OPERATOR   作:hilite989

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Fourth Call「Out Sider」

Fourth Call「Out Sider」

 

 

 本社の警備部隊を誘導する通信手としての業務に移行してから、一週間ほどが経ったあとだった。

 自身のオペレーションルームにて、レマは業務連絡を社内共有データベースにアップロードしようとするときだった。ウェイスSVからの業務メールが受信された。

 レマはすぐに業務メールを開封し、内容を確認する。

「お疲れ様です、ウェイスSVです。貴方の担当レイヴンが決定しましたので、通常業務に移行してください。既にこちらから担当レイヴンへの個別へのコネクションができるように、更新しています。なお、レイヴンのプロフィールなどにつきましては、添付ファイルを参照お願いします。以上」

 退屈な誘導業務から開放される反面、レマにとってやるせない結果になった担当レイヴン――ジュイサンスのことを思ってしまい、息が苦しくなる。

 考えてもしょうがない。

 レマはウェイスSVが添付してきた、担当レイヴンのファイルをクリックし、確認した。

 レイヴンネーム:ベラ・ラフマ

 ACネーム:ソッム

「いわゆる中堅と称される層に位置するレイヴン。レイヴンとしての活動期間は長く、堅実に依頼を遂行する彼女に対して、企業からの信頼は厚い。ここ最近、目立った活動をしていないことから引退説が囁かれたが、本人曰く『まだ現役』とのこと」

「AC:ソッム。重量級の四脚型AC。あるゆる状況に対応できるように、バランスが良いアセンブル。反面、突出した火力や機動力がなく、器用貧乏になっているというのも否めない」

(女性でいわゆるベテランか。どういう風に接すればいいんだろうか)

 レマは一通りの資料に目を通しながら、別枠でベラ・ラフマが出場したアリーナバトルの動画を眺める。

 アリーナバトルでの戦績は10戦5勝4敗1引分。企業からの任務を重視しているせいか、アリーナでの出場は少なく、戦績もパッとしない。

 だが、経歴を見る限りではそれなりに場数も踏んでいることは当然、オペレーター側も技量を要求される。しかし、レマ自身が勉強になるところは出てくるはず。

「初めまして。この度は貴方の担当オペレーターとして務めることになりました、レマ・ラインズです。明日以降、正式な通知が受理されますが、よろしくお願いします。」

 簡潔ではあるが、レマはベラ・ラフマに宛てたメッセージを作成し、すぐに送信した。

「こんな時間か」

 レマはモニター上の電子時計を確認すると、時刻は正午回ったところだった。午後から誘導業務があるため、その前に昼食をとろうと思い、彼女は席を立った。

 

 

 

「お、レマさん。こっちこっち」

 ランチを乗せたプレートを両手で持ちながら、空いている席を探していたレマを呼ぶ声が聞こえてきた。

 昼時もあって、騒々しい社員食堂。その片隅に、同期であるシャロンがテーブルから身を乗り出して、レマを呼んでいた。

「お疲れ様。久しぶりじゃないかな、一緒にランチするの」

 シャロンが座っている二人用のテーブルにレマが近づくなり、彼女はにっこり微笑みながら言う。

「お疲れ様。タイミングが良かったわね」 

 ここ一週間、シャロンとの顔合わせが無かった反動のせいか、いつにも増して彼女に会えるのが嬉しかったとレマは思ってしまった。

「そっか、『アウト』したんだ」

 食後のコーヒータイムの中、担当していたレイヴンが戦死したことを業務内用語で表現したシャロンは呟く。

 彼女は神妙な面持ちで一言呟いた後、コーヒーを一口飲んだ。

「私、間違っていたのかって」

 落ち込んだ声色で、レマはシャロンに同調を求めた。この落ち込んだ感情を誰かに慰めてほしかったレマにとって、きっとシャロンは分かってくれると踏んでいたからだ。

「そうだね、間違っているね」

 いつもの明るい声色はそのままに、シャロンはレマの考えが間違っていると言い切った。

 それを聞いたレマは一瞬、自分の耳を疑った。

「前にも言ったけど、損得勘定だよ。私たちにとってレイヴンは顧客なんだからさ、それをアウトさせるってのは取引が終わってしまうことだよ。それに比べたら、民間人の被害なんて――」

 レマは茫然自失で、シャロンの言葉を聞いていた。

 拠り所としていたシャロンに否定されたかのような衝撃で、一瞬だけ頭が真っ白になっている。

 私たちは本社が運営するビジネスを円滑にさせるために、オペレーター業務をしている。

 だからこそ、顧客であるレイヴンは絶対にアウトさせてはならない。さらに言えば、私情を挟むなんてもってのほか。

 ユリア主任に指摘されるよりも、身近な人間に言われる方が精神的に刺さる。

 レマは視線を手元に落としながら、シャロンのまっとうな正論に「はい」という言葉と同時に頷くしかなかった。

 一通りシャロンが自論を述べた後、盛大に息を吐きながら、肩を落とす。

「ということを、私は前の職場の上司に言われたわ」

 シャロンはそう言いながら、一息つくためにコーヒーカップを口元へ運ぶ。

「レマさん、ちょっとだけ付き合ってもらえるかしら」

 一息ついた後、右手の人差し指と中指を立てるなり、シャロンは口元で運ぶ動作を数回繰り返した。

 

 

 

 本社の各階に設けられた、喫煙ルーム。長方形の室内となっており、壁際にはぐるりと囲むかのように、喫煙用のカウンターが設けられている。

 カウンターには等間隔に灰皿が埋め込まれており、さらには壁一面がタッチスクリーン式のウェブ・ブラウザの機能を有していた。

 シャロンは壁に埋め込まれたタッチスクリーンを左手の指先で操作し、ウェブ・ブラウザで今日の主なニュースを検索する。

 空いている右手の人差し指と中指の間に、火が灯った煙草を挟んでいた。彼女の周りを、紫煙が舞う。

 シャロンの隣で立っているレマは付き添いという形で、煙草の代わりに紙コップに入ったコーヒーを飲んでいた。

「ここの階、確か総務課のオフィスなんだけど、誰も煙草吸わないらしくて、穴場なのよね」

 シャロンはそう言いながら、とあるチャンネルで配信されている報道番組を眺めていた。

「軍事境界線をめぐる対立は、最悪な結末を迎えました」

 キャスターは神妙な面持ちで、昨夜に発生した大規模な企業間紛争について報道する。映像は兵士がスマートフォンで撮影したと思われる、荒野地帯で行軍する戦車やヘリ、タンク型のACを映し出していた。

「私もね、レマさんと同じ経験をしたことがある」

 やや憂鬱な表情を浮かべるシャロンは、何百キロ先で繰り広げられていると思われる企業間紛争の映像を見ながら、呟いた。

「私はAC小隊の通信手を務めていた。戦場という、生死を左右する状況で三年間も一緒に居れば――たとえ、音声だけのやり取りだけでも、彼らは家族同然だった」

 シャロンは一息つけるために、煙草を咥える。

 煙草の先端が燃焼し、赤く燃える。同時にシャロンは息を吸い込み、紫煙を肺に循環させ、すぅと吐き出す。

 薄い煙がシャロンから吐き出され、彼女の周囲を漂う。

 もちろんその煙や臭いはレマに寄り添う。しかし、不思議と嫌悪感や咽ることはなかった。

「非武装地帯における、戦闘行為。それも、私たちの防衛圏内。上からの命令は、敵部隊の撃退。だけど私は戸惑ってしまい、そのせいで小隊は全滅した」

「この軍事境界線には、非武装地帯が設けられております。いわゆる、民間人が居住している区域です。しかし、紛争となれば話は別でしょう。企業はすぐに民間人を安全な場所へ避難すべきですが、そうなると『我々が管轄しているエリア』という事実が無くなる。第三者の管理機関を通さずに、自社だけで管理している『曖昧な境界線』が生んだ悲劇です」

 シャロンの過去と連動する形で、キャスターの隣に座っているコメンテーターが今回の紛争における問題点を指摘していた。

「企業間紛争というものは、悲惨なものです。一番の被害者は民間人なのですから」

 コメンテーターはそう言いながら、映像は過去の企業間紛争で被害に遭った地下セクションや地上都市を映し出している。

「見知らぬ誰かを守ろうとしたせいで、私は大切な人を失った――今のレマさんのようにね」

 シャロンはそこまで言うと、動画サイトを開いていたタブを閉じるようにタッチした。

 一瞬にして、喫煙所に静寂が訪れる。

「この仕事はね、板挟みになって、疲弊してしまい、辞めてしまう人がすごく多いわ。だからこそ、割り切るしかないの」

 シャロンが咥えていた煙草はいつの間にか短くなっており、彼女はそれを躊躇いもせず灰皿へと捨てた。

 オペレーター部門、今年度採用者の退職は五人を超えている。そのうちの二人が新卒。つまり、新卒で唯一残ったのはレマのみだった。

「大丈夫よ、レマ。きっと貴女なら上手くやれるからさ。頑張ろうね」

 シャロンはにっこりと微笑みながら、レマを励ます。

「――うん」

 そんなシャロンとは対照的に、レマは曖昧な返事で濁すしかできなかった。

 

 

 

 レマはオペレータールームで、コンソールを叩きながら、AC「ソッム」と共に移動中の「ベラ・ラフマ」に通信許可を求めた。

 ちょうどクライアントが認めている「通信可能エリア」に、彼女が移送されている車両が通過したからだった。

 時刻は午前二時を回っており、レマが居るフロアには彼女と同じく「夜勤」のオペレーターたちがごまんと居る。

 オペレーター業は「担当」を貰えれば、付きっ切りで彼らのビジネスパートナーとして、業務を行う。

 無論、一日に何回も出撃する仕事熱心なレイヴンが居れば――二十四時間勤務が発生するのは明白だった。

 しかし、現実はゲームではない。

 企業の依頼、受諾の有無。

 レイヴンの派遣、ACの輸送並びに機体構成の変更。依頼達成後の回収作業、機体の修理や換装、収支報告――。

 それら全てが数分で済むはずがない。

 当のレイヴンからしてみれば、数十分で終わる仕事に対して、移動時間は一日の半分が潰れる。勤務時間より移動時間が長いのは、ざらだった。

 そんなことを考えているレマに、モニターはベラ・ラフマからの通信許可が受諾されたことを告げるメッセージを表示。

 直後、彼女からの音声通信が開始される。

「メールを見させてもらった。ベラ・ラフマだ。よろしく」

 ややノイズが混じりながらも、特徴的なしゃがれた声の女性――ベラ・ラフマからの通信が入った。

 その声色はジュイサンスと全く正反対の――レイヴンという稼業をずっと続けてきた貫禄が感じられる。

「担当オペレーターのレマです。以後、よろしくお願いします」

 萎縮してしまいそうな気持ちを隠しながら、レマは改めて自己紹介を簡潔に済ます。

「それで、状況はどうなっている」

 ベラ・ラフマは今回の作戦についての、現況をレマへ求めた。

「クライアントによると、工場入り口に二個小隊のMT部隊が配置されています。データを送ります、確認を」

 レマはベラ・ラフマにデータを送る傍ら、今回の任務について再確認する。

 軍事企業「ディディーアイ」が保有している兵器工場に、所属不明のMT部隊が襲撃。兵器工場は地上のハッチから地下に続いており、襲撃部隊は工場内部へ侵入。

 現在、襲撃部隊はディディーアイに「交渉」を持ち掛けており、テーブルに乗らないあるいは決裂すれば、工場内の施設設備を全て破壊すると脅迫をしている。

 ディディーアイ側は交渉に乗るつもりは毛頭なく、実力行使に出た。そして、ベラ・ラフマに依頼が持ち込まれた。

「工場の被害は最小限に抑えてほしいと言っていたな」

「その通りです。被害を抑えた場合、追加の報酬金を約束しています」

 工場には兵器生産に必要なレーンや設備がまだ残っている。それに、逃げ遅れた作業員も居るということがクライアント側から説明されていた。

 工場内の被害を抑えてくれれば、特別手当と称された報酬を支払うと確約している。

「分かった。被害をなるべく抑えように行動する。オペレーター、頼んだぞ」

「かしこまりました。工場内部ではUAVが使用不可のため、3DCGで作成された施設の地図やACのカメラを共有し、オペレートします。使用可能であれば、工場に設置されている監視カメラも使います」

 武装集団が施設占拠の際に障害となる監視カメラなどは破壊されていると思われるが、それでも見落としている箇所はあるはず。

 レマはクライアント側の仲介人にコンタクトを取り、施設内のコントロールに関する情報を収集する。

 その間に、ベラ・ラフマを輸送しているトラックは作戦領域に近づいていたことを知らせるアラームが鳴った。

 レマはクライアント側で追従移動しているUAVのカメラ画像を、モニターに表示させた。

 ナイトビジョン(暗視装置)によって、緑色の色調で調整された映像には中央で移動している一台の車両を真上から映し出していた。それは、ベラ・ラフマが運ばれているAC輸送トラックだった。

 高度は約三〇〇〇メートル。作戦エリアは荒野地帯のため、付近に障害物なし。

 今回の任務は室内戦のため、UAVは使用不可。道中で監視しているクライアント側のUAVによる、映像のみの中継だけが許可されていた。

「ディディーアイのカルロスだ。オペレーター、聞こえるか」

 若い男の声が、社名と名前を告げる通信が入った。

「こちら、オペレーターです。はい、聞こえております」

 レマはクライアント先の、本作戦における現場責任者であるカルロスに返事をした。

「レイヴンを運んでいる車両は、約十五分後に目標エリアへ到達予定。目標である工場の入り口近辺で配置されている敵MT部隊に関しては、当社で露払いをさせてもらう。それが完了次第、レイヴンに交戦権限を与える」

 カルロスの報告と同時に、ディディーアイから映像データが送られてくる。レマはそれをマウスジェスチャーを使って、再生動作を行った。

 映像は、ベラ・ラフマを運んでいる車両と監視しているUAVのCGモデルを表示。その後、映像はズームアウトすると車両から五キロ先でホバリング待機している五機のヘリを映し出した。

「後方でホバリング待機しているヘリ部隊から、遠距離からのミサイル攻撃を行う。当該機はステルス仕様となっており、敵MT部隊の索敵外からの攻撃が可能となっている」

 映像を同期しているのか、まるでプレゼンテーションしているかのような口調でカルロスは説明をする。

 映像は、後方で待機しているヘリの一機にズームアップした。そして、サイドウィングに連結して接続されている、ミサイル弾頭へ焦点を合わせる。

「対機甲兵器用ミサイル『シカトリス』を使用する。一機のヘリから最大三基のシカトリスが発射可能。地上で警戒している敵MT部隊は、六機の『カイノス』と確定している」

 映像は次に、作戦エリアとなる工場施設の地上ゲートで警戒している、高性能二脚MT「カイノス」を映し出した。

 廉価版ACというべき、コアド換装こそは持たないものの、オーソドックスかつあらゆる環境に対応できる、傑作MT機。ベラ・ラフマといえども、汎用な性能と物量に苦戦はするだろうとレマは感じていた。

「連中に、十五基のシカトリスが襲い掛かる寸法だ。ミサイル対策も持たず、レーダーに気付いたとしてもその瞬間に――爆散だ」

 対AC/MT用ミサイル「シカトリス」。

 開発兼製造企業「ディディーアイ」。協力企業「ハイバオ」。

 射程距離八〇〇〇メートル。

 誘導方式「SALH」。タンデム弾頭。

 装甲貫通能力、「RHA」換算一二〇〇ミリメートル。

 カイノスEO/2、正面装甲五八〇ミリメートル。

 対ミサイル迎撃装置及び欺瞞装置、搭載無し。

 シカトリスのスペックとカイノスのスペックがずらりと羅列される。

 そのあと、ヘリから発射されたシカトリスがカイノス部隊をことごとく破壊していく映像が流れた後、終了した。

「当社からのブリーフィングは以上だ。これより第一波攻撃を行う」

 カルロスは一方的に通信を切電すると、インカムのノイズキャンセリングが作動するほどの騒音が聞こえてきた。

 それが露払いのミサイル攻撃であるとレマが察した瞬間、爆発音が聞こえてきた。

「盛大な露払いなこと」

 ベラ・ラフマは鼻で笑いながら、つまらなさそうな独り言を呟いた。その言葉から、彼女自身の絶対的自信――露払いがなくても、あの程度なら壊滅できる、と言いたげなものだとレマは勘ぐる。

 その後、ミサイルの第二派攻撃を告げる発射音とやや遅れて、着弾音が同時に聞こえた。

「ディディーアイのカルロスだ。地上の敵部隊は全て壊滅した。当初の予定通り、目標エリア到達後、レイヴンに交戦権限を与えるものとする。施設内の敵部隊は地上部隊壊滅に対して、何らかの措置を取るつもりだが――当社で上手く抑え込んでいる。手早く、作戦を完遂してほしい。以上だ」

 カルロスは地上のMT部隊を壊滅したことを報告しつつ、レマに施設入り口で残骸と化したカイノスたちの映像を中継していた。

「地上の敵部隊は全て壊滅したそうです。まもなく、作戦エリア到着。準備をお願いします」

 レマはそれを確認しながら、ベラ・ラフマに現状を報告する。

「もとよりそのつもりだ。こちら、ベラ・ラフマ。これよりメインシステムを起動」

 上空から追従しているUAVの映像では、輸送車両は速度を落とし、やがて停車。カーゴのハッチがゆっくりと開くと、アーマードコアらしき機影が薄っすらと姿を現した。

 AC名「ソッム」。

 重量四脚型AC。

 主武装、対AC用大口径ライフル及びレーザーブレード。

 背部兵装、35mmチェーンガン及び索敵用レーダーアンテナを搭載。

 ベラ・ラフマらしい、依頼内容に沿った機体構成をしていた。白兵戦を想定しつつ、複雑に入り組んだ工場施設内を把握するための、レーダーアンテナを搭載。

 スムーズな任務遂行を心掛けている、と素人目からも分かるぐらいだった。

「システム、戦闘モードへ移行完了」

「了解しました。これより作戦開始です」

 ベラ・ラフマの報告に、レマは作戦開始を告げる。

 ソッムは輸送車両に気を付けながら、ゆっくりと車体から離れた。その後、すぐにブースターを駆動する。

 UAVは工場施設へと向かうソッムを追いかけていた。

「連中のミサイル、中々の精度と威力だな」

 やがてソッムはカイノスの残骸が散らばる工場施設の地上ゲートへと近づくと、ベラ・ラフマは惨状を見て、思わず呟いた。

「ディディーアイ社が施設内部の敵部隊との交渉で時間を稼いでいます。ですが、内部に入ればもう言い訳ができません。時間との勝負です」

 レマはベラ・ラフマに状況を説明しつつ、ディディーアイ社から許可を貰った、監視カメラへアクセスをしていた。

 施設は地下三階層に分かれており、それぞれの階層に一個小隊規模のカイノスが配置されている。

 問題なのが、地下一階だった。

 逃げ遅れた作業員などが作業MTなどを収容するガレージに隔離されており、一機のカイノスがそれを「盾」としていたからだ。

 それ以外の階層では、作業員らの姿は確認できず。恐らく、一か所に集めているとレマは断定する。

「地下一階のガレージに、一機のカイノスが施設作業員を盾として、立てこもっています。なお、道中に二機のカイノスが配置」

 レマはベラ・ラフマに査定に響く事案を連絡し、注意を促す。その傍ら、ガレージまでの最短ルートとそこで会敵するカイノスの位置情報を共有した。

「了解だ。すぐに片づける」

 ベラ・ラフマは既にプランを立てているのか、彼女が操縦するソッムはあらかじめディディーアイ社から入手していたコードを送信し、工場施設のゲートを解放。すぐさま、中へと進入する。

 その様子を上空からのUAVで眺めていたレマは即座にソッムの主観視点へ切り替えた。

 ブースターを駆動させ、AC一機がすっぽりと納まるような狭い空間を軽快に移動するソッムの視点が、モニターに表示されていた。

「敵部隊、こちらに気付きました」

 ソッムのレーダーアンテナから収集された熱源反応や監視カメラの映像を基に、レマはMTの動きが活発になったことを知らせる。

 ソッムが移動している地下一階に関しては、ガレージにいるカイノスは待機。残りの二機はソッムを索敵しているのか、忙しく動いている。

「了解。挟撃されないかつ、向かってくるMTに先手を仕掛けられるルート案内を頼む。もちろん、ガレージまでの最短距離を向かいつつ、だ」

 無茶な要求を言ったベラ・ラフマに対して、レマは何も言わずに別ウィンドウで展開していた、地下一階のフロア全体図と、そこで動いている赤と青の光点を凝視していた。

 青はソッムの反応。赤は敵MTの反応。

「2ブロック先、右折を。速度を維持すれば、敵MTの背後を奇襲可能です」

 ベラ・ラフマは何も言わず、レマの指示に従う。

 彼女はコクピット側のレーダーでも敵の動きを把握していたのか、速度を維持するどころかブースターの出力を上昇させた。

 見ているこっちが驚くような、右折の仕方――まるでスポーツカーのドリフトのような挙動――でソッムは曲がり切る。

 右折をしたソッムの先には、無防備な背後をさらすカイノスの熱源反応があった。会敵した瞬間、カイノスの反応は消滅。

「熱源消滅。残り二つ。このまま反転、2ブロック先を直進し、左折してください」

 レマは敵の動向を探るため、工場施設の3DCG立体図にソッムのレーダーアンテナから得られた位置情報をリアルタイムで投影させながら、ナビゲートを続けていた。

 二機目のカイノスがT字路を横切ろうとした時、その横合いからソッムが姿を現した。

 その瞬間、3DCGマップに表示されていた二機目のカイノスの反応が消失する。

「オペレート通りだな。感心した」

 あっという間に二機目のカイノスを破壊したベラ・ラフマは、レマのオペレートを感心するかのように言った。

「このままガレージへ。敵は待ち構えています、注意を」

 一番の懸念事項である、ガレージに立てこもりをしているカイノスについて、レマは注意を促す。

「分かっている。地下二階の動向を調べてくれ」

「了解。そちらの状況把握のため、モニタリングさせていただきます」

 地下1階の全体的な状況確認は必要ないとレマは判断し、ソッムのメインカメラに映像を切り替える。同時に、地下二階の熱源反応を確認するため、別ウィンドウで3DCGマップを開く。

(搬送用エレベーターの出口。角に待ち伏せが二機。厄介だ)

 こちらの動向に先手を打っているのか、地下二階の搬送用エレベーターから降りてすぐのT字通路。右方向六〇メートル先の曲がり角で二機のカイノスが待ち伏せをしている。

 恐らく、ソッムが降りた瞬間を狙っているとレマは察する。

「こちら、オペレーター。地下二階に敵MT二機、待ち伏せを――」

 レマはベラ・ラフマに懸念事項を伝えようと、ソッムのメインカメラを映し出しているウィンドウをフルサイズで表示した。

 ウィンドウには、カイノスが民間人を盾に立てこもりをしているガレージのゲートが映っていた。

 レマがその映像に違和感を覚えた瞬間だった。

 ソッムは背部兵装である35mmチェーンガンを稼働し、射撃を開始した。ヘッドセット越しで音量が調整された、砲声が木霊する。

 ソッムはしばらくの間、チェーンガンによる射撃を続けた後、無線によるゲートロックの解除を実行。ガレージのゲートが開いた。

 鮮明に表示されているソッムのメインカメラの下部、ガレージの床で逃げ惑う民間人。ソッムはそれらをまるで「虫」のように認識しているのか、有無を言わさずブースターを駆動、前進。

 正面に敵影が居ないことを確認し、左方向へ視線を向ける。そこには、左腕を損傷したカイノスが居た。

 カイノスは右手に装備されたマシンガンをソッムに向けており、トリガーを引く。ソッムはマシンガンの直撃を食らいながらも、回避行動へ。更に反撃のため、対AC/MT用ライフルによる応戦を行う。

 二機のAC、MTが狭いガレージで交戦。二機の足元には、民間人が居た。

 ソッムのメインカメラ越しに、薄っすらと映っていた。

 砲弾で押し潰され。

 ブースターの噴射炎で燃えされ。

 足底で轢き潰されている「民間人」が居た。

 

 

Next Call 「Misunderstanding」

 

 

 

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