら、ユリア主任は挨拶をするかのように軽く手を挙げる。
「あーもうすみませんっ。ユリア主任、それにレマ。不肖、シャロン。只今定時退社です」
直後、レマの背後からシャロンの声が聞こえてきた。慌てて振り向くと、やや申し訳なさそうな表情を浮かべた、シャロンの姿があった。
退社してすぐに向かったのか、メイクは不十分、髪型はボサボサのポニーテール、おまけに息は上がって満身創痍。
そんなシャロンの姿を見て、レマは思わず笑ってしまった。
「(ねぇねぇ、ユリア主任にイジメられてなかったの)」
シャロンはすぐさまレマの傍へ寄り、耳打ちをする。とんでもない、といった表情をレマは浮かべ、返事をする。
「私がそんなみっともないマネをする上司に見えるのか」
シャロンの耳打ちは見抜いているのか、ユリア主任は腕組みをしながら、尋ねる。
「えーやだなぁ。ユリア主任がそんなことするなんて、これっぽっちも思ってないですよ~」
揺さぶられていることを悟られないために、シャロンはやや不自然に笑いながら、ユリア主任の隣の席へ座った。それと同時に、ユリア主任は立ち上がる。レマはそれを見て、お手洗いに行くのだろうと思っていた。
が、彼女は椅子に掛けていたハンドバックから財布を取り出す。そして、一枚のプリペイドカードを隣で煙草を吸おうとしたシャロンに渡した。
電子マネーやカード決算がもはや通常の支払いとして定着した中、「割り勘」という現金が無ければ難しい支払いは、こうやってプリペイドカードで済ます。
自分の注文代と、これから色々と飲食をする二人の分も色を付けて渡しているのか、シャロンはプリペイドカードの記載された金額を見て、目を大きく見開いた。
「シャロン、私とレマと君の分だ。使い切るまで、帰るなよ」
ユリア主任はそう言いながら、シャロンの肩を軽く叩く。
「ちょ、この金額じゃ朝までコースですよ」
一方、シャロンはユリア主任から渡されたプリペイドカードの額を見て、驚愕していた。口を大きく開けながら、プリペイドカードに記載した金額と、それを渡したユリア主任を交互に見る。
そして、さすがにそれは受け取れないと言いながら、彼女に返却しようとした。
「明日、非番だろ。喉がガラガラにならない程度まで飲んでおけ」
プリペイドカードを返そうとするシャロンを尻目に、ユリア主任は店の出口へ向かう。
「ゆっくり休むことだ、レマ。それでは、また」
「あ、ありがとうございます。それでは」
レマの横へ通りかかった時、ユリア主任は彼女の肩を叩き、言葉を投げかけた。レマは、途方もない金額と、あの二人のメッセージを渡してくれたユリア主任に深々とお辞儀をした。
そして、レマはパーカーのポケットに入っているUSBメモリを強く握りしめた。
「っと、これで映ってるかな――」
「やぁ、レマちゃん。お久しぶり。ジュイサンス――改めて、シャルロ・レイだ」
「レマちゃんがこれを見ているってことは、俺はどうやらくたばったらしい。悲しいねぇ」
「――でもこれを見ているってことは、レマもオペレーターを続けてるってことで間違いないかな」
「俺はレイヴンだ。テロ組織だの非合法組織の壊滅なんて高尚な任務を請け負っていたが、所詮は人殺しだ」
「それはレマにも言えることだ。俺は人殺しの実行犯。君はその幇助」
「このメッセージを見たのなら、君はオペレーターという職業から身を引いて欲しい」
「『この世界に居るべきじゃない』のさ、俺もレマも」
「っと辛気臭い話になってしまったな。じゃあね、レマちゃん。一回ぐらい一緒に酒飲みたかったぜ」
「映っているようだな。クリストファーだ」
「何の因果か、俺は死亡したらしい。安全な後方勤務かと思えば、人生は何があるか分からんな」
「二十年、この稼業を続けていて一つ思ったことがある。それは、レマ。君自身の素質についてだ」
「君は極めて非凡な才能を持つオペレーターだ。プルガトリオとの一戦で、俺は確信した」
「色々なオペレーターと仕事をしてきたが、君だけだ。あれほど冷静かつあらゆる要素を加味し、最善の行動を伝えることができた」
「君は『自分から求めて』、オペレーターとして就いた。だとしたら、この先、どうしようもない感情が込み上げてくることがある」
「だが、それに打ちひしがれることをなく、続けて欲しい」
「俺たちレイヴンは、絶望的な状況でも――オペレーターという存在が居れば、命だけは助かる見込みがあるのだからな」
子どもの頃に、TV番組か何かで見た「アーマードコア」は私にとって、とてつもなく「カッコいい」ものだった。
でも世間一般ではアーマードコアは恐れられ、それを操縦するレイヴンはタブー視させられる程の、歪な職業だった。
私はそんなアーマードコアと、それを操縦するレイヴンに強い憧れを持っていた。
そしていつかは――レイヴンになりたいと思っていた。もちろん、それは私の胸の内で隠していた、願望。
私が高校生の時だった。
当時住んでいた地下セクション近辺で武力衝突があり、戒厳令が敷かれた。私は両親と共に、安全なセクションへ緊急避難しようとした。
その時、シティガードが雇ったレイヴンのアーマードコアが避難誘導を行っており、私は初めて実物を見た。
十メートルにも及ぶ、鋼鉄の塊。兵士の形をしたそれは、私がテレビで見ていたアーマードコアとは全く別物の印象を与えた。
明確な武力としてのシンボル。そして、呆気なく人を殺せる機械。そんなアーマードコアを見て、私は――余計に、この兵器を動かしてみたくなった。
その反面、アーマードコアの装甲の表面から発せられる「死の臭い」に、私は吐き気を催した。
だから、私はオペレーターを目指した。
安心で、安全に、アーマードコアを操縦できる―――オペレーターを。
「それでは、最後に。月並みな質問ですが、弊社の、それもオペレーター部門に貴女が志望した動機をお聞かせください」
「私は、一時期ですがレイヴンに強い憧れを持っていました。ですが、身体的な都合上、断念しました」
「ですが、レイヴンをサポートするオペレーターを知り、私はかつて諦めていた夢を間接的ながらに実現するべく、御社へ志望しました」
レマ・ラインズは――レイヴンになりたくても、自身の生命の危険を保守し、かつ自身の手を汚したくなかった。
だからオペレーターを目指した。
見方を変えれば、私はそんな自身の欲求を求めて、間接的に人殺しを楽しむクズ、と言われても仕方がない。
だが、それが仕事だ。高い給与に、充実した福利厚生、そしてアーマードコアを操縦するという欲求。
それを得るために、ひたすら勉学に励み、努力した。
レマ・ラインズは、とても歪んだ人間だ。
だからこそ、オペレーターという職業は自身にとって――天職だった。
例えそれが、色々な人と出会い、別れてしまうものだったしてもだ。
「初めまして。今日から貴方の専属オペレーターになりました。以後、お見知りおきを」
オペレーターの通信が入ると、男は軽く深呼吸をした。
ようやくレイヴンランクがBランクになり、上級のオペレーターが配置されることとなった。こちらが指示した「それなりに働けるオペレーター」という基準をクリアーできれば、良しなのだが。
「ああ、宜しく頼む。状況を報告してくれ」
「メインシステム、戦闘モードに移行します」
男はパイロットシートの手前に展開されたコンソール画面を操作し、自身が搭乗している「アーマードコア」のメインシステムを通常モードから戦闘モードへ移行したことをAIが報告。
現在、自機は地下セクション間を行き来できる物流カーゴに搭乗中。作戦エリア――セクション451へは残り三分で到着予定。
「セクション451に襲撃した武装集団の壊滅が主目標ですが、事前にクライアントであるパトリオータ社の電子戦攻撃が成功しており、敵部隊に統率の乱れが生じています」
オペレーターの状況報告と同時に、モニターのサブウィンドウ上でセクション451に関するデータが受信され、データが展開された。
敵戦力:パワードスーツ部隊、二個小隊。MT「アローポーター」四機。
現在、ECMによる電子攻撃に成功。敵部隊の統率に乱れ有り。
「レイヴンが到達するポイントから後方五〇〇メートル地点に敵部隊は展開中。ですが、電子攻撃の影響でこちらの動きは察知できません。奇襲を仕掛けることを提案致します」
(なるほど、悪くはない)
きちんと状況報告と、戦略プランを立ててくれたオペレーターに男は「ひとまず」安心した。
「作戦エリアに到達しました」
その間に、自機を乗せた物流カーゴは作戦エリアであるセクション451に到着したことをオペレーターが報告。
男は操縦桿を握り締めると同時に、物流カーゴのゲートが解放され、夜間モードに入っているのにも関わらず、オレンジ色に照らされているセクション451の街並みが広がった。
「了解だ。これより作戦を開始する」
現在位置、環状道路沿い「ルート117号線」。熱源反応、五〇〇メートル先の「ルート112号線」に多数検知。
安全地帯へ避難している車両による渋滞が付近で発生中。
「オペレーター、目標を補足できるか」
市街地の、それも環状道路沿いに居るため、頭部レーダーは動体反応――パワードスーツの反応はもちろんだが、この緊急事態で逃げ惑う車両も感知してしまう。
無論、敵部隊はそれを見越した上でなるべく車両の反応と近いエネルギー出力で動いていた。
「オーケー。目標を補足、データリンクさせます」
しかし、高度三〇〇〇メートル上空で待機しているUAVのカメラと、数百キロ離れた場所から操作しているオペレーターからは、猿芝居も同然だった。
こちらの短くも大雑把な指示に、オペレーターは百二十パーセントの内容で実行する。
点在しているパワードスーツ部隊をアルファベット順にマークしており、モニターにそれらが表示される。
どちらも、車両に隠れており、丸裸になっているのに関わらず、それに気づいていない。
「了解だ。これより敵MT部隊に攻撃を行う」
「分かりました。付近に民間人が居ますが――被害状況は問いません。確実な任務遂行をお願いします」
冷徹なオペレーターの通信を聞いて、ようやく思い出した。
あの声は――自分がレイヴン試験を受けたときに補佐をしてくれた、オペレーターだった。
(作戦終了です。指定されたポイントへ向かってください。これ以上の交戦は――無意味です)
降参したMTパイロットの命乞いを、真に受けてしまった新人――と確信した。
あの時、自分もまた新人だった。流れるままにトリガーから指を離して、自らの善意に一時の安堵を覚えた。
だが、現実は非情だ。その選択で死にかけ、友を失い、自分を失った。
(そうか、君もようやく――)
感傷に浸るのを直前で止め、トリガーを引いた。
対AC用ライフルから発射された四十五ミリメートル徹甲弾は、民間人が乗った車両とそれを盾にしていたパワードスーツもろとも破壊する。
「ターゲット、マーク。ビーコンを設置」
レマはそれを上空で眺めながら、マウスをクリックし、退避するパワードスーツ部隊にビーコンを設置する。
目の前で繰り広げられる光景に、レマは何も感情を抱かない。もう後悔はしないと決めた。だから今は、「働く」しかない。
自分のために、そして、レイヴンのために――。
レマ・ラインズはこれから何百、何千という死を見ていく。
この世界と企業、そしてレイヴンをも変えていく「イレギュラー」と共に。
これは一人のレイヴンを通じて、時代の変革を見ていくオペレーターの前日譚。
OPERATOR THE END
「件名:ナービス領について」
「本文:ナービス社が採掘した新資源によって、三大企業はナービス領への介入を決行。既に貴方が降り立ったこの地域は、他と比べ物にならない『火薬庫』となっております」
「それに伴い、危険性の高い任務が回ってくると思われます。ですが、貴方たちレイヴンに支払われる報酬は莫大なものとなっております。ナービス領における報酬の平均金額は約十万コーム――ですが、一日におけるレイヴンの平均戦死者報告――言わずもがなでしょう」
「ここ一か月の、主な動向は追ってお知らせします。それまでは、ゆっくり休んでください」
「改めて――ようこそ、ナービス領へ。貴方の活躍を期待します」
「記入者:レマ・ラインズ」
To be continued...?