画面上には、味方反応を示す青色の点が忙しく動いていた。
場所は地下セクションの市街地。均等に配置されたビルの隙間を、青い点はすり抜けるように移動している。
その図はまるで、スマートフォンやカーナビで使用する「GPS機能」と類似していた。
「三ブロック先に敵MTを確認。M型のアローポーターが2機。ターゲットマーク、ビーコンを設置」
オペレータールーム。
レマは1スペースほどしかない狭い空間で、画面の向こう側にいるACのオペレートをしていた。
業務用机の上に、モニターが二台。その下にはキーボードとマウスが設置されている。レマはマウスとキーボードを器用に使いながら、二台あるモニターを交互に見ていた。
左側のモニターには、オペレーティングシステムの画面が映し出されている。戦場と化した地下セクションの俯瞰図と共に、レマがオペレートしているACや点在する敵MT部隊の動向がそこで見れる。
右側のモニターにはオペレーティングシステムの補助として、味方ACの状態や企業が保有している兵器をデーターベース化したシステムが稼働していた。
必要最低限のものしか置いていない空間。部屋の照明を少しだけ明るくした室内で、レマは黙々と業務を遂行していた。
「オペレーターよりレイヴンへ。周囲の状況を確認をするため、モニターへのアクセスを求めます。応答を」
複雑に入り組んだ市街地での戦闘は、レマが操作しているUAV(無人偵察機)では状況が把握しづらいため、レマはレイヴンが搭乗しているACのカメラへアクセスを求める。
オペレーターは三つの方法で状況を確認する。
一つ目は、俯瞰図による「点と線」での確認。
二つ目は、UAVによる「上空から」の確認。
三つ目は、ACの視点、つまり「一人称視点」での確認。
「了解」
ノイズに交じった男の声がヘッドセットから聞こえてくる。
レマはキーボードを叩き、ACのカメラへアクセス。数秒もせずに、俯瞰図を映し出していたモニターが市街地でブースト移動をしながら、前進しているACの視点に移り変わった。
先ほどまで眺めていた俯瞰図は、右下の小窓へ小さく表示されている。
「注意。敵増援を確認」
敵の増援反応をレマは確認する。
レマはすぐに俯瞰図へ視点を切り替え、ACから2キロほど離れた市街地郊外――地下セクションのエレベーターから移動したと思われる反応を彼女は解析する。
「R型のアローポーターを三機確認。会敵予想時刻、約五分」
M(ミサイル搭載)型とR(ロケット)搭載型のアローポーターが合流すると、状況は悪化する。この狭い地下セクションの市街地では、ACの最大の武器である機動力は損なわれている。
天井までの高さは60メートルほど。道路の幅もACが2、3機程度。ミサイルとロケットランチャーの弾幕を貼られると、まず回避は不能。
「合流されると危険です。すみやかに3ブロック先のM型を撃破してください」
「了解」
抑制がない声でレイヴンは返答し、すぐにACを前進させる。M型のアローポーターは待ち伏せをしているが、こちらからは筒抜け。後はレイヴンが上手くやってくれるだろうと、レマは思う。
「警告、ロックオン照射」
曲がり角に潜んでいるアローポーターは、建物越しにレイヴンのACをロックオンしていた。レマはACのカメラを切り替える。
レイヴンのACは3ブロック先のT字路まで到達。右側へ待ち伏せているアローポーターに対し、アクティヴ状態にしているロケットランチャーを構えていた。
このまま曲がり角から飛び出してくると見せかけて、ブースターを使って、上昇。トップアタックを仕掛ければ、先制攻撃が可能。
レマの見立てはそうだったが、口には出さない。あくまで、操縦しているのはレイヴン。オペレーターは状況の確認、戦況の報告だけをすればいい。
だがレマの見立てとは別に、レイヴンのACは馬鹿正直にT字路から飛び出した。
曲がり角から飛び出してきたACに対し、アローポーターからミサイルが発射。距離、253メートル。
ACにはコア搭載の迎撃機銃並びに欺瞞装置であるデコイやチャフを搭載しておらず、まず回避は不可能。
白煙をなびかせながら、こちらへと向かってくるミサイルの弾頭をレマは一瞬だけ視認した。
直後、レイヴン側の視点が大きく上下左右へ揺れ動き――画面にノイズが走る。
同時にダメージが与えられたことを伝えるビープ音が鳴り響いた。サブモニターで監視していた、ACのダメージコントロール図がたちまち真っ赤に染まる。
「ミサイル直撃。右肩部、腰部に重大なダメージ。レイヴン、機体は動かせますか?」
「ダメージコントロールを処理しつつ、右膝で機体を制御中。敵が接近している。応戦する」
メインモニターには、視点の高さが低くなった一人称視点が映し出されている。左右に立ち並ぶビル群。ゆっくりとこちらへ向かうアローポーターの機影。その数は三つ。
それらに向けて、背部兵装のロケットランチャーから砲弾が発射。四発のロケット弾がが噴射炎をなびかせながら、直進。
ロケット弾は、先陣を切っているアローポーターの胴体へ直撃。突き刺さった砲弾の内部に埋め込まれていた炸薬が爆発。
直撃したアローポーターは周囲に装甲の欠片と爆風をまき散らしながら、大破した。
「敵機撃破――ロックオン照射、ミサイル発射を確認。レイヴン、回避を」
レイヴンがやっとのことでアローポーターを一機撃破した間に、残りの二機からミサイルが発射されたのをレマは報告し、回避を推奨する。
「無理だ。機体制御が」
それが、最後の通信だった。
二機のアローポーターから四基のミサイルが発射。距離、七百五十メートル。レマが瞬きする間に、弾頭はACに直撃。
真っ赤に染まっていたダメージコントロール図が真っ白になるとの同時に、モニターにノイズが走った。レマは俯瞰図に切り替えると、そこには敵機を示す赤色の反応しか映し出されていない。
レマは険しい表情を浮かべながら、ノイズしか入ってこない耳障りな音を遮断するためにレイヴンとの通信を終了した。
「味方機の反応消失。レイヴン、ドロップアウト。繰り返す、味方機の反応消失。レイヴン、ドロップアウト」
レマは淡々とレイヴンが死亡したことを復唱した。
「――状況終了」
最後にそう付け加えると、レマはキーボードのキーを叩き、音声録音を終了した。そして、起動していたオペレーティングソフトウェアを終了する。
その後、上司であるウェイスSV(スーパーバイザー)から、社内ネットワークを経由しての通話を受信。通知音がヘッドセットから流れてくる。
レマは固くなった首をほぐすために左右に振りながら、通話を許可した。
「ご苦労さまでした、レマさん。先程のデモンストレーションをユリア主任と共に見ていましたが、研修試験合格です。気づいていたかもしれませんが、先程のAI機の行動はこちらから操作した、意図的なミスです」
ウェイスSVの報告を聞いて、レマは薄々勘付いていた。明らかにおかしい、レイヴンの挙動。恐らく、突然の事態にどういった対応をするかの、ユリア主任の「カマかけ」だろうとレマは思っていたからだ。
「ユリア主任からの伝言です。『戦況は二転三転する。今回のように、不測の事態にも動じず、冷静にオペレートしろ』とのことです。さて、来週のシフトからレイヴン試験の補佐オペレーターとして、実業務に移ってもらいます。詳しい概要はのちほど、社内メールで。何か質問はありますか」
「いいえ、ありません」
「分かりました。それでは、休息に入ってください」
レマの返事を待たずして、ウェイスSVは通話を終了する。レマは小声で了解しました、と呟きながら、椅子の背もたれに体重をかけた。
二三回と小さく深呼吸をしながら、天井を見上げる。床と天井の高さ、約3メートルほどの狭い空間。天井に埋め込まれたパネル型の蛍光灯。
まるでネットカフェのような個室で、オペレーター業務を進行する閉塞感が充満している。
レマは装着していたヘッドセットをデスクに置き、PCの電源を落とす。その後、椅子から立ち上がった。
社員食堂の片隅で、ランチをしていたシャロンをレマは見つけた。見つけたというより、探していて、見つかった。
レマは彼女が腰を下ろしている二人掛けテーブルへ近づき、声をかける。
「ご一緒いいかしら」
「どうぞどうぞー」
シャロンはテーブルにサンドイッチが載せられた皿と、コーヒーカップを置いていた。彼女は相席となったレマのランチを置きやすいように、それらを手元へと寄せる。
レマもまたシャロンと同じく、サンドイッチとコーヒーカップをプレートに載せていた。シャロンと違うのは、彼女はコーンスープとデザートにマカロンを数個ほど加えていた。
「ウェイスSVから聞いたよ、研修試験合格おめでとう」
シャロンはそう言いながら、笑顔で握手をしようと右手を差し出した。レマはそれを聞いて、彼女との握手を応える。
「情報が早いわね。自分の口から言いたかったのだけど」
「今更、そんなのでひねくれる年柄ってのもないでしょうよ」
シャロンのいかにもな返答にレマはくすくすと笑いながら、握手も終えるなり、備え付けの椅子へ腰を下ろす。
「それで、最初の実業務はなんだっけ。本社の警備部隊の誘導? それともレイヴン試験の補佐? ああ、そっちね」
コーンスープを飲んでいたレマは、シャロンのレイヴン試験の補佐という言葉に反応して、左手の親指を立てた。それを見たシャロンは納得したのか、頷く。
「いきなり実戦かぁ。うちらの上司も随分と無茶しますなぁ」
「その様子だと、シャロンもコキ使われてるようね」
コーンスープを半分ほど飲み終えたレマは口元をペーパーでふき取りながらそう言うと、シャロンは両肩を竦めた。
「レイヴンを二人担当。上手くオペレートできなかったら、レイヴンからファックなどシットなどの汚い言葉が左耳から。右耳からモニタリングしているユリア統括主任の有難いお言葉。難聴になりそうよ」
芝居がかったため息交じりに、シャロンはコーヒーカップを口元に近づけた。
「ま、結構な最短コースで実勤務だし、いいんじゃないの。後は――損得勘定ね。誰を犠牲にして、レイヴンを生かすか」
含みのある言い方、あるいは忠告じみたシャロンの言葉。レマはコーンスープを飲むのを止めて、彼女を見つめた。
傭兵斡旋企業はレイヴンを用いたビジネスを展開しつつ、一個人をレイヴンとして認可する「試験」を行っている一面を持っていた。
つまり、傭兵斡旋企業は自社でレイヴンという顧客を生み出し、その顧客を使って、ビジネスを設ける。
ある種の「ロンダリング」じみた傭兵斡旋企業に対して、苦言を呈する組織や活動家も多い。だが、この世界を実質支配している軍事企業にとって、レイヴンは必要不可欠な顧客だった。
傭兵斡旋企業、軍事企業のパイプ。その間に挟まれたレイヴン。
世界は、三角形のバランスによって支配されていた。
「作戦目標は、この廃棄区画に逃げ込んだ反企業組織のMT部隊を全滅することだ。目標の壊滅をもって、君たちはレイヴンになれる」
傭兵斡旋企業を題材にしたビジネス本に書かれていた一文を思い出しているレマのヘッドセットから、レイヴン試験を指揮する監査官の通信が聞こえてくる。
作戦場所、廃棄地下都市区画B-3セクション。
自戦力、アーマードコア2機。
敵戦力、不明。
作戦目標、敵戦力の壊滅。
「時間です。登録番号、31452に接続してください」
別室でモニタリングしているウェイスSVからの通信が入った。
「了解。システムリンク、開始。同調終了」
レマは指示されたレイヴンが搭乗しているACにシステムリンクを開始。サブモニターに、ACのダメージコントロール図などが表示される。
「こちらから細かい指示は送りません。後は貴女の判断で戦況を分析し、オペレートしてください。それでは、本作戦の成功を願っております。以上、通信終了」
ウェイスSVからの通信が終了し、レマは深呼吸を繰り返しながら、登録番号31452と称されるレイヴンとの通信チャンネルを開く。
「こちら、オペレーター。聞こえますか」
レマははっきりと聞こえるように、候補者に応答を求める。
「――大丈夫だ。聞こえている」
若い男の声が、ヘッドセットから聞こえてくる。好青年、というべきか。言葉遣いから、レマがイメージするレイヴン――粗暴で、高圧的な――とはかけ離れていた。
「私は、本レイヴン試験を補佐するオペレーターです。よろしくお願いします。なお、作戦エリアまで残り三分で到着します」
「了解。よろしく頼む」
彼はそれだけを言うと、レマはメインモニターの画面へ注視する。
作戦エリアとなる、B-3区画の俯瞰図が映し出されていた。敵部隊の反応はまだ感知されていない。
レマは次に、候補者が搭乗している搬送エレベーターで滞在しているUAVの視点を切り替えた。
大型のカーゴに、佇んでいる二機のACの頭上が映像で映し出された。どちらも未塗装で、機体構成と武器構成は一緒。
傭兵斡旋企業から支給されている「タイプ69」が、それだった。
中量二脚ACに、ライフルとレーザーブレードを装備。背部兵装には単発式ミサイルランチャーと、レーダーアンテナ。
一見、バランスが良い構成に見えるが――支給品だけあって、武器の性能、装甲の強度、内部性能は劣悪。
せいぜい、安価で生産されているMTを相手に出来る程度といわれている。
操作すらおぼつかないレイヴン候補と、タイプ69の組み合わせ。それは、レイヴン試験における採用率は50パーセントを意味していた。
つまり、半分は無事にレイヴンとして活動し、残る半分は志半ばにして死亡という証明だった。
緊張が、レマの身体中に走る。今、自分が応対したレイヴンはプログラムによって動いているAIではなく、人間。
そして今向かっている先は、本当の戦場。
改めて、レマは現実を直視し――受け止めた。
「作戦エリアに到達。君たちの力を見せてみろ」
試験官からの通信と同時に、エレベーターのドアが開く。
最低限の電力供給――天井に設けられた大型照明からの光が、カーゴの中に差し込む。
廃棄都市だけあって、まるで押し込まれるようにして建てられたビルは無残な姿――ガラスのほとんどは割れ、過去の紛争で砲弾の跡が外壁に刻み込まれていた。
「作戦開始です。索敵を開始します」
レマはUAVとの映像リンクを中断し、B-3区画の俯瞰図へ画面を切り替える。そのまま、マウスを使って、レマは敵が潜伏していると思われる場所へUAVを移動させた。
区画の中央部。何らかの広場が設けられた場所にUAVを移動させると、三つの熱源反応が浮かび上がった。
「敵機確認。2キロ先、中央の広場。索敵を続けます」
レマはその反応に注視しつつ、UAVの索敵を続けていた。B-3区画の面積は狭く、UAVの索敵範囲を考慮したルートでレマはマウスを動かしていた。
ものの数十秒でB-3区画の索敵が完了。そして、熱源反応が先程の三つしか居ないことを確認した。
「敵勢力、把握しました。合計三機。ビーコンを設置しました」
まだこちらに気付いていないのか、それとも作戦を考えているのか、三つの反応はその場から微動だにしなかった。
レマは俯瞰図から、UAVの映像へ切り替える。場所は、熱願反応から数百メートルほど離れた場所。高度約四〇〇メートル――天井付近。
ビルとビルに挟まれた小さな広場に、逆関節の脚部に機銃が装着された長方形の胴体。それを左右に挟むかのように搭載された発射台のようなモノ。
「敵部隊のデータ照合を開始。アローポーターR型を三機確認」
映像の分析と、ソフトウェアを使って熱源反応を照合し、レマは敵機の詳細を報告した。
彼女が報告している間に、三機のアローポーターが前進する。
「三機が前進。恐らく、こちらへ向かっています」
レマが状況を説明している間に、カーゴで待機していたACの一機がゆっくりと前進した。それは、こちらが担当している候補者の機体ではなかった。
「前進するACに続いてください」
好都合、といわんばかりにレマは候補者に指示を出す。先頭に立つということは、待ち伏せや交戦時のリスクを背負う。その分、ACの搭乗者やオペレーターの負担がかかってしまう。だが、後ろから追従すれば、少なくとも全周囲に気を配る必要はない。
「了解だ。追従する」
廃棄された車を踏みつぶしながら、前進するACの後方を候補者は追いかける。ACのカメラアイから受信されている一人称視点の映像――薄暗い市街地を、それなりの高さから見下ろしながら上下に揺れ動く――をレマは見つめる。
「敵MT部隊との会敵予想位置、九〇〇メートル先のT字路です。会敵予想時刻、三分後」
リアルタイムで移動している味方機と敵反応を俯瞰図で確認しながら、レマは状況を報告する。
「交戦準備を」
レマが候補者に交戦の旨を伝えた瞬間だった。
前方、二〇メートル先で前進していたACが爆発した。正確には、足元から爆発した。
オレンジ色の爆発が下から放出し、ACは鋼鉄の巨体を支えていた両足の片方――右脚が完全に折れた。
ACはゆっくりとその巨体を、アスファルトの地面へ叩きつけるように倒れる。
突然の轟音と事態にレマはパニックになりかけるか、それを堪えた。
「敵が仕掛けた罠の可能性があります。前進を中止」
レマは指示を送りながら、二〇〇〇メートル先で待機している敵部隊を監視していたUAVを、候補者の近くへ誘導するように操作した。
「UAVを使用して、周囲の状況を確認します。また敵との会敵が予想されます、ビルの陰へ避難を」
「その必要はない」
レマのオペレートに、男は否定した。彼のACは背部に搭載されたブースターを駆動させ、その巨体を宙に浮かした。
男を乗せたACは接地することなく、T字路の先へ前進。
ブースター機能。
ACに搭載された高出力のブースター及び機体各所のスラスターを使用することによって、ジェネレーターの容量が続く限り、平均時速数百キロの速度を維持したままの移動が可能。
更に、自由飛行による三次元移動も可能。不整地の突破、トップアタックによる奇襲、敵が仕掛けた罠の回避――この機能こそが、ACが最強の陸戦兵器と呼ばれる所以である。
教練本で目を通した項目を完全に忘れていたレマは、己の未熟さに唇を噛みしめる。
「T字路の先、敵MT部隊が待ち構えています」
UAVの移動指示を中断し、レマは眼前に迫った敵部隊の動向をレイヴンに伝える。
候補者の機体はT字路の手前で更に高度を上昇させ、T字路右方面で待ち伏せていたアローポーター部隊の頭上を通過し、後ろへ回り込もうとした。
機体の前面にしか武装を搭載していないアローポーターにとって、対空兵装という大層なモノは持っていない。
悠々とアローポーターの背面を取った候補者のACは彼我の距離一〇〇メートルほどで着地。ライフルを構える。
一方のアローポーターは後ろに下がりつつ、ACと向かい合うために鈍重な動きで回頭していた。
その時点で、何もかもが遅かった。
ACはアローポーターをロックオンし、右手で握られているライフルのトリガーを引く。
振動こそは伝わって来ないものの、砲声がヘッドセット越しに聞こえてくる。自動音量調整で、つんざくほどの音は聞こえてこないにしても、レマは思わず身体が震わせた。
ライフルから放たれた砲弾は、無防備な背中を晒すアローポーターに直撃。立て続けに三発の砲弾が命中したところで、アローポーターは黒煙を靡かせながら、起動停止。
「敵機撃破。残りの二機から反撃が来ます。回避を」
一機目を撃破したのをレマは報告しながら、その間に回頭したアローポーターからの反撃を彼女は伝える。
横並びで後退している二機のアローポーターから、ロケットランチャーから発射された。
ACは背部ブースター並びに機体各所に埋め込まれたスラスターによる、ブースト移動を開始。後ろへと下がりつつ、左右へと変則的な回避行動を行う。
アーマードコアという巨体が、スポーツカー並みの速度と、海上を駆ける舟艇のような柔軟な動きで移動する。
もちろん、アローポーターにACを捉えきれるほどの火器管制システムは搭載していない。
発射された砲弾は、天井やビルの外壁へ直撃。爆風と、粉砕された瓦礫の粉塵を巻き散らかした。
無事に回避したACは、背部兵装に搭載されたミサイルランチャーから小型弾頭を一基射出。
白煙を靡かせながら、小型誘導弾頭が一直線の軌道で標的となったアローポーターの一機に向かう。ミサイル欺瞞装置を搭載していないアローポーターに、対処する術はない。
そして、アローポーターの胴体に、弾頭が突き刺さる。それと同時に信管が爆発した。
弾頭と、アローポーター本体の爆発が組み合わさって、爆風と衝撃を周囲に与えた。それは、最後の一機となったアローポーターにも容赦なく襲い掛かる。
機体制御すらできず、アローポーターは横転。駄々をこねる子供のように、空回りする脚を必死に動かしながら、必死に起き上がろうとするが無駄な努力だった。
「降参だ。助けてくれ」
もがいているアローポーターから外部出力で男の悲痛な懇願が聞こえてきた。
「お願いだ、見逃してくれ」
パイロットからの音声を聞き、レマはACの傍へUAVを近づけた。
ACはライフルを構えたまま、その砲口をアローポーターに構え続けている。UAV側の映像でその光景を見ていたレマは、これ以上の戦闘は無意味だと悟った。
もとい、命乞いしている相手にとどめを刺すことはもってのほかだった。
「作戦終了です。指定されたポイントへ向かってください。これ以上の交戦は――無意味です」
レマは良心の呵責を感じたのか、候補者のACに対して秘匿通信のチャンネルを開き、見逃すことを打診した。
偽善の押し付けだとは、レマも思っている。このまま男が自分の言葉を無視して、トリガーを引いたところで責められない。
十数秒ほどの沈黙が経った後、ACはライフルを構えるのを止めた。
「これより帰還する」
男はそう言うと、ACはゆっくりと歩行しながら、生き残ったアローポーターを横切る。
レマはその様子を見て、盛大に安堵のため息が漏れた。
「君の力を見せてもらった。今日から君はレイヴンだ」
試験官はさもつまらなさそうな声色で、候補者からレイヴンとなった男を称賛した。
Next Call 「Drop OUT」